本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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黒の組織との接触 (交渉編)
「もしもし。黒凪か?」
≪あら、秀一? 電話番号が非通知だったけど、大丈夫?≫
「この寒さで携帯の電源が落ちてな。」
≪ああ、雪降ってるものね。≫
電話ボックスの中でも息が白くなるほど冷え込んでいた。
握っている受話器も手袋越しでもひんやりとしているほどだ。
≪それで? 貴方が電話なんて珍しいじゃない。どうしたの?≫
「今日は仕事が早く終わってな。今から帰ろうと思うんだが…久々に一緒に飯を食わないか。」
≪そんなの確認しなくても一緒にご飯を食べるに決まってるでしょ。≫
そう笑い交じりに言う彼女に頬が思わず緩む。
受話器の向こう側から野菜を切るような音もした。
何を作ってくれているのだろう、そんなことを考えて期待に胸を膨らませる自分に「らしくない」と表情を切り替えて電話ボックスから外の景色を見上げた。
≪…あ、そういえば…≫
「ん?」
≪貴方傘は持ってるの?≫
「いや…」
今日は車置いて行っていたわよね?
そう言った黒凪に「ああ」と応えれば受話器の向こう側でがさがさと音が聞こえた。
≪じゃあ持って行ってあげる。今どこらへんなの?≫
「家から一番近い電話ボックス…わかるか? あのレストラン街の。」
≪ああ…わかったわ。家の方向に歩き始めていてくれる? すぐ行くから。≫
「わかった。」
受話器を下ろし、黒凪が言っていた通りに家へと向かうために公衆電話のボックスの中から外に出る。
途端に右側からの視線を感じて徐に振り返れば、そこには自分を凝視している女子高校生と、その彼女と手をつないでいる小学生ぐらいの少年。
「(あのボウヤは確か…あのバスで)」
そしてこの女子高生。
彼女の目じりに溜まる涙を見て記憶がフラッシュバックした。
そうだ、ニューヨークで会ったことがある。職業柄顔を覚えるのは得意だ。
それに現場も現場だったためか、強く記憶に残っている。…そうだ、あの時も泣いていた…。
「…また泣いているのか」
「!?」
途端に少年の顔色が変わり、俺と女子高生とを交互に見上げた。
「…いけませんか。」
この口調からして、この子も俺のことを覚えている、か。
髪を切ったばかりの時は直属の上司であるジェイムズにも一瞬気付かれなかったのに、よく気付いたものだ。
「……いや、お前に似た女がいるんだ。」
「…え?」
「沢山の事を背負い込んで、その結果その重みに耐えきれずに崩れ落ちる。…稀に見せる涙は記憶にこびり付いて離れない…。」
そう。どんなに理不尽な目に遭ってもなんてことのないように振る舞うくせに、最終的に独りで限界を迎えて動けなくなる。
泣いているときに強気に返してくるところなんて、よく似ている。
また思わず笑みがこぼれたのが分かった。そこで今しがた考えていたあいつ…黒凪の言葉を思い出して歩き始める。
唖然と俺を見上げる2人の隣を通って歩き続ければ、現れたその姿に自分の頬がさらに緩んだのが分かった。
『あら、寒そうな顔。』
「…早かったな。」
黒凪と俺の会話に少年と女子高生が振り向いたのが分かった。
「えっ…黒凪さん⁉」
『うん? あら、コナン君。』
バスでは顔見知りではないと言っていたはずだが。
そんな意味を込めて黒凪を見下ろすも、彼女の視線は少年へと注がれている。
少年を見れば、視線だけで黒凪に「この男は誰だ」と俺についての説明を求めているようだった。
『この人はね、私の…旦那さんみたいな感じ?』
「「旦那ぁ⁉」」
少年と女子高生が同時にそう復唱した。
そんな2人にいたずらに笑って「うふふ」とだけ返す黒凪の腕を掴んで歩き始める。
子供に細かく聞かれて簡単に答えられるようなシンプルな関係ではないためだ。
そんな俺を見て少しもたつきながらもついてきた黒凪が少年と女子高生…主に少年に再び目を向ける。
『この人、怖いかもしれないけど悪い人ではないから。安心してね。』
「え、あ、うん…?」
少年の質問に答えてやるわりに、核心はつかない。
そのもてあそぶような態度に頭をはたいてやれば、彼女は「なによう」と唇を少しとがらせて俺を見上げてくる。
それに何も答えず、傘をもって自分と黒凪の間にさせば、彼女はすぐに嬉しそうに俺の腕にその腕を絡めてきた。
『…で、さっきの子は? 珍しくナンパかしら。』
「馬鹿を言うな。…昔の顔見知りだ。」
『ふうん。』
「…お前こそ、あの子供は?」
俺の顔を見上げてきた黒凪は「志保の知り合いよ。」とだけ答えた。
それはつまり、と思わず表情を固めると「本当よ。」と念を押すようにして何も言わずに俺と歩き始める。
恐らく俺の考えは当たっていることだろう。なるほど、子供らしくはないとは思っていたが…組織の手で幼児化させられた人間、か。調べる価値がありそうだ。
「それにしても志保に俺の話はこのまましないつもりか?」
『ああ…それはねえ…。』
言いよどむ黒凪にちらりと目を向ける。
彼女は苦笑いを浮かべながら言った。
『貴方、志保が貴方のこと結構…というかかなり嫌ってるの知らないでしょう。』
「…まあ、事情も事情だからな。そりゃあ姉が死にかけた理由を作った男は憎いだろう。」
『ええ…。だから今は私を助けてくれている優しいFBIの人だって言ってあるの。貴方が諸星大だった、とは言わずにね。』
きっとさっきの反応は、志保から話は聞いていたけど貴方だとは知らなかったか、まだコナン君が志保からその話を聞いていなかったから。
そんな黒凪の説明にやっと納得がいったような気がした。
それに自分自身、組織にいたころにしみついたこの…人を殺めた独特の気配のようなものはわかるものにはわかるだろうと自負しているし、志保の境遇を理解すればおのずと話も読めてくる。
本当に旦那なんだ⁉
(っていうか蘭ねーちゃん、さっきの男の人と知り合い?)
(あ、うん…。昔新一と一緒に行ったニューヨークで会ったの。FBIって書いてあるジャケットを着た人たちと一緒で…。)
((FBI…⁉))
((なるほど、組織に追われる中で幼児化もなしにどうやって黒凪さんが逃げ切っているのか気になってたけど…))
((FBIに身を置いていたのか…。))
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