過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 / 劇場版 】
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5年前のあの頃, with 赤井秀一
FBI捜査官、赤井秀一。偽名を諸星大。
彼が運転する車の助手席に座り、本日の任務の概要を確認しているのは宮野黒凪。
赤井秀一が諸星大として潜入している組織に所属する、日本の警察官。
組織の名称は不明、ボスの名前も、幹部の本名もすべて不明。そんな組織に所属する宮野黒凪の本名を知ることが出来たのも、彼、赤井秀一が彼女の従兄といった関係があったからこそである。
だがその事実を宮野黒凪はもちろん知らない。
「――豪華客船に潜入しての暗殺、か。」
『うん?』
「組織も随分と派手な手段を好む場合もあるんだな。その割に、俺と君だけで任務に就くなんて、正直どこか…捨て駒として扱われているようで、気分が悪い。」
『…。』
特に、彼女は数週間前から随分と自暴自棄になっていて、とても暗殺何て任務を任せられるような精神状態ではない。そう赤井秀一が口には出さずとも、考える。
それはあの男…ジンと呼ばれる幹部も感じているはずだ。それなのに、何故。
まさか本当に彼女と俺を捨て駒として扱うつもりか?
それは彼女自身も感じているのだろう、俺の言葉に何も言わない。
…ジンの意図に抗ってやろうという、覇気も感じられない。
まさか本当にここで死ぬつもりだろうか。そんな俺の考えを感じ取ったのか、彼女は徐に口を開いた。
『大丈夫。わざと失敗する事だけはしないから。』
「…その言葉に君の生きる意志を感じられないのは、俺の勘違いだろうか? 黒凪さん。」
『……ふふ、そうね。そうかもね…』
潜入する予定の豪華客船が遠目に見える。
黒凪は車内のミラーを開き、潜入のためにと身に纏っている化粧の出来を確認し、口紅を引いた。
ミラー越しに見える彼女の目は暗く、冷たい。
「…俺は正直、君が死ぬぐらいなら…わざと任務を失敗させてもいいと思っている。…もしもの時はそうなっても構わないか?」
『…馬鹿ね。そんなことをすれば貴方も私もジンに殺されるだけよ。貴方は組織を甘く見すぎてる。…心配しないで。ちゃんとやるから。』
髪に軽く香水をふりかけ、黒凪が髪をかき上げる。
そして駐車場に車を止めて車を降り、彼女のエスコートのために助手席の扉を開けば…潜入のために身に着けているドレスが風に揺られた。
この時赤井秀一はまだ知らなかった。この任務を経て宮野黒凪との関係が大きく動き、また組織内での自身の立場も大きく変わることとなることを。
「こちらがお客様のお部屋でございます。鍵はこちらに置いておきますね。」
「ありがとうございます。」
「はい。では失礼いたします。」
豪華客船の客室に入り、まず重火器を入れてあるギターケースをソファーにおろし、軽く肩を回すとパキパキと身体の関節が音を立てる。
黒凪はジンから渡されてあった標的の写真を見ながらベッドに腰を下ろした。
『(標的はイギリス有数の資産家の1人息子、オリヴァー・エヴァンズ。今夜このオリヴァーによってパーティルームが貸し切りにされ、大学の卒業パーティが開催される予定…。)』
黒凪の隣に諸星大も腰を下ろし、煙草に火をつけてふう、と煙を吐いた。
今回の黒凪の主な任務はこのオリヴァーに近付き、パーティに潜入し標的を狙撃ポイントへと誘いこみ…狙撃役の諸星大に標的を殺害させること。
『パーティまで時間があるし、下見にでも行く? 大体の狙撃ポイントは絞ってあるのかしら。』
「ああ、パーティ会場の図面があったんでな。…このあたりから狙ってシャンデリアを落とすのはどうだ?」
『そうね、脳天に直撃させられれば即死を狙えるし。』
「シャンデリアの真下への誘導は頼むよ。」
小さく頷き、2人で個室を出てパーティ会場へ。
その道の途中で標的が遠目に見えた。ちらりと諸星君へ目を向ければ、彼もこちらに目線を向け、すっと私から離れていく。
「お前もついに卒業かー! 来週にはイギリスに帰るんだろ?」
「ああ! イギリスで就職先も見つかったし、父さんも早く帰ってこいってうるさいからさー」
「それにしたってこんな派手なパーティを開くなんて、流石は金持ちのご子息様って感じだな!」
「ハハハ、やめろよー…うわっ⁉」
『きゃあっ』
