1年目
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次の日
希望ヶ峰での初めての授業。
それはこの学園の制度についてだった。
それはそれは至ってシンプルで、『定期試験は無し。ただし年に一度行われる実技試験で自分の才能を発表すること。』
「才能を伸ばすかぁ…」
超高校級のいじめられっ子、である私はどの部分を伸ばすべきか…
と悩みながらふと苗木君の方を見ると、彼もまた考え込んでいた。
一応ある授業の為の教科書が配られた所で、1時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「苗木君」
チャイムが鳴ってもまだうんうん唸っている苗木君の肩を叩くと、一瞬びくっとした後こちらを向いた。
「ぁ、苗字さんか…どうしたの?」
「さっきの話…えっと、実技試験の。苗木君は抽選で選ばれたんでしょ?苗木君も実技試験あるのかなって」
そう聞くと苗木君は苦笑しながら頬を掻いた。
「うーん、それがまだなんの説明もされてなくって…後で先生に聞こうと思ってたんだ」
「そっか、そうだよね」
ごめんね、と手を振って舞園さんや朝比奈さん辺りに聞きに行くかと思っていると苗木君が口を開いた。
「苗字さんはどうするの?その…いじめられっ子って才能はどうやって伸ばすんだろうね?」
「うーん、そうなんだよ…いくつか考えはあるんだけどさ。苗木君後で一緒に考えてくれる?」
「もちろんだよ!」
苗木君は爽やかな笑顔で言った。
すごい好青年…モテそうだなぁ
「い、いじめられっ子らしく、…いじめられてればいいじゃない」
通りすがりに話を聞いていたらしい腐川さんがそう吐き捨てるとスタスタと自分の席に戻っていった。
「……うん、そうだね」
「あ、あんまり気にしない方がいいんじゃないかな?」
そう言ってくれる苗木君を背に私は腐川さんの席へ近付く。
「な、なによっ…ほ、本当のこと言っただけじゃない」
「うん、私もそう思うよ。じゃあ腐川さんがいじめてくれる?」
座っている腐川さんの目線に合わせて姿勢を低くし、首をこてんと傾げると爪を噛んで目を逸らしてしまった。
「ど、どうせそうやって…親切心で近寄ってくる苗木みたいな男共を落としてたんでしょっ」
ぐぎぎぎ、と更に強く爪を噛む腐川さんの手を握って口からそっと離した。
私の才能には私の前にいじめられていた子のメンタルケアも含まれているから。
「そんなに強く噛むとせっかく綺麗な手が台無しだよ…それに執筆するのに、手は大切にしなきゃ」
腐川さんを見つめてにっこり微笑むと、バッと手を振りほどいて顔を赤くしていた。
「な、ななっ…」
「私は腐川さんとも仲良くしたいよ?」
そんな私達の様子を心配そうに見つめていた苗木君は安心したように息をついていた。
そこで始業の予鈴が鳴る。
「残念、また後でね腐川さん」
いまだに真っ赤な顔で硬直する腐川さんを横目に自分の席へ戻る。
腐川さんもせっかく可愛いのに、意地を張ってるのか恥ずかしいのか…すごい才能もあるのに孤立するなんてもったいない。
もっと仲良くなりたいなぁ、なんて思いながらその他の授業を過ごした。
「やーっとお昼だぁ、もう疲れたぁ」
いつの間にか仲良くなっていた朝比奈さんと大神さんは楽しそうにお弁当を広げていた。
私もお昼をとカバンを机の上に置くと、私の上にふっと影が落ちた。
ぱっとその方向を見ると、不二咲さんが恥ずかしそうにもじもじしながら立っていた。
「ぁ、あの…お昼一緒にどうかな…?」
頬を赤く染めて俯きながらこちらを見る。
まさか私を誘ってくれるなんて夢にも思ってなかったので、絶対に間抜けな顔をしていたと思う。
私が驚いて少し返事が遅れると、不二咲さんは不安な顔になっていく。
「ご、ごめん無理だよね「ううん、一緒に食べよう!」
私は不二咲さんの声を遮って手を取った。
それには少しびっくりしていたけれど、すぐに可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「じゃあ不二咲さん席で食べようか」
「あ、ううん。お天気もいいし…中庭で食べようかと思って」
「そうだね、行こう」
私はお昼のコンビニ袋を持って不二咲さんの手を取って歩き出した。
他愛ない話をしているとすぐに中庭に着いた。
適度に風が吹いてぽかぽかと暖かい日差しが差し込んでいる。
そこには数人他の生徒も居たけれど、空いているベンチを見つけてそこに腰を下ろした。
「誘ってくれてありがとう」
お弁当の包を開けていた不二咲さんに向かって言うと少し俯いてから笑顔で顔を上げた
「えへへ、ちょっとお話してみたくて」
それから私達はお互いの才能について話し合った。
少し不二咲さんと仲良くなれた。
私の才能の話をしている途中、そろそろお昼も終わる時間だと気付き立ちがあった。
さっきまでいた生徒達はもうすっかり居なくなっていた。
「じゃあ、そろそろ戻ろっか不二咲さん」
座っていた不二咲さんに手を差し出すと、頬を赤くしながら手を取って立ち上がった。
私が歩き出そうとすると、軽く手を引かれて振り返ると少し俯いた不二咲さん。
「どうかしたの?」
「……苗字さんって、強いね。自分がいじめられてるのにほかの子を助ける為に、世界各国を飛び回ってるって…」
手を握る力がきゅっと強くなる。
それに合わせて、私はきちんと不二咲さんの方を向く。
「支えてくれる人がいるから、かな?」
少し屈んで俯いた顔を覗き込むと、大きな瞳に今にも溢れそうなほどの涙を溜めていた。
「ボク、変わりたいんだ」
胸の前でぎゅっと手を握り強く前を向く不二咲さんは、少しかっこよかった。
「苗字さんみたいに強くなりたい…、今はまだ言えないけど…言える時が来たらボクの秘密、聞いてくれる?」
不安げな表情の不二咲さんの手を強く握って満面の笑顔で言った。
「もちろんだよ」