本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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魚が消える一角岩
この日…私は小学校の同級生の子供たち、吉田さん、円谷君、小嶋君…そして工藤君と神奈川の沖合いにある埠頭での海釣りにやってきていた。
アガサ博士の知り合いの江尻さんのおかげで私たちのプライベートでの釣りは思いの他楽しく、結局夕方ぐらいまでこの沖合いにいた。
そろそろアガサ博士が私たちを迎えにやってくる…。
「…哀ちゃん、なんだか早く博士に会いたそうだね?」
「え?」
「だって、ずーっと海の遠くの方を見てるし!」
そう言われてはっとなる。
気づかないうちに、そんなに海を眺めていたのかしら…。
「そんなことないわよ。吉田さん、考えすぎじゃない?」
「えー! そうかなあ?」
そう小首をかしげて言って円谷君や小嶋君とまた話し始める吉田さんを横目に工藤君を見れば、こちらを見てにやにやとしている。
「…なによ。」
「いや? お前、お姉さんと会うときはいつも嬉しそうだからよ。」
そう。実は今日は姉がアガサ博士と共に私を迎えに来てくれるのだ。
工藤君から聞いた水無怜奈との一件から、姉…宮野黒凪は一旦身を隠し、変装して新しく 神崎 遥 (かんざき はるか) という名前を使って私の傍にいてくれるという話は既に聞いている。
今日はその姿を初めて私にお披露目してくれる上、私と…それからこの子たち少年探偵団と初対面の日なのだ。
「――あ! 船が来ましたよ!」
「おーい博士ー!」
「博士ー! 早くはや…く?」
円谷君、小嶋君…そして吉田さんが大きく手を振って船を迎えれば、その博士を呼ぶ声が尻すぼみになっていく。
きっと姉を見ての反応だと踏んで振り返った私は、その人物を見て自分の体が硬直したのが分かった。
「あれ? あの人って博士の家の隣に住んでる…」
「確か、大学院生の沖矢昴さん…ですよね?」
「でも隣にいるあのねーちゃん、誰だ?」
すぐに工藤君の腕を掴んでその背に隠れるようにする。
「(何よ…お姉ちゃんだけじゃなくて、あの男も…?)」
数日前、お姉ちゃんが新しく住み始めたアパートが家事になり、そこで工藤君の家にお姉ちゃんと共に住むことになった…お姉ちゃんの恋人役だという男、沖矢昴。
火事の日お姉ちゃんは新しい仕事の面接があったとかで家を離れていて、火事の対処にあたった工藤君と私、それから少年探偵団の子達は彼とすでに会っていた。
初めて見た時から感じる、言いようのない恐怖。これは組織の人間に対して感じるものと同じで…どうしてお姉ちゃんの恋人役だというあの男からこんな気配を感じるのか、不安で仕方がない。
「やあ君たち。この前の火事の時はどうも。」
「沖矢昴さん…ですよね? 博士の代わりに来てくれたんですか?」
「ああ。博士はどうしても外せない用事ができたそうだから代わりに僕と…僕の恋人、遥と一緒に来たんだ。」
「あー! あの燃えちゃったアパートで、昴さんと一緒に住んでたっていう、あの⁉」
そんな風に会話をする沖矢昴を睨みつつも、子供たちに挨拶を済ませてこちらに近付いてきたお姉ちゃんに目を向ける。
目の前にしゃがんで私と工藤君に微笑みかけてくれたその表情は、顔は違えどお姉ちゃんのもので…安心した。
『初めまして! 神崎遥よ。よろしくね!』
そしてすぐに切り替えられたその口調に思わずぽかんとした私を見て「かわいい!」と抱きしめてきたお姉ちゃん。
思わず何も言えず固まっていると、お姉ちゃんが声を潜めて私に耳打ちした。
『志保、暫く会えなくてごめんね…。大丈夫だった?』
その口調にほっとして、体の力を抜く。
「うん、大丈夫だったよ。お姉ちゃん…。」
『…よかった。』
