本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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キッドVS四神探偵団
ああ、何てこと。よりにもよって。言葉が頭の中をぐるぐると回る。
そんな私の目の前には…今しがた披露したマジックの出来はどうだと目で語りかけている青年が立っていた。
青年の顔は、声は…まさにこの世界の主人公、工藤新一と瓜二つ。そんな彼の名前は…。
「こらバ快斗! 新任の先生に何してるのよー!」
『(そう、快斗…黒羽、快斗。またの名を…怪盗キッド。)』
そう、誇らしげに席へと戻っていく青年を見送り、気を取り直して学生たちへと目を向ける。
『ごほん、改めてだけどみんな。私は神崎遥、担当は英語です。これから貴方たちの副担任として頑張るから、ヨロシクね。』
「恋人はいますかー?」
『内緒でーす』
ええー、とブーイングが飛び交った。
まあ此処までは許容範囲だ。子供たちから質問の内容も予想していた通り。
ただ一つ、予想通りじゃないのは…。
もう一度改めて彼…黒羽快斗君を目に映す。うん。どう見てもあの有名な怪盗キッドよね。
と、薄れつつある私の前世の記憶から掘り起こした怪盗キッドと彼の顔を重ね合わせる。
名前だって憶えている。間違いない…。
『それじゃあこれで朝のホームルームは終わりです! 今日は一限目から英語だから、先生は一旦職員室に戻ってからこっちにきまーす。』
「はあーい。」
子供たちの返事を聞いて予鈴に合わせて一旦教室を出て…15分後に戻ってきたわけだが…。
「ちょっとバ快斗ー!」
「だっせぇパンツ履いてるからだろー!」
「ちょっ、大きな声で言わないでよ! この変態ー!」
どたばたどたばた。
教室の後ろで走り回る2人に慣れた様に教科書を広げ始める生徒達。
はたまた痴話喧嘩だなんだと囃し立てる男子生徒。
私は思わず眉間を抑えた。はしたない上に喧しい…。
『座りなさーい。』
…と声を掛けるが聞く耳持たず。
教師と言うのも辛い役職なのね…。
今日は担任が新任教師だと言って若い女性教師を連れてきた。
神崎遥と名乗った教師に早速マジックを披露してやれば、驚いたような様子を一瞬だけ見せたが…心臓が強いのかなんだか、なんとも鈍い反応。
それでも少しだけ見せたその驚いたような、なんとも言えない笑顔にとりあえずサプライズは成功だと席に戻った。
「 “ 私は貴方が殺人鬼でも構わない…、愛してる! “ くうー! いいセリフだわ! 」
そんな風にクラスメイトと盛り上がるあそこのうるさいのは俺の幼馴染の中森青子。
けっ、またしょーもねードラマでも見てんだろ…。
呆れたように見ていると、穏やかに青子を眺める神崎せんせーが目に入った。
釣り目気味の、中々の美人。でもその涼し気な目元に似合わず、わりと元気でこどもっぽい。ってのが第一印象。
「遥先生はある? ドラマみたいな経験!」
『え? 例えばどんな?』
「例えば…絶対に結ばれない筈の恋とか…!」
両手をぎゅっと祈る様に握り目をキラキラさせて言う青子。
夢見る少女ってか? あほらしい。
でもまあ、気にならんでもない。あれだけ美人ならそれなりに恋愛も…。
そして目を向けた時、神崎せんせーの表情の変化に思わず目を見開いた。
『そうねえ…。ないことはないけど。』
「え⁉ どんなのどんなの⁉」
『んふふ、秘密っ!』
「ええー!」
そしてまた戻った表情に思わず立ち上がって、ずかずかと先生に近付いて…じいっと顔を見つめた。
そんな俺にぽかんとする神崎せんせ。
『…近くない?』
「…あっれ…?」
『なになに、どしたの?』
おっかしーな、神崎せんせ…。
一瞬表情がまるで別人のものみたいになったような…。
「ていうか、私は今はドラマより怪盗キッドだな~!」
と、青子に向かってクラスメイトの女子生徒がいう。
キッドの話題となれば別だ。そうだよ、ドラマなんかより俺の話題だよ!
