短編
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side王馬
「は、初めまして…苗字名前と、言います…よろしく、お願いします。」
その女の子は突然転校してきた。
普通は学生の間で少し噂になって、どんな子か想像したりして話が盛り上がるもんだけど。
漫画やドラマに出てきそうな見るからに地味な女の子。制服をきっちり着こなして、髪はお下げで丸メガネ。
最初こそクラスメイトは話かけに行くものの、無口で人見知りっぽい彼女に相手にされず皆不機嫌そうに離れていった。
オレはそんな様子を少し遠い席からじっと眺めた。
何をするでもなく、ただクラスを見渡すだけ。……観察しているような目。
そんな彼女が気になって少しからかってやるかと席を立った。
「ねぇねぇ、何処から来たの?」
「ぇっ、あ、その……」
彼女はもじもじと俯くだけで答えてはくれない。
「王馬ーやめとけよ、その子全然喋ってくんないし」
「そうやって除け者にするのは良くないよ!……ま、そんな事思ってないけど」
にしし、と彼女を見下ろすと未だに俯いていて会話をする気はなさそうだ。
「オレが話し掛けてあげてるのになんだよ!オレはこう見えてもクラスの中心なんだよ?オレの一言でキミなんていじめられちゃうんだから!…なーんて、嘘だけどね」
そんな冗談を言ってみてもまるで聞いていない様に、ただ机を見つめているだけだった。
いや、聞いてないんじゃなくて…興味が無い?
「苗字ちゃんって友達いないでしょ?そんなじゃ出来そうもないもんね」
何処まで言ったらこの子は顔を上げるのだろうか、好奇心に駆られて悪態がするすると口から零れ出す。
悪の総統だもん、人を貶すこと位日常的な事だ。
「ぁ、あの…」
話しかけ始めてから5分くらい経ったか、やっと彼女は口を開いた。
さて、どんな事を言うのか。
「学校、案内、してくれます……か?」
「へ?」
彼女が呟いた言葉はオレの想像を越えていて、思わず変な声を洩らす。
普通の奴なら断ってるけどこの子なら案内するのもつまらなくなさそうだ。
「しょうがないなー、オレって紳士だからね!嘘だけど!」
side夢主
文科省からの依頼で転校してきたこの中学校。
初めの挨拶の時にはとてもいじめがあるようには見えなかった。
まぁ、本当にいじめが無ければ3日ほどで調査を終えて報告書を提出してまた次の学校へ転校するだけだ。
私はひとまず、『なんとなくムカつく奴』を演じた。
人間はこれだけの理由で人を虐める。
転校生に興味を示し、取り囲んでいた連中はすぐに腹を立て散らばって行った。
「何にも無さそーなクラス…」
机に頬杖を付いてクラスを眺める。
もしかしたら隣のクラス?そもそも間違いとか?と色々考えていると1人の小柄な男子生徒が近付いてきた。
その男子生徒はコロコロと表情や言っていることが変わる。
聞いているこっちが苦しくなるような長ーいセリフをスラスラと楽しそうに。
それでいてこちらを値踏みするような目線を向ける。なんなんだコイツ。
そして今、私はそのおうまと呼ばれた男子生徒に学校を案内してもらっていた。
「ぁ、ありがとう…これで、まわれた?」
校舎を一通りまわりおえて、裏庭に着いた所で彼にそう問い掛けるとくるりと振り返り楽しそうな笑みを浮かべる。
「そうだねー、ここで最後かな」
それを聞いて私はそろそろ帰るかと男子生徒に声もかけずに立ち去ろうとする。
それに気付いたのか、前に回り込んで立ち塞がる。
「ちょっとちょっと、せっかくここまで案内してあげたんだらオレにも少し付き合ってもらうよ」
にししと笑って私の手を取り、有無を言わさずにベンチに連れてくると私が逃げないように先に座らせてから、彼も隣に座る。
「ところで苗字ちゃん、なんでカツラなんて被ってんの?もしかして……ハゲ!?」
私のお下げを手で遊ばせながらそう聞いてくる。
めんどくさいなー、ハゲってことにしようかなぁ。
「……ぅ、うん。そうなの、病気で…」
私が俯き、それっぽく言うと彼はふーんと髪を弄るのをやめた。
と思った次の瞬間
「見せてよ!」
「わっ!?」
勢いよくカツラを引き剥がされて、私の地毛が露わになる。
赤紫のセミロングが、私と彼の間をふわりと舞って肩に当たる。