意気揚々と話しながら歩いていた標的、オリヴァーにぶつかり、尻もちをついて見せる。
「す、すみません! 大丈夫ですか…?」
『すみません、大丈夫です…。ごめんなさい、折角楽しくお話されていたところを邪魔してしまって、』
「い、いえいえ! って、あ、ドレスに切れ目が…」
『え? あっ、本当だ…』
わざと袖を強く踏んでわざと切れ目を入れたのか、なるほど上手い…。
そう影から様子を見ていた諸星大こと赤井秀一が目を細める。
『どうしよう、これ以外にドレスはないのに…』
「あ、じゃあ買ってあげるよ! 小綺麗なドレスを売ってる店があったから!」
『え、でも…』
「ぜひプレゼントさせて、このまま放ってなんておけないし…」
なんて意気揚々と言っているが、鼻の下がしっかり伸びている。
まあ黒凪の美貌を見ればそうなるのも分かるか。
「――ねえ、グラスあと1本だけ足りなんだけど…」
「あ、確か厨房にあったと思うよ。」
「…。」
そんな風に会話をしながらパーティ会場から出てきた従業員たちに目を向け、この場は黒凪に任せることにしてパーティ会場へと潜入する。
会場の中央にぶら下がっているシャンデリアが1つと、ステージにも小さなものが1つ備え付けられている。
さすがは豪華客船といったところか…天井はところどころガラス張りになっている。少し風に煽られるだろうが、ガラス越しに標的を狙えばいいか。
標的1人だけを狙うならステージ上…イギリス出身だし、うまくステージでダンスをするように持ち込めば楽かもしれんな。
携帯を取り出して黒凪へとメールを送る。
『――。(標的はステージ上で暗殺する、か。ダンスにでも誘ってステージ上に誘導…”了解” と。)』
「あの、ちなみに君の名前って…?」
『…エレーナです。』
咄嗟に偽名として母の名前を上げれば、その日本人離れした名前に興味を持ったのだろう、オリヴァーが微かに目を見開いた。
「ちなみに、君って日本出身じゃなかったりする…?」
『あ、ええ。イギリス出身なんです。』
「oh my god, really? I’m from England as well! (ええっ本当⁉ 僕もイギリス出身なんだ!)」
日本では母国語で話す機会もあまりなかったのだろう、嬉しそうに言ったオリヴァーににっこりと笑ってこちらも英語で返すとますますオリヴァーは嬉しそうに笑った。
『そういえば、先ほど卒業パーティがどうだとかって…』
「ああ、そうそう! ずっと日本の大学に通ってたんだけど、ついに卒業することになって…イギリスにも帰らなきゃいけないからパーティをすることになったんだ!」
『こんな豪華客船でパーティを開くなんて、すごいですね!』
「良ければ君も来る? 結局日本では彼女もできなくて寂しくってさ。笑」
『良いんですか⁉ もちろん!』
そうしてとりあえず客船の中にあるパーティドレス店に入り、適当なドレスを選ぶ。
誰に見せるでもないし、とオリヴァーの言う通りに試着していけば、まあ派手なものや胸元が大きく開いたものばかり。
結局スパンコールがあしらわれた胸元の大きく開いたドレスに決定し、それを着てオリヴァーと共に店を出る。
外を見れば日も落ちはじめており、オリヴァーも腕時計を確認してこちらへ目を向けた。
「そろそろパーティが始まるけど、このまま直行で良い? それとも一旦準備に部屋に戻る?」
『そうですね…』
携帯を開き、諸星君からの連絡を確認する。
すでに狙撃ポイントも下見済みでいつでも大丈夫、とのメールが入っていた。
『はい、私は特に準備するものはないので、オリヴァーさんが良ければこのまま行きましょう。』
「了解! いやー、あいつらびっくりするなあ、君みたいな美人を連れて行ったら。」
『うふふ、そんな。』
そうして共にパーティ会場へ。
主役の登場に振り返ったオリヴァーの友人たちはこちらを見ると、一斉にこちらへ近付いてきた。
「えっ⁉ さっきぶつかってた美女じゃん!」
「なんだよオリヴァー! お前抜け目ねーなー!」
「ははは、いやいや…」
そんな風に盛り上がる様子を見つつ様子を伺っていると、会場に音楽が流れ始めた。
クラブミュージック。なるほど、派手な見た目の友人が多いとは思っていたけど、やっぱりそういうパーティなのね…。
なんて若干冷めた目で見ていると、会場のライトもクラブ仕様に。
それを見てオリヴァーは手っ取り早く酔うためにテキーラを一気にかき込み、こちらに手を伸ばした。
