本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
探偵たちの夜想曲
これが、今回公開された3人組の銀行強盗犯の映像です。
なお、この3人組は未だ逃走を続けており警察は依然行方を追っています。
この事件発生時、銀行員だった庄野賢也さんが殺害されていて――。
『…。』
ここ1週間ずうっとテレビで流れている映像を横目に資料を片手に珈琲を飲む。
今しがた決まったばかりの職場を見学に行っていて、その帰りにここ…「コロンボ」という名前のカフェに入っていた。
珈琲を机に戻してふう、と息を吐いて目を伏せる。
《さっき、ジョディ先生から電話が入ったんだ。怜奈さんがFBIに連絡を入れてくれたって…その内容が…》
組織の新しいメンバーが動き出した。情報収集、観察力…洞察力に恐ろしく長けた探り屋が2人も…。
そのメンバーの名前は、バーボン。そしてスコッチ…。
そんな電話をコナン君がくれたのは昨日のこと。その時秀一も傍にいて、互いにその懐かしく聞くコードネームに顔を見わせたのを覚えている。
『(さて、新しい仕事も大切だけれど…この2人もどうするか…。)』
「いらっしゃいませ!」
「あ、4人で…」
「4名様ですか…大変申し訳ありませんが今はお席が満席で…」
「…あー!?」
突然の大声に振り返れば、ばっと口を防いだ蘭ちゃんが。
あれ? と目を丸くしていると、その隣にいる小五郎さん…そして。
「どうしたんですか? 蘭さん。」
小五郎さんの隣に立っていた男性に思わず息が止まる。
そして悟った。
やっぱり貴方…まずは小五郎さんに取り入ったのね…バーボン。
「遥おねーさん!」
『あ…コナン君! 米花百貨店の時以来ね! 元気?』
そんな風に会話をすると彼…バーボンも私が知り合いだと悟ったのだろう、笑顔でこちらに頭を下げてくる。
それに私も続くと、店内を見渡した小五郎さんがこちらに近付いてきて、はっと神崎遥として立ち上がった。
『こ、小五郎さん~! 今日も素敵です!』
「お、おお…ありがとう。ところで早速でなんだが…相席させてくれねーか? ここで依頼人と落ち合う予定で…」
『そうなんですか⁉ ぜひぜひっ!』
…なんて。そんな感じで5人で一緒にご飯を囲むことに…。というか私は注文してあった珈琲をただ飲んでいるだけだが。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね…。僕は安室透です。よろしくお願いします。」
『あ、こちらこそ! 私は神崎遥です。』
「安室さんは小五郎のおじさんの弟子なんだよ!」
『ええ~! そうなのっ⁉ すごいですね!!』
と、きらっきらの目をして言っておく。
そんな私に多少引いた様子で「え、ええ…」なんて頷くバーボン。いや、安室さん。
そんな私たちを横目に見ていたコナン君が手元のジュースを持ち上げる。
「…それにしても、来ないね…依頼人のヒト。」
ジュースを飲んでそう言ったコナン君に顔をしかめて携帯のメール履歴を確認している小五郎さん。
その隣にいる安室さんは「ここに来たという連絡はしたんですよね? それに対する返事は?」なんて小五郎さんに聞いている。
「いや…返事はまだだ。でもすぐに返事も返したし…って、ん?」
「どうしたの?」
「昨日来たメールとさっきの場所変更のメール…アドレスが違ってる。」
『あれ? 元々このカフェが待ち合わせ場所じゃなかったんですか?』
それが…元々は事務所で会う予定だったんですけど、急にこのカフェで集合にしようってメールが来て…。
そう困ったように言う蘭ちゃんを見つつ、コナン君へと目を向ける。
すると彼は
「じゃあもしかすると小五郎のおじさんのメールを見ていなくて最初の待ち合わせ場所…事務所でずっと待ってるっていう可能性もあるよね?」
そう小首をかしげて言った。
その言葉に一様に顔を見合わせ、すごすごと会計を済ませて店を出る。
『あ、あのう…』
「ん?」
『よかったらなんですけど、私もついていっていいですか?』
「え?」
小五郎さんが実際に探偵として働くお姿…拝見したく!