『怪盗キッド? また何かやるの?』
「ほら、有名な資産家の鈴木次郎吉っているでしょ? キッドに勝負をしかけてるんだって!」
『へぇ…、でもあたし “盗人” には興味無いからなー』
盗人だと…? なんかむかつく言い方だぜ…。
と、こちらに神崎せんせの目が向き、ばばっと目を逸らす。
しまった、露骨だったか…? とドキドキと動く心臓に気づかぬふりをしてもう一度先生に目を向ける。
俺など気にしない様子でまだ青子たちと話していて、正直ほっとした。
「あっ、私新聞持ってるよ! 先生見る?」
『え、みるみる~。ありがと!』
なんでえ、盗人なんて呼んでおきながらなんだかんだ興味津々…。
「うわっ!?」
「ど、どうしたの先生……」
ばーん! と大きな音を立てて机の上にある新聞に手をついて立ち上がる先生。
え? 何? と青子と思わず顔を見合わせる。正直言って、先生の顔は少し…いや、かなーり怖い。
『…あ、ごめんね。アハハ。ちょっと電話かけてくるね~』
なんて、ころっと表情を切りかえて教室を出ていく先生。
それを見送った青子が不思議気に言う。
「新聞に何か載ってたのかな? それともキッドが嫌いなのかな?」
「(キッドが嫌い~?)」
徐に新聞へと目を向ける。
大きく載っているタイトルは「麒麟の角を狙う怪盗キッド」。
他に掲載されている事といえば、俺が送った予告状、少年探偵団が対決に参戦するという文字。
窓から見える校庭に神崎先生の姿が見えて、窓枠に腕を乗せてそちらに目を向ける。
『…! ………?』
何やら携帯で誰かと通話中らしい、神崎先生。
なーんか気になるんだよな、あの先生…。
徐に立ち上がり先生を追うために階段を下りていく。そして外に出ると…。
『あら…、じゃあ貴方は他の探偵団の子たちの巻き添えで? ……うん。』
やっぱ雰囲気が全然違う…。
授業と授業の合間のためか、俺以外には生徒はいない。
『とにかく、メディアにも出るような有名人を相手にするのは怖いし…。ええ。一応私も保護者として行ってもいい? …ありがとう。』
そうして通話を終えた先生の背後にしのびより、声をかけようと息を吸った途端。
「わっ⁉」
『…あれっ? 黒羽君じゃない!』
と、不気味なほどに雰囲気をこれまた180度変えた神崎先生が俺を迎えた。
まさか、気づいてたのか? 俺が聞き耳を立ててること…。
いや、それにしては口調も変えたまま電話を続けてたし、どういうことだ?
『盗み聞き? 趣味わるーい。』
「…今、口調違いませんでした? センセ。」
『君は社交辞令はしないタイプ? 大人の世界では色々あるんだよ、少年。』
「…ふーん。」
上手く丸め込まれた感は否めない。
が、こういわれてしまっては突っ込んで聞けるほど、自分が感じるこの先生の違和感に自身があるわけではない…。
俺は納得したような顔を先生に見せて、素直に教室へと戻ることにした。
「…っていう感じでさあジィちゃん。正直俺もなんでこんなにこの神崎先生が気になるのかわかんねーんだけど…。」
「ふむ…。」
学校に持って行っていた携帯でこっそり撮った神崎せんせの写真をジィちゃんに見せながらソファに身体を沈める。
なんで気になるんだろう? なんだ? …あ。
「…そっか。あれだ。」
「うん? なんですかな? ぼっちゃま。」
「この違和感…初めてあいつ…。名探偵に出会った時と同じなんだ。」
「え?」
見た目と、その言動がマッチしない。そんな感じ。
正体を隠そうと…他人の前では上手く誰かを演じるくせに、ふとした時に漏れてるんだ。
得体のしれねー本物の人格っていうか、本質みたいなもんが。
「なるほど…。」
「だってよ、ここは日本だぜ? これほど安全な国はない。俺だって怪盗キッドとして色々と危ないことに手は出してる。けど…」
だからこそこの日本で改めて得体のしれない何かを見つけると、どうもそれが目立つわけだ。
…不気味なんだ。本質が見えなくて。
「…ですが、もし本当にその新任教師の方が誰かのふりをしてぼっちゃまの学校にいるのであれば寺井は少し心配でございます。」
「うん、そうだな。…まさかキッドである俺を狙ってインターポールが学校にやってきたとか…そんなんじゃねえよな? ハハハ…。」
「ふむ…」
まあ、誰もはっきりとその可能性を否定はできないよな…。
マジで乾いた笑顔しかでねーぜ…。
「…ま。こんな周りくどいやり方をするってことは、相手が何であれまだ俺がキッドだとは確信にいたってねーはず。とりあえず様子見だな。」
「そうですね…。しかし気を付けてくださいね、ぼっちゃま。」
「うん。ま、大丈夫だろ。とにかく次の現場にいるのはガキんちょ達と、いつものメンツだろうしな。」
…なーんて。なーにがいつものメンツだしな、だよ!
