過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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6年前のあの頃, 揺れる警視庁 1200万人の人質
「――住民の皆さんは、落ち着いて避難してください。」
本当に、普段通りだった。
「急ぐ必要はありません。落ち着いてください。」
まあ、爆発物を処理しているこの状況を “普段” とは、一般人は表さないだろうが。
「第一現場――爆発物処理、完了。」
そう本部へ報告を飛ばす同僚とともに現場から出て、とりあえず着用していた防護服を脱ぐために車へと急ぐ。
冬場とは言え、やはり防護服があると暑くてたまらない。
「っ、あ”ー、あち…」
本日11月7日。爆発物を設置したとの通報を受け、俺たち警備部機動隊の爆発物処理班が現場へと駆り出された。
今日は俺、松田陣平も同期で同僚のハギも宮野も出勤している。
俺だけは少し離れた位置の爆発物を処理していた関係で2人の現場とは離れているが、確か宮野も萩原も同じフロア内の担当だったはずだ。
携帯を取り出し、とりあえずハギならもう処理を終わっているだろうと電話をかける。
≪――うい、陣平ちゃん? どーしたの?≫
「おーハギ。電話に出てるってことは終わったか? 処理。」
≪いんやあ? まだだけど。≫
「何やってんだよ、さっさとばらしちまえよ。」
今となっては爆弾の処理何て俺とどっこいどっこいの速度で片せるはずなのに、何やってんだ?
そんな風に眉をひそめていると、「暑…」と女の声が微かに聞こえた。この声は…
「んだよ、宮野もそこか? お前が遅いから来たんだろ。」
≪はは、ご名答。ちょうどタイマーも止まってるし、防護服暑そうだから脱いできてもらったトコ。トラップも多くて慎重にいかないといけなかったし、宮野ちゃんと2人で解体しようと思ってさ。≫
≪萩原君、仕事中は電話は切ってくれる? 早く解体しましょう。≫
≪あ、ハーイ。じゃあな、陣平ちゃん。≫
「さっさと終わらせろよ。」
そうして電話を切り、ハギと宮野がいる当たりへと目を向ける。
日差しが強く、サングラスをかけて2人が下りてくるのを待つことにした。
10億円を要求するために仕掛けられた3つの爆弾だが、住民の避難を優先するため、すでに犯人の要求は呑まれタイマーは止まっている。
それを解除するだけだ、なんてことはない。――それでもなぜか、珍しく不安が解けずにいた。
そして自分を落ち着けるため、煙草に火をつけようとしたその時―――耳をつんざくような爆発音が響き、顔をあげると、先ほど俺が見ていたアパートの部分から黒煙が空へと上がっていた様を、見た。
爆発から約5分前。
指示された爆発物を前に、防弾盾をもつ他の機動隊員達が見守る中、萩原研二は同期の宮野黒凪とともに防護服を脱いで「はあ…」とため息を吐いた。
「どうやらこっちが本命だったみたいだね。手が込んでるわー…。」
『さっきの電話、松田君?』
「うん。珍しく俺が時間かけてるから心配してたみたい。」
『ふうん…』
この時、警備部機動隊員爆発物処理班所属、宮野黒凪は片膝をついて爆発物を眺める萩原を前にずきずきと痛むこめかみに苛立ちを隠せず、眉間にしわを寄せていた。
『(頭が痛いなあ。この部屋に入って――そうだわ、萩原君を見てから。)』
どこかで見たような気がする、この景色。
ああ、頭が痛い。
「宮野ちゃん? …うわ、顔色悪いじゃん大丈夫?」
『…萩原君、』
「!」
萩原君が少し驚いたように私の目を見つめる。
そうだ、こんな事前にもあった。萩原君と松田君が、機動隊にスカウトされたあの時だ。
あの時も私、この光景を思い浮かべてた。萩原君が爆発物を前に余裕ぶっていて――。
『(え、)』
サングラスをかけた松田君が見つめる先のアパートが爆発する。そんな情景が浮かんだ。
まって、そのアパート…今私たちがいるところじゃないわよね?
