過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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7年前のあの頃 with 降谷零
警察学校による、武術を学ぶ授業は現場での執行力を身につけるため、男生徒は柔道または剣道、女生徒は柔道、剣道のほか合気道から授業を選択し、心身ともに鍛錬する。
合気道の授業は女性のみになるため、女生徒からの人気も高く…毎回何人かは希望を外れ柔道か剣道のクラスへと振り分けられる。
その次に人気なのは武器を扱え、比較的痛みの少ない剣道であり、わざわざ柔道を選ぶ女生徒は、正直言って少ない。
「噂のミス・パーフェクトだよな、あれ…」
「合気道希望からあぶれたのかな?」
「いやいや、それなら剣道のはずだろ…?」
そもそもかなり少ない女生徒の割合。おかげでここ、もっとも人気の低い柔道にいる女生徒の数は…わずか3人。
そのうちの1人、ミス・パーフェクト…宮野黒凪。
彼女はかなり上位の成績を保有して入校しているのだから、希望する授業へと振り分けられるはずだろう。
「流石、学校きっての天才は考え方も他の生徒とは違うらしいぜ。ゼロ。わざわざ男女の対格差が顕著に表れる柔道クラスの選択とは。」
「ん、あぁ…」
ちなみに、以前の鬼塚教場の首吊り事件にて距離の縮まった俺たち5人…俺、ヒロ、萩原、松田、そして伊達。
俺たちはこれまた偶然にも皆柔道を選択した。
そして他の生徒たちが噂をし、松田も言うように…彼女、宮野黒凪も。
「それにしても、女子たちの体格差やばくね?」
「確かに…あんな大きな生徒、いたんだな。」
萩原とヒロがそんな風に会話を交わす。
そんな彼ら…というか、ほとんどの男生徒もそちらを見ているのだが。
視線の先に立つ宮野黒凪以外の2人はがっしりとした体形をしていて、一目で柔道経験者だと分かるぐらいだ。
対しての宮野黒凪は身長はそれほど劣ってもいないが…正直、比べると細い。
だから松田も考え方が違う、と言ったのだ。あれじゃあ自ら火の海に飛び込んできたようなものだ。いや、言いすぎか?
「では、各々ペアを作って組み手開始!」
「んじゃ、ヨロシク。」
「こちらこそ。」
まず隣同士にいた萩原と俺でペア。
松田とヒロでまた別のペア。班長は体格差を考慮して同じぐらい体格のいい他の生徒と組むことになった。
ちなみに宮野さんは…。やっぱり、体格差を見て多少大きくとも女生徒とのペア。
「…じゃ、あそこ空いてるしそっちに移動しましょう。宮野さん。」
『はい。』
こうやって聞いていると声の低さも随分と違う。
大丈夫だろうか…。
「ミス・パーフェクトが気になる? 降谷ちゃん。」
「ん、いや…。」
「いいよ嘘つかなくて。俺そういうの分かるし…それに、俺も正直心配。確かに抜群の成績で入校してきたとはいえ、彼女年相応に線も細いしね。」
「…まあ、そうだな。」
そんな風に言ってちらりと宮野さんへと目を向ける。
今から相手と組み合うらしい。周りを見ても、俺と同じように組み手をしつつそちらに意識を向けている生徒たち。
何事も授業が始まると注目されるのはいつも俺か宮野さんだと自負している。
やっぱり成績優秀で、入校当時から目立っているせいだろうが…。
「あれでボロボロにやられちまったら、ミス・パーフェクトなんてあだ名もなくなるかもな。」
俺と同じように見ているのだろう、松田が言った。
それにヒロも何も言えず、心配げに宮野さんを見ている。
「…ちなみに宮野さん、柔道の経験は?」
『数回やったことはあるけど、あまり。』
「なんで合気道とか剣道にしなかったの?」
『他の子たちがそちらへ行きたそうだったので…譲っただけです。』
ふうん…。と宮野さんの相手をしている女生徒が余裕に笑う。
「ま、男たちの方はほとんどが未経験者らしいし…大丈夫大丈夫。余裕っしょ。ま、筋がいいかだけでも見てあげる。」
『ありがとうございます。』
「じゃ、よろしく。」
