本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
迫る黒の刻限
『――これが良いかな? 昴。どう思う?』
「うーん…。レースが付いたようなブラウスは避けた方がいいんじゃないかな?」
『ええ⁉ そうかなあ…。かわいいのになあ…。』
とある日曜日。私扮する神崎遥と秀一扮する沖矢昴は米花百貨店のスーツ売り場に訪れていた。
つい最近決まった私の仕事用の服を新しく探しに来たためだった。
『じゃあ…これはっ⁉』
「うん、良いと思うよ。」
『んふふ、じゃあ着替えてみるね~!』
なんて、本当に何の気なしにショッピングに来ていただけだった。
むしろ久々にデートに出かけちゃおうなんて、ちょっと舞い上がっていた。…なのに。
『町が一望できるレストランがあるらしいよ、そこでご飯食べて行こっ』
「分かった分かった。」
ぐいぐいと昴の手を引いて進んでいく。
そしてエレベータに乗ると、一緒にエレベータに乗り込んだ客が顔を見合わせて小首をかしげる。
「あれ? 4階にエレベータが止まらない…。」
「え? 嘘…あれ、ホントだ。」
「故障かな? 階段使って行こっか。」
そんな風に会話をして一足先にエレベータを下りていく乗客たち。
それを見送って昴と最上階に行き、適当なレストランを見つけて窓際の席に座った。
『お腹ぺこぺこ~。何食べようかなあ。』
「…それより、気にならないかい? 遥。」
『うん?』
「さっきのエレベータ…。あれは意図的にエレベータが止まらないように一時的に設定されていたようだし、何かあったんじゃないかな。」
そんな風に神妙な顔をして言う昴を見て眉を下げ、メニューに視線を落とす。
『あのねえ昴…。この世には警察ってものがいるのよ。私たちには関係ないの! それより私に集中してよ、わーたーしーに!』
「…ああ、そうだね。ごめんごめん。」
『全くもー。そんなんじゃモテないわ…よ…』
なんて軽口を叩きながら外へと目を向けた時だった。
見覚えのある黒い車を見つけてすぐに携帯を取り出して妹…志保へと電話を掛ける。
私の電話にはいつもすぐに出てくれる志保。今日も変わらず「もしもし、お姉ちゃん。」と電話口で言ってくれて、心底安心した…。
『あ、もしもし志保…。貴方今どこ?』
≪今? 家にいるわよ? どうしたの?≫
『よかった…それが、米花百貨店にポルシェがあってね…』
≪…え⁉≫
この反応から、志保も…そしてコナン君も全く把握していない状況なのだろう。
ちらりと昴に目を向ければ、彼は小さくうなずいて定員さんを呼び止め、事情があって今すぐに店を出る旨を伝えてくれた。
『じゃあ志保、とりあえず貴方はそのまま家にいること。良いわね?』
≪え、ええ…でも大丈夫なの? お姉ちゃん…。≫
『大丈夫よ。貴方が関係ないなら私も無理に首は突っ込まないから。』
≪…分かったわ。気を付けてね…。≫
そうして電話を切って店を出る。
すっかり気分が落ち込んだ、というよりも殺気立った私たちを店員さんがおろおろと見送る中、すぐさま私たちは階段へと向かった。
「…俄然、4階の状況が気になっているようだね? 遥。」
『まあね…でもあの子関連の話じゃないなら…組織が追っているのはコナン君かな?』
「可能性はある…。とりあえず4階へ向かおうか。」
『うん。』
このまま最上階から5階まで下りて非常階段の扉を開いて4階へと向かう。
そして中に入れば、ざわざわと人がエレベータの周りに集まり何やら話していた。
「爆弾だって…怖いわね…。」
「警察はまだなのかよ⁉」
「早く下に降りたいんだけどぉ…」
昴と目を合わせる。どうやらこの階には爆弾が仕掛けられていて、その影響でエレベータがこの階には止まらないようになっていた、ということらしい。
