過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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7年前のあの頃
「急げ急げ! あと10分しかねえ!」
「やっべー!」
「ごめん、僕が写真撮りたいって言ったから…」
「いや、俺も部屋を出るのが少し遅れたし!」
「だぁー! んなこた良いから走れよ!」
鬼塚教場からの卒業生、伊達航、萩原研二、諸伏景光、降谷零、そして松田陣平。
以下5名が卒業式の会場へと走る中…その背中を見送る、2人の陰。
「――いいのか? 式に出なくて。」
『ええ。出る資格は私にはないわ。』
警察庁警察学校、祝卒業式――。
その文字を横目に、同じく鬼塚教場の卒業生である宮野黒凪がポケットから取り出したUSBメモリを隣に立つ男…イーサンに手渡した。
『…貴方には感謝してる。あの金髪の彼を見逃してくれたこと…。』
「感謝する必要はない。放っておいてもあの子供1人では何もできんだろうと判断したまでだ。」
『…そうね。』
ざあ、と桜が舞う。
私の配属先は機動隊ということになった。
きっと松田君と萩原君も同じだろうから、今日の卒業式について何か言われるかもしれないわね。
でも…こっそり警察内部の情報を組織に横流ししている私は、とても貴方たちの隣に並ぼうとは思えないの。
でもせめてこの言葉だけは、届かずとも言っておこうかしら。
『…卒業、おめでとう…』
――式が終わり、5人で表彰状を持って写真を撮って、写真を覗き込む。
そして誰からともなく…言った。
「宮野さん、いなかったな。」
「体調不良だって聞いたけど…。」
「あの宮野が体調不良~? けっ、嘘くせえな。」
「俺も今軽く探してたけど、やっぱり姿見えねーし、ホントに体調不良かもよ? 宮野ちゃん。」
風が吹いて、桜が舞う。
「――ま、俺とハギはあいつと配属先一緒だから聞いといてやるよ。な? ゼロ。」
「…ああ…」
宮野さん、結局警察学校を卒業するまでに君が置かれている状況を理解することはできなかった。
でも…これから立派な警察官になって、きっと助けて見せる。だから、もう少しだけ時間をくれ。
きっと君が、あの黒凪ちゃんだと俺に告白できるような、そんな男になってみせるから。
『――志保。』
「お姉ちゃん…? お帰りなさいっ!」
両手を広げてこちらに飛び込んできた妹に眉を下げて、しゃがんで両手を広げ、志保を受け止める。
警察学校に入ってから半年以上も会えていなかったせいだろう、久々に顔を合わせる妹を見て無性に泣きたくなった。
『1人で大丈夫だった?』
「うん! 学校も楽しいし、ここでは計算とか理科の実験とか、沢山させてくれるの!」
ずき、と心が痛んだ。
やっぱり志保はIQが高いから、お父さんとお母さんの研究を受け継がせるつもりなのね…。
『そう…。楽しい?』
「うん、楽しいよ!」
まだ何もわかっていないから無邪気に笑っていられる志保。
いつまでこうして笑っていてくれるのだろう。
いつかこんな風に笑ってくれることもなくなってしまうのかな。
「黒凪。」
『!』
その低い声に志保が顔を青ざめたのが分かった。
そんな志保をもう一度だけ抱きしめて、立ち上がり…志保を背に隠すようにして振り返る。
『久々の再開に水を差す程の用なの? ジン。』
「殺しだ。サポートに入れ。」
『(まだ何もわかっていない志保の前とはいえ、なんてことを子供の前でいうのだろうか、この男は。)』
私の機嫌が悪くなったことに気付いたのだろう、志保が私の服を掴む手を離した。
そんな志保に目を向けると、志保は無理やり作ったような笑顔で「いってらっしゃい」と私を見上げる。
『ごめんね志保、またすぐに会いに来るから。』
「うん…、」
この時間がこの世で最も嫌いだった。
志保を1人部屋に残して、去らざる得ないこの時間が。
暗く冷たい現実へと引き戻される、この時間が…。
パタン、と冷たく乾いた音が響いた。
「――え、俺とヒロ…いえ、諸伏が公安に…?」
「ああ。正式に辞令が下った。この決定は口外禁止とする。」
「「はっ!」」
隣にいるヒロと共に敬礼をし、今しがた辞令を伝えにやってきた公安部の先輩の後に続く。
そして公安部のオフィスに入るや否や、早速1つの資料を手渡された。
「お前たち2人には公安が独自に追っているこの組織に関する捜査に加わってもらう。正式名称、拠点、構成人数などは未だ不明。日本でもいくつか事件を起こしており――」
君たちが学生時代に関わった、トラックの暴走事件。
その言葉に俺とヒロが息を止めたのが分かった。
「その事件にも関わっているとされている。」
俺とヒロの唖然とした視線を先輩が受け、資料に目を落としつつ俺たちに詳細を教えてくれた。
「この被害者だが、事故があった数日前に件の組織が関わっていた事件を目撃していたらしく…口封じのために殺されたと結論付けられている。死因は心臓麻痺とされているが、実際は毒殺だ。」
「毒殺…」
