本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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現場の隣人は元カレ
「へ~、新しい人入ったんだ。一課。」
「うん。ほら、由美覚えてる? 私たちが警察学校に入った時、1代上がやんちゃをしすぎたせいで私たちの代の規則がとてつもなく厳しくなったの。」
「ああ、そうだったわね。ホント貧乏くじ引いたわー。」
「その最悪の世代の、成績ナンバー2。警察学校時代のあだ名はミス・パーフェクト。」
え゛、と自分の声が思わずひっくり返る。
「そ、そんな有名人が来たの⁉」
「うん…。しかも私の部下っていう立ち位置でね。やりづらくって…」
「で、やっぱりパーフェクトって感じなの?」
「うーん…」
美和子が腕を組んで天井を仰ぐ。
抜群の成績から、公安部とかに配属されるかもって噂だったのに…謎にそれを蹴って爆弾処理班に所属した変わり者だって話だし、形容しがたい感じなの…?
「なんていうか…暗い…」
「暗い?」
「うん。ロボットとかAIを相手にしているような…」
「そっ、外で喧嘩だ! 誰か警察呼んでくれ!」
居酒屋の外から聞こえた声に顔を上げ、すぐさま外に向かった美和子に私もついていく。
男2人で殴り合いの喧嘩なら、主に殴っている方を美和子が制圧すればきっと収まるだろうし…。
なんて考えながら外に出ると、予想に反して美和子は入口の傍で突っ立っているだけで。
美和子が入っていけないなんてどれだけ高次元な喧嘩なのかと顔をのぞかせれば、
「いててっ、ちょ、いたいっ」
「けっ、いい様だぜ!」
半泣きになってわめく男の腕をぎりぎりと1人締め上げる女性。
その傍で半泣きの男を怒鳴りつけていた男が、男が女性に拘束されているのを良いことに…足を振り上げた。
あ、蹴るつもりだ…なんて思った時、女性が思い切り振り下ろされた足の、脛に肘をぶつけた。
ゴッ、といやーな音が響く。あれは痛い。
「イッ――⁉」
『反撃できない相手を蹴ろうとするなんて…よほど自信がないのね。』
そんな風に呟きながら女性が携帯を取り出して、どこかへと電話をかけ始めた。
そして彼女が開口一番に言った言葉は、
『もしもし、こちら捜査一課強行犯三係、宮野です。』
捜査一課強行犯三係って美和子と一緒…っていうか、宮野⁉ 宮野って…!
「みっ、ミス・パーフェクト⁉」
私の声に女性がこちらへと目を向けた。
そして思う。うわ、美和子に負けず劣らずの美人…。と。
『――ああ、佐藤さん。いらっしゃったんですか。』
「あ、え、ええ。」
『丁度良かった。良ければこの場を任せても構いませんか?』
急ぎの用があって。
そんな風に言って立ち上がり、服についた砂埃を払う様は確かに美和子の先ほどの説明を体現しているようだった。
表情も全然変わらないし、焦った様子も、私の言葉に驚いた様子も皆無。
なんだか、ロボットみたい。
「んの、アマッ――!」
そんな時だった。
私の視界に先ほど脛をミス・パーフェクトに殴られた男が落ちていた空き缶を持ち上げて、投げつけようとしていたのが見えた。
きっとそれは美和子も一緒で、思わず固まる私とは違って美和子が動き出したのが見える。
でもそれよりも早く、
「That’s lame, man. (おいおい、それはダサいと思うぜ。)」
『!』
「っと、ここは日本だったな。」
男の手首を掴み、空き缶を取り上げて…それを片手でぺちゃんこにした白人の男。
男が白人の男を見る。頭1つ分かそれ以上のガタイの差に男がへなへなと地面に蹲ったのが見えた。
「Hey, we gotta go. come on. (おい、行くぞ。早く来い。)」
『I know, give me sec…Irish. (分かってる、少し待って…アイリッシュ。)』
え、英語で話してる…っていうか、あの白人ミス・パーフェクトの知り合い⁉
『すみません佐藤さん、任せて行っても大丈夫ですか?』
