1年目
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「お~、驚いてる驚いてる。あ、手紙見つけた!読んだ!アハハ~興奮してらっしゃる」
双眼鏡片手にあんぱんを頬張る。
そこは御手洗亮太のアパートがよく見える、近くのマンションの屋上。
隣には変装を外した超高校級の詐欺師。
「…そろそろ説明してもらおうか。江ノ島盾子とは一体何者なんだ」
「一言で説明しますと、超高校級の絶望にして変態?」
「は?」
私は足元に置いていた牛乳パックを拾い上げて、勢いよく飲み干し空になったゴミをまた足元に置く。
「彼女は世界を絶望に叩き落とそうとしてるんですよ。」
「絶望に、叩き落とす…?」
「あ、詳しい事は分かりません。絶望って言っても色々ありますし」
双眼鏡を外して、ゴミを拾い上げ屋上のドアへと歩き出す。
「ただ分かってることは、沢山の死人が出る。世界が滅亡してしまう程に」
その言葉に超高校級の詐欺師は言葉を詰まらせた。
それでも現実離れした話だ、すぐには理解し難いものだろう。
「それを未然に防ぐ事が私に課せられた仕事なので、理解してもらわなくて大丈夫です。……ただ、少しだけ協力して頂ければ」
「……協力?」
タンタンと軽快に階段を降りて行く。このまま先輩の協力を得られれば、私の作戦は成功する。いや、きっと大成功する。
絶望シスターズを相手にそこまで上手くいく、とは流石に思っていないけれど。
3階ほど降りてきた所の踊り場で、くるりと振り返り先輩に詰め寄った。
「先輩のクラスメイトの中から戦えそうな方々を連れてきて欲しいんです。」
「戦う、だと…?」
先輩はその場で腕を組み、私をキッと睨みつけた。
「何故戦う必要がある」
「んもー質問ばっかりで話が進まないなぁ。私が頼みたいのは江ノ島盾子の捕獲。それには双子の姉の戦刃むくろを何とかしなきゃなんです。」
超高校級の軍人と呼ばれ傭兵部隊フェンリルに所属しながらも彼女の体には傷という傷が見当たらないという身体能力の高さから推測するに、もちろん、ただのスパイの私では叶わないという事。
それに加え、江ノ島盾子本人も只者ではない。
むしろ戦えそうな方々を連れてきて貰っても勝算は五分五分と言った所だろう。
ということを懇切丁寧に説明し、納得してもらった。
「話は…何となく理解した、だがアイツらになんと説明するつもりだ」
「七海先輩が狙われている、とか言っとけば動いてくれますよね」
御手洗亮太が奪われた今、絶望ビデオの完成は難しい。
ならばひとまず超高校級の絶望を増やす事を最優先にするだろう。
それはあのクラスの中心である七海先輩の殺害、であろう事はある程度推測できる。
先に御手洗亮太の捜索に乗り出す可能性も無くはない…だから、同時にことを進める。
「七海先輩を狙う江ノ島盾子と戦刃むくろの捕獲らそれが先輩への依頼です。もし怪しまれても超高校級の詐欺師なんですから、そこは頼みましたよ」
「……分かった」
「これが終われば焼肉奢りますから!」
「必ずだぞ。」
と言って先輩は私を追い抜いて階段を降りて行った。
ちゃんと出来るかなと思いつつ、私は手帳を開きチェックを付ける。
この手帳は計画を箇条書きにして終わったものにチェックを付けるためのもの。
そうしないと私の小さな脳ミソでは処理しきれないのだ。
「さてと」
マンションのとある一室、パソコンのファンの音だけが広い室内に響く。
「御手洗先輩、進捗どうですか?」
少し間を開けて、先輩が勢いよく振り返る。
「凄いよ、こんな設備…!参考用の資料も沢山あるし……これなら、すぐにでも完成しそうだ!でも、どうやってこんなに…」
「用意したんだ、って?アマゾンさんて偉大ですね!すぐ届くし!」
私は先輩のデスクの後ろにあるソファに腰かける。
沢山の資料が乱雑に置かれたテーブルを眺めていた。
「それにこの部屋だって…」
「あ、ここは私の家です。」
「あぁ、君の…って、ええっ!?」
先輩がガタリと立ち上がる。
そして辺りを見回して居心地が悪そうに座り直す。
「広い…ていうか、ここ高層マンションの最上階…… 」
「まぁそれなりに稼いでいるので。そのご様子だと家の中を散策してないみたいですね、助かりました。この部屋とリビングとお風呂とトイレ以外は立ち入り禁止ですからね?」
「わ、分かったよ…」
そう言って先輩はまた作業に戻る。
その背中にまた来ます、とだけ声を掛けて家を出た。
どうして私が江ノ島盾子を出し抜けたか。
それは御手洗亮太を連れ出す為の設備に手間取ったから。
評議員の部屋を奪いそこにモニターやらの設備を設置して、そこに御手洗亮太を連れていくつもりだったんだろうが…
その準備に半日掛かったこと、それが敗因。
私にしてみれば半日も掛かればターゲットを連れ出す事くらい容易いこと。
まぁ、あの江ノ島盾子の事だ。じきに私の正体に気がついて訪ねに来る頃だろう。
私から赴くとしよう。
「おはよー」
翌日午前8時30分。
私は自分の教室の扉を開けた。まだ始業には早いと思っていたけれど、既に数人の生徒が談笑していた。
「あっ、苗字さん…!昨日休んでたけど…具合悪いの…?」
不二咲さんが私に駆け寄り、心配そうな目を向ける。
「苗字くん!理由も告げずに欠席とはどういう事かね!」
石丸くんは席に着いたまま私に問いかける。
「いやぁ、私一人暮らしだから…倒れてても誰も気付かないんだよね」
「む、そうか…すまない。」
「だ、大丈夫なの…?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと逆上せて倒れてただけだから!」
そうこう話しているといくらか時間が経ったらしく、続々と人が教室に入ってくる。
そして次にドアを開けた人を見て私の表情は曇った。