過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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7年前のあの頃 with Ethan
「とっとと掃除を終わらせるぞー! 鬼塚教場!」
おう! と野太い返事が響く中で、やはりずっと彼女を目で追ってしまう自分にげんなりしていた。
もう警察学校に入って1か月も経ったというのに…未だ、彼女とはほとんど話せていない。
「おーいゼロ、塵取りいるか?」
「松田…。ああ、頼む。」
「おうよ。ちゃんと後で返してく、レイ。」
「…はは。つまらん、2点。」
「そこはレイ点だろー?」
でも彼女…宮野さんのことで進歩はなくとも、学校内に気の許せる友ができた。
正直、最近は松田のくだらないダジャレや冗談が楽しくて仕方がない。
「萩原くーん!」
ん? と松田と俺、そして傍にいたヒロが振り返る。
同じようにして少し離れた場所に立っていた萩原本人も顔を上げていた。
「今度の休みの合コン、忘れないでねー⁉」
「おーう。任されて~。」
女生徒に調子よく返す萩原も相変わらずだ。
入校当初からだが…彼の女性人気は目を見張るものがある。
ま、俺はそういう合コンとかは興味ないけど…
「今回の合コンは、目玉商品があるわよー!」
「目玉商品?」
「うふふ…ミス・パーフェクト!」
体が硬直した。…え? 宮野さんが合コンに来る?
「感謝してよねー? 毎日お願いしてやっと来てくれることになったんだからー!」
「人を目玉商品呼ばわりは関心せんな…。」
何も言えないでいると、伊達が萩原に話しかけている女生徒の元へ行ってそう低い声で話しかけた。
それを聞いた女生徒の顔色が一変し、「ご、ごめんなさーい!」なんて言いながら走り去っていく。
「全く…」
「…お、噂をすれば。」
班長がため息を吐いたと同時か否か、隣に立つ松田が言う。
女生徒たちはきっとすでに掃除を終わらせたのだろう、門の向こう側を寮の方向に歩いていっている。
その中に彼女がいることは至極当たり前のことで…。
「おーい、宮野ー!」
『?』
「お、おい松田…!」
「合コンのこと気になってんだろ? 聞いてきてやるよ、ゼロ。」
松田が1人足を止めた宮野さんの元へと走っていく。
それに続こうか迷う俺を見かねたのだろう、ヒロが「いこうぜ」と声をかけてくれた。
「…ってさっき聞いたけど、合コンに来んのか?」
『顔を合わせる度にお願いされたから仕方なく。でもこの1回だけだと伝えてありますが…。』
「ふーん。」
「(え…マジで来るの?)」
ぱち、と視線が宮野さんと交わる。
『…あなた達は来ないわよね?』
「え、と…」
何と答えようか。
今の時点では行かないけど…宮野さんが来るならいい機会だし、
「さあ? それは当日のお楽しみってやつだな。」
『…そう。』
暫し考えるようにしてからそう言って去っていった宮野さん。
その後ろ姿を見ているしかない俺を見て松田がぐっと親指を立てた。
「任せとけ、お前も来れるようにハギに言っておいてやっから。」
「え…でもさっき、」
「宮野がなんで俺らの出席を確認したのか知らねーが、ああ言っておけば来るだろ?」
な、なるほど。そう言うつもりでさっきは言ったのか。
1人感心していると萩原がどこからともなくやってきて松田の肩を抱いた。
「呼んだ?」
「おーハギ。さっき言ってた合コン俺ら全員ねじ込めるか?」
「えー。イケメンでって指名なんだけど。」
「んだよ。俺らじゃ無理ってか?」
「んー。」
萩原が1人1人俺たちの顔を見てぐっと親指立てた。
「合格♪」
「んだよそれ。」
「班長はどーするー? 合コン!」
「えー。俺彼女いるしなあ…。」
沈黙が落ちた。
「「「「…ええー⁉︎」」」」
「うおっ⁉︎ な、なんだ⁉︎ そんなに驚くことか⁉︎」
全員でこくこくと頷く。
そんな俺たちを見て班長が深くため息を吐いた。
「学生の頃から付き合ってんだよ。言ってなかったか?」
「は、初耳…」
「まーでも彼女は合コンで怒るようなタイプじゃねーし…人数が足りないってんなら行ってやってもいいぜ?」
「んじゃあ、降谷ちゃんのために来てやってよ。」
降谷ァ?
