過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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7年前のあの頃 with 諸伏景光
「――最近お前たちも気づいているかと思うが…他の教官たちからも苦情が来ている。最近風呂場が汚いとな。」
「ですが…それは我々のせいだけではありませんが…」
朝から鬼塚教場に呼び出された、僕にとってはおなじみの5人。
ゼロ、松田、萩原、班長…そして僕、諸伏。
今度はどんな小言を言われるかと思えば、いよいよ僕たちだけの問題ではない風呂のことまで言われるとは、と内心げんなりしていた。
「ということで、だ。お前たち5人にはこれから毎日風呂掃除を命ずる!」
「「「「「はぁっ⁉」」」」」
「なあに、お前たちが行ってきた悪行三昧を償う機会を与えてやるんだ。」
「悪行三昧って…」
萩原が呆れたように言う中、鬼塚教場のオフィスの扉が控えめに開かれ、5人一斉にそちらを見ると…。
「おお、来たか。宮野。」
『…。』
露骨に嫌な顔をした宮野さん。
ああそうだった、彼女もある意味 “おなじみのメンバー” だよな…。
この様子を見ていると、どうやら彼女はまたしても僕たちに巻き込まれることになったらしい。
『…申し訳ありません。早く着き過ぎてしまったようです。どうぞごゆっくり…』
「いーや、お前にも関係のある話だぞ。宮野。入りなさい。」
『……』
ああ、眉間のしわが…。
宮野さんがしぶしぶ扉を閉じ、すぐに表情を真顔に戻して俺たちの後ろに少し距離をおいて立つ。
すると、やはり鬼塚教場の中ならず、全女生徒の中で成績ナンバーワン、化粧っけが無い女子たちの中でも異彩を放つ美人と他の生徒たちが噂する美貌を持ち…かつ、あだ名はミス・パーフェクト…。
彼女の雰囲気に押されておずおずと俺たち5人が彼女の為に道というか、場所を開ける。
「宮野。お前は入学当時から今まで抜群の成績を収めて常にトップを走る稀に見る優秀者だ。もちろん我々も卒業式の代表をお前にと考えているほどにな…」
おおお…、と他の4人の心の内が聞こえてくるようだった。
「だが! お前の素行にしばし問題がある! お前の前に立つ5人と一緒に勝手な行動ばかりでな…!」
『(こっちは巻き込まれてるのよ…。)』
「ということでだ! 本日からこの5人には1週間の風呂場と脱衣所の掃除、宮野にはその監督役を命ずる! 良いな!」
『…はい…』
なんと不服そうな返事だろうか。
正直思わず僕は笑いかけたが、隣のゼロがそれはもう彼女に申し訳なさそうに眉を下げるものだから、僕も眉を下げて苦笑いにとどめた。
「では早速取り掛かれ!」
そんな鬼塚教場の声に頭を下げる僕、ゼロ、そして班長。
松田はため息を吐きながら後頭部をガシガシ掻いて、萩原は「まあまあ」と松田を見て笑った。
そして宮野さんは…。
『…』
おお、もう切り替えてる。いつも通りの真顔。
あ、ゼロが気を使って宮野さんに話しかけに行った…けど、あしらわれてる。
なんて、三者三様な皆を見ていると…ふと、オフィスにあるコピー機に乗った捜索願の張り紙が目に留まった。
「(…あの子に、似てる…)」
「ん? ああ、それは夕べこの管区で捜索願が出された女児の写真だ。諸伏、その子を知っているのか?」
「ああいえ、道で見かけたぐらいですが…。…でも、この張り紙1つ貰っていってもいいですか? 何か思い出すかもしれませんから。」
「おお、いいぞ。」
張り紙を1枚取って、オフィスの外で待っている5人の元へ。
宮野さんはすでにどこかへ行っていたようで、僕を待っていたのはいつもの4人だけだった。
「っだぁー! 汚すぎだろ風呂場ァ!」
「体育祭の練習で毎日皆ドロドロだからなあ。昨日も雨の中やってたし。」
「ああ…女子も何人か体調崩してたよな~。宮野ちゃんは真顔でぴんぴんしてたけど。」
そんな風に会話をする松田、班長、萩原。
ゼロは僕と同じようにもくもくと作業をしていて…今一瞬話題に出た監督役の宮野さんはまだ来ていない。
まあ、監督役とは言えど掃除している男5人を見ても何も面白くないだろうし、最後にチェックしていくぐらいでいいと思う。
「なんか話題決めて話さねー? じゃねえとやってらんねーよこんなのよぉ。」
「話題ねえ…。あ。そういえば諸伏ちゃん。」
「え?」
自分に話題が飛んでくるとは思わなかったせいか、素っ頓狂な声が出た。
「さっき見てた捜索願の女の子、何かあるんじゃねーの?」
「あぁ…あの子、子供の頃遊んでた女の子にそっくりで…」
「子供の頃ってことは、俺も知ってる子か? ヒロ。」
「ああいや、僕が長野にいたころの子だから…」
いいじゃん、面白そうだな。
なんでも聞くぜ?