思いっきりいるじゃねーかインタポール(仮)⁉
『すごい雨だね~、こっちおいで拭いてあげるから!』
「ありがとう、遥お姉さん!」
今日の天気予報を見ておいてのことだろう、タオルを持参した神崎先生が雨でぬれた子供たちの頭やらを拭いてやっている。
…つか、なんで少年探偵団のガキんちょ達と知り合いなんだよ、あんた!
「よくぞ来てくれた! 少年探偵団諸君!」
そして現れた鈴木次郎吉にささっと壁際によって空気と化す神崎先生。
しっかり気配りも取れてるし…やっぱただものじゃねーな、インターポール(仮)は。
「ん? なんだぁ? アンタ…見覚えのない顔だな…。」
『…ああー!? 怪盗キッドといつも対決してる警部さんだ! ファンなんですよ私ー!』
「おおっ⁉ お、おお…」
『握手してください!』
かと思えば、またまた一気に表情を変えて中森警部に取り入る神崎先生。
…やるな! インターポール(仮)!
まああの中森のおっさん相手ならあんな風にファンを装えば…。
「いやあ、ハハハ…」
『キャー! 大ファンの中森警部と握手までしちゃったー!』
うん。こんな感じでデレデレするだろうな。
『ちなみに今回の作戦はどんな感じなんですか⁉ 中森警部っ!』
「良ければ今回の宝石も見ていくか?」
『ええー⁉ いーんですか⁉』
宝石がある部屋の隅には4つの色の違う石の台座があり、その台座には1つずつ鍵穴がある。
黒、白、赤、緑の台座1つ1つには軽く電流が流れているらしく、宝石を確認するため、今からその電流の電源を1つ1つ切っていくとのことだ。
「…あれ? なんか変な音がするよ?」
「ああ、これは電流を切る音だよ。」
「じゃあ、このポーンって音は1つ1つの台座の電流が切れる音なんですね! 中森警部!」
「おう。」
凄いです! と目を輝かせるガキ1。名前は確かミツヒコだったか?
1回音が鳴るごとに緑、赤、白、黒の台座の順番に電流が止まっていく様をキラキラとした目で見つめる少年たち。
『へえ~…』
「警部、合図を。」
「ごほん。…1、2、3!」
中森警部のカウントに合わせ、4つの台の前に立つ警察官全員が同じタイミングで鍵を回した。
すると建物全体が揺れ始め、真ん中の太い柱が上下に動きその中に隠された麒麟の像…そして宝石部分である角が姿を見せた。
「…よし、閉じろ。」
そしてまた合図に合わせて警察官たちが鍵を回し、宝石が柱に隠されていく。
『流石鈴木さん…! こんな仕掛けがあるなんて私感動ですっ!!』
「む? 確か君は少年探偵団の保護者の…?」
『神崎遥です! ずっと中森警部と貴方のファンでした!』
「おおそうかそうか! どれ、握手でも…」
ありがとうございますー!とぎゅっと手を握った神崎先生。
それを呆れて眺めていると、名探偵とその隣に立つ茶髪の少女もひく、と呆れた顔を浮かべたのが見えた。
『この複雑なシステムを作られたのも鈴木さんですかっ⁉』
「はっはっは! もちろんじゃ! これならキッドは同時に4人に化けんとこの仕組みを解除できないということじゃろう! これではあのキッドでも手も足も出まいっ⁉︎」
「いや…前の瞬間移動の件で奴に協力者がいる事は分かっているからな…。油断はできん。」
そんな風に会話を中森警部と鈴木次郎吉を横目に見ていた神崎先生が動いたのが見えてそちらに視線を向ける。
巨大な柱に刻まれている文字を見て何やら考えている様子の名探偵の傍で足を止め、足を屈めたのが見えた。
『何か気になることでもある?』
「うん…これ。」
『 “正しき理に拠らず 麒麟を求めんと欲する者 移ろひに身を委ねるべし 三水吉右衛門 ” …。』
「さっき次郎吉さんに聞いてみたけど、あの人も知らないみたいなんだ。」
『ふうん…』