状況を理解した私たちはできる限り人ごみの隅に留まり、私が率先してこの階にいる客の顔を1人1人確認していく。
組織のメンバーは紛れ込んでいないか? 有名人でもいれば、その人物が組織の今回の標的かもしれない。
「…遥。」
『ん?』
「いたよ。奴らの標的が…。」
『…!』
くい、と昴が顎で示した先を見た私は思わず目を見開いた。
そこには顔にやけどを負い黒いキャップを深くかぶった秀一が立っている。
いや、正確には秀一ではない。秀一と瓜二つの誰か。
『(ベルモットか、それとも…)』
昴がかすかに口の端を釣り上げる。
その様子を見て今は放っておいて良いはずだとその男を睨むことをやめ、ちらりとフロア中に設置されている爆弾へと目を向けた。
「ほう…爆弾でフロアを占拠しているのか」
「ええ。どっかの馬鹿がやらかしてるみたいですぜ。こんな時についてませんね、兄貴。」
ごくりと生唾を飲む。
そんな私の右こめかみにはまっすぐと銃口が向けられ…その拳銃を持つジンは悠長に煙草を自身の愛車であるポルシェの後部座席で吹かしていた。
「どうやら…その赤井らしき男って奴が百貨店から一向に出てこないところを見ると、そいつもそのフロアにいるんじゃないですかい。」
「…。」
ジンの親指が動き、リボルバー銃のハンマーを暇を紛らわせるようにカチカチと動かし始める。
ここ…米花百貨店が見える路地に車を止めて早30分ほどは経っていることだろう。
組織のコードネームすらも与えられていない下っ端が偶然訪れたこの百貨店で赤井らしき男を見たとこちらに情報が入ってからすぐにこちらに駆け付けたジンの行動から、たとえ私が彼の目の前で赤井秀一を射殺した事実があっても…それでも、生きているとなれば十分理解はできる…。
ジンにとってそれほどの男なのだろう、赤井秀一は。
「それにしても…赤井がもし生きていたなら、宮野黒凪も一緒にいそうなもんですがねえ…。本当に離反しちまったんだか。」
「…やり方はいくらでもある…奴の所持品から携帯でもなんでも出てくりゃあこっちのもんだ…。徹底的に調べ上げて、もしもまだ繋がっていたなら必ずあの女の元までたどり着き、殺してやるよ…。」
「そういえば…」
私が徐に口を開けばジンの冷たい目がこちらに向いた。
「彼らはこのこと知ってるの?」
「…誰のことだ。」
「バーボンとスコッチよ。組織を裏切った科学者のシェリー…そしてそのシェリーを守っているっていう姉、宮野黒凪を探し出すために来日したって聞いたけど?」
かち、とハンマーをいじる手が止まり「さあな」とジンが言う。
「奴らもベルモットと同じく秘密主義者…どこで何やってるかなんざ知らねえよ…。」
「…そういや、奴らも…特にバーボンも赤井を嫌ってやしたね。それこそジンの兄貴以上に。」
「あぁ…赤井を殺れるのは自分だけだと息まいてやがったからな…。」
今回ここで本当に赤井を見つければ奴は嬉々として言うだろうよ。
「それみたことか」ってな…。
「…あの話は本当なの? バーボンとスコッチはまだ…宮野黒凪の暗殺に失敗はしてないって。」
「フン…あの時期、奴らは逆に任務で手一杯でサポート役として黒凪を駆り出してたぐらいだからな…。」
「なんだ。失敗していない、じゃなくてそもそも暗殺の任務自体を受けていなかったのね…。」
そんな風に言いつつバーボンとスコッチの顔を思い浮かべる。
それでも…任務では大概一緒に行動するあのコンビが相手となると…貴方でもきついんじゃない? 黒凪さん…。
「…ん、どうやら解決したようだね。」
『え?』
「ほら。フロアが解放されて人が流れていっている。」