話してみろよ。
そう口々に言ってくれる皆に胸が暖かくなった。話してみようかな…。
そう思って口を開いた途端、フラッシュバックする、あの光景。
血の付いたナイフと…
「…ぃ、いや、そんな面白い話じゃないから…」
怖くなった。
けど、「っだぁ、もう!」と立ち上がった松田に肩が跳ねる。
「ゼロがお前が話すまで待ってやれって言ってたから遠慮してたけどよ…止めだ止め!」
「え…」
「お前、自分の父ちゃんと母ちゃんを殺した犯人を追ってるんだろ⁉ でえ、さっきの捜索願の女の子が幼馴染に似てたから事件を思い出してた。そうだろ⁉」
「そ、そうだけど…」
心臓がどくどくと波を打つ。
怖い。こいつらまで両親の様に目の前で失ったらどうしよう。
殺されてしまったらどうしよう…。
「こ、これは俺が独りで解決しないといけないんだ…もう人が死ぬのは見たくないんだよっ!」
「「「「「死なねーよ。」」」」」
当たり前のようにさらっと返されたその返答に、言葉が詰まった。
そこでやっと、いつの間にか僕の目の前まで来ていくれていた4人の顔を見た。
「今までも俺たち5人でやべえ場面を乗り越えてきただろ?」
「大丈夫だって。ヒロ。」
松田とゼロの言葉に胸がじーんと暖かくなったのが分かった。
話してみようかな…この4人になら。きっと、真正面から話を聞いてくれる…。
「分かった、話すよ…事件の概要を…」
その時だった。
脱衣所の扉が開き、全員で扉の方へと目を向ける。
『…。サボってるの?』
「「「「「あ。」」」」」
監督役を命じられた宮野さんだった。
宮野さんは呆れたように僕たち5人を見ると、手に持っていたコンビニの袋をこちらに見せるようにして床に置いた。
『まだ時間はあるし、掃除が終わったら食べて。』
そう言って踵を返した宮野さんの腕に巻かれた、包帯。
前のトラック暴走事件での傷なんだろうが、少しゆるくなっているのだろう…隙間から肌が少し見えて、
「――! 待って!!」
『っ!?』
予想以上に出た僕の大声に宮野さんも驚いたようで、動きを止めてこちらを見た。
「ご、ごめん、殺害現場で見たタトゥーが、急に脳裏をよぎって…おかしいな、なんでだろう…」
『(殺害現場?)』
「結局こうなっちまうみたいだなあ、宮野?」
『…は?』
「ちょっと知恵貸してくれよ。ミス・パーフェクトさんよぉ。」
松田の言葉にまた、嫌な顔をした宮野さん。
そんな宮野さんに心の中で「ごめん」と謝りつつも、彼女がいれば何かひらめけそうなこの状況で…このまま彼女を返す気持ちにはなれなかった。
『…あの』
松田に半ば無理やり風呂場に引きずり込まれた宮野さんがこちらに目を向けて、「え?」とまた素っ頓狂な声が出る。
正直顔を合わせることは多いけれど、僕と宮野さんはあまり話さないから…彼女から声をかけてきて驚いたのだ。
『松田君の声が良く通るから聞こえてきたんだけれど、私は貴方の過去について聞くつもりはないの。だから…この腕の包帯が何かあるのなら、写真だけ撮ればいいんじゃない?』
「え…」
『貴方もきっと、私には話したくないと思うし』
「…、いや。」
僕の言葉に宮野さんが顔をあげる。
初めてここで、まっすぐと彼女の目を見たような気がした。
やっぱり何を考えてるかわからない。…けど。
「話したくないことはないよ。宮野さんが本当は優しい人だって、分かってるし。」
『…はい?』
「だから宮野さんが良ければ、協力してくれないかな…。」
以前、この5人で宮野さんについて話した。ゼロの考えや、感じていることを全部聞いた。
そして改めてこうして自分の問題にも真剣に向き合ってくれる5人を見ていると、思うんだ。
彼女にとっては迷惑なことかもしれない。でも本当に何か大きな事件に巻き込まれているのなら…1人にしたくはない。
そして最終的に僕ら5人を信頼してくれたらいいな、なんて。そんなことを思うんだ…。
『…私は、』
「俺らのよしみだろ? なっ!」
「そうそう。宮野ちゃんの冷静な見解が必要なんだよ。」
「俺からも頼むよ、宮野。」
松田、萩原、そして班長の言葉に宮野さんが口をつぐむ。
ちらりとゼロを見れば、ゼロ自身も意を決したように宮野さんに近付いたのが視界に入った。