なんて言えば、でへへと顔を緩めた小五郎さんが快く許可してくれる。
この人本当にちょろいな。なんて内心眉を下げつつ、安室さんの背中を見上げた。
このまま分かれて帰るのも、忍びないしね…。
「…やっぱり誰もいねえじゃねえか。」
呆れたように言う毛利小五郎を横目に、事務所の無理やりこじ開けられたような鍵穴を見る。
そして中に入り、紅茶でも入れて待とうという蘭さんに続いて事務所のキッチンへと向かった。
キッチン周りを見渡し…徐に食器棚に片されたマグカップへと目を向ける。
かすかに水滴の付いたそれに、自然と口の端が持ち上がった。
「それにしても、あのカフェでずいぶん待った分かなり珈琲を飲んじまった…。トイレトイレ…おっ?」
メールの到着を知らせる音が小五郎さんの携帯が入っているポケットから聞こえてくる。
携帯を開いた小五郎さんが「あれ。今カフェにいるから来てくれって…」なんて言ったその声にちらりと今しがた彼が入ろうとしたトイレへと視線をずらす。
そこで自分と同じようにトイレを睨んでいるコナン君と…そして神崎遥という女性を見た。
「(この少年の勘の鋭さは初めて会った時から気づいていたが…あの神崎とかいう女…)」
まだ出会って数時間という短時間の間ではあるが…何か引っ掛かる。
この女のこともスコッチに報告しておくべきか…。
「じゃあ急いでカフェに向かおう! でもその前に僕もトイレに行きたいから、ちょっとだけ待ってて…」
「んあ? またメールだ…。何々、全員で来てくださいって。」
「全員って…私たちもってこと⁉」
「…なるほど。」
そんな自身の声に「え?」と小五郎さん、蘭さん…そして遥さんの目がこちらに向いた。
その神崎遥の反応にピクリと眉を持ち上げる。なるほど、あくまで無垢な自分を演じるつもりか。
「どうやらその依頼人は…どうしてもこのトイレに我々に入ってほしくないらしい…」
「…え、それってどういう…」
「いるんでしょ? この探偵事務所の人間を装って…小五郎おじさんのお客さんを迎えた誰かが。」
ええっ⁉と小五郎さんと蘭さんの声が重なる。
遥さんは…なるほど、そこで理解したようにドアノブへと目を向けた、か。
あのドアノブの鍵穴の傷跡にも気づいていたらしい。
「ドアノブの鍵穴にも傷がありましたし…トイレに向かって、ほら。何かを引きずった跡もある。」
そこまで言ったところでパンッと銃声がトイレから鳴り響き、蘭さんが肩を跳ねさせて両耳をふさぐ。
自分自身も予想だにしていなかった音だったが、いい機会だと部屋にいる全員の反応を瞬時に見定める。
小五郎さんは元刑事…銃声には驚いたそぶりを見せたが、予想の範囲内。
遥さんは…。
「(…え)」
「まさか…!」
思わず思考が一瞬だけ停止して、そしてトイレへと走っていったコナン君に続いてトイレに入る。
そしてトイレの中には拳銃自殺をしたらしい男と…そしてガムテープで縛られた女性がいた。
そんな状況を見つつも、頭の中に浮かぶのは、あの神崎遥の表情…。
「(あれは…銃声を聞きなれている人間の反応だった。)」
そう、あれはまさに…あの場所で…警察学校で初めて拳銃を撃った時の、あの、…彼女の表情ととてもよく…。
携帯へと手を伸ばし、警察に電話をかけている小五郎さんを横目にスコッチへのメールを作成し…気づかれないように神崎遥の写真を取って添付して送った。
「…ではこういうことかね? 樫塚圭(かしつか けい)さん…。貴方がコインロッカーの捜査を毛利君に依頼するためにここを訪れた際、毛利君の助手だと名乗る男に出迎えられ、事務所に入った途端にスタンガンで気絶させられ…気づけば両手をガムテープで縛られトイレに監禁されていた、と。」
「はい…目を覚ましてからは、ずっと男にどこのコインロッカーの鍵なのか、と問いただされ続けて…」
「で、そのコインロッカーは?」
「鍵は…亡くなった兄のものです。遺品として大切に持っていて…」