「じゃあエレーナさん、一緒にダンスでもいかがでしょう?」
『…ええ、もちろん。』
もちろん個人的にクラブなどに行くことはないが、これまで潜入で何度か入ったこともあるし、ダンスをしたこともある。
諸星君の前で披露するのは若干嫌だけど、まあいいか。そこまで考えたところでふと目を伏せた。
『(どうして諸星君にどう見られるかなんて気にしてるんだろう、私…)』
私にはもう、何も残っていないというのに。
顔をあげ、オリヴァーへと笑顔を向けてダンスを始めた。
パーティ会場へと徐々に集まってくる標的の友人たちを見つつ暗殺の準備を進めていた諸星大こと赤井秀一は、標的と宮野黒凪がやってくるまでの間一人物思いにふけっていた。
この豪華客船へ入る前に、彼女に言った言葉。ジンが我々を捨て駒の様に扱っているような気がしている、という言葉。
それは決して嘘ではない。そう思うほどにどこか無謀な暗殺任務だった。
これだけの人数が乗る豪華客船という逃げ場のない場所で、たった一人の標的を殺す。
しかも資産家である彼の両親への警告の為、派手かつ他殺と思えるような方法での暗殺。
2人でやるには到底簡単なものだとは言えないだろう。
「(だとしても、あのジンという男が何十年もかけて育て上げた彼女を…黒凪を捨て駒として扱うというのも、理解できない。)」
彼女を試しているのか? それとも、あれほど自暴自棄になった彼女にさらに無理難題を押しつけ…何かを、狙っている?
はあ、と息を吐いて目を伏せる。
彼女が俺の従妹だとしても、こちらの本分はFBIとしての任務だ。余計なことは気にせず、彼女を死なせず…うまく任務を乗り切る。そうだ。それでいい。
…辛いのなら、殺してやるべきだろうか。よぎったそんな考えにピクリと眉を寄せる。
≪…君の生きる意志を感じられないのは、俺の勘違いだろうか? 黒凪さん。≫
≪……ふふ、そうね。そうかもね…≫
彼女の暗く、冷たく…絶望に飲み込まれた目を思いだす。
ここ数か月で随分と痩せた。随分と、ケガも増えた。
彼女はそんな生き地獄を味わうべき女性なのだろうか?
組織に居て、間接的にでもたくさんの人間の命を奪ってきたであろう。
これまでも、そしてこれからもそうだろう。
それでも…そうなってしまったのは決して彼女の意志ではなかっただろうに、
「(…もし今日の任務で彼女が自殺を図ろうとしたなら俺は―――)」
「――えっ⁉ さっきぶつかってた美女じゃん!」
「なんだよオリヴァー! お前抜け目ねーなー!」
「ははは、いやいや…」
会場の入口へと目を向け、動きが止まる。
そのまま何も言えず、ただただダンスを始めた彼女を…黒凪を目で追った。
「…はは」
そして目元を覆い、大きなため息を一つ。
ああ。無理だ。できない。彼女を殺すなんて。
―――あんなに美しい彼女を、殺すなんて。
「ヒュー! いいぞー!」
そんな声に再び目線を落とせば、黒凪が笑顔でオリヴァーをステージ上へと連れて行くのが見えた。
それを見てこちらもライフルを構え、スコープ越しに2人を射抜く。
この豪華客船もそろそろ町へと戻ることになる。時間はあまり残されていない。
そろそろ標的1人をシャンデリアの下に残して離れるか? そう思って待つものの、なかなかその機会がやってこない。
何度も何度も機会はあったのに、それを使おうとしない彼女を見て「やはりか」と嫌な予感に眉を寄せ、無線の電源を入れる。
「…黒凪さん」
『…』
スコープで彼女の耳に無線がつけられているかは確認済みだ。聞こえているはずだろう。
「君の考えはなんとなく予想がつく。…このまま俺に君を殺させるつもりだろう。」
ダンスをしている中で、彼女が目を伏せたのが見える。
そのまま俺は続けた。
「…黒凪さん、君には失ってしまった大切な人はいるか?」
『…。(お母さん、お父さん。)』
数秒開けて、続ける。
「君には、失いたくない人はいるか?」
『(…志保。)』
黒凪の脳裏に、志保の笑顔が浮かび、続けて警察学校で出会った彼らの顔が浮かぶ。
そして最後に、諸星大の顔が、浮かんだ。
「――俺にとってそれは、どうやら君らしい。」
『!』
宮野黒凪の心臓が大きく跳ねた。
そして彼女の脳裏に、諸星大との日々がよみがえる。
初めて出会った時、彼の車に引きずりこまれた時…私は組織に連れてこられた日以来、初めて死を意識した。
ジン以来、初めてこの人には敵わないと、そう思った。大人になってからは初めてのことだった。
