過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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6年前のあの頃, 時計じかけの摩天楼
「――うぅ、緊張するなあ…。志願したのは自分だけどさ、機動隊って休みなく訓練し続けるみたいだし…体力持つかなあ…」
「俺も、正直ドラマで見るようなデカになって犯人を追いかけまわしてみてーよう…」
と、会話を交わす、本日付で機動隊に配属された新隊員2名。
彼らは配属先の雰囲気や先輩たちなど、本日目の当たりするであろう現実というものに期待や不安など様々な感情を抱いていた。
「しかもさ、噂によると去年の新隊員…いわば俺たちの1年先輩の代には機動隊から直々にスカウトを受けた天才が3人もいるって噂だぜ? しかもそのうちの1人は女性だって…」
「あー、聞いた聞いた。全員爆発物処理班に配属されたんだってなあ…。ホントどんな心臓してんだか。爆弾を解体するんだぜ? 考えるだけで身震いする…」
「――二列縦隊マラソン始めェ!」
早速機動隊の訓練の一環であるマラソンのタイミングに出くわしたらしい。
涼しい顔をして走っていく機動隊員の先輩方をぼーっと眺める2人は、いつの間にか機動隊員に交じって走るとある3人組を目で追っていた。
「聞いたよ宮野ちゃん。前の祭りでの警備でセクハラしてた被疑者2人捕まえたんだって?」
「おぉそーだよハギ。お前聞きてえか? こいつはなぁ、俺を放って被疑者の確保に向かいやがったんだ! 俺が現場を見つけたのにも関わらず!」
『セクハラ被害に遭っていた被害者は2件とも学生だったから、女性警察官が行くべきと判断したまでよ。』
「んだよ俺だと怖いってのか⁉」
『そうね。』
「あぁ⁉」
「ハハハ…」
背の高いイケメンと、くせ毛のイケメンとハーフ美女が言い争っている…?
途端にきゃーっと後ろに続いていた新隊員から黄色い悲鳴が上がる。
「見て! あの人がミス・パーフェクトの宮野先輩よ!」
「噂に聞く通りの美人…!」
「スタイルも良い…!」
そう騒いでいるのは今年から飛躍的に増えたという機動隊を希望した女性隊員達だ。
噂によると去年の代で抜群の成績を残した、ミス・パーフェクトというあだ名の女性隊員がいるからとのことだが…なるほど、あのハーフ美女がそのミス・パーフェクト、宮野黒凪先輩かあ…。
「そして隣に走るのが萩原先輩と…」
「松田先輩ねっ! 皆スカウトされた天才っていう噂の…!」
なるほどそしてその宮野先輩と一緒に走るあの2人が例の天才…。
そんな羨望の視線を一斉に受ける3人だが、対して当の本人たちの反応は冷めたものだった。
「爆発物処理班にスカウトって、なんか機械オタクだって言われてるだけなよーな…。」
「ま、違いねーな。」
『…。』
「あ、お前自分は違いますって顔したろ。お前も同類だぞー。」
ぎ、と向いた宮野の不機嫌な顔。
こいつマジで喜怒哀楽の「怒」しか出さねーな…。
「ちょ、宮野ちゃん早いって~」
「テメェ黙ってんじゃねーよ宮野!」
『……』
機動隊。日本の警察組織において、集団的警備力及び機動力を有し、治安警備及び災害警備等に当たる部隊である。
本部の警備部に置かれ、集団警備力の中核を担う警備警察の常設部隊である機動隊の主な仕事は、空港や外国施設の警戒、花火大会やお祭りなどでの人や車の整理誘導、犯罪を発生させないためのパトロールなどである。
その他にも、危険物の処理、災害発生時倒壊した住居や密室に閉じ込められた人など、人命救助も担っている。その為機動隊員は、日ごろから体を鍛え、いつでも出動できる体制を整えているのだ。
とはいえ、松田陣平、萩原研二、そして宮野黒凪がスカウト、配属されている専門部隊である爆発物処理班は主に空港などでのテロの対策を主な仕事としているため、前出の祭りでの警備の仕事を担うことは稀である。
『(この2人…元々体力は十分あったけど、機動隊に入ってからさらに洗練されてるわね…)』
私が距離を取ろうと速度を出しても、涼しい顔でついてくる。