「え、ええ…」
『ではまた…』
小さく会釈をしてミス・パーフェクトが去っていく。
その背中を私と一緒に見ていた美和子がつぶやいた。
「…アイリッシュ、って…アイルランド人ってことよね? 人を国籍で呼ぶなんてことある?」
「え? いや~、あたし英語はからっきしで…」
「…。同僚ってだけだから私生活のことを知らないのは当たり前だろうけど…宮野さんは本当に全部謎なのよね…。」
まあ、見た目からしても純日本人ではないだろうし、外国人の知り合いがいてもおかしくはないけど…。
そんな風に言う美和子の言葉を聞きつつも、私は彼女がどこか、警察官になったと同時に別れた元カレに雰囲気が似ているような、そんな気がしていた――。
「いや~、それにしても、まさか由美タンに会えるなんてびっくりしたなあ~!」
「はいはい。分かったから。あたしはこれから仕事で…」
「えー! このままデートしないのっ⁉」
「あのねえ…あたしは仕事中なのよ! し・ご・と・ちゅ・う!」
ホント、偶然人がなくなって一番現場に近い位置にいたあたしが向かってみれば、元カレの秀吉と再会することになるなんて…思ってもいなかった。
「ええー!」
「そのにーちゃん、冴えないけど事件解決してたじゃねーかよ!」
「そうですよっ! 許してあげたらどうですか⁉」
「大人の世界はそんなに単純じゃないの!」
まったく、がきんちょがいるところで恋愛話はご法度だったわね。
秀吉とあたしをどうにかしてくっつけたいみたいだし…。
「じゃ、あたしは行くから。」
「うん、気を付けて――危ないっ」
あたしの腕をぐいっと引いた秀吉に驚いていると、ビュンッと目の前をものすごいスピードで自転車が走り去っていく。
「やっぱりお似合いだね、2人ともっ!」
「え、ええ~⁉ やっぱりそうかなあ⁉ 由美タン…」
「あんの自転車…危ないじゃない! 捕まえて…」
「あ、由美タン! 携帯! 携帯落ちた!」
秀吉の焦ったような声にはっと意識が走り去っていった自転車から彼に戻る。
「あ、携帯…」
はっと微かに目を見開く。
秀吉が拾ってくれた私の携帯。その傍に、空き缶が落ちていたのだ。
「潰れた空き缶…。」
「え?」
そして秀吉を見て、思い返す。
そうだ…空き缶…。あの時、ミス・パーフェクトと偶然会ったあの日…。
彼女と秀吉が似てるなんて唐突に思ったのよね…。どうしてそう思ったのかな。
あの人、どんな顔していたっけ。
「あ、そうだ。」
「へ? 由美タン? 頭の中だけで色々と解決されても僕分からな――…」
携帯に美和子がこっそり撮ってくれたミス・パーフェクトの写真を表示させて秀吉の顔の横に並べる。
「…やっぱり似てる!」
「だから、ホントに何が…」
「ほら、この人美和子…親友の元同僚なんだけど、昔会った時に秀吉に似てるって思ったのよ! やっぱり並べると似てる~!」
「ええ~?」
携帯を覗き込んだ秀吉が少し目を見開いて動きを止めた。
そして。
「この人…名前は?」
「え? 確か…宮野さん。下の名前はちょっと…」
「宮野…」
「何? まさか遠い親戚とか言わないでしょーね。」
あんたみたいなぽわっとしたのがミス・パーフェクトの親戚なわけないか。
そんな風に言うと、またしても秀吉が目を細めて黙り込む。
「ミス・パーフェクト?」
そこでじいっと私たちの様子を伺いながら話を聞いていたコナン君が小首をかしげて言った。
「ああ…ミス・パーフェクトっていうのはあだ名。警察学校時代の成績がそれはもー抜群に良かったらしくて。もちろん警察官になってもその伝説は全く色褪せなくて…」
「そんなスゲーにーちゃんがいるのか⁉」
「ミス、だから女性よ。」
元太君が勘違い発言をしたん途端に即座に訂正を加える哀ちゃん。
そんな2人に「そっか、秀吉と似てるって言ったから男だと勘違いしたのね…」と携帯を子供たちにも見せた。
「ほら、この人がミス・パーフェクト。美人でしょ?」
「わー! ホントだ、美人さんだね!」
「あれ~? この人、どこかで見たことないですか?」
「そうかあ?」
え? 見たことあるの?