これが兄です。と自身の携帯の待ち受け写真をこちらに見せてくれる圭さん。
それをじっと覗き込む安室さんとコナン君を横目に、私は平静を装いつつもそわそわとする自身の気持ちを必死に落ちつけていた。
なんといっても今回ここにやってきたのは目暮警部…警察時代に面識があるためだった。
「警部、男の所持品ですが…どこか妙で。」
「ん? どういうことだね高木君。」
「被害者ですが、小銭を5000円分…数枚の10000円札と5000円札、そして…45枚の1000円札を持っていて。それに携帯も押収したのですが、連絡先のデータはゼロ…メールの履歴も毛利さんに送ったものを除けば全く残っていなくて。」
「ふむ…なるほど。」
目暮警部が涙を流し続け、何かに怯える様子の圭さんを見て帽子を深くかぶりなおしていう。
「それでは時間ももう遅いですし、事情聴取は明日ということで…。色々と妙な点はあるが、男は恐らく自殺でしょうからな。明日は何か身分を証明するものなどもご持参ください。」
「わ、分かりました…。保険証でよければ。」
「それで構いませんよ。」
「…それじゃあ、僕が圭さんをお家まで送りますよ。何故襲われたのか分からない今…被害者の仲間が家で待ち伏せしている可能性もありますから。」
そう言った安室さんをじと、と見ていた目暮警部が小五郎さんへと目を向け「何故あの男がここにいるんだね、ところで」という。
どうやらすでに面識はあるらしい…。確かに小五郎さんの弟子だということなら、これまでも何件か事件に同行していたのだろうか。
「いやあ、実は彼、私の一番弟子でして~…」
「何⁉ 一番弟子ぃ⁉ 全く…ということは君の周りにまた新しく探偵が増えたということかね…。」
「え…探偵が “増えた” ?」
安室さんが目を丸くして目暮警部に聞き返す。
目暮警部は「ああ。」と小さく頷いてその顔を思い出すように右上へと視線を寄こした。
「最近毛利君の周りをちょろちょろしている、若い女の探偵がね。高校生だったかな? 彼女は。」
「あ、はい…。私の同級生で、転校生なんです。」
「なるほど、若い探偵ですか…。それは会ってみたいものです。」
かすかに感じたその殺気じみた感覚に瞳が揺れる。
そして思わずそちら、安室さんに向けかけた視線を必死に圭さんに固定した。
気配を一瞬でも漏らすんじゃないわよ、バーボン…。
そうして私たちは安室さんの車で圭さんの家に到着した。
本来はこのまま彼女を帰してしまうところだが…それをコナン君や安室さんが許すわけもなく。
彼らが上手くやったことでなんやかんや全員で彼女の家に上がりこんでいた。
『(それにしても…この家、何かが腐ったような臭いがする…)』
「おお…昨日は何か友人を呼んでパーティでもされていたんですか?」
ちらりと小五郎さんへと目を向けて、彼の視線の先の机へと目を向ける。
確かに食べ物や飲み物が散乱しているけれど…この腐ったような臭いはもっと、タンパク質が腐ったような感じだから違うような…。
「え、ええ…。えっと…カップはどこだったかしら…」
「テレビをつけてみても構いませんか?」
「あっ、もちろん!」
安室さんがテレビをつける。
早速映った画面では毛利探偵事務所での事件のことが速報として報道されていた。
「…あ、そういえば携帯の電源切ってたんだった…! お母さん心配して連絡くれてるかも…」
そう呟いて携帯の電源をつけた蘭ちゃんの携帯に早速電話がかかってくる。
それに驚いたのか、ろくに誰からの電話からを確認せずに通話ボタンを押して耳に携帯を押し当てる蘭ちゃん。
途端に「やっと繋がった!!」と焦ったような大声が蘭ちゃんの携帯のスピーカーを突き抜けて聞こえてくる。
≪なんで電話切ってるんだよ⁉ 心配したじゃないか!≫
「ご、ごめん世良さん…! 事件で色々と忙しくて…」
≪て……そん…な…より…≫
「え…ちょ、世良さん、なんか電波が悪くて…」
”電波が悪い”?