と、私がげんなりしているにも関わらずニコニコ笑顔でついてくる萩原君とずっとしゃべっている松田君。
まあ、積極的にこちらの事情を知ろうとして来ていた伊達君は刑事部、レイ君と諸伏君は(
「宮野ちゃん、今日も昼メシ行こ?」
「今日は串カツな!」
『(この2人、学校にいた時よりベタベタしてくるんだけど…。)』
こんな私と仲良くなったって何にもならないのに。
なんて、もう1年もこの調子なので松田君と萩原君に関しては対処を諦めかけていた。
『串カツなんて食べている場合じゃないでしょう。東洋火薬の火薬庫からオクトーゲン等の爆薬が大量に盗まれたあの事件…まだ犯人の目途も立っていないし。』
「ああ、そういやもう丸1日経ってるな。」
「だからこそだよ宮野ちゃん。これから忙しくなるんだろうし、今のうちにやりたいことしておいた方がいいっしょ?」
人差し指を立てて言った萩原君に諦めの意を込めてため息を吐けば「決まりー。」と松田君がニマニマと笑いながら言った。
「…あの、宮野さん。今日昼ご飯とか…」
『いえ…今日は (というか今日 “も” だけど)』
やはりイギリス人の母を持つ私の見た目は珍しいのか、まあ志保もあんなにかわいいのだからきっと私の容姿もそう悪くはないのだろうけど、いざ仕事始めるとこういった類の誘いが徐々に多くなっていた。
学生時代とは違って自由度が上がるため、そして機動隊という特殊な職種だとおめおめ恋人も作ることが出来ないためだろうが…。正直迷惑をしていた。
「じゃあいつなら大丈夫?」
『(今日はしつこいな…) そうですね、まだなんとも…』
「じゃあ明日は⁉」
『…。』
いけないいけない。眉間にしわが…。
「じゃ、じゃあ明後日!」
『…あの』
「何々~うちの宮野ちゃんにナンパですか? センパイ♪」
「すんませんけど、宮野は今日も明日も明後日も俺らとメシ行くんで。無理っすよ。」
ああ、またこいつら来た。
そんな顔をした先輩の顔を見ないようにして、何も言わず現れた萩原君と松田君を見上げる。
まあ、ロクに話したこともない先輩とご飯に行くよりは気心の知れた2人と行く方が格段に楽ではある。
その上、2人は伊達君たちの様にこちらの事情を探ってはこない。(何やら気にはなってはいるようだけど)
だから、楽は楽。
「宮野さん…、」
『…。すみません。』
「そんなあ…」
「じゃ、お疲れーっす。」
「午後もよろしくお願いしまーす。」
うなだれる先輩を背に左に萩原君、右に松田君という状態でエレベータへ。
まだまだ1年目の新人だというのに、やはりスカウトされた片鱗を存分に見せている2人を侍らせている(様に見える)所為か、先輩方や職員たちは皆私たちを遠巻きに見たり、道を開けたり…と、私たちと一線を引きたがっているように見える。
周りと極力なれ合わないようにしている私のせいでもあると思うけど。
「なー、ゼロとヒロに最近連絡とったか? ハギ。」
「ちょこちょこ来てるぜ? 宮野ちゃんのこととか心配してたり…。ほれ。」
「んー? おー。ヒロ髭生えてきてんじゃん。」
ほい。とまるで私も見たがっていたかのように携帯の画面を見せてくる松田君。
一応ちらりと見ておいて卵の串カツを頬張った。
「ゼロの奴、お前の体調どうだって心配してるぜ? 宮野。」
『貴方たちから見たままを伝えればいいんじゃない? 私には連絡来てないし。』
「だってオメー連絡しても返さねーじゃん。」
『業務連絡は返答しているわ。』
「業務連絡以外も返答しろっての。」
ま、いいけどよー。
なんて言いながら携帯を操作し、これでいいか? とまた画面を見せてくる松田君。
『…。(“今日も卵の串カツばっかり食ってる”…って体調のこと書いてないし。)』
「ついでに卵食ってる写真撮っていいか?」
『遠慮しておくわ。』
「ノリ悪ぃなあ。」
ほれハギ。返事送っといたぜ~。
なんて言った松田君に「あんがとー」と軽く返して串カツを頬張る萩原君。
松田君はともかく、萩原君は他の女性隊員たちからも食事に誘われているはずなのに、全部断って私と松田君とばかりつるんでいる。
この人、恋人とか作る気はないのかしら。友情に生きるタイプ?