まあ、警視庁勤務だったから東京には長くいただろうし、すれ違っていても別に…。
「――あ! あのバスジャックの時ですよ!」
「バスジャック?」
「博士と一緒にバスに乗っていた時にバスジャックに遭って…ほら、スキーバッグの爆弾の…!」
「…あー! ホントだ! バスの一番後ろに、マスクのお兄さんと乗ってたお姉さんだ!」
ね⁉ コナン君!
そんな風に言った歩美ちゃんの視線の先に立つコナン君。そしてその隣の哀ちゃん。
2人の表情が固まっている。
「(? あれ、この2人もミス・パーフェクトと面識が…)」
「由美タン、この宮野って人、今は?」
「え? ああ…とっくに警察官をやめて、今はどこで何をしてるかわかんないわよ。かなり優秀だし、英語も話せてたから外交官とかになってるんじゃない?」
「英語も話せたの?」
頷けば、秀吉はまた黙り込み、ぶつぶつと考えながら何やら呟いている。
もう、何なのよホントに…。
「――由美さん、早く戻らないとまずいですよー⁉」
「あ、うんー! じゃあ秀吉、あたし…」
がしっと私の手を両手でつかむ秀吉に言葉が止まる。
「由美タン、あのさ…」
「な、何よ⁉」
なんなの、あたしの手を握ってそんな真剣な顔して…。
ここで何をしようって――!
「その写真、僕の携帯に送っておいてくれない?」
「…は?」
「お願い!」
「わ、分かったわよ! 仕事終わりに送ってあげる!」
「あ、ありがとう~!」
ぱああっと顔を輝かせた秀吉に顔が熱くなったのが分かった。
かわいい…なんて、思ってないわよ! 断じて!
手を振りほどいて子供たちから携帯を返してもらい、パトカーへと走っていく。
そんなあたしの背中を各々様々な表情で見つめているコナン君、哀ちゃん、そして秀吉には気付かずに…。
「――灰原、ちょっといいか?」
「ええ、分かってるわよ…。お姉ちゃんのことね。」
元太、光彦、そして歩美と別れたあとにそう声をかければ、灰原は分かっていたように頷いて俺に向き直った。
「まず…お姉ちゃんが警察に潜入していた話は水無怜奈との一件の時に聞いたんでしょ?」
「ああ。でもあのあだ名については…」
「あだ名に関しては私も初めて聞いたわ。ミス・パーフェクトなんてあだ名がつくぐらいには優秀だったのは、容易に想像がつくけど。」
それには俺も同意する。組織で様々な教育を受けていた人だから…そりゃあ、並みの人から見れば “パーフェクト” だろう。
「私たちにそのことを黙っていたのは…きっと、お姉ちゃんのことだからあまりあだ名を気に入っていなかったからじゃないかしら。」
「確かに黒凪さんなら、裏切りものである自分が “パーフェクト” を名乗るなんて耐えられなかっただろうしな…。」
「でも…彼女、由美さんが言うようにあの羽田っていう男とお姉ちゃんが似ているっていうのには反対。全然似てない。」
「そうか? 俺はまあ…由美さんが言ってる意味も分からなくはなかったぜ?」
はあ? と灰原の呆れたような視線が俺を射抜く。
まあ、姉妹からすれば全然似ていないように思うのも分かるが…。
「穏やかそうな顔と雰囲気なのに、どこかつかみどころがない感じも似てるし…。言われてみれば、顔のパーツはそれぞれ違えど、全体の雰囲気とか…。」
「似てない。」
「ま、まあおめーがそういうならそうかもしれねーけど…」
「…まあ、由美さんが言うように親戚かもしれないっていう可能性も、0ではないけど。」
灰原の言葉に「え?」と振り返れば、灰原は過去を思い返すように右上へと視線を向けた。