と萩原の言葉に班長がこちらを見る。
「だって宮野ちゃん、前班長に柔道で負けてから班長の言葉はちゃんと聞く感じじゃん?」
「うーん…いや、俺が彼女と話すことは全部業務連絡とかだからじゃないか?」
「いや、それにしたって俺ら相手じゃそっけないぜー、あいつ。なあ? ゼロ。」
松田の言葉に否定できず頷いた。
確かに彼女、ほとんどまともに俺たちと話そうとしない…。
「そうかあ? なら行くけど…」
「サンキュー班長!」
「まあ班長だけに任せず俺ら全員で降谷ちゃんをフォローするけどさ。な? 諸伏ちゃん。」
「うん。」
なんだか大ごとになったような気がするけど…。
でも、ありがとう。みんな。
そうして合コンに挑んだわけだが…。
『…。』
「…、」
早速萩原、松田、ヒロ、そして班長の計らいもあって俺の正面に座った宮野さん。
…けど、驚くほど全く目が合わない。
「…宮野さん、水いる?」
『はい。』
「どうぞ…」
『ありがとうございます。』
合コンが始まってからずうっとこんな感じだった。
「…そういやあ宮野、降谷とは昔会ったことねーの?」
松田の問いかけに箸が止まる宮野さん。
何も話せないでいる俺を見て松田が気を遣ってくれたのだろう。
確かに今まで班長が上手く俺と宮野さんに話を振ってくれていても何も進展しなかったから、ありがたかった。
でもその早速核心をつく問いかけにヒヤヒヤしたが、彼女は何と答えるだろうか。
彼女に目を向ける。
『…記憶に覚えはないですね。』
「じゃ、じゃあ出身は?」
『…。』
松田に続いてそう問いかけたヒロをちらりと睨んだ宮野さん。
『…東京です。』
「東京のどこ?」
『…(何なの? この人たち寄ってたかって…。)』
萩原の問いにとうとう黙り込んだ宮野さん。
ついに彼女は箸を皿の上に静かに置いた。
それを見て全員の顔色が変わる。
『ごめんなさい、少し急用が』
「ごっ、ごめんごめん! 質問攻めが嫌だったね⁉︎」
「もうちょっと居ろよ良かったら! な⁉︎」
そんな萩原と松田の言葉を完全に無視して箸を置いた皿を自分から遠ざける宮野さん。
やばい。そう思った俺は…皿を押していた彼女の右手を掴んだ。
『!』
「…ぁ、ご、ごめん、」
色々な言葉が頭を回る。
手を掴んでしまった、どうしよう。
何を言えばいい? いや、何を言う?
何かを言わないと。何かを…、俺が1番聞きたいことを、
「どっ、どうしても宮野さんが他人だと思えないんだ。昔会った女の子とそっくりで、名前も一緒で…」
『…』
「ほ、本人だとしか思えないんだ…! もし何か事情があって隠してるなら、言ってほしい…!」
宮野さんの瞳が揺れた。ような気がした。
『…人違いだと何度言えば分かってもらえますか?』
「!」
『諦めが悪いんですね。何度言っても私の答えは変わらないのに。』
彼女の左手が俺の手を解く。
そしてそのまま荷物を持ち、宮野さんはお金を置いて出て行った。
しん、と静まり返る。
「もっ、もー! いくらミス・パーフェクトがいるからって皆がっつきすぎ!」
「そうよ! 私たちをほったらかしすぎ!」
そう場を和ませようとしてくれた女性陣に萩原が「ほ、ほんとだよなー…! ごめんごめん、」と苦笑いをこぼす。
班長とヒロも同じように取り繕ってくれる中、松田が俺の背中を軽く叩いた。
「見事に玉砕したな、ゼロ…。大丈夫か?」
「…ああ。大丈夫…。」
なんて口先だけの言葉、信じないだろうな。
よっぽど酷い顔を俺がしていたのか、班長がコンビニに行こう、と席を立って俺を呼んだ。
「大丈夫か?」
「ああ…。」
「彼女もかなり頑固みたいだな…。」
「…いや、もしかすると本当に俺の勘違いなのかもしれない。そう考えると、かなり悪いことをしてるよな…彼女には。」
2人でコンビニに入る。
そして俺と班長は同時に足を止めた。
宮野さんがいた為だ。
そしてその隣には、日系人だろうか…? それにしては彫りが深いような。そんな男が立っている。
きっと彼女を注視していなければ気付かないぐらいに自然に他人を装っているが…他人に聞こえないぐらいの声量で何か話してるのが分かった。
「彼氏…にしては年齢差があるように見えるよな?」
「え…あ、あぁ。でもああ言うタイプは年齢と見た目が比例しないこともあるし、」
2人が交差するように歩いていく。
手元が影になって見えなかったが、あの動きは…何かを渡したのか?
男がコンビニの出口へと向かっていく。
俺はなぜかこの男を引き止めるべきだと思った。好奇心か? それとも…この、感じたことのない感覚のせいか?