「ん?」
にっこり笑顔で小首を傾げる萩原君を見て、お通しで出ていたサラダを口に含む。
…本当、私なんかに構っていなくていいのに。変な人たち。
――でも、心地よくないといえば嘘になる。感謝している。けどね、萩原君、松田君。
『…。』
私は貴方たちにそんな風に扱ってもらえるような、人間じゃないのよ――。
目を伏せ、お茶を飲もうと手を伸ばしたとき…3人の携帯がほぼ同時に着信を知らせた。
『――はい、宮野です。』
≪至急本部へ戻れ。例の爆薬窃盗犯から連絡が来た。≫
『分かりました。』
通話を切って立ち上がれば、松田君と萩原君の元に届いた連絡も同じものだったのだろう。
彼らもジャケットやらを羽織り、清算を済ませていた。
「さーて、忙しくなるぜ…。」
「な? 上手い昼飯食べておいてよかったっしょ?」
『はいはい…』
「今しがた、自身を爆薬窃盗犯と名乗る人物から警察本部に連絡があった! 堤向津川緑地公園(ていむづがわりょくちこうえん) にて爆弾を設置したとのことだ。急がなければ子供たちが死ぬ、と。直ちに現場へ急行せよ!」
「「はっ!」」
「犯人はすでに数十個もの爆弾を様々な場所に設置していると供述しており、我々が大体的に捜査を開始した時点ですべての爆弾を一斉に爆発するとのことだ。」
「犯人曰く、爆発にはオーディエンスが必要とのこと…。その為君たちには一般人に扮し、秘密裏に爆発物の処理を要請する。心してかかれ!」
本部からの要請で、犯人を逆上させないために少人数での出動となり、また数名ずつでチームを作ることとなった。
そのためチームワークが必要な捜査であるため同期である俺、陣平ちゃん、そして宮野ちゃんでの3人でチームを組むこととなり、早速私服に着替えた俺たちは公園で爆発物の捜索を開始する。
「よし、まずは爆弾を見つけるところからだな…」
「子供たちが死ぬってことは、子供たちが集まる砂場か…?」
『…いや、わざわざ警察に連絡を取ってまで人に集まって欲しい目立ちたり屋ならもう少し派手な何か…』
「きゃはは…、あっ、ごめんなさいっ」
公園で遊んでいた少女が宮野ちゃんの足にぶつかった。
おお、よりにもよって宮野ちゃんにぶつかっちゃったかあ、と子供にも不器用な態度を繰り出すであろう彼女のフォローに回ろうとした。
が…。
『大丈夫よ。私こそごめんなさいね。』
「いーよー!」
おそらく幼稚園か小学校で習った、ごめんなさいへの返答だろう。
かわいらしいその言葉に宮野ちゃんはにっこりと笑って頷いた。
その様子を思わずぽかんと見てしまう俺。いや、陣平ちゃんも同じような顔してるか。
なんてしている間にも、宮野ちゃんがしゃがんで女の子になおも話しかけた。
『それよりみんなで遊んでるあの飛行機…誰の?』
「あれはね、知らないおじちゃんがくれたんだー! 好きに遊んでいいよって!」
『! …そう。』
宮野ちゃんがこちらに目を向ける。
なるほど知らないおっさんが渡して来たおもちゃなんて怪しさ満載だわな。
「陣平ちゃん。」
「おうよ。…おーいガキンチョども! 俺がその飛行機改造してもっと早く飛ぶようにしてやるよ!」
「えっホントー?」
「おうよ。だからそれ一旦…」
ギュン、と急に飛行機の方向が変わったのが見えた。
飛行機を操作している子供達は陣平ちゃんと話しているにも関わらず、だ。
遠隔操作可能なのかよ…⁉︎
「陣平ちゃん危ねえ!」
「⁉︎」
『(ああ言うのは細かい小回りが効かない。松田君が避けた場所を通過して上に飛び上がったタイミングを狙う…)』
――拳銃を構え、動く飛行機に標準を定める。
萩原くんの声に反応した松田君が子供達を抱えて飛び退き、狙い通り飛行機がそのままの勢いで上空へと飛び上がった。
両目を大きく開いて標準を定め…引き金を引いた。
途端に発砲音より何倍も大きな音と衝撃が走った。飛行機の胴体部分に付けられた爆弾が爆発したのだ。
『っ⁉︎』
そして私を襲う横からの衝撃。
驚いて目を向ければ、そこには私の体を倒し、降って来た破片やらから私を守ってくれたらしい萩原君の顔がすぐ目の前にあった。
萩原君は私と目が合うと、ばっと振り返って松田君へと目を向ける。
「っぶねー…。陣平ちゃん大丈夫か⁉︎ 子供達は⁉︎」
「うわぁあ〜ん!」
「ビビって泣きじゃくってるけど大丈夫だ…!」
「宮野ちゃんも怪我ねえ⁉︎」
頷けば、はああ〜…と大きなため息を吐いて萩原君が項垂れた。
「にしても悪趣味だなあ、ホントに子供に遊ばせてた玩具の飛行機に爆弾貼っつけてるなんて…。」
