本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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隙のある日常 with 沖矢昴
≪繰り返します。只今13時20分発――…≫
『ん?』
≪―――の為約10分の遅れが出ています。≫
「ええー!?」
耳に届いたアナウンスに声を上げる子供達。
そんな子供たちに苦笑いを浮かべた昴と、それから志保とコナン君。
休日の今日、私と昴は保護者として少年探偵団たちと共に隣町へと川遊びに行っていた。
もちろんいつも通りに車で来ていたのだが、川の周辺に駐車場が無く…仕方なく川の最寄り駅の1つ手前の駅のパーキングに止めてあった。
子供達は川遊びを終えてへとへとになっているようで、いつもなら気にしない10分程度の遅れを聞いてそわそわしだした。
「どーすんだよ、遅れてるなら歩くのかー?」
「ええー、無理ですよう…こんなに暑いのに…」
確かに、駅の陰に入っているとはじりじりと照りつける太陽の熱気は十分に伝わっている。
1駅とは言えこの中を歩くのは…子供たちはよくとも大人がつらい。
傍に経つ秀一…今は沖矢昴の姿だが。彼もこの照りつけるような暑さに多少イライラしているらしく、若干落ち着きがないように見えた。
『だいじょーぶ。10分ぐらいならすぐだから…ちょっと遊んで時間つぶそ。』
「遊ぶって、何するのー?」
『そうねえ…しりとりとか?』
「楽しそう! 歩美やるー!」
ぱあっと明るくなった子供たちの顔を見てほっとする。
「じゃあ俺からな! えーっと…うな重!」
「また食べ物ですか? 元太くんー…」
楽し気にしりとりを始めた子供たちに笑顔を浮かべ、時計を見上げる。
すでに半分の5分を切っているし、この調子で行けば大丈夫だろう。
「遥お姉さん。」
『うんー?』
志保の声に振り返って目線を合わせるためにしゃがみ込む。
志保は持っていたハンカチで私の額を軽く押さえてくれた。
「大丈夫? 暑そう…。」
『大丈夫よ。ありがとね。』
とは言え、確かにこのジリジリと照りつける熱は辛い。
コナン君もじんわりと汗を滲ませつつ私を見て、それから秀一を見上げる。
「それより昴さんだよね。背が高いし余計に暑いんじゃないかな。」
『あはは、そうねえ。』
と、笑っている間もぱたぱたと手で風を起こしている秀一。
確かに背が高い分、暑さは倍増しているかもしれない。
もちろん子供たちも地面からの照り返しがあるけれど…基本的に温度の高い空気は上の方へと集まっていくものだし。
「…ちょっと一度外に出てくるよ、遥。子供たちを頼む。」
『うん? 分かったー。』
そして秀一が外に出た途端に微かに香ってきた香りに眉を下げる。
普段子供たちの前では我慢で来ていたのに…流石にこの暑さの中、イライラがピークに達して煙草に逃げたわね、あの人…。
「…あー! 昴さん煙草吸ってるー!!」
「っ、げほっ、ごほっ」
歩美ちゃんの声に咽せた秀一。
あれでも子供だちに見つからないように吸っていたつもりらしいが、やっぱり煙草の匂いは隠せないもの。
「それって美味いのか?」
「い、いや…君たちは吸っちゃダメだよ?」
「でも自分だけ吸うなんてずりーぞー!」
子供からすれば、なぜ大人は許されて子供は許されないのかと抗議したくなる気持ちも分かる…。
責められてタジタジになっている秀一を苦笑いをこぼしつつ眺めていると、くいくいっと歩美ちゃんが私の服の袖を引っ張った。
「遥おねーさんは昴さんみたいに煙草吸わないの?」
『え、私? 私は吸わないかな〜。吸えないことはないんだけどね。』
「へえー…。ママは煙草嫌いだって言ってたんだけど、遥さんは嫌じゃないの?」
なんて、今まさに煙草を吸っている相手を前に話す話題ではないわけだが…。
ぐさぐさと突き刺さる歩美ちゃん、そして志保からの視線に、答えざる得ないな…と観念する。
『私は昴がだーい好きだから、煙草なんて気にならないの!』
間違っても子供達の方向に煙が向かわないようそっぽを向いて煙草を吸う秀一…もとい昴に抱きつけば、ぱああっと歩美ちゃんが顔を明るくさせた。
「じゃあ昴さんは遥さんの前ではなんでもオッケーなんだねっ」
『な、なんでもではないけどね〜…あはは』
私に抱きつかれたまま煙草をしばし堪能し、その火を消した秀一がこちらに目を向けた。
「遥、そろそろ戻ろう。電車が来るんじゃないかな?」
『え? あっ、ほんとだ!』
そうして皆でプラットフォームへと戻れば、秀一の言うとおりに電車がやってきた。
中に入ると気持ちのいい冷風が吹いていて、控えめに言ってもすごく気持ちいい。
『…懐かしい香り。』
「うん?」
隣に座った秀一の肩に頭を預ける。
そしてまたふわりと香った煙草の残り香に目を眉を下げた。
『なんだか昔に戻ったみたいだね〜、昴。』
「…そうだね。」
ああ、あの頃が懐かしい。
まだ組織にいた頃は素顔で一緒に外に出かけることが出来ていたのに。
誰に何を隠すでもなく…まだ好きなように行動できていた筈なのに。
どうしてこんな風になってしまったんだろう…。
「早く昔に戻れるようにがんばっていかないと。」
『!』
「そうだろう? 遥。」
…だめだ。うるっときてしまった。
必死に込み上げる感情を抑えていると、隣に座っている志保が私の腕に自身の腕を絡め、何も言わずに私にもたれかかった。
『…うん、頑張ろうね…。』
秀一が微笑んで私の背中をぽんぽんと軽く叩いてくれる。
まるで子供を慰めるように。
本当に、この人は…この人だけは、いつまでも私を対等に見てくれて、子供扱いしてくれて…そして女性として扱ってくれる。
私をまっすぐに見てくれる人。
(そう、貴方は…組織にいた時も、その前からも。)
(冷たい人間のふりをしながらも、ずうっと暖かかった。)
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