過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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5年前のあの頃, with 大和勘助&諸伏高明
「今回の事件は、長野県内で起こった殺人事件と関連があるとされてるらしい。」
現場へと向かう車内で、沈黙を破るように伊達君が事件の概要を話し始めた。
被害者は現在は東京在住だが、元は長野県出身で、長野県内で起こっていた連続殺害事件の被害者たちとは幼馴染だという。
そして今回の事件はそれを受けた長野県警が警視庁へ一報を寄こしてきた途端に起こったものだった。
「ということは、長野県警もこっちに向かっているんでしょうか?」
そう佐藤刑事が質問をすると、ハンドルを握り正面を見たまま伊達君が頷く。
「ああ。刑事が2人ほどこっちに向かってるらしい。それまで現場検証はできんが、事情聴取と周辺の様子だけでも俺たちで先に確認しておこう。」
「はい。」
『…はい。』
そうして現場に到着し、第一発見者となった2人の男性と一足先に到着していた交番勤務の警察官が振り返った。
「捜査一課の伊達です。こっちは佐藤と宮野。」
伊達君に続いて警察手帳を提示し、「早速ですが事情聴取を…」と続けた伊達君をちらりと見て彼の肩を軽く叩く。
『伊達君、私はとりあえず現場の周辺を見て回ってくるわね。』
「ああ、頼むよ。俺と佐藤は事情聴取をしておくから。」
そう言った途端に伊達君の携帯がメールの受信を知らせ、携帯を開いて送られてきたファイルを確認する。
そして徐に一応のためにと待機していた私に目を向けた。
「宮野さん、これ軽井沢の殺害事件の概要だって。俺と佐藤が事情聴取をしてる間に確認しておくか?」
『…そうね、ありがとう。』
ファイルをそのまま送信してくれた伊達君にお礼を言って周辺の捜索へと向かう。
殺害現場は宿泊施設の一室で、第一発見者は被害者とともに宿泊に来ていた友人2人だという。
まあ、一室とはいってもコンドミニアムタイプのもので部屋は複数ある。まずは他の部屋を確認するところから始めようと殺害現場となった寝室を出てまずは浴室へと向かう中、送られてきたメールを開いて長野県警内での連続殺害事件の概要を確認する。
『(未だ動機は不明だが、同じ小中学校を卒業した幼馴染のグループが狙われている模様。今回の被害者を含めると、残る生存者は2名…)』
次に第一発見者たちの部屋へと向かおうと浴室を出たところで、廊下へ続く扉が何度かノックされたのが聞こえて足を止める。
「長野県警だ! 事件の応援に来た、開けてくれ!」
「勘助君、インターホンがそこにありますよ。」
「ああ? どうせ今ので聞こえてんだろ。」
長野県警、警部である大和 勘助 (やまと かんすけ)、そして同じく諸伏高明 (もろふし たかあき)。
この2名は最近起こっていた長野県内の連続殺人事件の新たな犠牲者が東京で出てしまったということで、応援に駆けつけていた。
扉が静かに開かれ、その扉を開いたであろう…服装から警視庁の刑事だと推測するその女性に2人が同時に目線を下げた。
2人ともかなりの長身であるためであろう。同じくその刑事も視線をあげ、2人を見ると…その視線が高明(コウメイ)、そう呼んでいる俺の幼馴染で不自然に止まった。
それに大和勘助が気づき、彼も高明へと目を向ける。
「? あの、何か。」
『…いえ。どうぞ。』
高明が問いかけた途端に目を逸らし、扉を大きく開けて中へと入っていった刑事を見送り、また高明へと目を向ける。
「知り合いか?」
「いや…記憶にはありませんね。」
「ふーん…他人の空似かね。」
「…まあ、他人の空似とはまた違いますが…警視庁には弟がいるはずなので、その関係でしょう。」
高明がまず中に入り、こちらを待つように玄関で立っていた刑事へと目を向ける。
「申し遅れました、諸伏と申します。貴方は?」
『…警視庁の宮野と申します。』
「俺は大和だ。早速だが現場は?」
『ご案内します。(…やっぱり。長野県警の諸伏高明警部。諸伏君のお兄さん…。私たちで解決した彼らのご両親の事件に関しても、諸伏君へ的確なアドバイスを送っていた、切れ者。)』
先ほど宮野と名乗った刑事がまた高明に目を向ける様を見て、こちらも高明へと目を向ける。
なんだ? やっぱり高明の知り合いか?