この男は只者ではないという、勘のようなこの…
「ーー動くな!」
肩が跳ねた。
今まさにコンビニを出ようとしていた男の前にナイフを持った男が立ち塞がったのだ。
男が後退り、両手をあげてコンビニの中に戻る。
「おい、金をこのカバンに詰めろ。客は角に集まれ!」
ナイフを持つ男…おそらくコンビニ強盗だろう。
その指示に従って客が出口から最も遠い、コンビニ内の角へと追いやられる。
その過程で、どこか余裕を持った様子の客がちらほら見えた。
「ゼロ…相手は1人だ。俺とお前なら抑えられる。」
「いや、何か様子がおかしい…」
「何?」
宮野さんへと目を向ける。
彼女は静かに周りを見渡していて、その途中で俺と目が合った。
宮野さんは少し驚いたような顔をして、それから彼女の側へ戻らざるえなかった日系人の男と目を合わせたのが見えた。
「Don’t move yet. (まだ下手に動かない方がいい) 」
『what? (え?) 』
「It seems…(見ている限り…) 」
英語で会話をしてるのか…。
あの微かに混じるブリティッシュアクセント、懐かしいな。
そんなところも、俺が子供の頃に出会った黒凪と同じ…。
「やるぞ、ゼロ。」
「!」
おっと、班長のことを一瞬忘れてた…。
「いや、待て班長…」
「何だ? お前ら。」
「ッ⁉︎」
ゴッと鈍い音が響き、一般の客たちから悲鳴が上がる。
やはり客に紛れ込んでいた仲間がいたか…!
鈍器で殴られた班長が床に沈み、顔を歪める。
「おい、こいつら普通の客じゃねーみたいだぜ。」
「あぁ? じゃあ裏にでも閉じ込めておけよ。念の為全員な。」
「そーだな。おら全員こっち来い。」
クラークへと押し込まれ、強盗犯たちによって両手をガムテープで拘束される。
もちろんその過程で携帯も没収された。
「悪い、ゼロ…考えなしに動きすぎたらしい。」
「いや、俺も違和感に気づけたのは本当に偶然だよ…。」
と言うよりは、あの日系人の言葉で感じた違和感に自信を持てた感じだし…。
「(…って、え??)」
日系人の男に目を向けて思わず出かかった声を飲み込んだ。
男がすでにガムテープを自力で解き、宮野さんの拘束を解きにかかっていた為だ。
「…すげえなあ、あんた。」
「?」
日系人の男に向かって班長がそう声をかけた。
しかし日本語がわからないふりをするつもりか…それとも本当に分からないのか。男は何も言わず宮野さんのガムテープへと目を向ける。
「…日本語、わからないらしいな。」
「…Hey, 」
「!」
男がこちらに目を向ける。
「Can you untie my friend and me as well? If you don’t mind… (良かったらこっちの拘束も解いてくれないか?) 」
「…Yea, sure. I will. (ああ、分かった。やるよ。) 」
「なんて?」
「俺たちの分も解いてくれるって。」
そうしてこのクロークにいる全員の拘束を解き、俺と班長で外の様子を確認する。
相手…強盗犯は5〜6人はいるらしい。
宮野さんを合わせてもこちらは3人。これでは…。
「外に出てやり合うにはこっちの人数が足りねえな。」
「ああ。仕方がない…助けを呼ぶ方法を考えよう。」
「そうは言っても携帯は没収されてるし…」
「いや、手はあるよ…。ヒロならモールス信号が分かる。」
よし、看板の電気のスイッチ発見。
今頃なら俺たちを探してこっちに向かってきてるぐらいだろうし、タイミングが合えばいいけど…。
「それにしてもどこ行ったんだよあの2人は…」
「コンビニっつたらそんなには無いはずだけどなあ…」
「ご う と う…」
やっぱり、最初は接続不良か何かで電気が点滅しているかと思ったけど…モールス信号だ。
あんなこと思いつくのはゼロしかいないんじゃないか…?