2人してじいいっと柱を眺める神崎先生と名探偵に中森警部が呆れたようなしぐさを見せて言う。
「ったく、呑気な奴等だぜ…。いつこっちの部下もキッドに成り代わられるか分からねぇのに…。あっ、というかあんたキッドじゃないだろうな⁉」
と、中森警部がずんずんと神崎先生の元へ向かって、その頬をつねろうと手を伸ばす。
俺はその時――…顔色を一変させる名探偵を見てかすかに目を見開いた。
「やっ、やめて!!」
しかし予想に反して神崎先生を中森警部から護ったのは――茶髪の少女で。
「お、女の人の顔を触るなんてそんなことしたら…、したらっ!」
「な、なんだよ…?」
「こっ、この人の彼氏が黙ってないと思うけど…⁉」
「か、彼氏ぃ?」
途端に少年探偵団もばばっと神崎先生の前に立ち、中森警部を睨み上げた。
「そうですよ!! 遥さんの彼氏が黙ってませんよ!」
「そーだそーだ!」
「暴力反対ー!」
「う、わ、分かったよ…」
なーにしとるんだこんな時に…。
そう呆れたように言って割って入ってきたのは鈴木次郎吉氏。
キッドがいつやってくるのかもわからんのだから、もっと警備に集中してくれんと。
それにほら…もうキッドがやってくる予告の3分前じゃ。
その言葉に神崎先生の前に立っていた子供達がはっと台座へと目を向けた。
「はっ! そうでしたっ」
「配置につこうっ、みんな!」
「オッケー!」
「哀ちゃんも、ほらっ」
茶髪の少女がじいっと心配そうな顔をして神崎先生を見る。
哀と呼ばれたその少女に先生は…。
『大丈夫…ちゃんと見てるから。』
「…うん…」
…また、あの雰囲気だ。別人みたいな。
俺は目を伏せ、何やら考えている様子の神崎先生から目が離せなくなっていた。
「ま、まあ問題はその柱を開くカギをじいさんが護り切れるかどうかだがな…。」
「ふん、心配無用じゃ。鍵はこうやって…、ほれ。壁に打ち付けてやれば簡単には取れまい! はっはっは!」
「ハハハ…」
途端に、俺の計画通りに電気が落ちる。
よし。この暗闇に乗じて窓を開き…。
「うわあっ⁉ なんじゃ⁉」
おーおー、焦る声が聞こえるぜ。
それにしても今日の天気は相変わらず悪いな…雨風がどんどん入ってくる。
まっ、それよりもさっさと宝を頂いて…
「こ、この音は…台座が開いている⁉」
暗闇の中、現れた麒麟へと手を伸ばし角をいただく。
そして…そうだそうだ、ついでに隠し場所の調達っと。
「うわっ⁉」
悪いな名探偵…暫く気絶しててもらうぜ。
どさっと倒れた名探偵ににやりと笑みを浮かべ、宝石をもって周囲へと目を向ける…というより、神崎先生に。
そこで俺は、息が止まった。
『…。』
「(…え、見られてる…⁉ いやそんなまさか、急に光がなくなった状態で目が見えてるはずがねえし…!)」
こちらをまっすぐ射抜くその瞳にバクバクと動く心臓を落ちつけつつとりあえず計画通りにすべてを行い…電気の復旧を待った。
「!…あ…」
「電気が付い……た……」
「んなぁ…!?」
全員の視線の先は縦に開いた柱の中央で、そこにあるはずの麒麟の角が跡形もなくなっていた。
一方の私は怪盗キッドの動きを見逃さないように必死に目を見開いていたから、目を軽く押さえてうなだれる。
『(キッドが明かりを奪うのは常套手段だから目を暗闇に慣れさせて置いたけど…雨戸が開いたおかげで逆に見づらかったわね…)』
「くそ、キッドの野郎…雨戸をあけて我々をパニックに陥らせ、その隙をついて逃げやがったな⁉ とにかくこの気絶させられた小僧を病院に…」
「け、警部! 今しがた連絡があり…現在土砂崩れで道が…!」
「なっ何い⁉ じゃあ逃げたキッドも追えねえじゃねえか⁉」
安心せい! そうカツを入れたのは他でもない、鈴木次郎吉さん。