「――!」
俺の視線に気づいてこちらを見た宮野と視線が交わる。
そこでぞわ、と軽く背筋に走った悪寒にかすかに目を見開いた。
「(…なんだこいつ? どこかでこの目を見たことがある…。いや、どこかじゃねえ。)」
人を殺した、殺人犯と同じ目をしている。
暗く、冷たく…感情の読めない、そんな目だ。
「…勘助君?」
「え、あぁいや…」
気付いたときには宮野も高明も殺害現場へ歩き始めていた。
高明の声にはっとしてその後へ続き、改めて宮野の背中へと目を向ける。
「(見たところまだ若い刑事のハズ…なんであんな目ができる?)」
『…伊達君、長野県警の方々がお見えです。』
現場へ踏み込むと、第一発見者とみられる男が2人と、宮野の言葉に振り返った男女の警察官がこちらに敬礼を見せた。
「あ…初めまして。警視庁の佐藤です。」
「俺は伊達といいます。今日はよろしくお願いします。」
なるほど、このガタイの良い伊達がこの現場の班長といったところか。
佐藤っつー刑事は随分と若いな。宮野も若いが、同じぐらいか。随分と若いチームだ。
「長野県警の大和だ。こいつは諸伏。」
「諸伏…」
「あ?」
まあた高明か。
そんな俺の反応に気付いたのだろう、高明も小さく息を吐いて目を逸らす。
「もしかして諸伏景光のお兄さんですか? 俺、あいつと同期なんです。」
「…ほう。」
「そこに居る宮野も…」
『それより事件の解決が先よ、伊達君。』
高明が静かに宮野を見下ろし、目を細めた。
その表情を見て、長年幼馴染としてこいつを知っている俺は直感で感じる。
なるほどこいつ…宮野って名前の刑事を知ってやがるな。弟にでも聞いたか。と。
「これは失敬…では早速現場検証、構いませんか?」
「ええ。」
そんな伊達の言葉に高明が頷き、共に手袋をはめて遺体の傍でしゃがみ込む。
「凶器は各部屋に備え付けられている包丁で、被害者を刺殺する際にこの部屋のキッチンから抜き取り犯行に使用したようです。」
「ふむ、手袋を嵌めていたのか、凶器に指紋は見当たりませんね。」
「はい。うちの鑑識が調べていましたが、指紋など犯人に繋がるものは何も見つからず…」
「ということは、この部屋に残っているのは被害者の毛髪や指紋だけだと?」
ああいえ、と高明の質問に伊達が応えて第一発見者の2人へ目を向ける。
「彼らは被害者の幼馴染だということもあり、何度か部屋を行き来してたそうで、2人の毛髪、指紋は複数見つかってます。」
「なるほど。…つまりは、よほど用意周到に痕跡を消した犯人なのか、はたまた第一発見者のどちらかが犯人、か。」
高明の言葉に第一発見者の2人の表情が強張ったのが見えた。
『…ちなみに』
「ん?」
遺体の傍で立ち、第一発見者2人へ目を向けていた宮野の言葉に、高明や俺と同じように遺体の傍でしゃがみ込んでいた伊達が顔を上げる。
『被害者が使っていたスリッパの片方が足に入ったまま倒れているところを見ると、刺されてから倒れたようだけれど…包丁が背中に入った角度は?』
「ああ…鑑識によると、被害者の肩甲骨の間に向かって、斜め上45度当たりから振り下ろされる形だと…」
そこまで言ったところで伊達も宮野に続いてゆっくりと第一発見者たち、嫌…そのうちの1人へと目を向けた。
なるほどな。その視線を受けてゆっくりと立ち上がり、いつでも動けるようにと腰を落とし、こちらも振り返れば、高明も「なるほど。」と呟き被害者から第一発見者たちへ目を向ける。
「失礼ですが、お二人には随分と大きな身長差がありますね。」
「え? ああ…コイツは長くバスケをやってたんで、俺たち幼馴染の中でも一番大きくなったんですよ。対して俺は、じーちゃんの隔世遺伝か横にばっかり大きくなって、身長に関しては全然…。」
「…あ!」
佐藤も気付いたのだろう、そう声を上げて第一発見者のうちの1人、そう…身長の高い男の方へと目を向けた。
『被害者の身長は、見たところ約180cm前後。その肩甲骨中央部に斜め上からナイフを振り下ろせる人物は、この中に1人しか居ませんね。』
「…え? い、いやいや…まさかコイツが犯人だっていうんですか? 証拠もないのにそんな…」
「う、うわああっ!」
警察官5人からのプレッシャーに耐えられなくなったのだろう、男が手元にあった灰皿を持ち上げ、宮野に向けて投げつけた。
「みっ、宮野さ…!!」
『――!』
佐藤が声を上げるや否や、しゃがんでいた伊達が立ち上がり宮野の代わりにその背中に灰皿を受けた。
ゴッといやな音が響いたが「いってー…」と呟く程度で澄んだらしい伊達が男を睨むと、男は蛇に睨まれた蛙の様に一瞬身体が硬直する。
