本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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ジョディの追憶とお花見の罠
「わー! 桜が沢山咲いてるね!」
「早速おみくじを引きにいきましょー!」
「大吉でっかなー!」
そんな風に笑顔で走っていく子供たちを見送って、ちらりと隣に立つ灰原へと目を向ける。
「で? 遥さんに今日のことは伝えておいてくれたのか?」
「ええ、あと少しでここに来るはず。…でも、話してくれるかはわからないわよ。」
灰原の言葉に目を伏せ、数週間前、クール便のコンテナに閉じ込められたときに灰原が俺に打ち明けたあの話を思い返す。
ベルツリー急行でキッド扮するシェリーと黒凪さんを前に、バーボンとスコッチが2人を助けようとしていたことや、黒凪さんも彼らを危険には晒したくないと言っていたこと…。
それらの会話の言葉を信じて、あの状況下で頼れる人物が安室さんしかいなかったこともあり手負いの黒凪さんを安室さんに預けたら…。
「(実際に安室さんは黒凪さんを傷つけることなく、俺たちの元へと返してきた。)」
その状況から見ても、バーボンもスコッチも黒凪さんを無理に保護しようとは思っていないらしいし、黒凪さん曰く…俺たちの幼児化の話も、赤井さんのことも知らないまま。
そうなればバーボンもスコッチもキールや過去の赤井さんと同じように諜報組織の一員で、組織に潜入しているスパイなのか。
それとも、黒凪さんが俺たちや赤井さんのことを伏せるってことは、奴らはやはり組織の人間で…黒凪さんを個人的に助けたいと思っているだけなのか?
「(とにかく今、安室さんはどうしてシェリーの死を確認してもこの米花町に留まり続けるのか…それが分からない。分からない以上、何をどう対策すればいいかもわからねーし…)」
「…私、思うの。」
「え?」
「お姉ちゃんが黙っている理由は、私や工藤君…貴方に自分で真実にたどり着くことを期待しているからじゃないかって。」
お姉ちゃんが私たちにバーボンとスコッチのことを話したがらないのは、お姉ちゃんがこの2人を守ろうとしているから。
それは逆もしかりで…彼らに私たちのことを話さないのも、同じ理由。
お姉ちゃんは長く組織で生きてきて、誰かの情報を流すことがどれだけ相手を危険に晒すか痛いほどに分かっているから…。
「だからきっと、お姉ちゃんは私たちに何も教えてくれない。私たちが本当に危ない状況に陥るまでは、何も…。」
「…灰原、」
『…こんなところにいた! もー、探したのよ?』
頭上から聞こえた声に振り返る。
『で…、私に何か用なの? コナン君!』
そう問いかけてきた神崎遥の姿をした黒凪さんに先ほどまで彼女に聞こうとしていたことを言いかけて、言いよどんだ。
灰原の言葉を受けての事だった。聞いていいんだろうか、黒凪さんに。
それとも自分で、真実を見つけた方が…。
「…、うん! 遥さん、海外で長く住んでいたから花見はしたことないでしょ?」
『え? うん…』
「良かったら灰原とどうかなって思って!」
黒凪さんの目が灰原に向かう。
灰原は俺の言葉を聞いてすべてを察したのだろう、黒凪さんに笑顔を向けてその手を掴み、子供たちの元へと向かっていく。
それを見送り、徐に携帯を取り出した。
「(こうなれば、自分で探るか…。)」
≪――もしもし?≫
「あ…ジョディ先生。今大丈夫?」
≪ええ大丈夫よ。今日は非番で、時間があるから散歩に出ているところなの。≫
今、どこにいるの?