「このわしがキッドに対して何の策も練っていないと思っておるのか? わしが保障しよう…この部屋からは誰も出ておらん。勿論、宝石が盗まれる前から今に至るまで誰も、じゃ。」
そうして麒麟の角の捜索が始まった。…わけだが。
「―――何ぃ!? 誰も麒麟の角を持ってないじゃと!?」
「えぇ…。一応私達の荷物や江戸川君の服も調べたけど…」
「だから外に逃げたんだよ! さっさと扉を開いて追わせろ!」
「うむ…、し、しかしのぉ…」
そんな会話を繰り広げる中森警部と鈴木次郎吉さんの横を通り抜けてこちらを見上げてくる志保。
しかしその不安げな顔に気づいて神崎遥ではなく私の笑顔を見せればやっと安心したようにこちらに近づいて来た。
「どう思う? お姉ちゃん…。」
『…柱に文字があったのは読んだ?』
「ええ…鍵を使わずにカラクリを開いたところから見ても、きっとキッドは三水吉右衛門が作ったもう一つのカラクリ解除方法を使った…。」
『同感。…それより志保、コナン君起きてるわよ。』
私の言葉に弾かれるように振り返り、コナン君の元へ向かう志保。
それを見送り…おそらく意識が戻ったとしてもキッドが自身を眠らせた理由を解き明かすまではそのままでいるつもりであろうコナン君のために台座を観察する。
『(赤い台座に雀の文字…、白の台には虎。…なるほど。)』
まだ眠ったふりをしているコナン君の元へ向かい床に寝かせたままでは可哀想だしとゆっくり彼を持ち上げる。
そこで気づいた。彼のフードの中の不自然な重みに。
コナン君も微かに目を見開き…、微かに焦りを見せた黒羽君。
でも私は別に今日…生徒の1人を警察に突き刺すためにここに来たわけではない。
『…。スタンガンの痛みは大丈夫? コナン君。』
「…うん。大丈夫。…じゃあ、状況を教えてくれる? 遥さん…。」
「こ、コナンく…うぐっ」
「静かに。江戸川君はまだ気を失ったふりをしているから…」
コナン君の意識が戻っていることに気づいた少年探偵団の面々が志保の言葉を受けて一様に声を潜め、すぐに私と共にコナン君を隠すように立った。
『まず、コナン君も知っていると思うけどキッドは鍵を使わないもう1つの何らかの方法を使ってカラクリを解除している。それから…』
「4つの台座全てにはキッドからのメッセージが貼り付けてあったわ。それに、窓を開いた理由もまだ分からないまま…」
「それは僕たちを驚かせて、警戒心を疎かにするとか…」
「それは電気を消した時点で十分のはずよ。」
うんうんと子供達が唸る中「その台座のメッセージの位置はどれも同じ?」とコナン君が問いかけてきた。
子供達が台座へと目を向ける。もちろん私も。
『…うーん、高さはバラバラかな…? そこまで大きな差はないけど…。』
「例えば、台座を守ってた4人の背格好の差程度かな?」
『そうだね。…え?』
「…なるほどね。という事は、協力者は今日はお休みってところかしら。」
私と志保の言葉にコナン君が笑顔を見せる。
なるほどそっか、メッセージを貼り付けたのはキッドじゃなく、子供たち…。
それにキッドがそこまで回りくどいことをしたという事は今回は協力者はここにはいない。
ちらりと黒馬君へと目を向ける。大丈夫だとは思うけれど…もしもの時は手を貸してあげないといけないかしら。
「鍵なしでこのカラクリを解除するには、決まった順番で台座を傾ける必要があったんだ。お前ら4人は知らず知らずのうちにキッドの手助けをしてたんだよ…。」
「そんな…じゃあキッドは誰なんですか⁉︎」
「1人だけいるだろ? 台座の電流が切れて…お前らが台座には触れていいタイミングと順番を教えてくれた人が。」
やっと子供達が閃いたように目を見開き、外に逃げたキッドを追うためにと外に出ようと交渉している中森警部の元へと走っていく。