そうして体を離して私に見せたその表情はすっかり神崎遥のものへと切り替えられていた。
そして「コナン君に哀ちゃん。船に乗るよ。」と声をかけてきたあの男…沖矢昴へと目を向ける。
『はーい! ほら行こ! コナン君に哀ちゃん!』
「はーい。」
「…うん。」
お姉ちゃんが私と工藤君と手を繋いで船へと向かっていく。
そして私たち2人を船に乗せたら、ゆっくりと船に乗り込んできた。
そんなお姉ちゃんをしっかりと見届けて船に乗り込んだ沖矢昴からは組織のメンバーから感じるプレッシャーは今は感じない。
それでも信用できないと私の本能が訴えかけていた…。
「お姉ちゃ…遥さん。」
『うん?』
「あの人…沖矢昴さん、本当に信用できるの…?」
『…大丈夫よ。ちょっとした軍人さんだから、組織の人間と似たような雰囲気を感じるだけ…あの人は私をサポートしてくれる良い人よ。』
そう言ってくれるお姉ちゃんを出来ることなら私も信じたい。だけど…。
「へー! あの岩、一角岩って言うんですか!」
がやがやと盛り上がっている船の持ち主である井田さんと子供たち。
彼らの声に思わずそちらに目を向ければ、確かに夕日をバックに映える角のような岩があった。
近付いた船を沈めるという恐ろしい言い伝えがある岩だそうだが、子供があの岩に近付けば、逆に加護を受けて泳ぎがうまくなる。
そう井田さんが言うと、子供たちが目をきらきらさせて一角岩を見つめた。
「…じゃあ行ってみるか? あそこなら船もつけやすいしよ。」
「本当ですかー⁉」
「歩美、行きたい!」
「俺も!」
子供たちの返答を聞いて進路を変えた船が少しだけ揺れて、ぼうっと立っていた私はふらついてしまう。
それに目を見開いてお姉ちゃんに手を伸ばそうとするよりも早く…近くに立っていた沖矢昴さんが私の体を支えた。
そんな彼の手に「ひっ」と思わず声を出して、ゆっくりと彼を見上げると…。
「大丈夫かい?」
と、穏やかな顔をして私に問いかけてきた。
その顔を見て私が思ったのは「あれ? 思っていたよりも大丈夫…?」といったことだった。
触れられても恐怖を感じなかった。どうして…?
「――おーい! お前ら、それは一角岩! 近付かねえ方が身のためだぞー!」
そんな大声に全員がはじかれるように声の下方向へと目を向けた。
そこには船が1つ。男が2人甲板に、1人が操縦席に乗っている。
「いや…あいつら子供を連れてるし大丈夫だろ。…それよりここにもいないみたいだな…。」
「ダメそうか? なら別のポイントを探すことにするか…。」
そんな風に会話をして去っていった船を見送り、井田さんが苦い顔をして言った。
「また来てたのか、あいつら…」
「お魚を釣る人たちじゃないの?」
「あいつらは最近ここらでダイビングをしてるどこかの社長令嬢の取り巻き達だよ。海はみんなのものだっていうが…あいつらは俺たち漁船に対して何も考えちゃくれねえからよ。みんな毛嫌いしてんだ。」
そんな会話をしている間にも船が一角岩の傍で停止し、沖矢昴さんとお姉ちゃんが私たちを船から下ろしてくれる。
私は最後に一角岩に降り立ったのだが、先に船から降りていた子供たちは夕日を見てきゃあきゃあとはしゃいでいた。
「歩美、ここで写真撮りたい!」
「いいですね~!」
「誰かカメラ持ってねーか? カメラ!」
「じゃあ僕の携帯でよければ…。」
子供たちのリクエストに笑顔で答えた沖矢昴さん。
そんな彼をいぶかし気に見ていた私だったが、こちらに走ってきた吉田さんに手を引かれあまり乗り気ではないものの写真を撮るために子供たちと一角岩の傍に夕日を後ろにして並んだ。
前では写真を撮るために携帯を覗き込んでいる沖矢昴さんと、お姉ちゃんが写真を撮る角度を決めたりと仲睦まじく私たちの写真を撮っている。…と。
「ん…?」
沖矢昴さんが怪訝に眉を寄せて携帯を下ろし、こちら…私の方へと一直線に近付いてきた。