そんな俺の言葉にジョディ先生が少しだけ黙り、言った。
「――偶然にも、同じ神社に。」
「!」
携帯を飛び越えて聞こえてきたジョディさんの言葉に驚いて振りければ「Hi!」とジョディさんが笑顔で手を挙げた。
「偶然ね、cool kid!」
「本当に偶然だね…! まさか会えるとは思わなかったよ!」
「ええ、私もよ。ここの桜は有名だから、時間もあるし見に来ただけだったんだけど…。それより、どうしたの? わざわざ電話をかけてきて。」
「うん、実は調べてほしいことがあって…」
「調べてほしいこと?」
ジョディさんが少しだけ目を丸くして、俺の話を聞くために腰をかがめた。
「…前に先生、赤井さんにそっくりな火傷の男を見たって言ってたよね?」
「え、ええ…あの銀行強盗の事件の時にね…。」
「うん、それなんだけど…あの赤井さんは黒の組織のメンバー、バーボンの変装だったんだよ。」
「ええ⁉」
本当に赤井さんが死んだかどうかを確認するために、赤井さんの関係者の周りをあの姿でうろついていたみたいなんだ。
そう言い終わると、ジョディ先生はショックを受けた様子で黙り込んでしまった。
そりゃあそうだよな…。ジョディ先生は少なくともあのバーボンの変装を見て、赤井さんの生存について一縷の望みを持っていたはずだし…。
「じゃ、じゃあ…」
ジョディ先生が俺の肩を両手で掴む。
「あの火傷の男がシュウじゃなかったのなら、シュウは本当に…」
「…、」
その両手が徐々に震え始め、ジョディさんの目元にも涙が浮かび始めた。
しかしすぐにその涙をぬぐってジョディ先生が身体を起こし、拳を握って言う。
「じゃあ次またあの火傷の男が現れたら、とっ捕まえて変装をはがして…、組織の情報を、」
「ううん、その必要はないよ。今どこにいるのかも、全部分かってるから…」
「…え⁉ そのバーボンのっ!?」
「うん。この人なんだけど…」
写真まで⁉ とジョディさんが身を乗り出して俺の携帯を覗き込む。
「毛利探偵事務所の下にあるポアロっていう喫茶店で、安室透って名前を名乗って働いているんだ。」
「な、なんで?」
「さあ…だから先生に捜査をお願いしたくて電話したんだ。FBIなら、何か掴めるかと思って。」
ジョディ先生が前に電話をくれたように、バーボンは以前のベルモットと同じようにシェリーを狙ってこの米花町にやってきた。
そしてシェリーをベルツリー急行で殺したと思い込んでいる今は、いわば目的を達成した状況。
なのにどうしてここに未だ留まり続けるのか…それを探ってほしいんだ。
「な、なるほど…。っていうか、あのベルツリー急行の爆発も奴らが…⁉」
「うん…。あの電車にシェリーも乗ってたんだ。だから襲撃されて…。」
「彼女は無事なのね…?」
「うん。大丈夫。死んだと思わせることにも成功したし…。」
ジョディ先生が「そう…」と呟いて口元に手を持っていき、考えるそぶりを見せる。
「それじゃあ、バーボンと同時期に動き出したスコッチは?」
「スコッチもバーボンと一緒に行動しているはずだよ。少し前に一緒にいるところを見たから。」
「スコッチの顔まで分かってるの…⁉」
「うん。でも写真は撮れなくて…。会ったのもその一回限りだから、今はどこで何をしているか分からない…」
「――あれ⁉」
突然聞こえただみ声に振り返る。
マスクをつけた男がジョディ先生を見て笑顔を見せた。
「もしかして貴方…銀行強盗の時に一緒に人質になった外国人の女性じゃないですか⁉」
「え?」
「実は私、あの時貴方の斜め後ろにいて…貴方の目や口にガムテープを貼ったのは私の妻だったんです。」
そう言ってマスクをずらした男に怪訝な顔をするジョディさん。
確かに、向こうからすれば外国人女性ということで記憶にも残りやすいだろうが、ジョディ先生からすればそういうわけにもいかない。
