1年目
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「あ、あの…何か?」
ぷよぷよの人はおどおどと私に問いかけた。
その大きさで部屋の中までは覗けないが、微かに薄暗い部屋の中にモニターの光とペンを走らせる音が聞こえた。
「あ、私希望ヶ峰学園78期生の苗字名前と申します。御手洗亮太さんに用があって訪ねたんですけど、お留守ですかね?」
すると目の前のぷよぷよの人は少し驚いた顔をしながらも、身を乗り出した。
「ぼ、ボクが御手洗亮太…ですけど」
はて?私は自分の手帳を取り出した。ここには沢山の機密情報がぎっしりと詰まっている。
その中に、御手洗亮太のプロフィールもしっかりと記されている。
身長は160cm、体重48kg、誕生日8月30日、胸囲78cm。
どこからどう見ても別人だ。因みにこれは希望ヶ峰入学時に行われる身体検査に基づくプロフィールなので、1年でここまで肥れるとしたらどんなデブ活をしたんだって話だ。
「いえ、私は御手洗亮太さんに用事があるんです。」
「だ、だからボクが…」
「本物の御手洗亮太さんに用事があります。」
私がそう言うと、ぷよぷよの人は大きくため息をついた。
諦めたのかは分からないが、何も言わずに部屋に戻って言ってしまった。
「おーい、いるのは分かってるんですよー」
コンコンコンコン、とドアを叩き続けること3分。
人生で1番長くノックをしていた気がする。
私が手をぶつけないようにドアノブがガチャと音を立てて捻られ、数秒後にゆっくりとドアが開いた。
「苗字と言ったな。仕方ない、中に入れ。」
先程とは打って変わって不機嫌そうなぷよぷよの人はドアを開けたままズンズンと中へ戻っていった。
それに続いて私も後ろ手にドアを閉めてから奥へと進む。
青白い光を放つ画面に歯を強く噛み締め齧り付く細身の青年。
こっちが本物の御手洗亮太だろうとすぐに分かった。
「あのぅ、御手洗亮太先輩ですよね?」
「……そう、だけど。ボクには時間が無いんだ…後にしてくれないか」
「私にも時間が無いんです。協力していただけますか?」
御手洗先輩の頬を両手でガッチリと掴んでこちらを向かせて目を合わせる。
栄養失調のせいなのかどこか虚ろな目に私が写り込む。
「少しご飯でも食べながらお話しましょう。私は苗字と言います。栄養失調で倒れたりしたら無い時間をもっと削る事になるのでは?」
にっこり微笑むと、諦めたようにため息をついて私の手を剥がした。
「……分かったよ、少しだけなら」
「ありがとうございます、もしかしたらこれで世界が救われるかも知れませんからね!」
「世界が…救われる?」
今まで黙って私たちのやりとりを眺めていたぷよぷよの人が口を開いた。
「世界が救われるとはどういう意味だ」
私の事をキッと睨み付けているけれど、全くもって畏怖を感じないのはその見た目のせいか。
「そのままの意味ですよ。取り敢えず一つ質問なんですが、江ノ島盾子をご存じですか?」
先輩は目を見開いた。
その反応に私は確信を持った。江ノ島盾子は御手洗亮太を使うつもりだと。
「彼女から何か話を持ち掛けられていませんか?」
その言葉に先輩は更に目を見開くと共に、顔が青ざめた。
「な、なんで…それを?」
私はもはや勝ちさえ確信していた。
江ノ島盾子の計画はもう手に取るように分かる。後は希望ヶ峰学園の人体実験の妨害…。
気が付くと私はニヤニヤしていたようで、2人から冷たい目線を浴びせられていた。
「御手洗亮太先輩、私は貴方を拉致監禁します。」
江ノ島盾子の計画は御手洗亮太の洗脳ビデオにより、より一層飛躍しようとしていた。
そして今、新たな絶望への扉が開かれるっ!
「盾子ちゃん、ナレーションまだマイブームなんだね…」
「んー、そろそろ飽きそうだけどねー。」
かの有名な絶望シスターズは今、御手洗亮太の部屋のドアの前に立っていた。
「はぁ…このビデオが完成すれば世界中に絶望が感染して…うぷぷ、素敵よね~!」
まだ見ぬ絶望の世界を想像し身震いする体を抱きしめ、興奮を抑える。
今日から御手洗亮太を別の部屋へ隔離してその技術を用いて絶望ビデオを作成する。
それが江ノ島盾子の狙いだった。
「みったらーいせーんぱーい!」
勢いよくドアを開けた後、江ノ島盾子を待ち受けていたのは、彼女の愛する絶望だった。
「何よ、これ……」
一言で言うなら空。
もぬけの殻。何もない。まるで最初から誰も居なかったような、昨日ここで会った御手洗亮太は幻かと疑いたくなるほど、何も無い。
「どういう事…どこに行ったの!!」
慌てて土足で部屋に上がり込む2人。
部屋の隅から隅まで捜索する。だが、何一つ見つからない。髪の毛1本さえ。
「何が起こってるの…」
ぎりりと歯を強く噛み締め、思考する。
江ノ島盾子は考える。持ち前の超分析力をつかって思考する。
「じゅ、盾子ちゃんこれ!」
絶望シスターズの残念な方こと戦刃むくろが1枚の紙切れを差し出した。
それを奪い取って目を見開く。
『 御手洗亮太は貰っていく。』
ただその一言。
冷たい明朝体のただのコピー用紙。筆跡もなく、恐らく指紋もない。
「うぷ……うぷぷぷ最っ高だわ!」
その紙切れを前に、江ノ島盾子はヨダレを垂らした。