1年目
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「やぁ、おはよう苗字さん。昨日は休んでたみたいだけど……どうかした?」
ドアの方に目を向けると、ニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべる狛枝先輩。
笑顔のまま手招きをして、私が出てくるのを待っている。
「おはようございます、先輩。何か用ですか?」
「御手洗くんと何やら楽しそうにしてるみたいだからさ、何してるのか気になったんだ」
そこで私は表に出さないように驚いた。
御手洗先輩…もっと言えば超高校級の詐欺師といた所は誰にも見られていなかった、と思っていたけど。
狛枝先輩を見上げて少し距離を取りつつ、笑顔で答える。
「仲良く…どうしてそう思うんですか?」
「いやぁ、昨日たまたま2人が歩いてる所を見ちゃってさ…デート中だった?」
超高校級の幸運に見つかるなんて…なんて不運なのかしら、なんて考えつつどうしたものかと頭を抱える。
「あ、そうそう御手洗くんから伝言を頼まれてるんだ……場所を移してもいいかな?」
先輩は、最後の言葉を私の耳元で小さく呟くと私から離れてまたニコニコと笑い出した。
「えぇ…是非とも」
そして私達は授業も始まって人気のない中庭へ移動した。
「ここなら開けているし、盗み聞きをするのも難しいよね」
先輩は両手を広げて楽しそうにしている。
それを見て私は適当なベンチに座った。
「で、伝言とはなんでしょうか」
「戦力なら集まった。次にどうするべきかを教えてほしい…だったかな?」
「……あら、意外と早かった」
戦力を集めるにも、説得なりなんなりもう少し時間が掛かるかと思ったがそうでも無かったようだ。流石は超高校級の詐欺師というか、なんというか。
「ところでさ、戦力なんて集めて君たちは何をしようとしているの?」
先輩は顎に手を当てて、探るような目で私を見る。
なんとなく私はこの目が嫌いだ。だから、その目線から逃れるように下を向いた。
「それを聞いて先輩はどうするんですか?」
「……場合によっては、協力するよ。ボク何かじゃ足でまといになりかけないけど」
顔は上げずにちらりと見やると、先輩はいつにも増して真剣な表情をしていた。
この顔も嫌いだ。嫌に真っ直ぐな目をしてて。
「世界の滅亡を…違った、世界の絶望を企む悪い人達を捕まえようとしてるんです。」
そう言うと先輩は口元を隠して考え出した。
まぁ無理もない話だ。世界の絶望って言ったってスケールの大きい話だし、ただの高校生には考え及ばない所だろう。
「……素晴らしいよ!」
「え?」
先輩は突然立ち上がり両手を広げたかと思うと、中庭中に響き渡るような声でそう叫んだ。
かと思うと私の肩をしっかりと掴んで齧り付く勢いで近付いてきた。
「世界をかけた希望と絶望の戦いってことだね!?あぁ…本当にキミは…キミには最初から他の人とは違う何かを感じていたんだ。人生最大のお大仕事ってこれの事だったの?最っ高だよ!是非とも協力させてほしいな!」
鼻と鼻がくっつきそうな距離で息継ぎなしにそう言われて、さすがの私も驚いた。
江ノ島盾子が超高校級の絶望厨なら狛枝先輩は超高校級の希望厨って所かな。
「……協力自体は構いませんし、大歓迎です。ですがまだアナタのこと信用できませんし、私が欲しいのは何より戦力です。」
「確かにボクには戦えるような才能はないけれど……ボクにはこのどうしようもない幸運っていう才能があるからさ、連れていて悪いことはないと思うよ?」
未だに私の肩を掴んで話そうとしない先輩に根負けした。押し負けた、完敗だ。
とりあえず先輩を引き剥がしてベンチに座らせる。
「分かりました、協力してもらいます。でも少しでも不振な動きをしたらそれまでです良いですね?」
「もちろんだよ!」
先輩はいつものようにニコニコ笑う。
そんな彼に、私は言った。
「じゃあ、後は任せます」
side日向
先日、うちのクラスに転校生が来た。
九頭龍菜摘、超高校級の極道の妹で自己紹介で予備学科の俺達にとんでもない罵声を浴びせた。
俺には関係ないと窓の向こうに見える本科を眺めているとどうやらまた転校生が来るらしい。
クラスがざわめく。数日の間に2人もなんて、珍しいな。
「はじめまして、苗字名前です。これからよろしくお願いします。」
入ってきたのは、白髪で腰辺りまである髪の毛を1本の三つ編みに束ねたソバカスの少女。
「あー日向の後ろが空いてるな、ほらあのアンテナ頭の後ろだ。じゃあ席に着いてくれ」
「はい」
担任にそう言われ、一礼してその少女は一直線に俺に向かって歩いてくる。
そして俺の前で止まり、少し微笑んだ。
「よろしくね」
「あ、あぁ…よろしく」
苗字はそのまま静かに俺の後ろの席へついた。
九頭龍とは大違いだ。でもこれが普通なんだろう。なんの才能もない人間の、普通。
「ねぇねぇ日向くん、ずっと本科を見てるね?」
休み時間に、後ろから肩を叩かれそちらに目線をやれば苗字が微笑んでいた。
「予備学科にいれば誰でもみるんじゃないか…?」
「そう?私は興味無いな」
「……だったらなんで予備学科に来たんだよ」
俺は苗字の興味無い、という言葉に少し腹が立った。
俺が腹を立てたのに気付いたのか苗字は困った顔でこちらを見た。
「あ、ごめんね悪気はないの。でも、ああやった目立った優劣をつけるから劣った人はより苦しむでしょ」
苗字は少し寂しそうな目で、窓の向こうの本科を見つめていた。
「ちょっと、イチャイチャしないでくれる?鬱陶しい。目障りなのよ」
近付いてきた九頭龍が俺と苗字の間に立ち、苗字の机を思い切り叩いた。
「転校してきていきなり本科に興味無いって、じゃあ何しにここに来たわけ?ここはね、本科に憧れてるけどスカウトされないからって惨めに金積んで来てんのよ全員」
「お、おい九頭龍やめろって、悪気はないって言ってるだろ」
「アンタだってイラついてたくせになんだよ偉そうに」
その言葉に図星を突かれて口ごもる。
九頭龍で見えない苗字を覗き込むと、無表情に九頭龍を見つめていた。
その顔に、俺は少し寒気を感じた。
「そんなに本科に行きたいんですか九頭龍さん」
「決まってんじゃん。ここに居る全員だってそうなんだよ」
もう一度、九頭龍は強く机を叩く。
「なら安心してください、もうすぐ席空きますよ。……2つくらい」
苗字は気味の悪い笑顔を浮かべた。
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