「…って、さっきまで気づかなかったけど何だこれ?」
松田君の声に振り返る。
飛行機の玩具で遊んでいたうちの男の子の背中に紙が貼り付けられていたらしく、それをひっぺがす松田君が見えた。
「――!」
そして1人顔色を変える彼の傍で指揮を取っていた先輩が本部からの電話を取り…
「ええっ⁉︎」
と声をあげて松田君を見る。
「りょ、了解です。本人たちにも事情を話します…。」
そう言って電話を切った先輩を横目に立ち上がると、ひと足先に萩原君が松田君の元へ。
「陣平ちゃん、何ソレ?」
「お、おう。多分これ犯人の電話番号じゃ…」
「それについて説明する。松田、萩原、そして…宮野。」
『え?』
「こっちに来てくれ。」
どうして私まで? そんな私の疑問に対して先輩が話した説明がこうだ。
まず、先程の爆弾を仕掛けた犯人は我々機動隊を遠くから監視していた。
そして最初に子供達が遊んでいる飛行機に爆弾が仕掛けられていることに気づき、かつ犯人の連絡先を発見した3人…つまり私たち。
この3人のいずれかの携帯に電話番号を登録させて、連絡を取れ。それからの連絡手段はその電話のみとなる。
もし言うことを聞かなければ仕掛けた爆弾全てを直ちに爆発させる。…とのこと。
「そして最後に、だ。ここから犯人が指定した場所での爆弾の処理は君たち3人だけで行えとのことだ。」
「いいぜ…やってやろうじゃねえか…!」
「2年目の若手がやる仕事じゃないっすね…ハハハ」
「もちろん我々もバックアップする。本部も犯人確保に動き出している…安心しろ。」
先輩の言葉に頷き、犯人の要望通り他の機動隊員が一旦公園から出て行き、指名された私たち3人だけが残り紙に記された電話番号へ連絡を取った。
≪――まず君たちを称賛しよう。よく爆弾を見つけ、被害を最小限に留めた。≫
「(変声機で声を変えてやがる…) んな前置きはいいんだよ。さっさと次の爆弾の位置を教えやがれ!」
≪その前に自己紹介でもしてもらおうか。今話している君は?≫
「…松田だ。隣で話を聞いてるコイツは萩原。んで女の機動隊員が宮野だ。」
いいだろう。では次の爆弾だ…。
米花駅前広場の木の下に爆弾を設置した。爆発は14時丁度に設定してある…。
誰かが持っていく前に見つけ出すんだな。
ぶつ、と通話が切られ、松田君が携帯を閉じた。
「14時…あと20分しかないぜ。」
「米花駅まで車で5分。ここに来るまでに乗ってきた俺の車で向うっきゃねーな。宮野ちゃん、行こう。」
『(面倒なことになったなあ…)』
3人で車に乗り込み指定された米花駅へと向かう。
東京市内の駅のため、車を止められる場所は限られている。
萩原君が私と松田君を先に駅前へ下ろし、車を止めるために一時離脱した。
この時点で爆発時刻まで15分。
「木の下っつてたな…それらしいもんはねえぞ。」
『人が持っていきかねないものよね。そうなると見た目も綺麗にした、持って行きたいと思わせられる何か…』
ニャア、と猫の鳴き声がして振り返ると、婦人がピンク色のペットケースをベンチの下から動かしたのが見えた。
『(…確認しておいて損はないか。)』
「宮野?」
「…あらあらまあ、お前捨てられてしまったんだね…」
そんな風に猫に話しかけている婦人の側で足を止め、笑顔を浮かべて話しかけた。
『かわいいですね、その猫ちゃん。』
「えっ? ええ、捨てられていたようなの。」
猫の体を確認する。爆弾のようなものは見当たらない。
一応のためケースの中も…。
『(ビンゴ…あと8分。)』
ケースの中に取り付けられたタイマーに目を細め、松田君に目を向けると彼も爆弾がこのケースの中にあることに気づいたらしい。
『その猫ちゃん、お任せします。でもこのケースは頂きますよ。』
「え…」
『失礼。』
「あ…」
そうして爆弾を持って松田君が呼び戻してくれた萩原君の元へ。
「どこに持ってく? あと何分?」
『5分。』
「ハギ、できるだけ市街地から離れてくれ! 俺が爆弾を解体する!」
「了解…!」
私が持つ携帯のライトでケースの中を照らし、松田君が解体に取り掛かる。
抜け道を駆使して私たちが出せる全速力で市街地から離れる萩原君、爆弾が揺れないようにとケースを抱えて踏ん張る私、そしてコードを切り爆弾の解体を行う松田君。
「ったく、こんなもん市街地に持ち込みやがって…!」
『…待って、そのコード切っていいの?』
「あ? …えーっとこのコードがこっちだろ? んで…おう、切っていいわ。」
『そう。』
パチン、とコードを切る音が響く。