そして2人が構え、じりじりと互いの隙を伺う。
途端に、宮野さんの纏う雰囲気が一変したのが分かった。
なんだあの緊張感? と松田が言うのが聞こえる。
「…いくよっ!」
最初に動いたのは宮野さんではなかった。ぐわっと伸びる手がいとも簡単に宮野さんの襟元を掴む。
あ、投げ飛ばされる――。そう、思った瞬間。
「っ⁉」
『…えっ、(軽っ…)』
宮野さんの襟元を掴めた時に生じた一瞬の隙の間に彼女の手も相手生徒の襟元へ向かい、そのままなんの躊躇もなく相手を投げた。
…投げた⁉
「(ぜ、全身の使い方が桁違いに上手い…体格差をもろともしていない…!)」
びたんっと女生徒の身体がなすすべもなく床に落ちた音が響く。
それだけであまりの早技に相手が全く受け身が取れていなかったのが分かった。
あまりの音にしん、と場が静まり返る。
『(しまった、アイリッシュ相手ぐらいの感覚でやっちゃった…⁉) ご、ごめんなさい…大丈夫ですか…』
「っ、った…」
『ご、ごめんなさい…医務室に行きましょうか…。』
と、まともに立てそうにもない女生徒を医務室へと連れていく宮野さんに唖然とした視線がぐっさぐっさと突き刺さる。
そしてぱたん、と扉が閉まった途端にざわ、と皆が騒ぎ始めた。
「え、何が起こったの今?」
「ミス・パーフェクトが投げ飛ばしたんじゃね?」
「あの体格差で?」
「マジ…?」
目の前の萩原もぎぎぎ、とこちらに目を向けて言う。
「降谷ちゃん、あの子狙うのやめたら…? あれは怒らせるとやばい…」
「い、いやそもそも別に狙ってるとかじゃ…」
「さっさと全員訓練に戻れ! 無駄話はするな!」
そうしてまた再開される組み手。
暫くしてから宮野さんが戻ってきたとき、軽く全員の実力を見るということで勝ち抜き戦のトーナメント形式での組手をされることに。まあ、経験者のみだが…。
「…あ、おい降谷に松田! お前らもこっち側だ。」
「はあ? めんどくせー…」
「え、いや…俺はボクシングの経験だけで…」
「さっき萩原を放り投げてたやつが何を言う。」
「はあ…」
しまったなあ、経験者相手には勝てないだろうし…。
げんなりとしながらすでに経験者として列をなしていた班長の隣へ。
ちなみに先ほど宮野に連れていかれた以外の女生徒もう1人も並んでいる。
「これで全員――」
『ただいま戻りました…』
「おお、お前もいたか宮野。こっちに並びなさい。」
『え? はあ…』
と何もわかっていない様子で俺の隣に並ぶ宮野さん。
宮野さんはきょろきょろと立って並ばされている俺たちと、体育座りでこちらを見ている生徒たちとを見比べている。
「…宮野さん」
『?』
「さっきまでの組み手で筋の良い生徒と経験者だけでトーナメントをするらしいよ。」
『…ええ…』
心底嫌そうに言った宮野さんに思わず笑みがこぼれる。
それを見ていた宮野さんは少しだけ目を見開いて、目を逸らした。
そんな様子に多少なりともショックを受けていると、早速男女でグループを分けられる。
「まずは男女別で勝ち抜き戦を行い、最終的にトップの2人で組み合ってもらう。いいな!」
教官の言葉に「はい!」と返答を返し、早速人数の少ない女生徒から。
「よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします。』
「宮野! 声が小さい!」
『…よろしくお願いします!』
挨拶の声からも体格差が出ている。なんて言ったら大げさかもしれないが…。
それほどに、やはり宮野さんは細いのだ。
「始め!」
『……』
そこからは早かった。というか、多分宮野さんが早く終わらせたいだけだろうけど…。
「きゃあっ⁉」
「…エグ…」
「あれはかなり場数を踏んでるなあ…」
「(おおお…)」
松田、班長…そして俺の順に、今しがた床に沈んだ女生徒を憐れむ。
またものすごい音がした。先ほどと比べると幾分かマシだけど…。
『(また力加減が…どれもこれも、ここにいる誰よりも大きいアイリッシュの所為ね…)』
「よし宮野は端に。次!」