「って言っても、覚えていませんかね? げほ、ごほ…」
「え、ええ…。でもなんとなくは…」
「じゃあ、隣に座ってた火傷の男性は彼氏さんですか?」
「べ、別にそういうわけじゃないですけど…なんなんですか、急に?」
確かにどうしてそんなことを聞いてくるのか。
もう少し突っ込んで聞いてくるかもしれない、そう思って少し強気に出たジョディ先生だったが、予想に反して男は「なんだ、違うんですか。」と踵を返した。
「いや、数日前に彼を見かけたものでね。それで…」
「え⁉ ど、どこで⁉ どこで彼を見かけたの⁉」
ジョディさんが男の腕を掴むと、男は驚いたように振り返った。
「ええっ⁉ ど、どうしたんですか急に⁉」
「いいから、彼をどこで見つけたのかーー」
「きゃー!! スリよー! スリ…わっ」
どさっと大きな音を立ててこちらに走ってきた女性がしりもちをつく。
ジョディ先生にぶつかってしまったためだ。
「おばさん、大丈夫!?」
「え、ええ…」
物音を聞いて気づいたのだろう、先ほどまでおみくじを引いていた子供たちも戻ってきた。
共にいた黒凪さんも。
『強盗って、誰かに腕でも掴まれたんですか? 警察に連絡します?』
「あ、いいえ…いいのよ。ちゃんと逃げてきたから…」
ジョディさんに手を貸してもらって立ち上がった女性がぱたぱたと上着についた砂埃を払う。
そんな女性に先ほど火傷の男を見たといっていた男性が笑顔を見せて言った。
「確かにこういうところはスリが多いですからね。」
「そうなんですよ、本当にもう困っちゃう…、あっ⁉」
女性が男の顔を見て目を見開いた。
そんな女性に男がきょとんとする中、女性はそそくさと人ごみに紛れて行ってしまう。
もちろん「それじゃあ私はこれで…」と平然を保ちつつこちらから離れていったわけだが、挙動不審だった。
なんだ? あの人…。
「――で、やっぱり思い出せない? どこで火傷の男を見たか…」
そうなんども問いかけてくるFBI捜査官、ジョディ・スターリングに向かって小首をかしげて見せる。
「うーん…昨日風邪で寝込んでたもので、そのせいか記憶が…。」
「そう…。」
ちらりと人ごみの中に紛れているヒロへと目を向ける。
もちろんヒロも自分と同じようにベルモットに変装を施してもらっているから、今は全くの別人の姿だが。
「…缶コーヒーが売っているような自販機の傍だとかではない?」
「缶コーヒー? 好きだったんですか? その彼…」
「ええ…、よく飲んでいたわ…。」
あの日…黒凪を沖矢昴の元へと返した日から、俺とスコッチは徹底的に彼女を、神崎遥をマークしていた。
黒凪がベルツリー急行の爆発を生き延びていた以上…赤井秀一が生きている可能性を改めて俺とヒロが認めたためだ。
必ず奴を見つけ出し、捕らえる。その為に今日…コナン君が黒凪と話をしたいと、この神社へ呼び出したことを受けて変装をしてまでやってきた。
そして思わぬ収穫としてFBI捜査官、ジョディ・スターリングがコナン君と話しているのを見つけて今に至るということだ。
「彼が私たちの前からいなくなる前にも、いつものように缶コーヒーを飲んでいたの…。疲れていたせいか、何か悪いことが起こる予兆だったのか…缶コーヒーを床に落として…。」
「(缶コーヒーを床に落とした?)」
ちらりとヒロへと目を向ける。ヒロも神妙な顔でジョディ・スターリングの一言一句を聞いているらしい。
ちなみに先ほどこちらの腕を掴んだ際にヒロにも俺たちの会話が聞こえるように彼女の服の袖に盗聴器を隠しておいたのだ。
「(缶コーヒー、か。)」
確かに奴は組織にいた頃も毎日のように珈琲を飲んでいたな…。
任務先でもわざわざ缶コーヒーを買うためにコンビニに寄ったりしていたし、ある種中毒のようなものだったのではないだろうか。