その隙を見逃さず俺と高明で一気に距離をつめると、次に男は傍にあったランプを手に取り、傍に立つ幼馴染の男へ振りかぶりこちらをにらんだ。
「うっ、動けばこ、殺すぞっ⁉」
「お、おい…何やってんだよ…⁉」
「も、元々お前だって殺してやるつもりだったんだ…夜も遅いから事情聴取は明日に回されて、解放されたそのタイミングで殺してやろうと思ってたのによ…!」
「は、はあっ⁉ じゃ、じゃあお前が皆…」
この時、諸伏高明は犯人の動向に集中しつつも、何か使えるものはないかと周辺へ視線を張り巡らせていた折り、伊達捜査官の足元に落ちていた灰皿を、宮野捜査官が音を立てず持ち上げた様子が偶然視界に入ったという。
そして何をするのかと怪訝に思う間もなく、彼女はそれを犯人に向かって投げ返した。
とはいっても本気で当てるつもりはなく、威嚇のつもりでその背後にある絵画のガラスへとぶつけたらしいが。
ガラスが割れる音と壁に灰皿がぶつかる音とが混じりあい、とても小さいとは言えない音が鳴り響いた途端に、犯人の意識が自身の背後に向かった。
「高明ィ!」
勘助君の声にほぼ同時に足を踏み込み、まずはランプを抑え込み、勘助君が男を取り押さえた。
それでもやはりバスケットボールの元アスリートということや、勘助君とほぼ同格かそれ以上のガタイの良さに、勘助君が抑えきれずにいる中、伊達捜査官、そして宮野捜査官も勘助君に助太刀した。
最も遠い距離にいた佐藤捜査官は先ほどまで人質となっていた男性を遠ざけ、こちらの様子を伺っている。
「っ、離せよぉ!」
「宮野、手錠頼むっ」
『、午後9時28分、被疑者確保。』
「くそっ!」
手錠がかけられ、勘助君と伊達捜査官が一旦力を抜き、伊達捜査官が立ち上がり外に待機している警察官へ男を移送する手助けを仰ぐためだろう、部屋を出ていく。
それに佐藤捜査官も人質となっていた男性を連れて続き、部屋を出ていったのが見えた。
その時だった。
「勘助君!」
「あ?」
『っ⁉』
勘助君も目を離したタイミングで犯人の男が身体をのけぞらせ、宮野捜査官の手にかみついたのだ。
この逮捕劇でアドレナリンも出ているであろう男が噛みつく力は恐らくものすごく強いに違いなく、かなりの激痛を感じているはずであろう。
しかし彼女…宮野捜査官は顔をゆがめつつも何も言わず男へ空いている手と足を延ばし、柔道の締め技を男にかけ始めた。
その冷静沈着で流れるような動きに微かに目を見開き、すぐに彼女の手をどうにか離させるために男の元へ駆け寄る。
同じタイミングで勘助君も男の頭のあたりに移動し、男の髪をガッと掴んだ。
「往生際の悪い野郎だな、手ェ離せ!」
『っ、諸伏さん、すみません被疑者を気絶させるのを手伝っていただいても?』
「え、ええ」
ほとんどその顔に出てはいないが、かなりの痛みだろう。
すぐに彼女に変わって男を絞め落とし、その口から彼女の手を抜き取ると、噛まれていた場所が紫に変色しているのが見えた。
『…』
「感覚はありますか?」
「こりゃ酷ェ…」
「――宮野さん!?」
無表情に自身の手を眺める宮野捜査官の横で傷口を確認していると、戻ってきた伊達捜査官が顔色を一変させて宮野捜査官へと走り寄った。
「一体何が…⁉」
『大丈夫、被疑者に噛みつかれただけよ。これぐらい…』
「っ…⁉」
同じようにして戻ってきた佐藤捜査官も宮野捜査官の手を見て口元を覆ったのが見えた。
見たところ、本人が言う「これぐらい」とはほど遠い見た目に勘助君がどこからともなく医療キッドを持って宮野捜査官の手を消毒させ、湿布を張り付ける。
その間も、宮野捜査官は無表情で。
「佐藤、宮野さんを夜間病院に連れて行ってやってくれ。」
「は、はいっ」
佐藤捜査官がおずおずと宮野捜査官に近付き、共に立ち上がり外へと歩いていく。
それを見送ると、伊達捜査官は床に沈んでいる被疑者の男を確認し、再び口を開いた。
「長野県警のお二人は事情聴取も同行していただけますか?」
「…そうですね。」
「了解。」
そうして3人がかりで男を運び出し、病院へと向かうために佐藤捜査官が車を1台使っていることもあり、勘助君と僕は伊達捜査官の車に乗り警視庁へ向かうこととなった。
伊達捜査官の運転で本部へ戻る中、どこか落ち着かない様子で車を運転する彼の気を紛らわせようと、事件解決後時間があるときに話そうと思っていた話題を振ることにした。
「…弟をご存じだとおっしゃっていましたよね。」
「えっ? あ、ああ…はい。警察学校時代の同期です。」
「弟から話はある程度聞いていました。確かうちの両親の件も…」
「そうですね。同期の中でも仲がいい面々で。」
あの宮野捜査官も?