はっとすると同じことを安室さんも感じたらしい、蘭ちゃんに近付いて口元に人差し指を近づける。
そのしぐさを見た蘭ちゃんがすぐに声のトーンを下げ、怪訝に安室さんを見上げた。
「圭さん、静かに…この部屋、誰かに盗聴されているかもしれません。丁度僕、盗聴器発見機を持っていますし探しますよ。」
「あ、ありがとうございます…じゃあ私の部屋をかたずけて来ても良いですか? 下着類が散らばっているもので…」
「ええ。もちろん。」
部屋を出て行った圭さんを見送り、鞄から盗聴器発見機を取り出した安室さんを横目にテレビへと目を向ける。
秀一もきっとテレビを見てるだろうし…一応連絡しておこうかしら。
『じゃあ私、圭さんを待っている間に外で彼氏に連絡してきます! きっと昴もニュースを見て心配してると思うので…!』
「あ…良ければ一緒に出ましょうか? 圭さんを狙う輩が待ち伏せているかもしれませんし…」
そう言った安室さんに一瞬だけ動きを止めてしまう。が。
ここでひるんではいけないと「じゃあぜひっ」とキラッキラの笑顔を見せて同行を許した。
結局外にいる限り電話でも気は抜けないし、安室さんがいても一緒よ、一緒!
『…あれ、ドアの鍵開いてる…』
「え」
ドアノブの軽さに目を見開いて言えば、安室さんが私に代わってドアノブを捻り、ドアを開いた。
外には誰もいないし、怪しい人間も周辺にはいないように見えるが…。
『…ていうか、圭さんの靴、なくないですか…? あ、靴棚に直したのかな?』
「…。いや…コナン君の靴もありませんし…」
安室さんの指摘に目を見開き、再び玄関に目を走らせる。
確かにコナン君の靴がない。
「…あの~安室さん、さっきからこの部屋からすごい異臭がするような気がするんですけど…」
そう言ってきた蘭ちゃんに一斉に振り返り、安室さんがまっすぐと圭さんの部屋へと向かい、扉を開く。
確かに途端に今までとは比べ物にならないほどの異臭が漂ってきた。
その臭いに思わず圭さんの部屋へと向かいかけた足が止まる。
わかってしまったのだ…これは死臭だと。
『…。』
≪…もしもし? 遥?≫
『昴…今どこにいるの?』
≪今はアガサ博士の家の前だけど…遥こそどこに?≫
今は色々あって毛利小五郎さんたちと一緒にいてね…。
そう言うと秀一もニュースを見たのだろう、「大丈夫なのかい?」と昴の声で間髪入れずそう言った。
その言葉に「うん」と頷きつつも続ける。
『私は大丈夫だけれど…コナン君が連れ去らわれたみたいで。』
≪コナン君が?≫
『うん…。実は今毛利さんたちと一緒に事件の重要参考人の家にいるんだけど…』
「きゃあ!?」
蘭ちゃんの悲鳴が聞こえる。
ああ、やっぱり死体でもあったのね…。
≪今の悲鳴は?≫
『きっと死体を見つけたんだと思う…』
≪死体を…?≫
『うん…死体の臭いに気づいたから昴に連絡をしたの。コナン君はきっと、今も重要参考人の圭さんに逃亡の人質として連れ去られたんじゃないかと思って…。だから、彼の発信機付き探偵バッチの居場所を探ることが出来る眼鏡を持っているアガサ博士と一緒にコナン君を助けに行って…』
そうして電話を切って圭さんの部屋へと向かえば、そちらにいると思っていた安室さんが洗面所から姿を現し「きゃっ」と思わず悲鳴を上げてしまう。
そんな私に少しだけ驚いたような素振りを見せて安室さんが眉を下げた。
「す、すみません…驚かせてしまいましたね。」