ぞわ、と背中を悪寒が走る。逃げなければいけないような、そんな気がした。
『…ねえ、本当にそのタイマー止まってる?』
「え、うん…。連絡があった通り、犯人の要求をのんでからタイマーはずっと止まってるし――」
『…私大事な工具を車に置いてきた。』
「へっ? 工具なら俺も――」
萩原君の腕を掴んで立たせて、ぽかんとしている機動隊員へと目を向ける。
『ごめんなさい。この爆発物が特殊なもので、別の工具が必要だわ。一度下まで降りましょう。もう住民は皆避難しているし、時間はかかっても構わないでしょう。』
「は、はい! 了解です!」
『行きましょう。』
「ちょ、宮野ちゃん…⁉」
この時萩原は何とでも文句を言えたはずだった。
十分な工具はそろっているし、彼女、宮野黒凪が言っていることは全くの嘘だと知識のある彼は気付いていた。
だが…どこか彼女の判断を鵜呑みにすべきではないと、彼女と過ごしてきた日々の経験や彼の勘が彼自身に訴えかけていた。――そう、のちに彼は松田陣平に語る。
――ピッ
「⁉」
萩原研二の背中を悪寒が走り、反射的に走り出し、前を歩いていた機動隊員に怒鳴っていた。
「タイマーが動き出したかもしれねえ! 皆走れ!!」
「えっ⁉」
「ええっ⁉」
『っ、急いで…!』
機動隊員たちを非常階段へと押し込んでいく。そのさなかで ピーッ と嫌な音が響いて、
ものすごい爆発音が響き、視界に閃光が走った。
そしてその衝撃で飛ばされた萩原研二の身体が、その正面を走っていて、音に振り返った宮野黒凪の身体の上へと降ってきた。
『――!』
目を何度かしばたたかせ、周辺へと視線を走らせる。
病院の個室、か。身体は、…痛い。
少し身体を起こし、服をめくるといたるところが打撲のようになっていた。
その状況を確認すると、少しずつ何があったか思いだしてきた様に思う。
『(そうだ、仕事中に爆弾が爆発して…萩原君と…)』
外はもうずいぶんと暗くなってきているし、爆発してから意識を失って幾分か時間が経ったらしい。
ため息を吐いて組織に連絡を…と思った時、病室の扉が開かれ、組織の下っ端であるイーサンが顔をのぞかせた。
「…起きたか。」
『…イーサン…』
傍の椅子に座ったイーサンが無言で私の顔を見て、全身を見てから携帯を開いた。
「あんたの職場から爆発に巻き込まれたと連絡があってな。とりあえず俺が様子を見に来たんだ。」
『そう…ジンは?』
「別に何とも。その怪我が全治2週間程度だと伝えれば、1週間で組織に顔を出せと言っていたがな。まあ、むち打ちの症状もあるらしいから今後の為にも俺の方から断っておいてやるが。」
『…それはどうも。』
とりあえず直接様子を見に来たのだろう、イーサンは恐らくジン宛てであろうメールを送信すると立ち上がり扉に手をかけて言った。
「ま、暫くゆっくりするといい。」
『ええ…ありがとう。』
そうして出ていったイーサンを見送り、萩原君へ連絡を取ろうと携帯へと手を伸ばし、開いた。
『!』
萩原君からメールが届いている。
開くと、恐らく松田君が撮ったであろう写真と「おかげさまで」の一言。
写真の中の萩原君の左足と左腕には真っ白な包帯がこれでもかというほどに巻かれていた。
しかしその表情はそれほど悪くはなく、笑顔を浮かべている。
『(生きてる…)』
扉が開く音がして携帯から顔をあげれば、扉を開いた張本人――松田陣平が私を見て驚いたように肩を跳ねさせた。
そしてどたどたと勢いよく部屋の中に入ってきて、私の両肩をがっと掴む。
「宮野っ! いつ起きたんだお前⁉」
『…さっきだけど…』
驚いてそう答えると、私の頭の包帯やら頬のガーゼやらを隅々まで見て、最後に私の目を見て…やっとほっとしたような、落ち着いた顔を見せた。
「ハギの方が重症なのに、お前全然起きねーんだもんよ…。心配したぜ…。」