はっと目を向ければ、確かにわらわらと人が下の階へと戻っていっている。
それを見て秀一の姿を探せば…いた。エスカレータを使って下へと向かっていた。
『…どうする? 追う? 昴。』
「いや…あれは恐らく我々の状況を確認するための罠。放っておくのが一番…」
きら、と照明で光った何かにぱっと目を向ける昴。
同じようにそちらに目を向ければ、金髪の女性がエスカレータへ向かって走っていくのが見えた。
あれはジョディさん…。どうしてここに…。
「…ふむ、意見を変えざる得ないようだ…。あれは止めないとね。」
『…そうだね。外には危険がいっぱいだし。』
よく見ればジョディさんに続いて走るあの大柄な男は…キャメル捜査官。
きっと2人でここに偶然訪れていたのだろう。
彼らを追うように私たちもエスカレータに乗り、秀一の姿をした誰かの行動を見つつ自然とジョディさんたちに近付いていく。
結局人が多くて2人に近付くことができたのは出口付近だったが。
「――シュウ、待って!! 外で奴らが狙ってるの…!」
そして同じくジョディさんたちもあの秀一らしき人物へと随分と距離を詰めていて、ジョディさんは彼をどうにか外へと出さないようにと必死だった。
それでも今まで4階で缶詰め状態だった客たちの流れは途切れることはない。
そんな中、比較的背の高い方である昴が前へ前へと進み、ジョディさんを追い越したあたりで逆方向へとその方向を変えた。
「きゃっ…」
「ああ、すみません…。」
なんて、まるで今気づいたなんて言いたげな感じで自身の体にあたって床に尻もちをついたジョディさんへと手を差し伸べる昴。
それを横目に、ジョディさんは大丈夫だとして…後は。と秀一らしき男へと目を向ける。
男は私たちには目もくれず外へと出ていき、本格的にジョディさんたちとかかわる気はないらしい、と肩の力を抜いた。
≪出てきたよ、ジン! 赤井らしき男ってあいつだろ⁉ ちょうど米花百貨店の入口…中央にいるよ!≫
「…。」
そんなキャンティの声がかすかにジンの携帯から漏れて聞こえて、思わず私も同じ方向へと目を向ける。
赤井秀一は現在別人として黒凪さんと一緒に潜伏しているはずだし、そこにいるのは赤井秀一本人のはずはない…。
そうは思っていても、まさに赤井秀一があの爆発から逃げ延びたかのような風貌にドキリとさせられる。
途端に、バイクに乗ったベルモットが私とジンの視界をふさぐようにポルシェの横に割り込んできた。
「…ベルモット。」
ジンが窓を開き、ベルモットがぐい、とその顔を近づけてくる。
「あの方の許しは受けてあるわ…。あれは私が変装させたバーボン。赤井秀一じゃない…」
「…。」
「バーボンは以前から言っていたように赤井秀一の死を信用しきれなかったから。…それにあの方は、石橋を叩きすぎて橋を壊しちゃうタイプだからね。」
ちょっと、どうすんの⁉ 撃つの⁉ 撃たないの⁉
そんな風にイライラした様子でジンの指示を仰ぐキャンティ。
ベルモットもジンの言葉を待つように沈黙した。もちろん…私も。
「…キャンティ。そこを離れろ。あれは赤井秀一じゃない…」
≪はあっ⁉ じゃあ誰だって――うわっ⁉≫
そんなキャンティの声にジンがちらりと携帯へを目を向ける。
そして続けてキャンティが放った名前は…。
≪あんた…スコッチ!≫
≪悪いが…携帯を借りるよ。≫
≪ちょっ≫
≪…ジンか?≫
ジンが目を細める。
急にそのボリュームが落ちたように感じて私には、それ以降携帯から漏れる音を拾うことはできなかった。
≪焦ったよ。まさかスナイパーまで用意するなんて…。≫
「…。」
≪それほど赤井秀一に会いたいのは分かるが…あいにくあれは奴に変装したバーボンだ。殺さないでやってくれ。≫
徐にジンがぶつっと通話を切る。
