ぷらいべったーログ(ハレ高)
ハレ高へのお題は『後ろ姿しか思い出せない』です。
長い髪をバッサリと切っていた。曰く、治療のためだと。
あの島での戦いで酷い怪我を負って、しかし奇跡的に生き延びて。
しぶとい奴は大好きだ。命根性が汚い男など最高だ、死に近い場所で生き続けたから自分だからこそそう言える。
だからあの男が欲しかった。決して取り戻すことの出来ないものに縋り続けて、憎い筈の相手に仕えながらも生き続けて。それでも澄ました貌をし続けた、泥臭い奴が。
きっと俺は、あの男を愛していたのだろう。愛などというものは知らないが、そういうことにしておきたかった。
治療を終えた後、奴はガンマ団を去った。表向きの理由は開発部によるリストラ、実際のところは、誰にも知らされないままだった。
もう二度と会えないとわかっていたが、特に何もしなかった。向こうも何もして来なかった。俺はただ、その後ろ姿を見送るだけだった。
あれからどれほど時が経っただろうか。数年前の出来事だったような、五百年くらい経ってしまったような。
きっと愛していた筈のあいつの姿を、俺が正しく思い出せることはなかった。
あの男は、確か黒い瞳で、タレ目で、口元に黒子があった。そう記憶している。なのにその貌が思い浮かばない。正面から見つめ合ったことなどなかったあの顔が、俺にはどうしても思い出せなかった。後ろ姿ばかりを眺めていたのだと、今更に気付いてしまった。気付きたくはなかった。
最後に見たときには、間違いなく短い髪だった。だというのに。
瞼の裏に蘇るのは、歩く度に揺れる長い長い黒髪だけだった。