「萩原、さっき帰った女子達まだ周りにいるかな?」
「へっ? なんで?」
「あのコンビニのライトの点滅…モールス信号なんだよ。強盗、6人、銃って繰り返してる。」
「マジ?」
ぽかんとしている松田と萩原にしっかりと頷けば、2人はすぐに表情を引き締めた。
「分かった、すぐに呼ぶ。」
そうして萩原が女子たちを呼び戻し、問題のコンビニへと目を向ければ…異常なほどに中に人気がないのが見えた。
「…行くぞ。」
「OK…」
すう、と萩原が息を吸った。
「おーい! なんかこのコンビニガラガラだぜー⁉︎」
「おお、いーじゃんいーじゃん! 俺らの貸切じゃん⁉︎」
「なっ、なんだお前ら⁉︎」
慌てたように現れた男の手に握られているナイフを見て顔を見合わせ…。
「すっげー! テレビの撮影⁉︎」
「映画じゃね⁉︎」
「えー! ホントー⁉︎」
そうして笑顔で犯人たちに近づき…腕を締め上げて拘束した。
そんなクラスメイトたちを横目に人質がいないか確認に回る。
その中でクロークにいたゼロたちを見つけた。
「いた、ゼロ…!」
「ヒロ…! 気づいてくれたか!」
「モールス信号だろ?」
「諸伏、マジでそれで来たのか…!」
ぞろぞろと人質たちを引き連れて出れば、犯人を拘束する松田や萩原が笑顔を見せた。
「よっ、降谷ちゃんに班長!」
「萩原、松田…お前たちもいたのか!」
「人質になってた割にはぴんぴんしてんだ…な…」
松田が不自然に言葉を止め、彼の視線の先に目を向ける。
そこで初めてゼロたちと同じように人質になっていたらしい宮野さんを見つけた。
「えっ、宮野さん⁉︎」
『…助けてくれてありがとう。たまたま買い物に来ていたら巻き込まれたの。』
「そ、そっか…」
ちらりとゼロに目を向ける。
でもゼロの視線の先にいるのは静かにコンビニを後にした男で。
「悪い、ちょっと…」
「あ、おいゼロ?」
珍しい、宮野さんより他の何かを優先させるなんて。
宮野さんへと目を向けると…俺は思わず息を呑んだ。
それは宮野さんがあまりにも心配げにゼロの後ろ姿を見ていたから。
この時まで俺は正直ゼロが言う”彼女”と黒凪さんがとても同一人物には思えなかった。だけど。
もしかすると本当にそうで…彼女は何らかの理由でそれを隠しているのかもしれない。そう思った。
「――あの!」
「?」
「Um, sorry…I just, 」
「…日本語でも構わない。さっきまでは面倒ごとに巻き込まれたくなかったために話せないふりをしていた。」
静かにそう言ったこの人にきっと俺は目を丸くしていたことだろう。
たとえそうだとしても…俺にそれを告白するとは思っていなかったのだ。
「そうだとしても…どうして俺にその事を?」
「特に理由はない。それより何故俺を追ってきた?」
「…彼女…宮野黒凪さんと知り合いのようだったから。」
「…。姪っ子なんだ。俺も仕事で日本に住むようになったから…時々会っている。」
姪っ子、か…。
その真偽を確かめる方法はないだろうな。
「…彼女、辛い目には遭っていないですか?」
「辛い目?」
「なんだかいつも疲れているような…悲しそうな感じだから気になって。」
「…君があの子をそこまで気にする理由はなんだ? ただのクラスメイトだろう?」
顔を上げると同時に、男と目が合った。
どこか自分を試しているような、そんなまっすぐな目に…嘘をついてはいけないと、直感で悟った。
「…。彼女は否定していますが、かつての親友にそっくりで…いや、そうとしか、思えない。だからです。」
「…」
「だから彼女をどうしても放っておけない。何かに巻き込まれているのなら…助けたい。」
男が目を伏せ、沈黙が落ちる。
「…あんたの気持ちはよく分かった。」
男がこちらに一歩近づき、声を潜めて言う。
「まず彼女を…黒凪を助けたければ、これから先、警察学校外での彼女の顔見知りに絶対に目を付けられるな。」
「え?」
「こんなことは俺で最後にしろと言っているんだ。でないと…もう彼女と会えなくなるぞ。」
「っ、」
脅しではない、その真剣な目に、声色に。息を飲んだ。
「次に、彼女を思うなら誰にもお前が “勘づいている” ことを悟られるな。彼女を影から、秘密裏に見守るんだ。」
「ま、待ってください。勘づいているって、」
「最後に。」
こちらの言葉をさえぎって言った男に口をつぐむ。
「今はまだ動くな。…ただの学生じゃあ、何もできはしない。」
男が距離を取り、それをただ目で追うしかできない、俺。
「お前のために、俺の名前も素性も何も言ってはやれないが…俺の言ったことを必ず守れ。ではないとお前は自分自身も、そして黒凪も破滅させかねない。…その時が来るまで待て。お前が彼女を確実に守ることが出来るようになる、その時まで――。」
ざあ、と風が吹く。
背中が冷えていくのが分かった。
一体彼女は、黒凪は――何に、巻き込まれているんだ?
イーサン・本堂
(瑛海と同じぐらいだろうか、と彼女を初めて見た時に思った。)
(そしてその目が、表情が…娘のものとは比べものにならないほどに冷たく、機械的で。)
(ああこの子はもうダメだ――。)
(そう、思った。)
(そんな折に俺の元まで走ってきたこの青年を見て、彼女のために賭けをしようと…そう、思ったのだ。)
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