よく黒凪にどやされていた。珈琲だけじゃなく他の飲み物も飲め、と。
結局そんな忠告なんてことごとく無視していたが。
「あ、参拝の順番が来たよ!」
「遥さん、行きましょう!」
『あ、うん…!』
視線の端で子供たちに手を引かれて賽銭箱へと向かっていく神崎遥の姿をとらえる。
慣れない様子で参拝する様を見て、思わず笑みがこぼれた。
思えば、黒凪の組織での境遇を考えればこんな風に参拝にさえも来れなかったのかもしれない。
「おりゃー!」
「だ、ダメですよ元太君そんなに乱暴に鈴を鳴らしたら!」
「でもよう、こういうのは景気よくやれって父ちゃんが…」
「――その通り。その鈴は私たちが参拝に来たことを神様に教えるためのものだから、大きな音を鳴らすのがいいのよ。」
『あ、そうなんですか…! ありがとうございます!』
ああ、変な知識を植え付けられてる…。
そんな風に思いつつも何も言えず、思い切り鈴を鳴らす子供たちを見つめる黒凪の背中を見守る。
するとぴっと目の前に名刺を差し出され、意識を現実に戻した。
「とりあえず、何か思い出したらここに連絡をくれる?」
「あ、はい…」
名刺を受け取り、とりあえず適当なことを言って人ごみに紛れる。
そしてこちらに近付いてきたヒロと合流した。
「…缶コーヒーを落としたっていうの、気にならないか? ゼロ。」
「ああ。単純に奴が疲れていただけかもしれないが…毎日缶コーヒーを持ち歩いてるような奴がそうそう落とすか?」
「ああ。同感。」
なんて話しつつも盗聴器からの音を聞き逃さないようにと耳元に手を添えているヒロ。
「ベルモットは?」
「さあ、もう帰ったんじゃないか? 彼女は俺たちと違って赤井秀一にはそれほど興味はないみたいだし。」
「だろうな。以前赤井に変装させるように頼んだ時も呆れてたし。」
「――あー!! いたー!」
突然聞こえた子供の大声に肩が跳ねた。
「おじさん、お財布盗まれてない⁉」
「え…ぼ、僕かい?」
「うん! スリの常習犯だっていう女の人がね、殺されちゃったの! で、その人が盗んでた財布を確認してたらおじさんの免許証が出てきたの!」
「(あ…確かに本物を眠らせた時、財布がないなとは思ってたけど…)」
スリに遭ってたのか…。しかもその犯人が殺されたって…。
表情には出さずとも、俺がげんなりとしたのが分かったのだろう、ヒロが俺の肩を叩く。
「そういやお前、財布ないって言ってたなァ。桐平 (とうへい)。」
「あ、あぁ…ちょっと行ってくるよ…」
「こっちこっち!」
ずんずんと人ごみの中を進んでいく歩美ちゃんの後をついていき、人ごみを抜ければ、まあ頭を血に染めたご遺体と、俺の他に集められた容疑者2人。それから集まった警察官たちとコナン君がいた。
全く、面倒なことに巻き込まれたものだ…。
「なんでこんな殺害現場に呼び出されたの、あたしたち⁉」
「わしは何もしとりませんぞ…、」
「…皆さんをここに呼んだ理由をお伝えする前に、まず荷物の中にマジックで黒く塗られた5円玉があるか確認していただけますか?」
「黒い5円玉ぁ?」
それなら、本物からいくつか荷物を拝借した際に一応持ってきておいた。
なるほどそうか、大方殺されたあの女が最近ニュースにもなっていた “スリの黒兵衛” …。
スリの黒兵衛は盗んだ財布の代わりに黒く塗られた5円玉を3枚入れていくという。
自分のために必死に金を作ってくれてゴクローサン、なんて意味だと言われていたが…本当だったのか。
「はい、どうぞ…。」
「おお、わしも見つけたぞ。」
「あたしも…」
俺を含めたもう2人も5円玉を差し出し、事件を担当している警部が目を白黒させた。
ふむ、5円玉を持っていない人間が犯人だと目星をつけていたのか? 持ってきておいて正解だった…。