「宮野さん、」
『…、』
宮野さんが、少し困ったような顔をしてゼロを見上げた。
「俺からも頼むよ。…俺が無茶しかける時、君がいてくれると冷静になれるような気がするんだ。」
「って、お前の個人的な話かよ!」
「え⁉ あ、いや…も、もちろんヒロのことでも協力してほしいよ…⁉」
『…分かった。分かったから、そんなに頼み込まないで…』
目を伏せて言った彼女の表情が見えなくて、5人で顔を見合わせる。
ほんの少しだけ沈黙が落ちて、宮野さんが顔をあげ、こちらを見た。
『じゃあ、早速話して。私なりに頑張るから…。』
「あ、う、うん。」
『…つまり、この学校に入校してから独自に調べていた過程で…貴方のご両親を殺害した犯人らしき人物を3人にまで絞りこめたということ?』
「う、うん。でも事件が起こったのは長野だし、たまたま僕が警察学校に入ったこの東京に運よく犯人がいるとも思えないから…本当に、確信なんてこれっぽっちもないんだけど…」
「ま、確信うんぬんは放っておいていいんじゃねーか? 怪しいと思うなら、可能性をつぶしていこうぜ。」
そのために俺らも聞き込みしてきてやったからよ。
そんな松田の言葉に「え?」と顔を上げると、松田、萩原、班長。そしてゼロがにっと笑った。
「黙って聞き込みに行って悪かった。でも放っておけなくってよ。」
「そうそう。毎晩事件について調べてる諸伏ちゃんを見てると何かしたくなってさ。」
「皆…」
本当にいい同期を持ったんだなあ、僕…。
今日は皆に感動させられっぱなしだ。
「よし、じゃあ俺から報告していくぞ。名前は入江 角夫 (いりえ すみお)、奥さんと2人暮らし。肩にゴブレット型のタトゥーを入れたのは10年前。出身は長野県。」
「おいおい、それってほぼ決まりじゃ…」
『事件が起こったのは15年前…。もし本当にタトゥーを入れたのが10年前なら、つじつまが合わないわ。タトゥーショップに裏は取ったの?』
「いや、長野にあるタトゥーショップらしく、裏は取れてない。」
じゃあ、次はハギ…。
とゼロが萩原に目を向けると「ああうん。」と萩原が手帳を取り出した。
「外守 一 (ともり はじめ)、御年50歳で1人暮らし。元々叔父が経営していたクリーニング店を受け継いで今に至る、らしい。二の腕にある観音像のタトゥーは20年前に入れたものらしくて、こっちも同じく出身は長野県。あとは、工学部出身で簡単な家電製品とかなら直せるとかなんとか。」
「タトゥーを入れた時期と出身を考えると…いや、可能性的には五分五分か。」
「じゃ、最後に俺が担当した男の情報だけど。名前は物部 周三 (ものべ しゅうぞう)、35歳。こっちも1人暮らしで、首の後ろのサソリのタトゥーを入れたのは20歳のころだっていうから、ギリ15年前。ただ、タトゥーの場所から考えるとこいつも決定的なもんは何もねーな。」
うーん、と沈黙が落ちる。
正直、何かが僕の頭に引っかかっているような感じはしていた。ただ、それが何なのかは…。
『…で、私の腕を見て感じたことは結局なんだったの? 諸伏君。』
「え…」
改めて宮野さんの二の腕を見る。
二の腕に巻かれた包帯…少し緩まって、隙間から肌が見えていて。
包帯…横に、巻かれた包帯…。
『…。貴方、事件の後記憶障害があったんでしょう?』
「う、うん。」
『事件当時の記憶についても、しっかりと現場の状況と照らし合わせて矛盾がないか確認した方が…』
「――! そうだ…そういえば…この前、とりあえず思い出したことだけでも伝えようと兄に連絡したら…!」
兄は僕が隠れていた場所が、襖ではなく観音開きのクローゼットの中だった、って…。
そう自分自身で呟いて、再び宮野さんの腕の包帯に目が向いた。
そして自分でも気付かないうちに彼女の腕をつかんで、包帯の間に覗く肌を凝視する。
「…そうか…、これと同じだったんだ、俺が見たタトゥーも…!」
「なるほどな…! 観音開きのクローゼットっつったら洋風。洋風のクローゼットなら大体のものは横にスリットが入ってる!」
「スリット越しにタトゥーを見れば…」
「ああ。2人目の容疑者…外守さんの観音像の顔の部分がゴブレット型に見えなくもない…!」
ありがとう、宮野さん…!!