そう問いかけると、伊達捜査官が小さく頷き、言った。
「さっきの現場でも目の当たりにされたかと思いますが、頭が切れる上その場での最適を導き出す力もある。誰より冷静で…」
「ま、確かにホシに噛みつかれたあの状況で顔色一つ変えなかった根性は目を見張るもんはあるな。」
「…ええ。」
確かに。と先ほどの光景を思い返す。
彼女はあの状況下で顔色一つ変えず…その場の最適な行動をとっていた。
あの若さでああなるには、どんな人生を歩めば――。
ざあ、と夜風が宮野黒凪の髪を揺らす。
時間はすでに日をまたぎ、朝の2時頃になっていた。
1人帰路を歩く黒凪の隣に車がゆっくりと近付いてくる。
『?』
「やあ。」
『…諸星君』
この男はいつどこからこちらへやってくるのか読めたものじゃない。
こんな時間帯に何故こんな場所に、とこちらを射抜く彼の目を見返すと、くいと助手席を彼が示した。
それに何も言わず応えて車に乗り込めば、いつもは右手で扉を開けるところを左手でやった違和感からだろう、彼の目線が落ち、私の右手へ。
「 “それ” は?」
包帯を指して放たれたその言葉に目を伏せ、軽く持ち上げてみせる。
『被疑者に噛みつかれたのよ。大したことはないけれど。』
「…。そうか。災難だったな。」
『ええ。』
そうして沈黙が落ち、私はただ車内から見える月を見上げていた。
自分が傷つけられることも、なんでもない。
志保が組織の手に渡ってしまったという事実を知った時の痛みに比べれば。何も、比にならない。
「では、今後はそれぞれの管轄で…」
「ああ。世話になったな。…んで、あの宮野とかいう捜査官は…」
「先ほど佐藤から連絡がありましたが、骨折の心配もなく明日には職務に復帰できるみたいです。」
「そうか、アイツが噛みつかれちまったのも俺が油断したからだ、会ったら代わりに謝っておいてくれや。」
分かりました、と小さく頭を下げた伊達に片手をあげ、高明と共に帰路へ着く。
便利な時代になったもので、東京から長野までは1時間半ほどで帰ることが出来る。とはいっても時間は既に日を跨ぎかかっており、結局警察署へ戻ったのは次の日の早朝だった。
ホテルで一泊してからの報告となったものの、やはり疲れは取れず高明と共にげんなりと警察署へ戻ると、警察署内は想像していたよりもずっと騒がしく、特に新人で幼馴染の上原 由衣(うえはら ゆい)が顔を真っ青にさせてこちらに駆け寄ってきた。
「お、お帰りなさい勘ちゃん、諸伏警部…!」
「オイ上原、大和警部って呼べって何度も…」
「じ、実は甲斐さんの行方が分からないの…!!」
「――は?」
出そうと思って出した声ではなかった。
本当に、ただそう返す事しかできなかった。
甲斐巡査…甲斐 玄人(かい くろと)巡査は俺と上原がガキの頃からの知り合いで、俺も上原も甲斐さんに憧れて警察官を目指すほどの人で、
「そ、それに2年前に甲斐さんが逮捕した男が仮出所中に行方不明にもなってて、こ、殺されたんじゃないかって…」
「…どこで行方不明になったんだ?」
「いなくなった時間帯にはいつも祭りで披露する流鏑馬の射手の練習をしてるはずだから、今は練習場の森の当たりを捜索して…、あ、勘ちゃん…!」
何も言わず飛び出していった大和勘助を見て諸伏高明も息を吐いてその後を追った。
…しかし2人の尽力も空しく、結局1週間後…上原由衣によって甲斐巡査は遺体で発見された。
諸伏高明
(宮野黒凪という刑事は、印象に残る捜査官だった。)
(思えば弟も以前彼女のことを話していた。我々の両親の敵を取ってくれた、同期のうちの1人だと。)
(そんな宮野黒凪と諸伏高明が数年後にまた再会することになろうとは、この時は誰も予想だにしていなかったことだろう――。)
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