「だーかーらぁ! さっさとこの扉を…」
「駄目よ。…キッドは今、予想以上に脱出に手間取っているみたいだから。」
「そうだぞ! 扉は閉めとかねーと!」
「うむ? どういう事じゃ?」
怪訝な顔をした大人たちを見上げ、子供達がコナン君の代わりにトリックを説明する。
まず鍵を使う以外の方法がある事。
この4つの台座は四神を現している事。
柱に書かれた“流れ”とは季節の事であり、青龍、朱雀、白虎、玄武の順で春夏秋冬になる。
つまり春夏秋冬の順に身を委ねる…、身を預けると言う事。
「身を預ける、じゃと?」
「つまり体を預けて、台座を傾けろ。って事です!」
光彦君の言葉に合わせて歩美ちゃんが台座に凭れ掛かった。
ガコ、と音が鳴り続いて春夏秋冬の順に元太君、志保…そして光彦君が台座に凭れ掛かり、傾けていく。
途端に開いていた柱が閉じていき、この場にいる全員が大きく目を見開いた。
「じゃ、じゃがキッドは一体どうやって台座を傾けて行ったんじゃ? 台座の周辺には警備が…。」
「キッドじゃなくて、私たち少年探偵団がやったんだよ!」
「そう…中森警部に言われたんですよ! 緑、赤、白、黒の順番に電流が切れるから、その順に守ってくれって!」
「な、”中森警部”に…⁉︎」
全員の視線が中森警部へと集中する。
「台座に貼り付けられたキッドのメッセージは、子供たちのフードの下に予め貼り付けられていた。だからキッドは窓を開いて雨風を中に入れ…子供達がフードをかぶるように仕向けたんだ。」
「…! おお、起きとったのか…。」
「ちなみに台座を傾けるタイミングと順番はキッドが仕掛けた…モスキート音で子供達にのみ伝達されてた。そうでしょ?」
「モ、モスキート音⁉︎」
なるほど、じゃからわしら大人には聞こえなかったのか…。
感心したように言う鈴木次郎吉さんへとゆっくりと歩いて行きながらコナン君が自身のフードへと手を伸ばす。
「ちなみに宝石は僕のフードの中。キッドはきっと僕を病院に連れて行くように見せかけてここから脱出する予定だったんだろうけど…。」
「ぉおーい‼︎ わしはここだぁー‼︎」
ドンッと奥から音が響いた。
大方目を覚ました中森警部が壁やらを必死に叩いている音だろう。
ちらりと偽の中森警部…いや、黒羽君を見て目を閉じる。
「入れてあげたら?」
「うむ…そうじゃな。」
と、扉を開こうとした途端に再び部屋の明かりが消えたらしく、焦ったような声が響く。
やっぱり…。危なくなるとまた視界を奪うと思っていたのよね。
そこで目を開いて周りを見渡す。そして元太君へと音を立てずに近づく黒羽君を見て目を微かに見開く。
しかし目にも止まらぬ早業でやってのけたその変装にすぐに感心した。
「ーーたっ、助けてくれよぉっ!」
「え…元太!?」
光が戻り、元太君の声に振り返った全員が穴にすっぽりと嵌まっている彼の姿に目を見開いた。
「しまった、床に爆弾を仕掛けて逃げたんだ! 元太を栓にしてるから…外から探さないと!」
「くっ…待てキッドー‼︎」
どたばたと建物を出て行く面々を見送り、最後の1人となった私は元太君の頭にぽんと手を乗せた。
『もう、子供に乱暴ばかりして。』
「!」
『…また明日、学校でね。』
ぽかんとした黒羽君を置いて建物を出て行く。
結局彼はその後機動隊に変装し直して宝石を手に取り、それが目当てのものでないと悟ると宝石を置いて逃げて行った。
さて…明日学校で、とは言ったけどどうしたものかしら。
あんたは誰なんだ?
(…ぼ、ぼっちゃま⁉ どうしたんですそんなに焦って…⁉)
(ちょ、ふ、風呂入る風呂…。そんで頭冷ます…。)
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