そして私をじっと見つめるかのようなその視線に身をすくませていると、沖矢昴さんが私の背後を示す。
「後ろの岩…何か書いてあるようだね。」
『え? …あ、ほんとだね。』
みんなで覗き込めば、確かにカタカナで縦に何か書いてある。
文字は…サバ、コイ、タイ、ヒラメ…。
「お! 俺もなんか見つけたぞ! 岩に挟まって取れねーけど…!」
そんな小嶋君の声に振り返れば、確かに岩にピンク色の…ダイビング用のフィンだろう。が挟まっている。
「この文字も、それも記念として誰かが残したんでしょうか?」
「うーん。でもフィンをここに残しちまうともう泳げなくなっちまうし…。」
円谷君の言葉にそう返す工藤君。
確かにフィンを残してはこの岩から出られなくなるだろうし…予備を持ってきてまでこの岩に残すほど、一角岩は有名な観光地というわけでもなさそうだ。
『…。昴。』
「ああ…。この周辺を調べた方がいいかもしれないね。」
「あっ、コナン君!?」
一足先に岩の向こう側へと走り出した工藤君を追って子供たちも走り出す。
それに私やお姉ちゃん、沖矢昴さんも続くと…女性が岩にもたれかかるようにして亡くなっているところを見つけた。
「な、亡くなってるんですか、その人…⁉」
「…口の中はカラカラに乾いているし、肌の張りもない…。死因は脱水死で、死後膠着から見ても死後数時間。」
「…これはダイビング用のタンクとサーキュレーターだね。」
工藤君の隣にしゃがんだ沖矢昴さんが女性の傍に置いてあるダイビング用のタンクに近付き、サーキュレーターを持ち上げる。
そしてそのタンクのエアを吸う部分をじっと見つめ、お姉ちゃんに目を向けるとお姉ちゃんがすぐに携帯をポケットから取り出した。
『警察に電話を…』
「け、警察っ⁉ それってつまり…!」
「ああ…この人は誰かにここに置き去りにされたんだ…。この数時間の間にここを立ち寄った、誰かにな…。」
子供たちの顔色が変わる。
そんな中で工藤君の言葉に顔色一つ変えなかったのが、お姉ちゃんと…沖矢昴さん。
工藤君がいう前にこの女性が殺害されていたことに気づいていたか…それとも、こういった状態に慣れているのか。
「なるほどなぁ…。確かに状況を見て、あんたの言う通りこの女が殺された可能性は高い。」
『…。』
「…遥さん。」
ん? と足元に目を向ければ、志保がこちらを見上げている。
しゃがんで耳を近づければ「大丈夫? 横溝警部とは知り合い…?」と声を潜めて問いかけてきた。
そんな志保に苦笑いを返して小さく頷けば「神奈川県は東京の隣だものね…。」と志保も納得したように眉を下げる。
「で、まあ容疑者はあんたらってことだ。1人ずつ名前を。」
そう横溝警部がここら一帯で昨今ダイビングをしていた女性…そして今回の殺人事件の被害者、赤峰光里(あかみね ひかり) さんの取り巻きだという3人に目を向けて言った。
相変わらず粗雑っぽい口調でそう3人の尋問を始めた彼は神奈川県警捜査一課の警部…横溝重悟さん。
私は爆弾処理班の後は警視庁刑事部捜査一課強行犯三係にいた為、隣の県の捜査一課の警部である彼とは何度か顔を合わせていた。
今は姿を変えているし気づかれることはないだろうけれど…それでもやはり少しドキドキしてしまう。
「俺は 大戸六輔 (おおと ろくすけ) っす…。お嬢様は3日前から行方不明で探してたんすけど、行方不明になった日に俺の携帯に “後はヨロシク” っていうメールが光里お嬢様から届いてたからてっきり勝手に帰ったと思ってて…。」
「はあ⁉ そのメッセージだけで探しもしなかったってのか⁉」
「… 青里周平 (あおざと しゅうへい) です。確かにお嬢様を探さなかった俺たちも悪いが…前にも同じようなことがあったもんで…。」
「前にも同じことがあった?」