自分たち以外の人間にとってはこんな状況下で何を流暢にと思うことだろう。
班長や諸伏ちゃん、降谷ちゃんでも同じように思うかもしれない。
そう萩原研二は車を運転しながら考えていた。
「(それでもま、こんな危険な部署にスカウトされてほいほい入っていくようなバカ3人なんでね、俺たちは…。)」
「…っしゃ! 止まった!」
『3時58分。ギリギリだったわね。ありがとう。』
「じゃあ俺らを心配して後をつけてくれてた先輩方にそのブツ預けちまおうぜ。」
車が赤信号に捕まったところで解除された爆弾を道の端に置き、離れていく。
バックミラー越しに先輩がそれを回収したのを確認して陣平ちゃんに目を向けた。
「さて、もう4時だし次の爆弾の連絡が来るかもな?」
「ん、そうだな。」
『(…ん? 先輩から連絡?) はい、宮野です。』
萩原君と松田君の意識がこっちに向いたのが分かった。
≪その後どうだ、大丈夫か?≫
『はい。今のところ全員無事です。』
≪了解。犯人らしき人物は?≫
『犯人らしき人物はまだ…。先輩方も知っている通り、公園で遊んでいた子供の証言で男だということしか。』
そこまで言ったところで松田君の携帯が着信を知らせる。
すぐに先輩との通話を切った私を見て松田君が通話ボタンを押した。
「…もしもし。」
≪見事だ。爆弾まで解除できるとはな…。≫
「はっ、目を付けた機動隊員が悪かったな。こちとら全員爆弾の処理に関しては朝飯前よ。」
≪ふん…いいだろう。では次はどうかな。≫
次。やはりまだ仕掛けていたか…。
萩原君がグローブボックスから適当な雑誌とペンを私に手渡した。
爆弾の情報を書き留めるためだろう。
≪よく聞け。東都環状線に5つの爆弾を仕掛けた。≫
「(5つ⁉)」
≪その爆弾は、午後4時を過ぎてから時速60キロ未満で走行した場合に爆発する…日没までに取り除かなかった場合も爆発するようになっている。1つだけヒントをやろう…爆弾を仕掛けたのは、東都環状線のバツバツの、バツだ。≫
ばばっと松田君がこちらに目を向けたのが分かった。
こういう頭を使うものはこちらに任せるって事? まったく。
≪バツのところにはそれぞれ漢字が1つずつ入る。では頑張り給え。将来有望な機動隊員諸君…、とはいえその機動隊生命も今日で終わりかもしれんがな…。≫
『待って。』
≪なんだ? 宮野機動隊員。≫
『こればかりは本部との協力を要請する許可が必要だわ。爆弾は5つ、こちらは3人。それも鉄道関係だと、私たちでは出来ることも極端に少ない…。警察官として動く必要がある。』
≪…。良いだろう。ただし東京にいる機動隊員のみだ。いいな。≫
通話が切れ、バツバツのバツで頭がいっぱいなのだろう、混乱した顔で松田君が携帯を見つめている。
その間にも萩原君は即座にハンドルを切って、恐らく東都環状線の中でもひときわ大きな駅…先ほどの爆弾を見つけた米花駅へと向かっていた。
『…もしもし、宮野です。』
≪犯人から連絡があったのか?≫
『はい。東都環状線に爆弾を5つ仕掛けたと…』
電話口でも本部がざわついたのが分かった。
東都環状線は東京を走る鉄道で、夕方の今は退勤ラッシュの一歩手前…。
万が一にでも爆発が起これば、数えきれない数の人々が巻き込まれてしまう。
≪…分かった。車両、各駅共に爆弾の捜索に乗り出す。≫
『はい。お願いします。』
「宮野ちゃん、先輩なんだって?」
『とりあえず鉄道に連絡をして、車掌に車内を、今動ける機動隊員で各駅を捜索すると。』
「了解。じゃあ俺たちは米花駅に…と言いたいとこだけど、すげえ渋滞だわ。ちょっち時間かかる。」
それより日没まで後1時間しかねえ。
そんな松田君の声に振り返る。
「あれだけヒントだなんだって言ってたんだ…考えりゃ分かる場所に爆弾を設置してんだろ。宮野、分かるか?」
『…、60キロ未満で走行した場合に爆発って言っていたけど、そんな高度な爆発物を作ることが出来る用には思えない。』
「それは俺も同感。最初の爆弾は衝撃を受けると爆発するタイプ、2つ目は簡単な時限爆弾だったしな。…それこそ陣平ちゃんの手にかかれば5分もかからないような。」
『ええ。』
しん、と車内に沈黙が落ちる。
そして最初に声を発したのは、
「だあっ! 気が逸って頭が回んねえ! こうなりゃあいつらに連絡だ!」
「ま、推理はあいつらの方が得意だもんな。でも焦らせないように事情は伏せた方が良いかもよ?」
「わーってるよ。えーっとグループ通話で…。」
『(“あいつら”ってまさか、)』
もしもし、大丈夫? 急ぎ?
