1年目
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紅白の幕や色とりどりの花で飾られた体育館には、並べられた椅子にピンと背筋良く座る新入生。
その少し後ろに入学式など全く興味無さそうに各々好きな事をしている在校生。
新入生の父兄。新しい超高校級をいち早く取り上げようと集まるテレビ局や新聞記者。
たんたんと進められる式の中、新入生代表のスピーチをしている超高校級の御曹司とやらを眺めながら欠伸をした。
「ふぁーぁ…」
チラリと後ろに目をやると綿菓子のような髪の毛がすぐ目に付いた。
本人は私の視線に気付くと二コッと笑って軽く手を振っていた。
あの後、狛枝と名乗る先輩に絡まれているところを私がまだ来ていないと慌てて探していた教員に見つかり体育館へと腕を引かれた。
「…まだ話は終わってないけど入学式なら仕方ないね、またね苗字さん」
にっこりと笑って手を振る先輩に私も手を振り返して、急ぎ足で体育館へと向かった。
そして今に至る。
超高校級の御曹司様は長ったらしい挨拶を終えると、礼もせずに真っ直ぐ自分の席へ戻っていった。
「……性格悪そうだなぁ、あの人」
と考えていると無意識のうちに口から漏れたらしく、隣からクスリと笑い声がした。
ぱっと隣に目をやればこれまた分かりやすい特徴的なアンテナ。
「ボクもそう思うよ」
なんだか抱きしめたくなるような愛らしい笑顔を見せながら小声で言う男の子。
可愛いなぁとじっくり眺めているとハッと慌てて手を振った。
「ぁ、ごめん!急に話かけられたらびっくりするよね?ボクの名前は―」
「君達、入学式中だ!私語を慎みたまえ!」
黒髪の男の子は私達よりも遥かに大きな声で注意すると咳払いをして前を向いてしまった。
隣のアンテナ君を見ると苦笑していて、申し訳なさそうに口パクでごめんねと伝えてきた。
『こちらこそごめんね』
私も口パクでそう伝えて、前へ向き直る。
知らぬ間に終わっていた在校生代表の挨拶を少し惜しみつつも、私の入学式の記憶はここで終わる。
入学式が終わり、私達は自分のクラスへと案内された。
1-Aと書かれた表札の下をくぐり、それぞれ新入生は黒板に貼られた名前順の座席につく。
「あれ……?」
何度目を通しても私の名前が載っていない。
もう3週目になる座席表を目で追っていると
「邪魔だ、見えん」
声の方を見ると先程新入生代表の挨拶をしていた御曹司様だった。
「ぁ、ごめんなさい。」
ふん、と腕を組み自分の席を確認した御曹司様は自分の席に座りふんぞり返った。
やっぱり性格悪いな。
そう思いながら座席表に再び視線を戻してもやっぱり私の名前は載っていない。
もしや希望ヶ峰からもいじめられてる…?なんて考えつつ、席もないので何となく立ったままだった。
「あの、座らないの?」
声を掛けてきたのはさっきのアンテナ君。
座席表の前をウロウロしていた私を見かねたらしい
「うん、これに名前が載ってなくて…」
これ、と座席表を指差すとアンテナ君はボクも探すよと言った後に困り顔で振り返った。
「って、まだ名前聞いてなかったね。ボクの名前は苗木誠、超高校級の幸運…なんだ」
なんか似たようなセリフを数時間前に聞いたな…デジャブ?
「私の名前は苗字名前です。超高校級の……」
そこでカラリと音を立て、私達の担任と名乗る女性教師が入ってきた。
それを見ると、苗木君はすぐに担任へ私の名前がない事を聞き出してくれた。
どうやら私は手違いで入学してしまったらしい。実際には一年後、希望ヶ峰79期生として入学する予定だったと。
「ごめんなさいね、だから苗字さんは山田くんの後ろ…1番最後の席に座って欲しいの」
「そうだったんですか。はぁーい」
私はそそくさと一番後ろの席に座ろうとする。でもそれは苗木君の声により遮られる
「え、ちょっと待ってよ!そしたら、苗字さんはボクらより一つ下って事になるよね?」
「そうなるね、日本で飛び級しちゃったね」
あわあわしている苗木君に対して平然と答えると、それを聞いていたらしい数人が会話に混ざってきた。
「えぇ~!?そんなことあっていいの!?」
「日本に飛び級なんてないですよね?」
1人はポニーテールの活発そうな女の子、もう1人はさらさらの綺麗な髪の可愛らしい女の子。
「あ、私朝日奈葵!よろしくね!」
「私は舞園さやかです」
朝比奈さんは握手を求め、舞園さんは軽く頭を下げた。
「君達だけで挨拶を済ませないでくれたまえ!せっかく揃っているのだ、皆で自己紹介し合おうではないか!」
校舎全体に響いていそうなよく通る声をした男の子は、入学式で私達を注意した人だった。
「僕の名前は石丸清多夏だ!座右の銘は質実剛健!お互い学業に切磋琢磨して頑張ろうではないか!!」
それを皮切りにクラスのほとんどが自己紹介をして……最後に私の番になった。
「えっと、私の名前は苗字名前です。さっき言ってた通り皆さんより1学年下…なんですけど、これも何かの縁ってことで仲良くして貰えると嬉しいです。」
なるべく明るく言うと、苗木君や朝比奈さん達はもちろんだよ!と答えてくれた
「で、苗字さんの才能はどんなのなの?」
朝比奈さんはキラキラと目を輝かせてこちらを見ている。
周りを見渡すと、ほかの数人からもその様な視線を感じた。
私は俯いて前髪をいじりながら答えた。
「……えっと、超高校級のいじめられっ子です。」
そう言うと、クラスはしん…、と静まり返ってしまった。
「…な、なるほどね。た、確かに、辛気臭い顔してると思ったわ」
そう言った腐川さんの方に目をやると、慌てた様子で「な、なによ!いじめられっ子のくせに!」と指をさしていた。
「ちょっと!そんな言い方ないでしょ!きっと、なんか……凄いんだよ!ね、苗字さん?」
私を庇ってくれた朝比奈さんが恐る恐るこちらを見るので私は苦笑した
「いじめのある環境に私が入ると、ターゲットが私になっちゃうんだ。でもそのおかげで別の人はいじめられないし……それを仕事にして世界中の学校を巡ってるんだ」
私がそう言うと朝比奈さんはぽかんとしていて、苗木君や舞園さんは凄い…と言葉を漏らしていた。
「私の夢はいじめの根絶!なんちゃって…」
朝比奈さんは凄い!出来るよ!と私に抱き着き、不二咲さんは小さく拍手をしてくれた。
「ふん、くだらん」
そう吐き捨てると、御曹司様改め十神君は立ち上がり教室を出ていってしまった。
それを見計らったかの様にチャイムが鳴り、初日のホームルー厶は終わりを告げた。
今日は入学式と、ホームルームのみなので私は帰り支度をする。
「ぁ、あのっ…!」
パタパタと近付いてきた小さな少女。
不二咲さんだ。緊張からか少し潤んだ目でこちらをじっと見つめると、大きく息を吸い込んで
「苗字さん、凄いね。僕、応援するね!」
「ありがとう」
それだけ伝えると、不二咲さんは顔を真っ赤にして、じゃあね!と言ってまたパタパタ走って行ってしまった。
「うーん、可愛い」
その愛らしい仕草に癒されつつ、私の希望ヶ峰学園生活が幕を開けた。