前にダイビングをしていた時も暫く上がってこなくなったことがあって…あの時俺たち、すげー焦って。
捜索願まで出して探したのに結局次の日にひょっこり帰ってきて…。
わけを聞いたら、偶然クルーザーで通りかかったイケメンに拾われてそいつん家で一晩呑み明かしたって。
「しかも捜索届に関してはお嬢様にこっぴどく怒られてよ…。あとはヨロシクってメールを送っただろって。だから今回は捜索願は出さず自力で探し回ってたんだよ。…あ、俺は 開田康司 (かいた やすし) だけど。」
「…なるほどな。話は分かったよ。」
「――警部さん。」
「んあ?」
こんなものを見つけたのですが。
そう言って昴がダイビングウォッチを持ち上げる。
それを見た開田康司さんが目を見開いて言った。
「それ…光里お嬢様の…。」
「…なるほど、これであのダイイングメッセージを書いたらしいな。ブランドは…。ん? えーっと…赤峰エンジェル…なんだ? 傷が入って見えねーな。」
「それ、赤峰エンジェルフィッシュクラブって書いてあるんすよ。お嬢様が俺たち全員と自分用に特注で作って。」
「ああ…ダイビンググループなんだから何か共通のものを持ちたいって。」
そう言った3人の手首には確かに同じダイビングウォッチがつけられていた。
「てか…なんなんすか、ダイイングメッセージって?」
「確か刑事ドラマとかで見る、殺された人が残すメッセ―…ジ…」
「…ってことは、これ事故じゃないんすか⁉」
3人の顔色が変わり、横溝警部に詰め寄った。
横溝警部はいたって冷静に「まあな。」なんて答えているし、そのがさつさが懐かしくて思わず少し笑ってしまった。
懐かしいな…佐藤さんとタッグを組んだ時に神奈川県警との合同捜査をしたときは、そのがさつさに彼女、終始イライラしていたっけ。
「まあ落ち着けって。とりあえず話は署についてから…。」
「いえ、犯人を特定しないままここを離れる必要はありませんよ。刑事さん。なあ? コナン君。」
「うん!」
「ああ?」
横溝警部が怪訝に振り返れば、昴が笑みを浮かべたまま続ける。
「だから…犯人は分かったんですから、良ければここで逮捕してはどうかと。」
「は、犯人が分かったぁ⁉ この数十分でか⁉」
「つーか、なんだよその言い方…⁉ まるで俺たちの中に犯人がいるような口ぶりじゃねーか!」
青里周平が昴を睨みながらそう食いかかると「ええ」と昴は顔色を変えることなく頷いて見せる。
「お嬢様から ” 後はヨロシク ” というメッセージが届いていた時点で、彼女の携帯を扱えた人物…かつ、彼女が突然姿を消してもそのメッセージさえあればすぐには探されないということを知っている貴方がた3人以外に犯行は不可能ですから?」
「ぐっ…そ、それはそうかもだけどよ…!」
「じゃ、じゃあ携帯を見つければ指紋とか…!?」
「いや…僕が犯人ならもうとっくに海に放り捨ててるところだよ。」
コナン君の冷静な声に「ああっ⁉」なんて大人げなく突っかかる男3人。
まあ、確かに自身が犯人だと疑われていると思うととても冷静ではいられないだろう。
「じゃあどうやって犯人を特定したっていうんだよ!」
「それは…彼女のダイイングメッセージ…サバ、コイ、タイ、ヒラメの文字から。」
さ、サバ…コイ、タイ、ヒラメ…⁉
そうまた3人の声が重なる。そんな4つの魚の名前がどうダイイングメッセージとなるのか、全く見当がついていないのだろう。
かくいう私も分かってはいないのだが。あいにく勉強はできるけれど、秀一やコナン君のようにやわらかい脳は持っていないもので。
「この4つのダイイングメッセージと…それからお嬢様のダイビングウォッチの傷の部分を見れば、見えてくるはずだよ?」
「ああ? お嬢様のダイビングウォッチの傷?」
「消えている文字は?」
「消えてる文字は…Fish、だが?」
ダイイングメッセージから、Fish…魚を取れば?
