本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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ブラックインパクト! 組織の手が届く瞬間
≪ジョディさん…どうしてここに…?≫
それはまさにお昼時…雨が降り始めていた時間帯だった。
ジョディさんが突然自身が持つトランシーバーの電源を入れたことで、現在日本で組織の捜査にかかわっている秀一、そして私の元へ音声が飛んできた。
私は部屋の掃除の手を止め、すぐにイヤホンへと意識を集中させる。
ジョディさんは今日、組織の幹部の1人…キールこと水無怜奈の尾行をしていたはず…。どうしてコナン君の声が?
≪実は、黒凪さんの情報提供で彼女…水無怜奈が組織の幹部の1人であることはすでに分かっていたの。ただ今回も例に倣って、ほかの幹部たちが現れるタイミングを待っていた…というところ。 そうしたら驚いたわ、毛利探偵や貴方が彼女の家へ入っていくんだもの…≫
≪だったら話が早い…奴ら、これから誰かを暗殺するつもりみたいなんだ!≫
≪…ええ⁉ どうしてそんなこと…≫
≪それが…偶然彼女の靴の裏に僕の発信機がついちゃって…。それでこの追跡メガネの収音機で…≫
ジョディさんのトランシーバーからの音声をそのままに、秀一の携帯へ電話をかける。
『――もしもし、秀一。…あれ、“聞いてる”?』
≪あぁ…ジョディのだろ?≫
ええ。そう答えながらFBIから支給された拳銃のメンテナンスを始める。
カチャカチャという機械音を電話越しに聞いている彼もきっと私がしていることにある程度検討がついているのだろう――短いため息を吐いた。
『…何? ついに彼が尻尾を出すと不安になるのかしら。』
≪…まあ、な。≫
メンテナンスの手を止める。
現在秀一はFBIの任務のため外に出ていて、私は1人家で待機していた。
しかしジョディからの連絡――もとい、彼女が持つFBI捜査官たち専用の小型トランシーバーが彼女の手によってつけられ、私たちにその会話が筒抜けとなってからすぐに私は組織との接触を想定して準備を始めていた。
『…貴方らしくないわね。不安になるなんて。』
≪お前のせいだ。≫
突然そう言われ、怪訝に眉を寄せて…「ああ」と合点がいった。
そして続けて彼が発する珍しいその弱音に苦笑いをこぼす。
≪俺はただ――奴らの思い通りになるところを見たくないだけだ…≫
…まあ、そうならないとは自信をもって言えないから…だからきっとこの人は…。
目を伏せる。何も返さない私に、秀一もそれ以上に何も言わなかった。
こうして組織と敵対するようになって、皮肉にも組織で叩き込まれたこの人を殺す術を使う私を彼がよく思っていないことは重々承知している。
『でもね秀一…志保を守るためにはこれは仕方がないことだって私は思うの。』
≪…。≫
私は意外と今、こんな自分をそこまで嫌っていないのよ。
だって貴方と並んで大切な人を守ることができる。両親のようにただ奪われるだけじゃない…。
《…ばれちまったんだ――盗聴器が…! おっちゃんが危ない…!》
コナン君の焦った声に伏せていた目を開く。
さて、そろそろ弱音ばかりも言ってられないらしい。
『…さて。そろそろ動かないとね。毛利探偵事務所に向かう形でいいかしら?』
≪いや…秘密裏に処理した方がいい。あのボウヤは毛利小五郎を無関係だと組織にアピールしたいはずだ。≫
『じゃあ…』
≪俺と一緒に来い。ライフルを1つ余分に持っていく。≫
長距離狙撃の腕は? とその道のエキスパートに問いかけられて「できます」なんて誰が自信を持って言えようか。
『…私の師の実力から、まあ適当に想像しておいて。』
≪お前の成長をその “師” に見せてやればいい…≫
何、お前ならできるさ。
お前が過ごしたあの日々の意味を見つけるぞ。
その秀一の言葉にふ、と笑みが溢れた。
廃ビルに足を踏み入れ、共に屋上へと出れば――隣に立つ黒凪がひく、とその表情を歪めた。
『…こんな距離から撃てるわけないでしょ…。私場所変える。』
「情けないことを言うな」
『情けなくないわよ、至極真っ当なことよ。』
「下手に近づけばお前が奴らに撃たれるぞ?」
そんなこと言ったってここからじゃあ私も使い物にならないのよ!