『あ、いいえ…。私も電話に夢中になってて…』
「ああ、そういえばお電話なさっていましたね。さっき言っていた彼氏さんですか?」
『え、ええ…コナン君がいないから、アガサ博士っていう知り合いに頼んで探してもらうように…』
なるほど…。そう言って安室さんが口元を吊り上げる。
「ちなみに先ほど圭さんから連絡が来て…コナン君は人質に取られてしまったようです。あの子の命がかかっている以上、こちらからは何もできない…。」
『ええー⁉ な、なんでそんなことに…⁉』
「…それも演技なんじゃないですか? 貴方は部屋の死体に気づいていた…そうではありませんか?」
そんな言葉に間髪入れず
『えー!? 死体⁉』
と、驚いて見せる。
私の大声に思わずひるんだらしい安室さんを見上げ、驚いています、怖いです、と演技して見せる。
『はっ、蘭ちゃんは死体を見ちゃったんですか…⁉ まだ未成年なのに…⁉』
そう言って圭さんの部屋を覗き込み、蘭ちゃんへと目を向ける。
勢いで乗り切った感が否めないけど、まあ仕方がないでしょう。
そんな私を睨むチクチクとした視線が痛いけれど「おお、遥さん電話終わったか?」なんて言ってくれる小五郎さんにこれ以上の追及は辞めることにしたらしく背後の安室さんが別の部屋へと動いたのが分かった。
「…え⁉ 世良さん、こっちに来てくれるの⁉」
≪うん。コナン君も心配だしな。でもそっちは大丈夫か?≫
「うん、こっちにはお父さんのお弟子さんがいて…その人がすごく頭が切れるからきっと大丈夫…」
≪ふーん…小五郎さんの弟子、ね。≫
蘭ちゃんの言葉にちらりと彼女へと目を向ける。
蘭ちゃんはまた世良という人物と電話をしているらしい…彼女の口調からその人物はきっと友人だろうけれど。
「…お父さん、世良さんもコナン君を探すために来てくれるって…」
『世良さんって?』
「あ…事務所で目暮警部が言っていた子です。私の同級生で、探偵の…」
『ああ、女の子?』
頷いた蘭ちゃんに「そっかあ、コナン君のために来てくれるなら心強いね」と笑顔を向けておいて部屋を見渡す。
ここにある死体を見ても、きっと圭さんはこの家の持ち主ではない可能性が高いし…。
となると、コナン君を攫ったのは組織の人間だから? 幹部でもない組織のメンバーか、新しい幹部が安室さんと共謀してコナン君を…
「…どうやら彼女の目的は、昨今話題になっている銀行強盗犯への復讐のようですよ。」
『!』
今しがた考えていた人物の声に思わず肩が跳ねる。
そして振り返れば、腕を組んでテレビを見つめる安室さんが。
そちらに小五郎さんと蘭ちゃんも向かっていき、同じようにしてテレビを覗き込んだ。
「ほら、見てください。例の事件に関するニュースばかりがテレビに録画されている。それにあの死体…洗濯機の中身がすべて男性ものの衣類しかなかったところを見ても、きっと彼がこの家の本当の持ち主。」
「そ、それじゃあ…この家の死体も、もしかして拳銃自殺のあの人も…!」
「ええ。この銀行強盗犯のメンバーである可能性が高い…。その証拠に、覚えていますか? あの拳銃自殺した人物の持ち物…。」
「持ち物…」
小銭を5000円分…数枚の10000円札と5000円札、そして45枚もある1000円札。
小五郎さんと蘭ちゃんがはっとした表情をする。
「強盗犯は全員で3人。彼女が姿を消したのは…恐らく最後の1人を何が何でも殺害するため。でしょうね。」