きっと今、俺とヒロの脳裏には全く同じ人の顔が浮かんでいることだろう。
そう、同期として卒業した、宮野さん――。
「(…黒凪――。)」
手が震える。心臓が大きく鼓動を続ける。
そんな俺を、ヒロが心配げに見ているのが分かっていた。それでも、身体の震えが止まらない。
「どうした降谷。怖いのか?」
「…いえ。」
先輩の目をまっすぐに見返して、感情を抑えるように、無理に笑顔を浮かべた。
「武者震いです。」
「…そうか。」
「(ゼロ…)」
何があっても救い出してみせる。
何を犠牲にしても――。
「…俺、兄貴に連絡してくるよ。公安に配属されて、その上機密性の高いこの組織の担当になった以上…素性を隠さないといけないし。」
「ああ、分かった。」
「…あ、ゼロ。」
「ん?」
俺、思うんだけどさ。
そう言ったヒロに目を向ければ、先ほど渡された組織に関する資料を持ち上げて言う。
「この事、松田と萩原と班長には伝えておくべきだと僕は思う。…どうする?」
「…。ああ。俺から言っておくよ。この配属についても言っておく必要があるしな。」
正直ここまでの組織とは思っていなかった。
公安の総力を挙げてもここまで素性を突き止めることが難しいほどの組織が相手であることが分かった以上…。
半端に足を突っ込んでいる形であるあの3人をこのまま放ってはおけない。
「…ん、班長からメール…」
「え? …あ、僕のところにも松田から。」
携帯を覗き込んで、徐に顔を見合わせ…ほぼ同時に笑顔を浮かべた俺たち。
「「行くか、飲み会。」」
そしてどちらからともなく携帯を見せ合って、言った。
「へー! 班長刑事部に配属になったんだな。」
「おうよ。で、お前らはスカウトされた通り機動隊な。」
「まあな。ついでに外守のおっさんが作った爆弾を解体した腕を見込まれて、見事に宮野も同僚だぜ。まだ職場では会ってねーけど。」
ガラ、と個室の引き戸が開かれ、見知った2人が顔を出した。
「おっ、やっと来たね~2人とも。」
「遅くなってすまない。」
「仕事の引継ぎを受けてて、時間がかかってさ…」
席に着いた降谷と諸伏にも頼んであった飲み物を渡して、改めて5人で向かい合う。
「改めて…卒業おめでとう! そんでもって、無事に配属されておめでとう!」
「いえーい!」
「カンパーイ!」
嬉しそうに2回目の乾杯をする松田と萩原。
それに降谷と諸伏も笑顔を浮かべて応じた。
「で? お前ら2人はどこに配属になったんだよ?」
そして早速松田が切り込んだ。
実際、先に到着していた3人はメールなどで配属先をシェアしていた。
しかしその話題を避けていたようだったのが、降谷と諸伏だったためだ。
ま、配属先を話せない部署、っつったら1つだろうけどな。
「配属先なんだけどさ…僕ら、警察をやめることになったんだよね。」
「ああ。色々と事情があって。」
そんな含みのある言い方をした2人に驚きの声は上がらない。
ある程度予想していたことだ。この2人が警察をやめるはずがない…となると、答えは1つだ。
「そっかあ~、寂しくなるぜこの野郎!」
そう。本当に2人が警察をやめると思っているのなら、松田がこんな反応を返すはずもない。
降谷と諸伏は「ハハハ、すまない」なんて返答を返していた。
「で? …この飲み会に送れるぐらい、色々引き継がれたわけ?」
「…ああ。皆にも関係がある話だから、軽く伝えておこうと思って。」
引継ぎのことを伝える必要があったから、冒頭に諸伏が軽く “引継ぎ” があったと言った。
そこまで何も言わずとも伝わる間柄である俺たち。
きっと他人がこの会話を聞いていても何の違和感もないことだろう。
こんなふわっとした会話で分かり合えるのは、後にも先にもきっと俺たち5人だけだ。
「例の話だけど…” かなりやばい “。俺たちのような新人じゃ、” 手も足も出ない ”。」
「ああ。だから暫くは “ 様子を見ていて ” 貰えると助かる。俺たちがいずれどうにかするから…それまでは “ 待っていてほしい ”。」
そんな降谷と諸伏の言葉に萩原が両手を組んで返した。
「了解。ま、同僚だし? 俺と陣平ちゃんで “ 目を配っておく “ ことにするわ。」
「助かるよ。」
「おう、任せとけ。」
「…ま、俺はあまりできることは少ないようだが…。何かあれば言ってくれよ?」
公安に配属された降谷と諸伏。そして機動隊で例の彼女…宮野さんと同じ部署の萩原と松田。
この4人に比べれば、俺ができることはきっと格段に少ない。だけど何かあれば、必ず助けに行く。
そんな意味を込めて言えば、4人が笑顔を浮かべて深く頷いた。
宮野黒凪
(きっと、これからも目を見て伝えられる機会なんてないだろう。)
(私がどれだけ貴方たちに助けられたか。)
(どれだけ貴方たちに感謝しているか。)
(本当にありがとう。伊達君、松田君、萩原君、諸伏君。そして…レイ君。)
(そして、いつか訪れるであろう別れを見越して。)
(さようなら。)
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