過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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6年前のあの頃 with KEVIN YOSHINO
「 ――Hey. It’s you again. (よう。またお前か。) 」
『 You always say like that… (いつもそう言うわね。) 』
「 Huh! How can I believe that they leave the firearm supplies to you? You’re just 20-ish right? (はっ! どう信じろってんだよ、奴らが武器の調達をお前に任せているなんて…あんた、まだ20前後だろ?) 」
『 Well, I am also half Asian…you can’t really tell how old I am. (まあ、私もあなたと同じくアジア系の血が混じっているからね…見た目から予想した年齢なんて当てにならないわよ。) 』
時間としては、深夜2時といったところか。
東京のショップ街に建つミリタリーショップの裏口でそう会話を交わし、ガタイの良い男が身体をすっとずらし、入口に立っていた女性を招き入れた。
ここまで彼女が乗ってきていた車を運転してきた人間は車の中に。これもいつものことだ。
いつも俺の店にアメリカから不法に入手した武器を買い付けに来るのはこの若い女1人だけ…。
「…まじでどういう経緯だ? あれか? 日本でも話題になっている違法バイトってやつか?」
『その話に応えるつもりはないといつも言っているでしょう。』
「つれねえなあ。まあいい…好きなだけ見ていってくれ。」
壁についているスイッチを押せば、部屋が明るく照らされ机の上に並べておいた、新しく入手した違法武器の数々が姿を見せる。
女は顎に片手を持っていき、じいっと武器を物色し始めた。
『…。ふむ。これと、…あとこの拳銃。他にも在庫はある?』
「いや、1点ものだ。」
『ならまた来月かしらね。』
「ん、いや。」
俺の返答に女が振り返る。
黒いキャップを目深にかぶっているせいで出来た目元の陰から覗く瞳が俺を貫いた。
『何?』
「…実はな、今回で最後にしてもらうつもりなんだ。」
『…どうして? 随分と急ね。』
「このビジネス以上に集中したいことが出来た。今回の銃をすべて破格の値段で売ってもいい。できるか?」
沈黙が落ちる。
しばし視線が交え、やがて…女からその視線を外した。
『分かった、いいわ。貴方とはいつ契約が切れてもいいように深く情報の交換はしていなかったから…大丈夫よ。』
「へえ、ここ以外の店じゃあなんだ? ビジネスパートナーを辞めれば殺されるか?」
『そうよ。』
言葉が一瞬だけ喉元につっかえた。
おう、そうか…。やっぱこいつのいる組織、結構やばいところらしいな。
契約の際に出来る限りその素性を調べようとしたが、全く何もつかめなかった。
まあ、それだけの組織だから契約を取ったわけだが。俺に正体を暴かれる程度の組織との契約何てリスクが高すぎるし。
『…そう怖がらなくて大丈夫。覚えている? 貴方との契約を取り付けたのも私でしょう?』
「ん、あぁ」
『他の連中に腕のいい取引相手を奪われたくないからね…。組織に貴方の情報は全く回していないの。』
「…んなことして、もしもあんたが俺に偽物を掴まされたら…」
『殺されるでしょうね。』
ひく、と頬がひきつる。
んなリスキーなことをその若さでしなくとも…。
そんな俺の考えを読んだのか、ふ、と薄く笑みを張り付けて女が言う。
『大丈夫。私、見る目はあるから。』
「んなもん、その若さでどこで…」
『…聞きたい?』
今度は背中が冷えた。
そういえば、この女とこんなに話すなんて初めてかもしれない。
思い返せばこいつ、1年前からよく話すようになった。
『ねえ、聞きたい? 私がどんな人生を送ってきたか…。』
「…っ、」
『貴方の人生と、比較してみる…?』
「…いや、いい。それを聞いてしまうと戻れなくなる気がする。」
ここまで感情を殺した目を誰が出来た?
俺がかつて所属していた、アメリカの海兵隊の中で。
…ああ。いたな。戦争で人を殺した奴らだ。そうだ。彼らもいつか、この女と同じ目をしていた。
だけどこの女はまだ、
女が目を伏せ、再び重火器に目を落とす。
『…このライフルもいただいていくわ。それ以外は必要ない。』
「(この女はまだ、子供なのに。)」
『? …Hello? (ちょっと?) 』
はっと意識を現実に戻す。
「す、すまない。なんだって?」
『このライフルもいただくって言ったの。合計でいくら?』
「あ、ああ。少し待ってくれ。」
料金を計算していく。その中で沈黙が落ちた。
この沈黙を沈黙のままで放っておけないのがアメリカ人の悪いところかもしれない。
「…最近どうだ?」
『…何も変わらないわ。』
「いい年なんだ。男はいないのか。」
『いない。』
即答か。ま、人を殺しながら誰かを愛するなんて…無理な話だよな。
「…きっかり20万でいいぜ。」
『Ok.』
「…。」
ぎっしりと札束が詰まった封筒を取り出して数を数える女。
不思議と、会計時にこの女を拘束してその金を奪ってやろうと思ったことは今まで一度もない。
いや…奪えると自信を持って言えないからだろうな。
隙が無いのだ。この女には…。
「…想像しないか? 町を歩いている時、普通の人間のふりをしているとき…」
『?』
「俺たちとは違った人生を生きてきた男と生きてみたいとか。」
『…ふ、ないわね。』
札束が俺の目の前に差し出される。
それを受け取り、数えるために何度か札束をぐにぐにと曲げた。
『私、男の人には護ってもらいたいの。』
「ふは、そりゃあ時間がかかるぞ~」
『あらヒドイ。』
「見つかるといいな。…本当にあんたにそんな男と手を組まれたら、敵対はしたくないものだ。」
札束を数え終わり、奥へと持っていく。
そして戻ってきたときには女は購入したばかりの武器を車に詰め込み始めていた。
やがてすべての購入品を車にいれ、女がこちらに目を向ける。
『 Thank you. I hope you’ll have a… (ありがとう。どうか…) 』
「?」
『 …I hope you’ll have a great life. (どうか、幸せに。) 』
背を向けた女に「 Hey, 」と声をかける。
女は振り向かなかった。しかし足を止めたその背中に、
「 Good luck. (幸運を祈る。) 」
そう、声をかけた。
女は何も返してはこなかった。
助手席の扉を開き、静かに乗り込んで扉が閉じられる。
そして奥の暗がりへと消えたその車を見送って、俺自身も店の中へ戻る。
武器を片し、部屋の電気を消そうとして、壁に掛けられた写真を見て動きを止めた。
「(ハンターさん、あんたの敵は必ず俺が…)」
武器商人
(ケビン、お前マジであの組織から抜けられたのか? そんなに簡単に?)
(ん? あぁ…)
(噂じゃ、神奈川でグレッグの死体が見つかったらしい。アイツもあの組織との取引を辞めたいって言ってたもんでな…お前を心配してたんだ。)
(…。マジ、か。)
(お前、マジで運が良かったんだな…。でも暫く気を付けておけよ。)
(その忠告に「ああ」と答えつつも、俺はどこか…自分は大丈夫だという確信を捨てきれずにいた。)
(何故なら、あの女が…俺の目をまっすぐに見て言ったから。)
( “大丈夫” 、と。)
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