「で? なんなのよこの5円玉は?」
「それはスリの黒兵衛と呼ばれているスリの常習犯の置き土産のようなもので…」
「ええっ⁉ スリ⁉ じゃああたし、財布をスリに盗られてたの⁉」
「あぁ、対して財布に入ってなかったらからのぉ、気付いとったが騒ぎにはせんかったんじゃ。そのスリ、捕まったのか?」
そんな容疑者のうちの1人が問いかけると、苦い顔をして警察官2人が振り返った。
「ええまあ、死体になってね…。」
「ええー⁉」
「我々はあなた方の中に犯人がいると睨んでいるんですがね…」
「そ、そんな…我々は被害者ですぞ?」
とりあえず、荷物の中を徹底的に調べさせてください。
そう強く言った警察官にしぶしぶと荷物を見せる。
まあ、荷物を拝借した時に不審なものがないかは一応確認してあったし、見られて困るものは何もない。
「荷物を確認している間に、簡単な自己紹介もよろしいですかな?」
「は、はい…。私は 段野 頼子 (だんの よりこ) です。今日はただ花見に来ただけで、あたし殺人なんてしてません…!」
「わしは 坂巻 重守 (さかまき しげもり) じゃ。今日はおみくじだけ買って帰ろうと思ってたんじゃがのう…。スリに財布を盗られたぐらいで、殺そうとは思わんよ。」
「私は 弁崎 桐平 (べんざき とうへい) です。私も、誓って殺人は犯していません…!」
だよな? 殺害なんてしてないよな? 弁崎 桐平さん…。
と、適当な桜の木の下で眠っているであろう弁崎さんへと思いをはせる。
「…何ぃ⁉ 凶器が見つからんだと⁉」
「え、ええ…目撃者が言っていたような細い棒のようなものはどこにも…」
凶器も見つかっていないのか…これは時間がかかるぞ…。
「こうなれば、他に共犯者がいる可能性も出てくるな…。」
「となると、何千人もいる花見客1人1人の持ち物を確認しないと…」
「――いや、その必要はないじゃろう。」
突然そう警察官たちの会話を遮った阿笠さんに目を向ける。
彼とはまだ会ったことはないが…コナン君たちが懇意にしている初老の男性だということはヒロから聞いている。
沖矢昴とも親しくしているから、注意している人物のうちの1人だ。
「今も犯人は凶器の一部を持っておる…。調べれは一瞬じゃ。」
「きょ、凶器の一部を持っている⁉」
「どういうことですか阿笠さん!」
彼の足元を見れば、やはりコナン君の姿が。
なるほど、彼もコナン君の入れ知恵を受けて事件の真相を知ったくちか…。
「5円玉じゃよ…。穴に紐や針金を通せば鈍器にもなり、賽銭箱に凶器に使った5円玉を投げ入れてしまえば、証拠隠滅にもなる。」
「で、でも、そんな大量の5円玉を賽銭箱に入れたら流石に音でばれるんじゃ…」
「じゃから犯人は子供たちに言ったんじゃ。鈴を強く鳴らして、神様に自分たちの存在をアピールするように、とな。」
「…え、それって…!」
「じゃあ犯人は…!」
阿笠さんの言葉を受けて、子供たちがまずピンと来たらしい。
確かに、この中で賽銭箱で子供たちの声をかけた人物なんて犯人か子供たちしか知りえない。
「そう。すり取らせた財布に仕組んだGPS発信機で居場所を把握し、大量の5円玉を棒状に束ねた凶器でスリの犯人である矢谷 郁代 (やたに いくよ) さんを撲殺した犯人はあなたじゃよ…段野 頼子さん。」
「なっ…証拠は⁉ 証拠はあるの⁉」
「あんたの靴ひもじゃよ。」
段野 頼子の顔色が変わる。
足元を見れば、彼女の右足の靴ひもがかすかに黒く汚れていた。
「大方、その靴ひもで5円玉を束ねておったんじゃろう。時間がたって黒い汚れに見えるが、恐らくそれは矢谷さんの血液じゃ。もちろん罪を認めるのは血液反応を確認してからでもいいが…」
「…っ、」
「では署までご同行願いましょうか…段野さん。」