すぐに男生徒同士での組み手が始まった。そして。
「やっぱこのカードだよなあ…」
「んだよ “やっぱ” ってよお。俺が負けるの予想してたのかよハギ。」
「そりゃあやっぱ…総代と、総合力ナンバー2かつ俺ら5人の中で一番デカい班長じゃあ勝ち目薄いぜ陣平ちゃん…」
結局こうなるか…。
と、前に立つ班長を見上げる。正直、班長が相手だときついだろうな…。
「ま、お手柔らかにな。降谷。」
「こちらこそ。」
そうして…俺は全力を極力尽くした。
しっかりと班長に一瞬の隙をつかれてぶん投げられたが。
「イテテ…」
「いやあ、きつい試合だったぞ。降谷。」
「ははっ、警察学校で金髪だから負けるんだよ。」
「おいおい、聞こえるって…」
ああ、バッチリ聞こえてるよ…。
そんな言葉は飲み込んで、班長の手を掴んで立ち上がると、班長が息を吸った。
「あーあ! 他の奴らも降谷ぐらい強けりゃあ、俺ももっと本気出せるんだけどなあ。」
しん、と俺を馬鹿にするように話していた2人が黙り込む。
まあ、さっき俺と班長別々であの2人から一本取ってあるし、それもあるんだろう。
「では、宮野と伊達の試合で今日は終わりとする。宮野!」
『はい…』
俺に代わって土俵へと上がる宮野さん。
『よろしくお願いします。…降谷さんほどの組み手ができるとは思いませんが…』
ちらりと宮野さんの視線が、先ほどの班長の言葉で黙り込む2人へと向かう。
『まあ、彼らよりはマシかと思いますので…ご容赦を。』
「ぷっ、ボロカスに言うじゃねーか…くく、」
「おい陣平ちゃん聞こえるって…」
松田が噴き出し、さらに肩身が狭くなった2人。
その様子を見て少し驚いていると、ヒロが俺の隣に座った。
「気にするなよゼロ。言わせておけばいいさ…他人に構うだけ彼らには余裕がおありなんだろ。」
「ヒロ…」
「――では、始めェ!」
はっと松田、萩原、俺、そしてヒロが宮野さんと班長に目を向ける。
「…おぉ…」
「(改めて見ても、すごく器用に戦うなあ…彼女…)」
ヒロの感嘆を聞きつつ、そんなことを考える。
何度か仕掛けてくる班長をうまくいなし、決して焦ることなく相手の隙を待っている宮野さんを相手に、流石の班長も苦戦しているのが見て取れた。
『(この人、かなり強い…やりづらい、)』
「(ふむ…中々隙が出ないな…。こうなれば多少無理をしてでも、)」
『!』
ぐわ、と腕を伸ばし、宮野さんに掴みかかる班長。
多少リスクを取ってでも倒すつもりだ。ついに班長が宮野さんの足を払い、宮野さんが倒れ込む。
そこで「おお、」と感嘆がほぼ全生徒から聞こえたのは…宮野さんが背中を地面につかないように、しゃがみ込む形で班長に投げられるのを咄嗟に防いだためだ。
「(までも、ここまでくりゃあ後は力で…っ)」
『っ、』
ふ、と宮野さんの身体が少しだけ浮いた。
あ。彼女が負ける…そう思った時だ。またしても彼女は予想外の行動に出た。
「⁉」
彼女が振り上げた肘が、班長の顔の真ん前でビタッと止まる。
恐らく咄嗟に出たのだろうが…ギリギリで柔道のルールを思い出して踏みとどまった、というところか。
『あ、ごめんなさ…』
「おりゃあ!」
『あ。』
そしてあっさり宮野さんは班長に押し負けた。
さっき危うく肘で班長を殴りかけて、それに気づいたところで初めて隙が生じたのだろう。
「大丈夫か? 宮野さん。悪いな思いっきり押し通しちまって…」
『いえ…私も思わず反則をしかけてしまいましたし…。』
「…もしかして、昔は結構やんちゃしてた?」
『え?』
あれは喧嘩慣れしてる反応速度かなあと思って。
そんな班長の言葉に彼女は、
『…まあ、そんなところです』
と、どこか悲しそうに言った。
降谷零
(知れば知るほど、)
(彼女の行動を注視すればするほど…)
(俺が知る彼女とはどんどん違っていってしまって。)
(君は、誰だ?)
(それとも、君に何があった? と聞くべきなのだろうか。)
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