短編
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希望ヶ峰学園近くの静かなカフェ。ここのコーヒーとホットサンドは格別で、いつも朝食として通っていた。
入学前の下見に来た時に見つけたこのお店では、もうすっかり常連扱いだ。
きっと入学式の中継を見ていたのだろう店長さんは、最近サービスだと言ってサラダも付けてくれるようになった。
そんなお店のテラスで、通勤やら通学やらで行き交う人たちを眺めながらゆっくり朝食を取るのが私の日課になっていた。
今日もまたボーッと眺めていると、目線の先に目を輝かせた学ランの小柄な男の子がこちらを見ていた。
私は思わず目線をずらして交差点の方を見る。
入学式の生中継のせいで、もうすっかり希望ヶ峰学園の生徒として有名になってしまってからは、道で声を掛けられる事も少なくはなかった。
「うわー、すっげー!本物だー!」
背後から声がして、気配に気づかなかった事に少し驚きながらも目線はずらさない。
腕時計を確認すると午前8時手前。
そろそろお店を出るか、と残っていたホットサンドに伸ばした手は空を切った。
それには流石に目線を戻すと、さっきの小柄な男の子は私のホットサンドをむしゃむしゃと頬張っていた。
「…私の」
少し口を尖らせて言うと、男の子はにししと笑って手に持っていた残りのホットサンドを私の口に押し込んだ。
「むぐっ、」
「はい、返すよ。不味かったしね…嘘だけど!」
もぐもぐと口を動かしながら男の子を睨み付けると、今度は私のコーヒーに手を付けた。
「オレ、79期として希望ヶ峰にスカウトされてるんだー」
コーヒーを一口飲んで、うわにっが!とソーサーごと私の方へ押し戻した。
「だから先輩にちょーっと挨拶しようと思って、にしし」
口に人差し指を当てて妖艶に微笑む。
けど、初対面の人物からそんな事言われても…と考えながらコーヒーを啜る。
「先輩って飛び級してるから本当はオレらと同じ学年なんでしょ?……それに、本当はいじめられっ子じゃなくて…んっ!?」
今まで好きに喋らせてはいたけれど、流石にそれ以降はこんな大通りで口にされたくはなかった。
だから話し始めたと同時にコーヒーを含んで、大事な部分を言う前に後頭部を固定して唇と唇を重ねる。
少し空いていた口元からコーヒーを流し込んで、チュッとリップ音を立てて離れると見開かれた紫色と目が合った。
「少し置いたが過ぎると思うよ、総統さん。大事な組織を潰されたくはないでしょ?」
と言うと口の端から零れたコーヒーを拭き取って不敵な笑みを浮かべる。
「ふーん、じゃ今の情報は確定ってことだ。ま、組織を潰されたくは無いし黙っててあげるよ………今のところは、ね」
「一生喋れなくした方がいい?」
「うわぁぁぁん!殺されちゃうよー!」
豪快な嘘泣きに顔を顰めつつ、そろそろ行くかとコーヒーを流し込んで立ち上がる。
「オレの名前は王馬小吉。来年入るからさ、覚えといてよ先輩」
また不敵な笑みを浮かべてにしし、と笑う。
王馬小吉の事は何度か調べた事があるし、何度か変装時に会ったこともある。
それがバレているんだろうか?まぁそんなはずもないと席を後にしようとした。
それは腕を掴まれたことによって簡単に阻止される。
やれやれと振り返ると、至近距離に王馬小吉の顔があった。
「オレって狙った獲物は逃がさない、神出鬼没の大泥棒だからさ…必ず盗みに行くね」
「……ももクロ?って言うか総統じゃ?」
「細かい所はいーの!じゃあまた会おうね苗字ちゃん」
そう言うと私に軽くフレンチキスをして、どこかへ走り去った。
「本当に神出鬼没…」
1度、彼の組織に乗り込んだ事もあったけ。
そんな事を思い出しながら、私は学校へ向かって歩き出した。
side苗木
「私、さっき苗字ちゃんが近くのカフェで知らない男の子とキスしてるとこ、見ちゃった…」
朝比奈さんのその言葉に近くにいた数人が驚く。不二咲さんは少し落ち込んだ様子だ、何故だろう?
でもボクも同じだった。苗字さん彼氏いたのか…
そんな話題で少し盛り上がっていると、当の本人苗字さんが教室の入ってきた。
「おはよ」
淡白にそう言うと自分の席に着いて教科書やらの準備をし始めてしまった。
「こうなったら、確認するしかないよね!ほら、苗木行ってきて!」
「ぇ、ええっ!なんでボクがっ……」
そう言いながらも朝比奈さんはグイグイとボクの背中を押す。
このまま抵抗していても仕方ないし、ボク自信気になるので、聞いてみる事にした。
「あの、苗字さん…」
苗字さんに近付くと、ふんわりとコーヒーのいい香りがした。やっぱりカフェにいたって言うのは本当だったんだ。
「ん、どうしたの?」
「朝比奈さんが、さっきカフェで苗字さんを見掛けたって…」
苗字さんはあー…と小さく声を漏らすと朝比奈さんに目を向けた。
「で、どうなの!あれは彼氏!?」
ボクに聞けと言っておきながら朝比奈さんは苗字さんに詰め寄ると、困った顔をした。
「アハハ、違う違う。知り合いってだけだよ。」
そう言う苗字さんに朝比奈さんは更に詰め寄る。
「でもキスしてたよ!」
その言葉にまた苗字さんはあー…と小さく声を漏らす。
どうやら本当にキス、していたみたいだ。
「でもキスなんて挨拶でしょ?……する?」
苗字さんは僕の顔を見ながら唇に手を当てて微笑んだ。
その表情はあまりにも扇情的で……。
「し、しない、よっ!」
ボクの顔はおそらく真っ赤だっただろう。
それを見て苗字さんはくすくす笑った。