そして私に向いていた拳銃が下ろされ、やっと本当に潔白が証明されたのだと知った。
「相変わらず気に食わねえ奴らだ…」
その言葉にやっと理解した。
あの赤井秀一らしき男は、本当にベルモットが変装させたバーボンで…。
この計画には恐らくスコッチも関わっていたのだ。と。
「――ジョディさん! 大丈夫でしたか⁉」
「え、ええ…でもシュウは見失っちゃって…」
「そうですか…。」
そんな風に会話を交わすジョディさんとキャメル捜査官のそばを通り過ぎ、そのまままっすぐ昴の元へ。
昴は今回の4階の事件に巻き込まれていたコナン君たちのところを訪れていた。
「お久しぶりです、蘭さん。それにコナン君。」
「あれ⁉ 昴さんどうしてここに⁉」
「誰だ? この男…。」
昴を見上げて驚いた様子の蘭ちゃんを見て怪訝な顔をした小五郎さん。
彼らの邪魔にならないように少しだけ離れた位置で足を止めれば、コナン君がこちらを見て驚いたような顔をした。
「前に言ったでしょ、新一の家を掃除に行った時に泥棒と間違えて蹴りかかっちゃった人がいたって…」
「ああ、あの探偵ボウズの家に居候してるっていう?」
「そう、その人よ。沖矢昴さんっていうの。」
「初めまして。」
ちなみに…前に言っていた、一緒に住んでる彼女さんは今日もいらっしゃらないんですか?
そんな風に言った蘭ちゃんに「居ますよ? ここに。」なんて言って私を紹介するものだから、私もそれに合わせて昴の背中からひょこっと顔を出した。
『初めましてー!』
「わあっ⁉」
『きゃー! ごめんなさいびっくりさせちゃった⁉』
目を白黒させて私を見る蘭ちゃんと小五郎さんに内心申し訳ない気持ちが広がる。
でも許してね…これが神崎遥なの…!
『うふふ、昴を蹴り飛ばしたかわいい高校生がいるって聞いてたから、楽しみにしてたの!』
「あ、その節は本当にすみませんでした…」
『ううん! ちゃんと事情を説明してなかったこっちが悪いんだからいいのよー! っていうか、キャー! 本物の毛利探偵ですか⁉ 握手してください! 大ファンなんです!』
「だ、大ファン⁉ まいったな…ハハハ」
小五郎さんの右手を両手でつかんでぶんぶん振る私を背後からチクチクと呆れた視線が突き刺さる。
仕方ないでしょ、これが神崎遥なのよ…!
「そ、それにしても…昴さんと遥さんはどうしてここに?」
「ん? いや…本当に偶然遥の新しい服を見るためにね。」
そんな昴の言葉に袋を持ち上げれば、コナン君の目がこちらに向いた。
「そうしたら4階で事件があったようだし…それに知り合いもいたものだからなんだかんだこんな時間までここにいたんだ。」
「知り合い?」
「ああ。まだ誰なのかは思い出せてないんだが…ま、それは追々。」
コナン君の顔が真剣なものに変わる。
彼自身も昴が誰のことを話しているのか見当はついているはずだろう。
あの秀一らしき男…今の昴の言葉から組織の人間の誰かであることは確実に理解したはず。
問題は、誰だったのか…。
『…コナン君。』
「うん?」
『きっと彼ら…米花町にいると言うことは毛利小五郎さんを狙っていると思うの。』
「うん…。僕の発信機がばれた時にきっとジンに目を付けられちゃってるしね…。」
秀一の働きでFBIの仕業のようには見せかけられたが、用心深いジン相手では不十分…。
ここ米花町で奴らが調べたい人物といえば、小五郎さんしかいない。
Bourbon
(初めてその姿を見つけた時、自分でも驚くほどに自身の身体が硬直した。)
(動けなかった。声も出せなかった。)
(そしてそんな俺を見て、何ら気にする素振りを見せず目を逸らした彼女を見て、俺は確信したんだ。)
(ずっと探していたんだ。…なのにどうして…。)
.