そう言って最初に電話を取ったのはーー。
「ナイス、ヒロ! よく急な電話なのに気づいたな?」
≪松田から電話なんて、何かあったって言ってるようなものだしね…≫
「今担当してる事件のことでお前らの意見が聞きたくてよ。」
≪――事件ってまさか、爆発物が盗まれたって言う?≫
心臓が跳ねた。そっか、諸伏君と一緒にいるはずよね、貴方も。
そう静かに焦る私に対して松田君は嬉しそうに「お。」と顔を綻ばせる。
運転中の萩原君もひゅう、と口笛を吹いた。
「ゼロ、ヒロと一緒にいたのか!」
≪まあ、一緒に仕事中だけど…≫
≪――なんだよ俺抜きで電話か?≫
「班長!」
伊達君まで…。みんなタイミングよく時間があったのね。
呆れか嬉しさか、思わず自分の頬が緩んだのがわかった。
「っしゃ、全員集まったし早速俺のクイズを解いてみてくれねーか?」
≪クイズ?≫
電話口の3人の声が重なった。
しかし松田君は知らぬふりをして続ける。
「電車が60キロ以下で走行しても、日没が来ても爆弾が爆発するとする。その条件を目視で確認する人間がいなくとも、ルール通りに爆発させるなら…お前らは、どこに爆弾を置く?」
「そりゃあ、電車の運転席じゃねーか?≫
最初に言ったのは班長…伊達君。
確か今は捜査一課で刑事をしている。
≪速度を目視で確認できるメモリみたいなのと電動させて、外側に設置してれば日が落ちたかどうかもわかるし…≫
『! (先輩から電話…)』
はい、宮野です。
そんな私の声に「ん?」と話している途中だった伊達君が声を発した。
≪電車の中、各駅ともに爆発物は見つからなかった。犯人から何か連絡はないか?≫
『いえ、特には…』
≪了解した。こちらも引き続き爆発物の捜索を続ける…何か進展があれば随時連絡を。≫
『はい。……残念ながら、伊達君の推理はハズレみたい。』
≪え? あれ、お前らマジで何してんだ? 仕事中か?≫
軽い松田君の口調から本当にクイズを出されているだけかと思っていたらしい伊達君が私の声を聞いて混乱している様子が手に取る様に分かる。
まあ、私がプライベートで彼らと一緒にいるわけないものね。
途端に「おいゼロ、」と諸伏君の焦った様な声がして、意識を現実に戻す。
≪まさか3人とも、本当に現在進行形で爆弾の位置を探しているのか…⁉︎ 大丈夫なのか⁉︎≫
「…。ああ、大丈夫だ。ちゃんと機動隊として動いてる。これは仕事だよ。それより何か思いつかねーか? どこに爆弾が仕掛けてあるのか…」
そんな冷静な松田君の声に少し落ち着いたらしいレイ君が沈黙を落とし、言った。
≪線路の隙間…≫
「「『!』」」
その言葉に私たちも顔を見合わせる。
なるほど、確かに線路の隙間なら、単純な光を検知する機器を取り付けていれば、筋が通る。
『先輩に連絡するわ。』
≪待ってくれ、君もその現場に行くのか? 宮野さん。危険なんじゃ…≫
おいおいゼロ、んな腑抜けた事言ってたらまた宮野からきつい一言が飛んで…。
ちら、と宮野を見ると彼女が静かに俺の携帯を見下ろし、不安げに言葉を止めたゼロに向けて言った。
『…いいえ、この距離からなら駅周辺に待機している他の機動隊員が対処することになるわ。だから、』
俺の携帯が着信を知らせる。
犯人からだった。
「悪いお前ら、ちょっと待ってくれ。」
≪え?≫
ブチっと通話を切り、犯人からの電話を取る。
≪お前たちが環状線の爆弾を見つけるまで待つつもりだったが…どうやら私が捕まるのも時間の無駄らしい。≫
ボイスチェンジャーがかかっていない肉声。
そしてその背後からは扉を叩く音や大声の様なものが微かに聞こえていた。
≪最後の爆弾の場所を教えてやる。ただし爆発のタイミングはお預けだ…そこに行き、自分の職務を全うするも逃げるもお前たち3人の自由。≫
場所は米花シティビルの5階だ。
途端にハギがハンドルを切った。同時に思わず「はっ」と笑みが溢れる。
「ぜってー俺ら3人でお前の爆弾なんざ看破してやるよ…!」
≪――警察だ! 手を挙げろ!≫
通話が切れる。途端に今までも何度もかかってきていたのだろう、ゼロたちからの着信で携帯が動き、電話を取る。
