過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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5年前のあの頃, with 降谷零&諸伏景光
「――はあ、は、っ、」
ぶるぶると震える右手を左手で強く押さえて、拳銃を持ち上げ、銃口を標的へと向ける。
公安警察所属、降谷零は、廃ビルの中…椅子に括りつけられたその男をまさに殺さんとしていた。
「や、止めてくれっ! 俺は、俺はスパイじゃない…!」
「っ、う…」
「信じてくれよ! そ、そうだ! 俺を逃がしてくれたら金をやるっ! いくらでも、言われた額をやるっ!」
迷うな。躊躇するな。引き金を引け。引け…! 引け!!
ドンッ、と鈍く、低く、冷たい音が響いた。
途端に先ほどまで響いていた、命を乞う声もぴたりとやんだ。
代わりに、水滴が、いや、血が滴る音が、した。
「く、(こらえろ、吐くな俺…!)」
口元を抑えて、震える手で携帯を取り出して…今しがた自分が命を奪った男の死体を写真に収め、組織へと送信する。
…公安への所属が決まり、組織への潜入を初めて、早数か月。
すでに組織に潜入していた公安の先輩から任務を斡旋してもらい、徐々に組織へと食い込んでいくために下っ端として任務をこなす日々。
…日本の人々を護るために、誰かを殺すことは、罪ではないのだろうか。
「――ゼロ!」
「っ、うぅ…」
ヒロが待つアパートへと戻り、玄関先で崩れ落ちる。
そんな俺の元へと駆け寄ってきてくれたヒロを見上げれば、その頬には大きなガーゼが貼られていた。
朝にはそんなもの、なかったはずだ。
「ヒロ、それ…」
「え…、あ、これ?」
ヒロが自身の頬に手を添え、眉を下げて言った。
「銃が掠ったんだよ。はは、まさか日本で撃たれるなんてさ…びっくりだよな…」
その時を思い出したのだろう、ヒロの手が微かに震える。
そんなヒロを見上げて、俺は考えていた。
何のために俺たちはここにいるのだろう。と。
何のために、こんな犯罪者みたいなことをして、何のために…。
「!」
携帯がメールの受信を知らせる。
確認すると、班長からで。
《今日、珍しく宮野さん遅刻してきたよ。そしたら、服の袖に血みたいなのが付いてた。》
「(…黒凪)」
そうだ。俺は…。
携帯を開き、写真のフォルダを開いて…子供の頃に撮った写真を携帯で撮影したそれを見る。
子供の頃の自分と、黒凪が写った写真だ。
そしてその次には、警察学校時代に偶然彼女が、宮野さんが写り込んだ写真。
「っ…!」
「ぜ、ゼロ?」
勢いよく太もものあたりに拳を振り下ろすと、突然の行動に驚いたヒロが素っ頓狂な声を上げた。
でもこれで…、よし、身体が動く。
携帯をぐっと握りしめ、息を吐いてヒロへと目を向けた。
「…悪い、もう大丈夫、」
「…本当に大丈夫か?」
「ああ。ヒロこそ、その傷残りそうなのか?」
「いや、幸いそこまで深くはないから大丈夫。」
そんな風に会話を交わしながら玄関から中へと入っていく。
この時、彼らが目指す先にいる宮野黒凪の心がまさに折れかかり、また彼らが知る彼女とは、別人へと変貌しかかっていることなど、知りもせず――。
「――宮野さん」
『?』
そう、声をかけた宮野黒凪の同僚である伊達航は彼女の暗く冷たい目を見て思わず息を飲む。
ここ1週間ほど前のことだろうか。休み明けに仕事にやってきた彼女の雰囲気が、全く別のものになっていた。
もともと人とはあまり関わりを持たない彼女だから、それに気づいているのは警察学校時代から共に学んでいた自分だけだと、伊達航は自負していた。
「…殺人事件、だってさ。行こう。佐藤も来るそうだ。」
『…分かった。』
立ち上がり、無表情で上着を羽織り駐車場へと歩いていく宮野。
数日前には服の袖に血のようなものをつけて仕事に来ていたな…。
その血のことを指摘したら、朝から怪我をした迷いネコを家の傍で見つけて保護をしたのだと言っていた。
ま、きっと嘘だろうけど…。
「――あ、伊達さん。宮野さん。」
『…』
駐車場につき、先に車の傍に立っていた佐藤の声を聞いて宮野さんが顔を上げる。
そんな彼女の横顔を見てこうも思う。
――この数日で、随分とやつれた。というか、痩せた。
「おう、佐藤。現場までは俺が運転する、後部座席に乗れ。」
「はい!」
何も言わず助手席に乗った宮野さんを見守り、車を発進させる。
どこかぎすぎすとした俺たちの空気を察してか、佐藤が俺たちを交互に見ている様子がバックミラーで確認できる。
何があったのか、って思ってるんだろうな。…それはまさに俺が宮野に聞きたいことなんだよ、佐藤。
降谷零
(黒凪なら大丈夫だと、もう少し待ってくれるだろうと)
(そう、性懲りもなく信じていたんだ。)
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