過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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7年前のあの頃
早いものだ…。
あの日からもう、12年か。
淡い桃色の花びらをゆらゆらと風に揺らす桜を見上げながら、そんなことを考える。
「(それにしても、子供ながらにたどり着いた結論を信じてここまで来るとは…俺も中々のバカ野郎だ…。)」
警察官になれば、あの日突然俺の目の前から消えた友人を…恩人を見つけ出せるかもしれない。なんて。
赤みがかった茶髪が、視線の端をよぎったような…そんな気がした。
「総代――降谷零。」
「はい。」
壇上へと上がれば、こちらを照らすスポットライトの眩しさと、その熱にうんざりする。
そしてこちらを見上げる生徒たちを見れば、思っていたよりもはっきりと1人1人の顔が見えた。
顔を何気なく眺めながら、決められた文言を話す中で…、俺の心臓が大きく跳ねる。
「(――え?)」
壇上で話す内容ももう終盤に差し掛かっていた時だった。
視界に映った途端にとてもクリアに見えた顔が1つ。
彼女自身も俺と同じ様にこちらを驚いたように凝視しているのが見える。
視線が交わり、しばし互いに見つめ合って――目を先に逸らしたのは、彼女だった。
「お、おいゼロ…もう食事会場を二周はしてるぞ? 席は全然空いてるし、ここに…」
「…。」
「ゼロ…!」
「――ぜろ、ってあだ名?」
振り返れば、あくびをしながらカレーをつつく癖っ毛の男とその隣に座る…イケメンの部類に入るであろう男。
「彼、総代の降谷クンだろ?」
「大方、名前がレイだから数字の0にかけたってとこだろーよ。そうだろ?」
「あ、ああ…」
「…くそ…!」
聞こえたゼロの声に振り返れば、不機嫌な顔をして俺が今しがた話していた癖っ毛の男の隣に座った。
「も、もう一周してきたのか? 舞台で挨拶をしてから変だぞ、ゼロ…。」
俺も癖っ毛の男の前に座る男の隣に座れば、癖っ毛の男が頬杖をつきながらゼロに目を向けた。
「ちょうどアンタの話をしてたんだよ…総代。」
「? …君は…」
「松田陣平。ヨロシク。」
「俺は萩原研二。この陣平ちゃんとは長い付き合いなんだ。君は?」
こちらに視線が向く。
「あ、俺は諸伏景光…。俺もゼロ…降谷とは学生の頃からの付き合いなんだ。」
「ヨロシク! それにしても、入校初日から何を必死に探してたんだ? 降谷ちゃん。」
「(降谷“ちゃん”?) いや…知り合いの女性にそっくりな人がいたから…」
「ぷっ、お前総代やっておいて女のケツ追いかけてここに来たのか?」
そんな松田の言葉にゼロの目つきが一気に悪くなった。
「真面目でスカした野郎だと思ってたけど…気に入った。仲良くしよーぜ。」
「…。僕は誇りを持ってこの警察学校に来た。お前のような不真面目な言動のやつとは仲良くする気はない…。」
「…あぁ?」
「ちょ、ゼロ…」
「陣平ちゃんどうどう…」
『(やっと席に座った…。)』
同期の男の子たちと食事を始めたレイ君を見て肩の力を抜き、適当な場所に座る。
名前を聞いてまさかとは思ったけど…警察学校に同じタイミングで入学することになるなんて。
授業は男女混合が主だし、どうしたものかしら。
「――あの、隣いいですか?」
『あ…はい。』
なんて返答を返してハッとする。
レイ君がここにいる以上、素のままでいると本当に私だと思われかねないわよね…。
苦しいだろうけど、このまま彼を避けて通ることは無理だろうし…同姓同名のそっくりさんとして押し切ろう…。
『(寮生活でやっと気の抜けた生活を送ることができると思ったのに…)』
19歳になる、この年。
高等学の理数科を卒業した私は警察学校への進学という、同級生からすれば何が何だか分からない進路を進んだ。
もちろんこれは組織の命令で、理数科の進学は組織の開発に私を参加させられるかのいわば篩にかける為。
結局当初の予定通り警察学校に来たということは、私が研究には向かないと判断されたから。
『(レイ君がいる限り、気は抜けない…。)』
携帯がメールの受信を知らせる。
私に連絡を送ってくる相手なんて、組織の人間以外にはいないのがまた悲しいところだ。
『(今夜、1時…)』
恐ろしいのが、組織は独自のルートで警察学校の監視カメラの位置を完璧に把握している。
もちろんそれらは私にもシェアされていて、掻い潜って外の人間と密会する事ができるのだ。
「…ジンから伝言だ。来月の第一土曜日…任務に同行するようにと。」
『学生の身分なのに、まだそんなことを私にさせるって言うの?』
「人手不足だそうだ。」
深夜…街灯も少ない場所で壁越しに会話を交わす。
コードネームを名乗ってこなかったから、きっとそれすら持っていない下っ端のうちの1人なのだろう。
『…OK. 他には?』
「…これを。」
校門越しに男がUSBメモリを渡してくる。
そこで初めて男の顔を見た――日系人だけど、どこか外国人の血が混ざっているらしいその顔と、黒人系の人間が持つ強い癖のある髪。
それにアジア人離れしたその体格…こんな男、組織にいたかしら?
『貴方…新しい人間? 会ったことないわよね…?』
「あぁ…イーサンだ。これから君が警察学校にいる間の連絡役を任された。」
『…そう。で、このUSBは?』
「隙を見て日本警察の機密情報などを取ってくるようにとのことだ。まあ、卒業が1番の目標のため…あまり無理はするなとのことだが。」
そんなスパイみたいなこともさせる、と。
目を伏せてUSBを握りしめる。脳裏には…レイ君の顔が浮かんでいた。
『分かったわ。ありがとう。』
「…。」
イーサンが帽子を深くかぶりなおし、ジョギングを装って走り去っていく。
それを見送り、また監視カメラの穴をつたって寮へと向かう。…その中で、
「僕の何が気に食わないのか知らないが…こんなことに費やす時間は僕にはないんだ。」
「その態度だよ…僕ちゃんは偉大な警察官になるって言う根性が気に食わねーんだよ…!」
「何を馬鹿な…君もその警察官を目指してここに入ったんだろうに…!」
ドゴ、と骨と骨がぶつかり会ったような鈍い音が響く。
フラフラと揺れて体勢を崩した2人を物陰から確認してため息を吐き、監視カメラの位置と彼らの位置とを確認した。
あんなところにいられては私も寮に戻る事ができない…。
『…誰かいるのか⁉』
精一杯の低い声で言えば、2人が一斉にこちらに目を向けた。
「やべ、」
「っ…!」
処罰を恐れてだろう、走り去っていった2人にまたため息を吐く。
全く、レイ君は小学生のころと全く変わっていないじゃない。
疎まれて、喧嘩ばかり…。
対して私は随分と変わってしまった。今となっては、これから苦楽を共にする人たちや…上司の情報を、犯罪者に横流しをしなければならない。
『…、』
空を見上げる。
組織の建物以外の場所から月を見上げるのは、随分と久々なような気がした。
宮野黒凪
(…誰か、)
(助けてくれないかしら、…なんて。)
(馬鹿気た願いを、呟いてみる。)
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