そんな彼女の必死の訴えも全く響かない俺は、彼女の実力を図りかねているのだろうか。
それでも正直良かった。俺は彼女が人を殺すところなど見たくはない――。
『…。』
それは彼女も勘づいているのか、彼女の目が俺を怪訝に射抜く。
『…私を信用してくれない人は嫌いよ。』
「…」
『貴方が私を心配してくれているのは重々承知しているわ。でも…大切な妹の命を誰かにゆだねることはしたくない。』
それでも貴方が私をのけ者にしたいなら、こっちにも考えがある。それを理解した上で色々と考えて頂戴ね。
そう冷たく言ってライフルを毛利探偵事務所の方角へとセットする黒凪の背中を見つめながら、俺は何も言えなかった。
『…来た。』
「…あぁ」
現れた組織のメンバーたちにとりあえず意識を切り替え、ライフルを構える。
そしてスコープを覗き込めば…そこにはあの男…ジンの姿もあった。
思わずちらりと黒凪に目を向ければ、彼女の指先は既にその引き金へと伸びている。
大丈夫だ…黒凪は躊躇はしない。もうこいつはあの男のものではない――。
そう自分に言い聞かせ、再びスコープを覗き込む。
そしてジンの指先にある発信機へ標準を合わせ――引き金を引いた。
『…なんなの貴方。なんであんな豆粒みたいなの撃てるのよ…しかも一発で。』
少しイラついた様子で言った黒凪のそんな言葉には返答せず、ジンがライフルを持った様子を見て目を細める。
「…ジンがライフルを取った。奴は俺がやる…お前はもう1人が持つライフルを壊せ。」
『はいはい…。期待はしないでね。』
あれは…キャンティかしら。変わらないわね…。
そんな風に呟きながら黒凪がライフルの引き金を2回引いた。
どちらも横に構えてあったキャンティのライフルに命中し、キャンティが慌てる様子が見て取れる。
そして目を何度かしばたたかせ、再び両目を見開いてスコープを覗き込む黒凪の隣で引き金を引く。
『…何をやったの? 今。』
そんな風に言いながら、黒凪がまた引き金を引く。
彼女が放った弾丸はベルモットの足元に当たり、彼女が小さく舌を打つのが聞こえた。
「ジンが持つライフルのスコープを狙った。」
『当たった?』
「あぁ。これで奴のライフルもお釈迦だ…」
引き金を2度引き、ジンの肩と胸元へと命中させる。
口の端から血を滴らせ、こちらを睨むジンの顔が視界に映った。
「…見ろ。俺たちを睨んでるぞ。」
『そうね。あぁ怖い。…、ああもう。』
黒凪が放った弾丸がジンの髪を掠る。
彼女の声が本格的に苛立ち始めたところでジンたち組織の人間が早足に屋上を去った。
それを見送り、スコープから目を離せば、案の定隣には不機嫌な黒凪がライフルを片し始めている。
「――さっきの銃撃…赤井秀一が相手だったってことは…FBI…⁉」
ウォッカの驚いた声を耳に、ちらりと助手席に乗るジンへと目を移す。
バックミラーに映るジンの表情は想像していたよりも冷静だった。
「あぁ…俺たちはFBIに嵌められたんだろう…。でないとあの位置取りは無理だ…。」
「じゃあもう1人の狙撃手は誰? キャンティのライフルを破壊した…」
「え…もう1人いたんですかい?」
「たとえ赤井秀一でもあの短時間での標的の変更は無理よ。キャンティと私…それからジンを交互に撃つなんて、そんな命中率を下げるようなことをするとも思えない。」
私がそう言えば、しばしの沈黙ののちにジンが言った。
「…宮野黒凪だ。」
「やっぱり。…貴方を狙わなかったのは彼女の希望かしらね? それとも…」
「…何が言いたい。」
ジンの冷え切った目が私を射抜いた。
ふ、と笑みを浮かべてそれを見返してやれば、ジンが徐に目を逸らしその口元の血をぬぐって煙草を口に咥える。
「美しい師弟愛っていうものかしら、なんて。」
「ちょ、ちょっと…」
ウォッカが焦ったようにバックミラー越しに私を見る。
私も重々わかっている…宮野黒凪の話題がジンにとって地雷であることは。
「…まあ、これで貴方もわかったんじゃない? もしも宮野黒凪が今回のことを計画したなら…彼、毛利小五郎は限りなく白に近い。シェリーとの関係なんて、もっと期待できないわ。」
「…あぁ…確かにあいつならシェリーを危険に晒してまで俺たちを嵌めようとは考えないだろう…。」
「貴方の頭がどれだけキレるかも十分わかっているはずだしね。」
「…だがそれは…あいつが今回のことを計画していたなら、だ。」
つくづくこの男の頭の良さが癪に障る。
思わず舌を打ってしまいそうになるところを、こらえてジンへと目を向けた。
まあ、それでもとりあえず毛利小五郎の件は一旦横に置いておかれることだろう。
これで彼も…シルバーブレットもとりあえずジンに見つかることはない。
「まあ良い…それより今はキールだ…」
「そ、そうですね…。今キールはFBIに…?」
「あぁ。十中八九そうだろうな…。」
これから忙しくなるぜ…。
そう薄く笑みを浮かべて言ったジンに静かにため息を吐く。
さて、シルバーブレット。貴方はこれからどうする…?
Kir
(彼女と出会ったのは、そう…4年前…)
(コードネームを与えられてからほどなくして与えられた日本での任務で…凶器を車に積んだ状態で検問を突破しなければならなくなった、あの時。)
(組織に指示された検問所に向かえば、1人の女性警察官が私の元へやってきて、そして。)
(ジンと同じ、温度のないその両目を向けて、私を出迎えた。)
(彼女は宮野黒凪…ジンが育てた、生粋の殺し屋――)
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