腕をつかんでいたままに顔を上げたから、予想以上にすぐそばにあった宮野さんの顔に身体が硬直した。
宮野さんの日本人離れした綺麗な瞳と視線がかち合って、一気に顔に熱が上り手を離す。
「ご、ごめん!」
『え、ええ…』
がた、という音に宮野さんと2人して振り返れば、風呂場の掃除用具を傍に置き、外へと向かう準備をする4人が目に入った。
「それより、早く外守のおっさんのところに行こうぜ…!」
「ああ…! ヒロの幼馴染の女の子とそっくりな少女が行方不明なのが気になるしな…!」
確かにそうだ、とても偶然とは思えない…。
そこまで考えたところで、ずき、と頭が痛んだ。
「…トモリ、」
「ヒロ?」
「…そうだ、トモリ ユリちゃんだ…昔亡くなった僕の幼馴染の女の子の名前…!」
遠足中に急に腹痛に襲われて、教員だった僕のお父さんが急いで病院に連れて行ったけど、結局助からなくて…。
「もし外守さんがユリちゃんの死を受け入れられず…僕の父さんが彼女を攫って監禁したと考えるようになったとしたら…」
「そうなると、そのユリちゃんとそっくりな女の子が消えたことともつじつまが合うな…」
「急ごう、皆!」
僕も皆につられて走り出すと、脱衣所の棚の上にのせていた捜索願の紙が床に落ちる。
それを拾い上げた宮野さんを振り返った時…思わず息を飲んだ。
『…、(志保…)』
女の子の写真を見て、宮野さんが酷く泣きそうな顔をしていたから。
「宮野さん、行こう…!」
彼女を放っておくべきではないと、そう強く思った。
だから彼女の手首を掴んで、走り出した。
顔は見ないようにして、ただ前を見て…宮野さんが、捜索願を見つけて思い返していた、何かつらい出来事を少しでも忘れて、目の前のことに集中できるようにと。
「外守のおっさん! 入るぜ!」
クリーニング店の扉を開く。
しかし中には誰もいなくて、物音も何も聞こえなかった。
「ここにはいないのか…?」
「…ん、待て。何かある…」
ゼロの言葉に振り返るや否や、「触るな!」と松田が声を荒げた。
途端にドラム式洗濯機へ手を伸ばしかけていたゼロが動きを止めて振り返る。
「そりゃあ爆弾だよ…。外守のおっさん、工業系の学校出身だって言ってたもんな…」
「だからってこうほいほい爆弾を作られちゃ困るぜ…!」
松田と萩原がしゃがんでドラム式洗濯機の中に設置された爆弾を確認していく。
そしてもっとも奥にある爆弾の装置がすべての爆弾の起動装置となっているらしいことを見抜いた。
「この爆弾さえ解除しちまえば爆発はしねえはずだ…。ハギ、出来るか?」
「あー…、陣平ちゃん指怪我してるもんな…。でもザンネン、俺もなんだよね…」
「はあっ⁉ マジかよ…。チッ、しゃーねえ…ゼロ。お前やるか?」
「ええっ⁉ 俺⁉」
手先の器用さで行ったら宮野も捨てがたいけどよ、誘拐された女の子の確保には女が向かった方がいいだろうし。
そう言った松田に「わ、分かった…」とゼロがおずおずと爆弾に近付いていく。
「よし、なら爆弾の解体は松田と降谷。萩原は周辺住民の避難…諸伏と宮野さんは俺と一緒に外守さんと人質の確保だ。」
「了解! じゃあ俺は行ってくるわ。」
萩原が外に出ていき、それを見送り僕もクリーニング店の奥、住居へと踏み込まんとしている班長と宮野さんの元へ。
そして扉を開き、班長を先頭に3人で突入した。
『…私は奥の部屋を見てくる。何かあれば携帯で電話をかけるから。』
「了解…」
静かに奥へと向かっていく宮野さんを見送り、班長が手始めに手前の襖を開くと…いた。奥に少女を抱きかかえ、下にある爆弾の起爆装置らしきものを持った外守さんが…。