「じゃっ、じゃあその3人目の殺害を終えたらコナン君も…⁉」
「大丈夫。僕の知り合いに腕の立つ探偵がいて…すでに圭さんの車の特徴を伝えてあるので今頃彼女を追跡してくれているはず。彼が車に追いつけば、きっとコナン君を無事に助け出してくれるはず…。」
『(知り合い…?)』
「それよりもここは強盗犯の家…あのパソコンでも開いてみて、残る最後の強盗犯の居場所を突き止めましょう。」
そう言った安室さんの視線の先にはパソコンが一つ。
安室さんの提案に頷いた小五郎さんと蘭ちゃんもパソコンの元へと向かっていった。
しかしパソコンにはロックがかかっていて、暫くかかりそうではあるけど…彼が、バーボンがいればすぐに開くことができるでしょう。
「…もしもし?」
≪俺が送った写真は見たか?≫
「ああ。…でも俺にとっても彼女は見覚えないな…。ま、ベルモットみたいに誰かが変装してる可能性もあるけど。」
≪そうか…≫
お前が…ゼロが言うなら、きっと何かあるんだろうとは思うけどね。
そう伝えて車の背もたれに身体を傾ける。
スコッチとして組織に潜入し…今回バーボン…俺はゼロと呼んでいる。彼と一緒に組織の裏切者であるシェリーと宮野黒凪の捜索を初めて早数週間。
バーボンは順調に毛利探偵事務所の人間と親密な関係になり、日々毛利探偵の周辺に現れる怪しい人物を俺が調べまわっている。
今回送られてきたこの女性…神崎遥も今日から調べる人物のうちの1人だ。
「で? 他にも何か調べてほしいことがあるのか?」
≪いや…調べるというよりもとある車を探してほしいんだ。その車の中に毛利探偵があずかっている親戚の子供が監禁されている。≫
「…監禁? 子供が?」
≪ああ。もちろんもしもの時はその子供を救出してくれても構わない。その時はお前も毛利探偵に顔を売って上手くやればいい…ただ…≫
ただ? そうゼロに問いかければ、彼はこう言った。
≪その車を、神崎遥の指示で追っている男がいる。アガサ博士と呼ばれていた…恐らく初老の人物を連れているはずだ。その男を見つけてほしい。≫
「…なるほどね。そんなに神崎遥のことを気にしているってことは、いよいよ尻尾を掴んだかな?」
≪まだ分からないがな。…でも彼女がどうしても重なるんだよ…。≫
お前も実際に見ればわかる。時折見せる彼女の仕草はとてもよく似ている。
…俺たちが知る、” あの頃の宮野黒凪 ” に。
懐かしい思い出に目を伏せる。そしてハンドルに手を伸ばし、車を発進させた。
「じゃあゼロが言ってくれた車を探すよ。でもやみくもに探すのはさすがにしんどいから、ある程度行き先の目星がついたら教えてくれよ?」
≪ああ、分かってる。気をつけろよ。≫
パソコンのパスワード解除に集中すること30分…やはり組織で主に諜報をさせられていた経験が生き、思っていたよりも早くパスワードをあぶり出すことに成功した。
というか、出来る限り毛利探偵の手で導くことが出来るように手を貸していたためだが…俺とヒロであればもう少し早く解除出来ていただろうが。
「おいおい…こいつの拳銃を構えた写真が残ってるじゃねーか…」
「ああっ、この真ん中の人、事務所で拳銃自殺した人…それに右隣の人はこのスーツケースの中にあった死体の人!」
「じゃあこの左の女が最後の1人…。」
『メールで女の人とのやり取りとか見れば、住所とかあるんじゃ…⁉』
…おお! あった!