それでも、そんな男が怪我をした際には私を頼り、私にその身をゆだねてきた。
この男は私をいつでも殺せるはずなのに、利用しているだけのはずなのに、一緒にいて身の危険を感じたことは一度もなかった。
殺されるかもしれないという不安も、死んでしまうかもしれないという不安も、いなくなってしまうかもしれないという不安も。何も、なかった。
――そんなことは、初めてだった。
「…バカげたことを言っていると思うかもしれない。それでも俺は、これからも君に生きていてほしい。何か理由があって自暴自棄になっているのは分かっている。それはこんな業界に居れば、誰もが通る道だろう。…それに、呑まれないでほしい。俺にできることがあるなら、なんでもやってみせる。…だから黒凪さん。」
『……』
「俺と一緒に、生きて帰ってくれないか。…――俺では、役不足だろうか。」
…役不足? そんなわけがない。
この人となら、ジンに勝てるかもしれない。志保を護りながら、戦えるかもしれない。
…でも、どうして私にそこまでしてくれるのか。わからない。
『…ねえ、』
「うんっ?」
黒凪の言葉に、共に踊っているオリヴァーがそう答えるのが分かった。
だが、彼女の口調からそれは彼にかけられたものではなく、俺に…諸星大にかけられたものだと瞬時に分かった。
『どうして私と踊ってくれることにしたの? …どうして、私なんかと?』
「ええっ? だ、だって君すごく綺麗だし――」
「…――。」
引き金に指をかけ、オリヴァーの言葉が途切れたところで、こちらの答えを言う。
「――君を愛してしまったから、かな。」
『…ふふ、馬鹿ね。――でも、どうやら私も馬鹿みたいだから、お互い様。』
黒凪がオリヴァーの腕に収まり、そして体を回転させながら彼から距離をとる。
場所は完璧。タイミングも。
引き金を引き、シャンデリアを落とし、ものすごい音が会場に響いた。
「きっ――――きゃああああっ⁉」
「えっ⁉ え⁉ なに、なに⁉」
――まあ、お似合いかな。
そんな風に心の中で呟いて、顔に飛び散ったオリヴァーの血を軽く拭い目を伏せる。
こんな状況で愛を語るのも全部、全部。私みたいな女にはお似合いね。
「――…。」
ライフルを下ろし、呆然と立ち尽くしオリヴァーの死体を見つめる黒凪を見た赤井秀一はぐっと唇を噛み、すぐにその場を後にした。
何度やっても、任務のために罪のない人を殺すことには慣れない。
そしてこんな状況で、恐らく初めて自分が本気で1人の女性に惚れ込んだというその事実に、なんとも言えない気分になっていたのだ。
「…はー…。…黒凪さん、逃走用のボートへ行こう。」
≪……了解。≫
無線越しに聞こえた声に舞台の袖から彼女へ目を向けると、彼女は俺の元へ小走りでやってきて俺の背中に担がれたライフルを入れたギターケースを見、目を伏せた。
「…君が生きていてくれてよかった。」
『…。ふふ、人を殺した後に言う言葉じゃないわね。』
「…そうだな。」
手を差し出せば、彼女は俺の手を取り共に脱出用のボートへと足を踏み出した。
「――よくやった、黒凪。」
『…私じゃないわ。一発で仕留めた彼の功績よ。』
「……。」
ジンが徐にこちらへ目を向ける。
そして少しの沈黙ののち、こう言った。
「…あの方からのお達しだ。お前を昇格させてやる。」
「――!」
微かに目を見開き、ちらりと黒凪へと目を向けると、彼女は相変わらずの無表情。
彼女はジンの前では絶対に隙も、感情も見せない。
それはもちろん俺も肝に銘じていることではあるが…まさかこれほどまで早く昇格されるとは。
「コードネームは ”ライ” 。…覚えておけ。」
「…了解。」
「それから黒凪…」
『…』
黒凪が静かにジンへと目を向け、ジンの冷たく暗い瞳と視線がかち合った。
「引き続きスパイとしてうまく動け…分かったな。」
『…はい。』
ジンが歩き、去っていく足音が廊下に響く。
奴の背中を睨みつつ、俺はすぐそばにあった彼女の手を握った。
黒凪は暫くそれを握り返さなかったが、やがてジンの足音がほとんど聞こえなくなった時…静かに俺の手を握り返した。
宮野黒凪
(大君、本当にありがとう。)
(こんな私の命を繋ぎとめてくれて。)
(大君がいてくれるから、もう少し頑張れる気がする。)
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