NARUTO/カカサク 短編①

仮面舞踏会/少年隊

「カカシ先生!」

任務終了後、早く家に帰ろうとするとサクラに呼び止められる。

「ん? どうしたの?」
「あのね、先生にお願いがあるんだけど……」

俺は面倒な予感を察しながらも、とりあえず先生として聞くことにした。

「お願いって?
「あのね……サスケくんの相談にのってほしいの!」

ほら、やっぱり。

「えー。嫌だよ」
「いいじゃない、どうせ暇なんでしょ。それに、可愛い教え子のお願いぐらい聞きなさいよ」
「プライベートは関係ないでしょ」
「ひどい……先生……」
「ちょっ、サクラ」
「先生、私のことなんてどうでもいいものね。いつもナルトやサスケくんばっかりだし」
「そんなこと……」
「いいのよ、別に。だって仕方のないことだもの。でも、私の唯一のお願いも聞いてくれないなんて……」

その場で泣き出すサクラに通行人からの視線が痛く、俺は仕方なく了承することにした。

「……分かったよ」
「やったーーー!」

そう言ってさっきとは打って変わって笑顔になるサクラに俺は驚く。

「えっ! さっきの涙は……」
「あんなのウソ泣きに決まってるでしょ。涙は女の武器でしょ、先生」

そう得意げに笑うサクラだった。



それから俺はほぼ毎日、甘味屋もしくは俺の家でサクラからサスケの相談を聞いていた。ほぼサクラが話をし、俺はそれに時たま相槌やアドバイスをするという形で果たして役に立っているかと言われたら謎だが、こうして続いてるということは何かしら上手くいってるのだろう。時にはデートの下見で、映画を観たり、ご飯を食べに行ったりもしていた。

そんな日々が続き、今日は7班での任務もないため、上忍待機室でイチャパラを読んでいると、なんだかにやけている紅が近づいてきて俺に話しかける。

「カカシ。あなたサクラちゃんとつきあってるの?」
「はぁ?」

紅に当たり前のように言われ俺は思わず本を落としかける。

「噂になってるわよ。2人でよく会ってるんでしょ」
「あのね~、俺はただサクラに頼まれてサスケの相談にのってるだけ」
「あら、そうなの。じゃあ、付き合ってないのね」
「当たり前でしょ」

いつからそんな噂が……。俺はともかくサクラが知ったら荒れそうだな。俺はその様子が簡単に想像でき、思わず苦笑いをする。

「じゃあ、あの話がくるかもね」
「あの話?」
「ある大名の娘が結婚相手を上忍の中で探しているみたい。もちろんあんたも候補に挙がってるわよ」
「はぁ?」
「独身で、彼女もいないからよ。相手がいるようなら候補から外れるみたいだけど、いないとなるとそのまま残るわね」
「なにそれ。でも、断ればいいんでしょ」
「そう簡単にはいかないみたいよ。その大名が火影様と仲が良いらしくてね」
「ということは……」
「そう、ほぼ強制よ。まぁ、せいぜい仮初の相手をつくることね」

そう言って紅は華麗に去っていく。俺はそれを見届けると頭を抱える。

「うーん。結婚はしたくないけど、いまのところ相手もいないしな……」

どうしたものかと悩んでいると、俺は先ほどの紅の言葉を思い出す。

〝カカシ。あなたサクラちゃんとつきあってるの?”
〝まぁ、せいぜい仮初の相手をつくることね”

そして、ある決意をする。



翌日。いつものようにサクラの話を聞き、区切りのいいところで俺はあの話を持ち出すことにした。

「なぁ、サクラ」
「なに?」
「俺、こうしてお前にサスケのことで協力してるよね」
「まぁ、そうね」
「いろんなところにも付き合ってるし、餡蜜とかも奢ってあげてるね」
「えぇ、それは感謝してるけど」
「ということで……お願い! 少しの間だけ、俺と付き合ってることにしてくれない?」
「はぁ?」

サクラが〝意味が分からない”という顔をしているが、ここで引くわけにはいかない。俺は昨日の出来事をサクラに話した。一通り聞いたサクラはある程度は内容を理解したようだった。

「なるほどね……。お見合いをしたくないから、既に相手がいるってことにしたいのね」
「そういうこと。少しの間だけでいいからお願い」
「でも……」

真剣に悩んでいるサクラを見ているとなんだか申し訳なくなってくる。もしサクラに断られたらアンコらへんにでも頼むとしよう、などと考えていると「分かった」という声が聞こえてきた。

「え?」
「だから、いいわよ。先生の恋人になっても」
「本当にいいのか?」
「期間限定なんでしょ」
「そうだけど」
「先生にはいつも協力してもらってるからね」
「ありがとう、サクラ」

こうしてサクラは〝俺の彼女(仮)”になった。



半年後。

「まさか(仮)が取れることになるなんてな。人生って分からないものだな」
「ん? 何か言った先生?」
「いや、何でもない」
「そう、ならいいけど。それより早く行かないと映画に遅れちゃうわ」

そう言ってサクラは俺の手を取って走り出す。俺もその手を握り返し、サクラのあとをついていくのだった。
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