そんなコナン君のヒントに少年探偵団が口々に困惑した様子で言った。
「そんなこと言ったってようコナン! サバもコイもタイもヒラメも、みーんな魚だぞ!」
「そうですよ! この4つの魚から魚を取ったら後は何も残らないんじゃあ…」
『…あ。』
私の声に全員の視線が集中する。
その視線を受けて「いけないいけない、神崎遥として…」と気を引き締め、人差し指を立てて口を開く。
『分かった! 漢字でしょ⁉』
そう言えば、横溝警部の両目が大きく見開かれる。
「――そ、そうか! この4匹の魚の名前を漢字に直して…魚を取る…!」
「そう。鯖、鯉、鯛、鮃から魚を取って浮かび上がるのは…青里周平。」
青里周平が大きく目を見開いた。
そしてすぐにその表情を変え…胸元からサバイバルナイフを取り出すと、最も近くにいた…志保を捕まえ彼女にナイフを突きつけた。
「う、動くなっ!」
「っ…!」
「は、灰原ー!」
「灰原さんっ!」
「哀ちゃんっ!」
子供たちが一斉に志保の元へと走りかけたのを止めて、青里周平に捕まった志保へと目を向ける。
そしてサバイバルナイフの切っ先を見て怯える志保を見て…すうっと頭が冷え、逆に冷静になっていくのを感じた。
「お前…その子を離…」
横溝警部がその言葉を言い終えるよりも先に体が動いていた。
ナイフを握る青里周平の右手を左手で掴み取り、ぐっとその腕を外側に引っ張って捻り、その痛みで奴が落としたナイフを足で蹴って海へと落としてから右足膝でみぞおちを強く蹴り上げた。
「かはっ…⁉」
そして揺れた体を支えることをせずに緩んだその左手から志保を救い出し、さっと横に避ければみぞおちを抑えるようにして倒れた青里周平がその場で悶える。
途端に「ひっ」と志保が声を漏らし、ちらりと振り返れば素早く動いた昴が青里周平が動けないように上から押さえつけたところだった。
きっと一瞬だけ秀一の気配が漏れたためだろう、腕の中にいる志保が怯えている。
「す、すげー!」
「遥さん、蘭お姉さんぐらい強いんだねっ⁉」
そんな少年探偵団の声にはっと目を見開いて横溝警部を見れば「ほう…あんた、柔道を長くやっていたらしいな。」なんて言っている。
確かに警察学校で柔道を選択してやっていたけど…ここで思わず使った格闘技が柔道とは、またなんて間抜けなことを…。
「とりあえずこいつは俺が署に連行する。お前たちはもう疲れただろう。事情聴取はまた後日で良いから、もう帰んな。足はあるか?」
「俺が責任もって送ってやるよ。」
「そっか。じゃ、頼んだぜ。」
井田さんが横溝警部の言葉に頷いて、警察とは別々のルートでこの一角岩から出ることとなった。
そして横溝警部の言葉通り事情聴取はまた後日ということでそれぞれ家へと戻る。
私と昴もコナン君…いや、工藤新一君の家へと足を踏み入れ、お互いに変装をはぎ取った。
横溝重悟
(でェ? まだ警視庁から来る刑事サマ方は来ねえのかよ? お偉いさんは違うんだなあ待遇が。)
(よ、横溝さん…またそんなことを言っていると怒られますよ…?)
(んだよ事実だろうがよォ。)
(横溝さん、お二方がご到着されました!)
(すみません…遅れました。佐藤です。それからこっちが…)
(宮野です。本日はよろしくお願いします。)
(やっと来たか、と振り返って思わず眉をしかめたことを覚えている。)
(あの佐藤だとかいう女刑事は別として…、この宮野って奴ぁ…)
(被害者の遺体を前に泣き叫ぶご遺族を前に…なんて冷え切った目をしてやがるのか。と。)
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