「外守さん…」
「静かにしろ。やっと “ユリ” が眠ったところなんだ。」
「…その子はユリちゃんじゃない。分かってるんでしょう? 外守さん…」
外守さんがこちらに目を向ける。そして僕の顔を見て、にやりと笑った。
「いーや、この子はユリだ。お前をつけて回って、やっと見つけたんだ…。助け出すのが遅くなって、本当に悪かったと思ってる…。」
「僕をつけて回ってた…?」
「ああ。クローゼットの中で眠るお前を殺さずに今まで生かしてやってたのは…ユリを見つけて一緒に天国に行く、この日のためだったんだよ…」
「…っ、」
そうか、僕はこの男に生かされていたのか。
そして今まで何も知らない僕を監視し続けていたんだ。
ぐっと拳を握る。そして外守さんの手にある起爆装置から目を逸らさず、言った。
「あの日…遠足の日、ユリちゃん言ってましたよ。お父さんと喧嘩したって。もう家に帰りたくないって言って、飛び出してきたって…」
「…な、」
外守さんが露骨に動揺したのが分かった。
そしてその親指が、微かに起爆装置から離れたのも。
その瞬間を見逃さず、起爆装置を蹴り飛ばして外守さんを羽交い絞めにする。
すぐに班長も泣き疲れて眠っている女の子を救出し、暴れる外守さんを抑えることで手一杯な僕から距離を取った。
「っ、くそ…!」
暴れる外守さんが腕を伸ばし、転がっている起爆装置に指が当たる。
まずい、取られる。ボタンが押されて――
『おっと…』
「ああっ⁉」
こちらの様子に気付いた宮野さんが起爆装置を外守さんの手から遠ざけ、すぐに手に取った。
「っはあ、焦った…」
「ナイス、宮野さん!」
そんな僕と班長に小さく笑みを向け、宮野さんが起爆装置の電池の蓋を開き何やら中を確認している。
『…なるほど。』
「あ、宮野さん…?」
一言呟いて宮野さんが部屋を出ていく。
外守さんを拘束してその後を追うと、隣の部屋の押入れの中で何やら作業をしているらしい。
『少し待って。ここに爆弾があったから解体中なの。下の爆弾は起爆装置で発動するものだけど、こっちは時限爆弾。解体しないといけない。』
「じ、時限爆弾⁉」
「チッ…」
僕の声に外守さんが舌を打つ。
どうやら本当に時限爆弾らしい。それにしたって、宮野さんなんでこんなに落ち着いてられるんだ…?
「だ、大丈夫⁉ 松田を呼ぼうか!?」
『大丈夫。素人の爆弾だから解体は簡単。』
「…素人って、(じゃあプロが作った爆弾も見たことあるってことか…?)」
宮野さん、君は一体…。
パチ、とコードを切った音が響き、宮野さんが息を吐く。
『…これで大丈夫。警察を呼んでおいたから、その人を連れて行って。諸伏君。』
「う、うん…」
「わあぁあ~ん!」
「うわあっ⁉ み、宮野さん! 女の子を頼む! 宮野さんー!」
女の子が目覚めたのだろう。泣き声に僕が振り返るや否や、はじかれるように立ち上がった宮野さんが班長の元へ小走りで向かった。
そうして外守さんを連れて階段を下りるとき、班長の代わりに少女を抱きかかえた宮野さんを振り返る。
どこか悲しそうに、寂しそうに少女を見つめる宮野さんから目が離せなかった。
そしてそれは、階段の下からこちらを見上げていたゼロも同じようで。
諸伏景光
(なぜか無性に泣きたくなったのだ。)
(どうしてだろうか。両親の敵をついに討つことが出来たからだろうか。)
(それとも…未だ、先の見えない闇に囚われている親友と宮野さんを思うと)
(辛さを理解できるからこそ、こんなに悲しく思うのだろうか。)
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