『…萩原君、そんなに悪いの?』
「…。ああ。左腕と左足に重度の火傷だってよ。仕事の復帰は難しいらしいぜ。」
『…そう…』
しん、と沈黙が落ちたところでまた病室の扉の方から音がした。
今回はイーサンや松田君の様に急に扉を開けたような音ではなく、ノックだが。
「――松田、入っていいか?」
『(この声…)』
「おー。丁度宮野も起きたぜ、班長。」
ガラッと扉が開き、思った通り伊達君が顔を見せた。
そしてその視線が私と交わると松田君と同じようにほっとしたような顔をして、椅子を引っ張って松田君の隣に座った。
「いやー、よかった。萩原の方がものすごい重症なのに宮野さん全然起きないし…」
「それもう言った。」
「お? そうか。」
『…で、犯人は捕まえたの?』
確か伊達君は警察学校卒業後に警視庁刑事部捜査一課強行犯三係へと配属されたはず。
やはり彼は我々機動隊とともに今回の事件を刑事として追っていたようで、私の言葉に「それがな…」と少し神妙な顔をして答えた。
「被疑者死亡で送検されたよ。」
『…死亡?』
「ああ。あの爆発の直前に犯人から連絡が来ていたんだ。”爆弾の解除方法を教える”っつってな。その電話を逆探知して確保に向かったら、驚いた被疑者が道路に飛び出して…そのまま。」
『随分と親切な犯人だったのね。身代金も手に入れたのに、そんなところでミスをするなんて…』
「本当だぜ。もしまだ逃げてたなら、俺が地の果てまで追いかけて…必ず捕まえてやるのによ。」
ちらりと松田君へと目を向ける。
親友を傷つけられたことで怒りが抑えきれないのだろう、その様子を見つつも伊達君に目を向けたところで…また扉がノックされ、看護師が顔を見せた。
「あら、まだ面会の方がいらっしゃったんですね。そろそろ面会時間が終わりますよ。」
「おっと、それは失敬。…いこうぜ、松田。」
「ん、ああ。…宮野、また来るわ。」
『仕事で忙しいでしょう? 2週間程度だし、そんなに心配していただかなくて結構よ。』
そんな私の言葉にふ、と笑って松田君と伊達君が病室を出ていく。
その様子を見送った看護師は次に同じように隣の部屋の扉をノックして開く。
萩原研二の病室であるそこでもまた、面会をしていた2人を見つけた。
「面会時間はもう終わりですよ。」
「――お、残念。また来てよ。降谷ちゃん、諸伏ちゃん。」
「もちろん。」
「そうだね。また今日みたいに皆で来るよ。」
看護師の言葉を受けた降谷零、諸伏景光が椅子から腰をあげ、それぞれ荷物へと手を伸ばす。
その様子を横目に萩原が徐に口を開いた。
「…これから色々と忙しくなるって言ってたけど…。気を付けなよ、2人とも。」
「…ああ。」
「うん…。」
「…降谷ちゃん。宮野ちゃんのこと、ちゃんと護れなくてゴメンな。」
「…何言ってるんだよ、十分護ってくれたじゃないか…。」
どこか泣きそうな顔をして、萩原の傷へと目を落とし…そう降谷が言った。
そして病室を出て、廊下で待っていた様子の班長と松田へと目を向ける。
「…宮野さんは?」
「わりと元気そうだったぜ。心配していただかなくて結構よ~なんて余裕ぶっこいてやがった。」
「そっか…よかった。」
松田の言葉にヒロもどこか安心した様子でそう答えると「じゃあ行くか、メシ。」と笑顔を見せた班長へと目を向けて、彼も小さく笑顔を見せた。
萩原は療養中で来れないが、この3人で食事に行くのは随分と久しぶりだし、楽しみだ。
それに…萩原を含めた全員で話していた “あの事” についても、改めて話す必要があるだろうし。
「――で、いつから忙しくなるんだって?」
焼肉を焼きながらそう松田が問いかけてくる。
追加のお冷を頼んでいた俺はその言葉に松田へと目を向け、ヒロと目を合わせて…声を潜めて答える。