なんて必死にメールを開く毛利探偵の隣でちらりと神崎遥へと目を向ける。
先ほどから何度も彼女の同行に目を配っているが…警戒されたか? 常に俺の目の届く範囲で毛利探偵のサポートに徹している…。
「…あ! 引っ越し報告のメール…!」
パソコンの画面へと目を向ける。
拳銃を郵送してもらう為だろう、事細かく住所がメールに記されていた。
その住所を写真で取りヒロへと送っておく。
すぐに「了解」とメールで返ってきたのを確認して毛利探偵へと目を向ける。
「それではこの住所に向かいましょう。車を出してきます。」
「ああ、そうだな。」
部屋を出る寸前にもう一度だけ神崎遥へと目を向ける。
彼女の視線は蘭さんと同じように住所にくぎ付けになっていた。
そうだ…そのまま “彼氏” へとその住所を送れ。そうすればヒロも簡単に追いつける。
神崎遥…お前がもしも宮野黒凪なら…その “彼氏” というのは恐らく生き延びた赤井秀一だろう。
そうだろう? …黒凪。
「――み、見つけたっ! あれよ! あの車に江戸川君が乗っているわ!」
そんな焦った志保…いや、今は灰原哀、か。彼女の声に視線を前方へと走らせる。
なるほど、青い小型車か…特徴が伝えやすい車で助かる。
「アガサさん、すぐに毛利さんに電話を。」
「ええっ⁉ 警察じゃなくて⁉」
「この状況と経緯を正確に説明できるのは彼らのみ。銃社会でもないここ日本では…確実性のない通報では検問を張ることはできない。彼らが警察に連絡を取るべきです。」
「し、しかし…コナン君を人質に取って検問を突破されたらどうするんじゃ⁉」
「その時は…」
バックミラー越しに顔を青ざめさせる彼女…志保の顔が見える。
その顔を見て、そして脳裏にちらついた黒凪の姿に…こんな状況にも関わらず自身の口元が吊り上がったのが分かった。
「心配しなくとも、もしもの時は力づくで止めてみせますよ…」
そうしてシフトレバーを動かし、前を走る青い車の後を追い始める。
標的の車はどこかへ急いでいるのか、すぐに大通りに出てスピードを上げ始めた。
こちらに車もそれを追って大通りに入った途端…志保が後ろを走る車のどれかに乗るバーボンか、またはスコッチか…奴らの気配を察知して青い顔をして振り返った。
その様子をバックミラー越しに見ていた俺は、標的の車を止める手段を頭に巡らせつつも口を開いた。
「そんな顔をするな…。逃がしはしない。」
「え…」
途端に志保が背後に集中していたその気を逸らせ、こちらに目を向けた。
そして俺は運転席の扉を開き、シートベルトを掴んで身体を固定させ、右ポケットへと左手を差し入れる。
しかしポケットに入っている携帯が着信を知らせ、やっとそこで隣に並んだ白い車へと意識を移した。
「(なるほど…もうここまで迫っていたか。バーボン…)」
「何いっ⁉ 小僧を乗せた車が大石街道を北上してるだと⁉ 青い小型車⁉ ナンバーは⁉」
そう後部座席に乗った毛利さんが携帯を片手に焦ったようにアガサ博士と会話を交わしている。
その隣に座る蘭さんは「ええ⁉大石街道ってまさにここでしょ⁉」なんて同じ様に焦っていた。
対して運転をしている自分と…そしてそんな俺の隣に座る神崎遥は毛利さんが言った通りの青い小型車を探そうと周囲に視線を巡らせている。…と。
「(青い小型車…!)」
巡らせていた視界に青い小型車が入った。
運転手も何人乗っているかもわからない。だが恐らくあれだろう。
「捕まってください!」
そう声をかけて全員に一瞬だけ視線を向ける。
俺の言葉に弾かれるようにシートを掴む毛利さん、そんな毛利さんにしがみつく蘭さん…。
そして、俺が言うよりも先に腕で身体を固定する神崎遥。
ハンドルを切り、走っていた方向を180度変えてアクセルを踏み込む。
そして車の間を縫って走れば、追跡を進めているヒロの車が視界に入った。
ヒロも俺の車に気づいたらしく、こちらをちらりとみると速度を下げて巻き込まれないようにと離れていく。
「…蘭さん、シートベルトを離して毛利さんの席の方へ移動できますか?」
「え?」
「車を衝突させて止めます。早く!」
「は、はいっ」
お前は…分かっているだろう? 今の言葉で自分が何をすべきか。
ちらりと神崎遥へと目を向ける。彼女もすでにシートベルトを外し、上着を脱いで左側に並んだ青い小型車へと視線を向けながらこちらに身体を寄せてきた。
『蘭ちゃん、これ頭にかけて!』
「ええっ⁉ は、はいっ⁉」
軽くパニック状態の蘭さんへと上着を渡して左腕で顔をカバーするようにした神崎遥。
それを横目に左腕を彼女の身体の向こう側へと差し込んでハンドブレーキを引き上げる。
「きゃあっ!」
「うわあっ⁉」
『っ…』
ものすごい衝突音が響き、左側のガラスが飛び散る。
「⁉」
飛び散りこちらに向かってくるガラスを見た神崎遥が身体を持ち上げ、こちらにおぶさるようにした。
恐らく咄嗟の判断だろうが、まさかこちらを守るようなしぐさを見せるとは…。
車が止まり、まずこちらにおぶさるようにした神崎遥の背中や腕へと目を向ける。
上着を蘭さんに渡していた分、腕や首元などは素肌が出ている状態だったためだ。
「神崎さん! 傷は…⁉」
『あ、大丈夫です! 私タフさだけが取柄で…アハハ』
「な、何なのよあんたら…!」
砕け散った窓の向こう側から焦ったような女性の声が聞こえてくる。
そちらに目を向ければコナン君を抱えた状態で拳銃を構えているではないか。
まずい、ヒロ…!