そうして犯人が捕まり、連行されていった。
コナン君がいてくれたおかげか、随分と早く事件は解決したが…このころにはもう日も落ち始めていて、夕方になっていた。
「じゃあわしももう帰りますぞ。」
「ああはい。長い間拘束してしまってすみませんでした。」
「じゃあ私も…」
「はい、また後日スリの件もあって連絡差しあげるかと思いますが…。」
そんな風に適当な会話を交わして離れようとしたとき、コナン君がこちらに向かってきた。
「ねえおじさん、もしかしておじさんって目が悪いの?」
「ええ? ど、どうしてだい?」
「だって今朝、被害者の矢谷さんとジョディ先生がぶつかった時、おじさんびっくりしてなかったから。」
「びっくり?」
だって、矢谷さんはきっとおじさんと会ったのは2回目だったはずだよ? 財布も盗まれてたし。
だから矢谷さん、おじさんを見た時に驚いて逃げて行っちゃったんだと思う。
そんなコナン君の言葉に内心で舌を巻く。やはりこの子、鋭い…。
「そ、そうなんだよ。おじさん目が悪くてね…」
「そんなに目が悪かったら、花見の意味ねーじゃんかよ!」
「い、いや…今日はお守りを買いに来ていてね。」
「なんのお守りー?」
ああもう、さっさとここから離脱したいのにこの子たちといったら…。
「きゃっ」
「わァ⁉ す、すみません、人を探してて…って、あー! 桐平! やーっと見つけた!」
そう大げさに言いながらヒロが近づいてくる。
ジョディ・スターリングにぶつかったところを見ても、しっかり盗聴器も回収したらしくその手際の良さには感心させられる。
「とうへい、っておじさんのことですか?」
「そうそう! 今日は臨月になった桐平の奥さんのためにおまもりを買いに来たいって言うからついてきてやったのに、事件に巻き込まれてこんな時間まで離ればなれになっちまって…!」
「なるほどそうだったんですか…!」
「奥さん、無事に出産できるといいねっ!」
あ、ああ…ありがとう。
そんな風に言ってヒロとその場を離れ、車へと向かう。
「結局遥さんはおみくじどうだったの?」
『私? 私はね~、哀ちゃんと同じ大吉♪』
会話を交わす黒凪と、よくコナン君と一緒にいる灰原という少女が話す様をちらりと視線の端で確認する。
きっと彼女は…実の妹であるシェリーとあんな風に何気ない理由で神社に行ったりしたかったことだろう。
…心が痛む。彼女は今もまだ組織にとらわれたまま。偽りの人物として暮らし、今もきっと組織の陰を恐れている。
「(もう少しだけ…もう少しだけ時間をくれ、黒凪。)」
俺はもう決めたんだ。何があっても君を護り、助けてみせると。
何があっても。何を…誰を頼ることになっても。
「――感謝してくれよ? ちゃんと盗聴器も回収しておいたんだからさ。」
「…ああ、ありがとうヒロ。助かったよ。」
車に乗り込んでドアを閉め、車を発進させる。
そして徐に変装を解き、はがした皮を後部座席に放り込んだ。
「あのままコナン君の追撃に遭ってたら、流石のお前でもぼろを出しかねなかったしな。」
「全くだよ…彼は本当に鋭くて困る。」
でも、リスクを冒した分良い情報が入った。
そう呟くように言えば、ああ。と頷いてヒロも変装を解いて俺と同じように皮を後部座席へ。
「一歩前進だな。ゼロ。」
「あぁ…このまま一気に追い込むぞ…ヒロ。」
ジョディ・スターリング
(彼女がFBIにシュウと一緒に来た日のことを今でも鮮明に思い出せる。)
(大量のFBI捜査官に包囲されて、拳銃も向けられている中でのあの動き…)
(シュウが彼女を信頼する理由も嫌でも分かってしまって。)
(正直私は、悔しかった。)
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