「来月からだ。それからはほとんど俺ともヒロとも連絡はつかないと思ってくれ。」
「いよいよ公安っぽい仕事だな。」
そんな松田の言葉にヒロが焦ったように肩を跳ねさせ人差し指を口元へ持って行った。
「ちょ、松田、しーっ…」
「っと、悪ィ悪ィ。」
「…にしても、運よくお前たち2人とも同じ場所への派遣でよかったな。…それも ”大本命” の現場だろ。」
大本命。…そう。まさに班長の言う通り…俺とヒロはずっと希望していた、あの組織へのスパイとして来月から働くこととなった。
宮野さんが関係しているとされている、あの組織に。だ。
「ああ。本当運が良かったよ。上手くやっていかなきゃいけないのはこれからだけど…。」
「…ちなみに班長と松田は、さっき萩原が言ってた事…どう思う?」
「爆弾の件か?」
「うん。」
萩原が言っていたこと、というのは…まず彼の目が覚めたという一報を受けた俺たち4人で萩原の病室に集まっていた頃。
まだ宮野さんは目覚めていなかった時間帯。
《爆発寸前のことなんだけどさ、ちょっと宮野ちゃんの様子が妙だったんで一応報告。》
《妙だった、って?》
萩原の言葉にそう返せば、彼は思い返すように右上を見つめながら言う。
《俺の現場に来た途端に顔色が悪くなって、手元にあるはずの工具が欲しいとかって上手く言って俺たちを爆発物から遠ざけたんだ。そしたらタイマーが動き出して…》
《…それってつまり、何らかの方法で宮野さんは爆弾が爆発するかもしれないことを知ってたって事?》
《そうとは言い切れないけどね。実際宮野ちゃんもかなり危険な状況だったし、現に今も意識は不明のまま。正直、一歩でも間違えば死んでだような現場だし…知ってたとは思えない。》
けど、いつも以上に警戒はしてた、かな。不思議なほどに…。
そんな萩原の言葉を思い返す。…不思議なほどに、か。
「…まあ、俺個人は…爆発することを宮野が知っていようといまいと、ハギを助けたことは事実だろ? そこに注目すべきだと思うけどな。」
「俺も同感。それにたとえこの爆発事件に彼女がかかわっていたとしても、それは彼女の意思じゃない。そう思う。」
松田と班長の言葉にヒロが小さく頷く。
「うん、僕も正直そう思う。…だからこそ、今回の仕事はチャンスだと思うんだ。僕とゼロは仕事もこなしつつ彼女を警察で保護できるようにするつもり。な? ゼロ。」
「…ああ。」
俺の返答を聞いて松田が小さく笑顔を見せ、肉を俺の皿へと乗せて行く。
「それでいいんじゃねえの? …ずっと悩んでたんだろ、ゼロ。あいつが敵なのかそうじゃないのか。…今回のハギの件で分かったんじゃねーか?」
「…ああ、そうだな。彼女が危険な組織に関わっていることはきっと事実だろう。けど…彼女は、悪い人間じゃない。きっと。」
ぐびぐびとビールを飲んで一息ついた班長もこちらに目を向け、隣の松田の肩へ腕を乗せた。
「ま、俺は相変わらず蚊帳の外だけどよ、いつでも呼んでくれよな。手を貸すからよ。」
「はは、そうだな。…ま、ハギは離脱しちまったけど変わらず俺の方で宮野の様子は見ておく。安心して行って来い。」
…なんて、こんな風に話をしてその日は終わった。
――まさかその数か月後の翌年3月に、彼女が突然機動隊を去り…班長が所属する警視庁刑事部捜査一課強行犯三係へと配属されるとは、夢にも思わずに。
物語が、動く
(わざわざ病院まで私に会いに来るなんて…一体どんな要件なのかしら。ジン…。)
(退院後、すぐに捜査一課への異動の希望を出せ…)
(え?)
(あの方からの命令だ。そろそろこの日本でも我々が暗躍する時が来た。)
(首を縦に振るしかない。)
(私には志保がいるから…、どんなに悲しくとも。苦しくとも…。)
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