「とはいっても、私は両親の親戚に関してはからっきしだし…お姉ちゃんに聞いた方が良いわよ。教えてくれるか分からないけど…」
「え、隠したい理由でもあるのか?」
「そうじゃなくて、お姉ちゃんが単純に両親の話をあまりしたがらないから…。」
ざあ、と風が吹く。
風に吹かれて揺れた髪を抑えながら、灰原が目を伏せて言った。
「お姉ちゃん、昔よく言っていたから…。お母さんとお父さんが組織に協力さえしなければ、私たちはきっと平凡な日々を送ることが出来ていたはずだって。」
「…、」
「組織に捕まってからはほとんど会うこともなく…いつの間にか亡くなっていたようだし。きっとお姉ちゃん、2人のことをある種恨んでる…。」
「…そっか。そうだよな。」
改めて思う。
同期を、同僚たちを騙し続け…ただ妹の為だけに自分を殺して生きていたあの頃の黒凪さんは、どうやって自分を保ち続けていたのか、と。
彼女の心境を考えると、到底俺が想像できるものではないだろうが…。
「…もしもし、母さん?」
≪――なんだ? 珍しいな、お前から電話とは。≫
アパートに戻り、扉を閉じて目を伏せる。
確かに、母に連絡を取らなくなってどれぐらい経っただろうか。
由美タンにそうしていたように、最近はずっと将棋のことばかり考えていた所為で誰とも連絡を取っていなかったからな…。
「母さん、昔母さんの妹だって人と電話してなかった? ほら…僕が10歳か11歳のころ…丁度イギリスから日本に移住する前。」
≪ああ…よく覚えているな。それがどうした?≫
「その妹さんの…結婚後の苗字は?」
≪…宮野だ。≫
母の言葉に息を呑んだ。
ああ、やっぱり。昔見た母とその妹さんの写真を覚えていたからピンと来たんだ――。
由美タンの携帯の画面に映った彼女の雰囲気が、母の妹さんにそっくりだったから。
「その宮野さん、今は?」
≪さあな…。どこかで生きて暮らしているんじゃないか?≫
「そんないい加減な…」
≪お前が気にするべきことではない。それより将棋に集中しろ。≫
ブツッと切られた通話に息を吐いて携帯を見下ろした。
僕が将棋に集中していることもあるが、母は長らく僕と会ってもくれない。
何かを隠されているのは分かっている。そしてそれはきっと、僕の為だということも。
でも…。
「…。」
由美タンの携帯の画面に映った彼女の姿が脳裏にこびりついて離れない。
携帯を耳に押し当てて、何かを話している風な彼女の目は暗く、冷たく――世界に絶望しているような。
そんな暗い瞳を僕は以前…見たことがある。
《日本に逃げる――。》
《え?》
《この国(イギリス)にはもう、いられない。》
そうだ。父さんがいなくなった後の、母の目だ。
大切な存在をなくし…絶望しているのに、素直にその場で泣けない。そんな悲しい目だ。
誰かのために必死に立ち上がり続けるけれど、もう限界を超えている…そんな目なんだ。
佐藤美和子
(初めまして、佐藤です。よろしくお願いします。)
(宮野です。お願いいたします。)
(この人が噂のミス・パーフェクト…)
(そう心に留めながらの初対面は、思っていたよりも無難なものだった。)
(だけどすぐに共に捜査を熟す中で彼女のあだ名の意味を再認識した。)
(何事にも動じない。ミスも起こさない。)
(その様はまさに、ミス・パーフェクト。)
(時折この人が本当に自分と同じ人間なのかと疑ってしまうほどに…)
(彼女は完璧な存在だった。)
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