過去編【 子供時代~ / 黒の組織,警察学校組 】
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18年前のあの頃 with GIN
…また、この時間が来た。
実際にこの目で見るまでは知らなかった…飛び散る血の効果音は映画やドラマが表現するようなものではない。…それほどドラマチックじゃない。
「やっ、やめろジン! 俺たち仲間だろ…!!」
「……」
「あ、あいつか⁉ 俺を裏切り者だって宣ったあいつのせいだろ⁉ あんな戯言信じるなよ…、なあっ! 頼むよ…!」
「疑わしきは罰せよ、だ…」
どうしてそんなに容赦なく引き金を引けるのか?
どうして…命乞いをする人を前に、表情1つ動かさずにいられるのか。
どうして、こんな残酷な光景を子供に…私に見せられるのか…。
「黒凪」
『…は、はい』
「死体を海に落とせ。」
『…っ、』
やれ。冷たい声が私の意思を押し殺す。
防波堤の傍で殺したためそれほど距離はない。
数メートル引きずっていけば、それでいい。
でも…大の大人を私一人で持って行けと?
「…早くしろ。」
『っ、』
足を持ち上げてゆっくり、ゆっくりと引きずっていく。
力が抜けてぐったりとしている身体は何よりも重くて、この一連の作業だけで汗が止まらなくなった。
でも流れる汗は驚くほど冷たくて…自分が緊張しているのが分かる。
当たり前だ、私が今運んでいるのは人だったもので、それは、とても気味が悪くて。
『っ、はあ…っ』
やっと死体を押して海へと落とした頃には息が切れていて、その場に蹲る。
そしてこぼれた涙を必死に腕でぬぐった。
とても死体を掴んでいた手の平で顔を触ろうとは、思えなかった。
「車へ戻るぞ…。さっさと立て。」
『っ…』
こいつ、本当に容赦ない…。
痛む体に鞭を打って立ち上がり、ふらふらとジンの後を追う。
私の身体の3倍ほどはあるだろうか、この男。
まだ若いはずなのに…どう生きてこればこんな冷たい目を出来るのか。
どれだけ考えても私には分からなくて。
「…。」
ぴた、と足を止めたジン。
そんなジンを怪訝に横目に見つつも先ほどの指示に従って足を止めずジンのポルシェへと足を進める。
そしてジンを追い抜こうとした、その時…。
『わっ…』
私の服の首根っこを掴んでジンが軽々しく私の身体を後方に引っ張り上げた。
突然浮いた体に思わず悲鳴を上げた私は――私が先ほどまで立っていた場所に突き刺さった弾丸に目を見開く。
「…」
ジンが何も言わずに愛用しているベレッタを胸ポケットから取り出し、弾丸が放たれたであろう方向へと向けた。
私もそちらに目を向ければ、やっと拳銃を両手で構え…こちらを睨む白人の男が視界に入る。
先ほどジンが殺した男も白人だったから、きっと仲間なんじゃないだろうか。
ジンだけを睨み、じりじりとこちらに距離を詰めてきた。
「貴様…よくも仲間を…!」
「はっ、あながちスパイの疑いも間違いじゃなかったか…。」
パン、と火薬がはじける音が響く。
ジンが身体を屈め、男がまた標準を変えて引き金を引く。
2発目の弾丸は私に向かって放たれていたようで、ジンがぐっと私の頭を下に押し込んで回避した。
拳銃の弾を自分でも避けて、私にも避けさせるなんてどんな動体視力と反射神経をしているのか、この男は。
「そんな子供に殺人現場を見せて楽しいか⁉ 人の心を持ち合わせていないのか、貴様は⁉」
「…そのガキを殺ろうとしてんのはテメェだろうが…」
「当たり前だ…! あんな現場を見て、あんなふざけた組織にいるその子はこの先苦しむぞ…!」
自分の出生を恨み、人生を恨み…今よりもずっとつらい人生が待っている。
それとも…開き直ってお前のような大人になるか?
男の目が私の目を見つめたままにそう言った。
「どちらにせよロクなことにはならん…。その子のためにも、今ここでお前とともに殺す!」
ジンがつい、と口元を吊り上げた。
この状況の何がそんなに面白い?
どうしてこの状況が怖くないの?
なんなの…この人…本当に…。
『――!』
ジンが、私の身体で隠している左手を静かに動かし…私の背中に何かを押し付けた。
そして何度か私の背中をそれで叩き、手を伸ばせば、ずっしりと片手に乗る、拳銃。
「…”足を狙え”。」
ここでやっとジンが初めて日本語を話した。
男が理解できないようにだろう。
男が眉を顰め、警戒してジンに拳銃を向けた瞬間に、身体が自然と動いた。
「ぐあぁっ⁉」
『っ…!』
私が放った弾丸を足に受け、のたうち回る男に足ががくがくと震えた。
しかしジンはそんな私になど目も向けず、男に近付いてその手の拳銃を奪い…男の口に突っ込んだ。
「潜入捜査官ともあろうものが情けねェ…ガキを相手に躊躇したな。」
「~っ! ~~!」
「そのつまらねえ情けが命取りだったな…」
男の目が私を捉える。
ジンの指が引き金に伸びたところで、私は見ていられなくなって目を逸らした。
途端に男のうめき声が止まってしんとする。
そしてジンの足音がこちらに近付いてきた。
「目を逸らすな。情けねェ…」
『っ、』
「ガキみたいに泣くな。」
子供を相手に何を言っているんだ、本当に。
ジンを睨み上げると、前髪を捕まれぐいっと顔を強制的にあげさせられた。
「いいか? 俺は常々お前には何かあると思っている…」
『は、はぁ? 何かって…』
「まだ8つだったか? お前は…」
ギク、とする。
まあ…この人生では8年目だけど、
「…とても “そう” は見えねェがな…」
『っ、』
「現代の科学で説明ができねェような得体の知れねェ存在は…ベルモットだけで十分なんでな…」
髪を放され重力に従って落ちかけた身体を次は右腕を掴み上げられ強制的に立ち上がらされた。
そして腕をひっぱられ、時折転びそうになりながらジンの銀髪を見上げる。
『(どうしてこの男は…私が子供じゃないって分かったの? どうして…そんなこともあり得るか、なんてスタンスで私に話しかけられるの?)』
お父さん、お母さん。
貴方たちは…一体何を作らされているの…?
ジンが愛用している煙草の香りが強く沁みついたポルシェの中で、ジンが運転中にも関わらず煙草へと火をつけた。
それを横目に窓を開けば、煙草の煙が一気に外へと逃げていく。
『……。』
私は窓の外で流れていく景色を眺めながら1人考えていた。
先ほどの男の言葉を…。
『…自分の出生を恨み、人生を恨み…今よりもずっとつらい人生が待っている。』
「…」
つい、とジンの目がこちらに向いた。
なんだかもう…この男に対して少しでも子供らしく見せようなんてことは考えもしなくなっていた。
逆に子供らしく演じれば演じるほど馬鹿らしくも感じられて。
『…ジン。…あの方の命令通りに私を利用したければ、すればいい…。』
志保さえ絶対に守ってくれるなら、私はなんでもする。
ここで私は…初めてジンの目を見返したような気がした。
その冷たく冷え切った、緑がかった瞳を。
GIN
(この時もしもこの女が往生際悪くごまかすようであれば)
(これほどまでに、あの方の命令に従って奴を育てることもしなかった…。)
(引き際の分かった賢い女だったから、馬鹿な真似はしないだろうと…)
(そう踏んでたんだがな…。)
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