と、一目のある場所で拳銃を取り出すことが出来ず背後に車を止めているであろうヒロへと目を向ける。
しかしヒロの視線は今しがた俺が止めた青い車の上に向いていて。
「ぶっとべ…!!」
そして鈍い音がして、女が転がっていく。
そしてドン、と鈍い音を立ててバイクが地面に着地したのが見えた。
そのバイクに乗っていた人物はそのヘルメットを投げ捨て、コナン君を抱きしめる。
「せ、世良さん!」
「コナン君! 心配したんだぞ~!」
「う、うん…」
「(世良さん、ということは…蘭さんが言っていた女性探偵か…。)」
くせっ毛かつ緑色の瞳を持つ少年に見える少女。
そして…。
「(さっき車の扉を開けて胸元に手を差し込んでいた男…。ヒロの車が傍にあることを見てもあれが恐らく神崎遥の彼氏…。)」
何をしようとしていたのか分からないが…不自然にその行動を止めていたし、恐らく神崎遥が何か指示を送ったというところか。
「あ、神崎さん。外に出られますか…? 傷がないか確認しますよ。」
『あ、ありがとうございます…イタタ、』
そうして車の外に出た神崎遥の身体に目を向ける。
腕に軽く擦り傷がある程度だった。それでもこちらは無傷だし、少し無理をしすぎたかと少し不安になった。
それでもヒロへと目を向ければ、あいつも神崎遥をじっと注視している。
俺が言う、宮野黒凪と似た雰囲気をこの距離から掴むことが出来ればいいが…。
「(…なるほど確かに、顔は違えど背格好は似てるってところかな。調べてみる価値はある。)」
携帯が着信を知らせ、通話ボタンを押す。
相手はベルモット。恐らくこの状況もどこかから見ているのだろう。
≪…上手くバーボンは彼らの懐に入りこめたようね…。≫
「ああ…。今回は少しやりすぎているがな…。」
≪引き続きよろしく頼むわよ? スコッチ。バーボンにもよろしく。≫
「…了解。」
「腕の傷は大丈夫か? 奴も随分と無茶をする…。」
『ふふ、そうね。まさか自分の車をお釈迦にしてまでコナン君の救出に尽力してくれるとは。』
変装を解き、赤みがかった茶髪を彼女…黒凪が下ろす。
そちらに目を向け、背中にまで伸びるそれを掬い上げた。
『無茶といえば…あの子も中々。慎重派の貴方とは違って随分とお転婆ね…妹さん。』
「…ああ。あの場に現れた時は驚いたものだ。なんの因果か…ボウヤの周りには不思議と変わった人間が集まる。」
『まあ確かに? 貴方の親族である時点で普通ではないわね。』
「…これもいい機会だ。俺の家族について詳しく話すこととしよう。」
そう言ってソファに座れば、笑顔を浮かべてこちらに近付いてきた黒凪が俺の癖のついた前髪を撫で、俺の目の下の隈に指を這わせた。
『…私、貴方のご家族に会う自信がないわ。秀一。』
「…心配するな…それは暫く先になる。今はまだ、な…。」
Scotch
(組織で彼女を見かけた日のことは、今でも覚えている。)
(俺の傍にはゼロがいて…ゼロは必死にショックを見せまいとしていたけど)
(付き合いの長い俺には簡単に分かったんだ。ゼロが何を考えいていたのか。)
(…ずっと手繰り寄せようとしていた糸がつながったのに、その先は簡単にはほどけないほどに縺れていたんだ。)
(そうだろ? ゼロ…。)