今回は長居もしないだろうと気を抜いた変装をしていたのが仇となったか。
カラコンも化粧もしていない、素の私。
「ちぇ、なーんだ髪の毛あるじゃんか。ま、最初から興味なかったけど。」
そう言って私のカツラで遊ぶ彼を呆然と眺める。
まさか、初対面の少女の髪の毛を引き剥がす奴がいるとは…
「……見ちゃったね、私の顔」
「ん?なに?なんて言ったの?」
私はゆらりと立ち上がって彼をベンチへと組み敷いた。
「ねぇ、なんでもするからこの事秘密にしてくれる?」
少し驚いた顔をした後に、悪そうな笑みを浮かべ私を見上げた。
スパイの仕事ならともかく、いじめの調査如きでこんな事をするのは馬鹿らしいけれど、素顔を見られてしまってはしょうがない。
「なんでもって、例えば?」
彼はニヤニヤしながら私に問う。
それにまた私はにこりと微笑みながら答える。
「思春期の男の子なら喜ぶあーんなことや、こーんなこと、かな?」
そう言って彼の唇をそっとなぞると、指に噛みつかれた。
「いたっ…なに?そういうのが好きなの?」
「いや、あいにく今はそういう気分じゃないってだけ。あ、これは本当だよ」
よいしょっと、と軽々私を押し退けてベンチに座り直す。
これでもなかなかの強さで押さえつけていただけに、少し面をくらった。
「苗字ちゃん、なんでそんなに素顔知られたくないの?なんかに追われてるとか?」
さっきまでの状況は無かったかのように、そのまま私に話しかけて来る。
なんだ、余裕過ぎる…。
「私って極度の恥ずかしがり屋なんだ。だから見られたくないの」
「オレに嘘つこうっての?」
今度は彼が私ににじり寄る。
逃げる事も出来るけど、今は素顔だしそれも難しい。
じりじりと近く彼に仰け反りながら避ける。
「さっき、なんでもって言ったよね?黙っててあげるからさ、」
ついに逃げ場がなくなって、体制もそろそろキツイという所で彼は私に提案した。
「オレの手下になってよ。」
「は?」
「オレ実はこう見えて構成員一万超の組織の総統なんだ。キミなら幹部にしてあげるよ、どう?」
めんどくさいなー、もう。
考えるのってなんでこんなに面倒なんだ。
ま、その組織ってのに入った所で逃げればいいだけだし。
「いいよ、なってあげる」
「ま、嘘だけどねー」
ぱっ、と彼が私の上から離れてケラケラと楽しそうに笑っている。
なんなんだ、本当に。
「あ、でも組織の総統って言うのはホントだよ!」
「手下になれって言うのか嘘?」
もう私は考えるのがめんどうで、適当に反射で言葉を返した。
「ううん、それも嘘。本当はお嫁さんになって欲しいんだ!」
「何それ、つまんない嘘」
「ホントだよ?」
彼の方を見ると楽しそうににししと笑って私の手にカツラを乗せた。
「じゃあそうだな、私を捕まえられたらお嫁さんになってあげる。明日には居なくなると思うけど。」
「えー、居なくなっちゃうの?オレ、寂しくて死んじゃうよぉ…嘘だけどね!」
はいはい、と言いながら立ち上がってカツラを被り直してから歩き出す。
「それまでに、王馬くんの事も調べといてあげる。」
「ふーん、じゃあ俺の事忘れないようにしとかなきゃね」
また私の前にするりと回り込んで、軽く背伸びをして重なる唇。
頭を引こうとすれば、後頭部を抑えられて何度も角度を変えて重なる。
薄く目を開ければ、バッチリと紫色の目と合って逸らせなくなる。
そんな様子を見て楽しそうに伏せられる瞼。
やっと離れたかと思うと、王馬くんの手が髪に触れた。
「こんなのより地毛の方がいいよ。」
にししと笑って歩き出す。
そんな言葉、今までにも何回か言われてきた。
なのに今日が1番ときめいたなんて、言ったら喜ぶだろうか。
「あ、そうそう。これあげるからオレのこと忘れないでね。」
振り返った手にはボタンが握られていて、彼の胸元を見ると第二ボタンが無かった。
「古風なことするね」
「ポケットに何も無かったから、しょうがなくね。浮気したら許さないよ!」
そんな彼からボタンを受け取って、手を振る。
もう二度と会うことは無いかもしれない。
きっと彼もすぐに私の事なんか忘れてしまう。
それを少し、寂しいと思った。
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