「大丈夫なのかっ⁉︎」
「そうカッカすんなよゼロ…大丈夫だって。」
「宮野ちゃん米花シティビルまでナビ頼める?」
『ええ…』
騒ぐゼロ達を落ち着かせ、通話を切った時には米花シティビルが遠目に見える距離まで来ていた。
不思議と怖くはなかった。ハギと宮野がいるからだろうか。
それともこの現実ばなれした状況にアドレナリンが出ているのか。
「ゼロ! 本気でいくつもりか⁉︎」
「悪い、どうしても放っておけそうにないんだ…」
ポケットに先ほど入れた自身の携帯が着信を知らせる。
携帯を開くと、班長からだった。
「もしもし、班長?」
≪おー諸伏。降谷は?≫
「まだいるけど、もう…」
≪米花シティビルに向かうところ、ってか?≫
肯定の意味で言葉を止めれば、班長が笑った。
≪丁度、俺も本庁から出るとこだ。相乗りといかねーか?≫
ゼロへ目を向ける。
頷いて外に飛び出そうとしたため、僕も仕方なくそれに続くことにした。
本当、宮野さんが絡むと後先見えないゼロと、そのフォローに回る僕、そして班長。
警察学校時代と何も変わってないな、なんて苦笑いの様な笑みが溢れる。
「どれぐらい時間が残されてるかもわからねえ…手分けして探すぞ!」
「オッケー…!」
本当、どうしてこんなことをしているのだろう。
いつ爆発するかわからない、そんな状況下で心臓の鼓動が早まって行く。
脳裏に浮かぶのは、志保。
『(いっそこのビルにいる全員を見捨てて志保の元へ行ってしまおうか)』
私まで居なくなれば、志保はどうなってしまうだろう。
あの地獄の様な、組織の中で…。
米花シティビルの5階に併設されている映画館へと足を踏み入れる。
母親と手を繋ぎ、嬉しそうに歩く少女が目に入った。
『(志保――)』
途端に、建物が大きく揺れ、背後から物凄い衝撃が襲った。
突風に体が前のめりに倒れて、それでもなお転がって行くほどの衝撃の中何人かにぶつかったのもわかった。
まあ、そこまで考えたところで意識が途切れたのだけど。
『――、』
どれぐらい気を失っていたのだろう。
子供の耳をつんざく様な鳴き声で目が覚めた。
顔を上げると、瓦礫で塞がった映画館の入り口が目の前に広がった。
そして声がする方向を見れば、崩れかかった映画館の端で震えている人々。
目元に液体が垂れてくる感覚がした。血が出ているのか。そういえば額のあたりがズキズキと痛む。
『(これが犯人の言っていた爆弾? それとも他にもまだ爆発物が…? 松田君と萩原君は…?)』
思考が1つに纏まらない。
痛みと興奮と混乱と…様々なものが混ざり合っているのだ。
「お、おいキミ、そこから離れた方がいいぞ…! 入り口があったあたりに爆弾の様なものがあるんだ…!」
『!』
体を持ち上げ、男性が指を刺す先に佇む赤色の紙袋を開くと、悲鳴の様なものが上がった。
『(あと20分か…)』
「お、おいっ! 余計なことはしないでくれ、頼むから…!」
『…大丈夫です。これでも機動隊に所属している爆発物処理班の人間ですから…。』
目元の血をぬぐい、胸元から警察手帳を見せれば、今度は歓声のようなものが小さく上がる。
爆弾を紙袋から取り上げ、人々から離れた瓦礫の傍で腰を下ろし、爆弾のケースを開いた。
『(…うん、これなら解除できる。)』
「――宮野! 宮野いるかー⁉︎」
「宮野ちゃーん! おーい!」
入口をふさぐ瓦礫の向こう側から私の名前を呼ぶ声がする。
よかった、2人とも無事だった。
両袖をぐっと持ち上げ、胡坐をかいて爆弾の解体に取り掛かる。
「――大丈夫か!?」
『!』
思わず手が止まる。
え? 今の声って…。伊達君?
「班長! 宮野がいねーんだ!」
「てか3人ともどーやってここまで登ってきたんだよ?」
松田君と萩原君の声。
そして、
「いや、爆発前から1階から各フロアを走り回って君たちを探してたから…」
「丁度5階に到着したところだったんだ、タイミングが良かったな。」
「それより宮野さんがいないって!?」
諸伏君、伊達君、そして…レイ君。
何なの? この人たち。あの電話の後にわざわざここまでやってきたの?
「この瓦礫の先に映画館があるんだ、確か宮野はそっちに…」
『ふふ、おかしい。…松田君、萩原君!』
「! 宮野!?」
「宮野ちゃん!? 無事だったか!」
瓦礫に一気に近付いて大声を出すものだから、彼らの声は映画館に良く響く。
『こっちは大丈夫。瓦礫に挟まった人も見当たらない…ただ、20分後に爆発する爆弾が1つあるけどね。』
「はあっ!?」
『そっちのフロアは大丈夫なの? 周りを確認した方がいいわよ。』
「っ、ハギ、行くぞ!」
「おうよ! 班長達は宮野ちゃんを頼む!」
松田君と萩原君が離れていき、変わって伊達君、諸伏君、そしてレイ君がここに留まることになったらしい。
「宮野さん、大丈夫なのか!?」
レイ君の焦ったような声がする。
『大丈夫。今爆弾の解体中だから、少し待って…。…危険だから、貴方たち脱出できるならそうしたら?』
「…脱出? 君を放って?」
諸伏君が呆れたように言って、
「「「するわけないね。」」」
3人が声を合わせて言った。
まあ、予想していた返答だけど。
コードを切っていく。
『…よし、できた。』
残り5分というところでタイマーが止まり、息を吐く。
しかしすぐに「ん?」と眉を寄せる。
ずっと自分が解体していた爆弾の音を聞いていたためだろうか。時計の針が進む音が、消えない。
『(まさか、まだどこかにある? 見落としていた…?)』
立ち上がり、瓦礫の隙間やカウンターの下などを隈なく探していく。
急に私が言葉を止めたからだろう、瓦礫の方から心配げな3人の声が聞こえてくる。
「宮野さん? 大丈夫か?」
『…、タイマーの音、そっちの方でしている?』
「タイマー? …、たしかに、ちょっと待って。」
「――あった!」
レイ君の声に顔をあげ、瓦礫の方向へ。
小さな瓦礫と瓦礫の間から向こう側が見える。その先でレイ君と目が合った。
「宮野さん、この瓦礫の下に小さなくぼみがある。女性なら入れるかもしれないけど…」
レイ君が差す方へと向かってみれば、確かに瓦礫と瓦礫の間で通れそうだ。
ただ、奥ばった位置に爆弾がある。この場所だと衝撃を受けただろうに、爆発していないなんて奇跡に近い。
目を凝らして分数を見ると…
『(5分、か。)』
「宮野さん? 」
『…降谷君、諸伏君、伊達君。』
振り返る。彼らと目が合う。
『ここはもういいわ、松田君と萩原君のところにいって。』
「え、」
『あと5分しかないの。私でもギリギリ解体できるかどうか…。…被害は最小限に留めるべきだわ、中には人がたくさんいる。…最悪、犠牲は私だけで。』
「バカを言うな!」
レイ君の怒鳴り声に肩が跳ねる。
「皆で生きて帰るんだ…! 宮野さん!」
もう一度だけ振り返れば、レイ君と同じく諸伏君と伊達君も私をまっすぐに見て頷いた。
その後ろに松田君と萩原君が戻ってくる。そして瓦礫の隙間から私の手元にある爆弾を見ると、ぐっと口をつぐみ、こちらに近付いてきた。
『…、馬鹿ね。』
「残り時間は?」
『3分。』
「大丈夫だ、俺達がいる。やるぞ、宮野。」
萩原君、松田君が交互に言った。
こんな極限状態だからだろうか、馬鹿な想像ばかり浮かぶ。
この人たちが、私が組織に連れてこられたとき傍にいてくれたらどんなに良かったか。
大丈夫だと、傍にいるからと言ってくれていれば…どんなにありがたかったか。
「待て、そのコードじゃねえ、1本下だ。」
『っ、(危な、)』
「深呼吸、深呼吸。」
『…、』
あと30秒。…15秒。
心臓の鼓動が大きくなっていく。ああ。怖い。
ここで死ぬの? この秒数が0になってしまったら。
「宮野、考えんな! 大丈夫だ!」
「宮野さん、」
『!』
レイ君。
微かに振り返る。瓦礫の隙間から手を伸ばして、私の肩に手を触れていた。
どこにもいかないと。私が死ぬのなら、自分も死ぬと。
そんな目を見て――この人たちに死んでほしくないと、思った。
震える肺を抑えて、息を吸って、コードを切っていく。
『(あと少し。出来る。やらなければ。私は、)』
志保の元へ戻るの――。
パチン、と酷く鮮明に、音が聞こえた。
カウントを続けていた数字が、00:02を示して止まっている。
『…、』
身体の力が抜けて、後ろに倒れかかったのを両腕で支える。
そこからは良く覚えていない。ぼうっとしている間にも、私が入っていた隙間から身体の小さな子供、女性が脱出し、その頃には自衛隊員たちもやってきていて、瓦礫をどかし男性陣も脱出し、映画館のフロアから全員が脱出していく様子を見ていたのを、どこか覚えている。
私自身ははっと気付くと外にいて、肩に毛布が掛けられていて…少し離れた位置で煤や灰を頬や頭につけた松田君と萩原君が現場の警察官に報告をしていて、救急車に腰かける私を守るようにレイ君、降谷君、伊達君が周りに立ってくれていた。
『(やり切ったんだ、私。)』
守りたい人も、皆無事だった。
ああ、良かった。また目の前で失ってしまうかと…その引き金を自分の手で引いてしまうのではないかと、思った。不安だった。
「――宮野さん…?」
諸伏君の声にレイ君と伊達君が振り返って、私を見て固まった。
それはきっと、涙の所為。声も出さずに、溢れる感情を抑えきれず涙を流している、私の所為。
爆弾処理班組
(宮野が泣いていようが、気にならないぐらいに自分自身も興奮していた。)
(あれだけの現場を五体満足で、3人とも切り抜けられた事実が、嬉しくて。)
(宮野ちゃんの涙を見て、心臓が震えたような気がした。)
(あそこまで不安げな彼女を見たことがなかったから、自然とこちらも緊張していたのだろう。)
(怖さではない。嬉しさでもない。…悲しさでも、ない。)
(ただただ、安堵した。ああ。皆無事でよかった。)
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