NARUTO/カカサク 短編①

プラネタリウム/大塚愛

「うわ~! 綺麗な星空。絶好の花火日和だね、ママ」
「うふふ。そうね」
「何笑ってるのよ」
「いや、私も昔同じ反応してたなと思って」
「そりゃあ、ママの子ですから。それにしてもよくこんな穴場見つけたね。花火を一望出来るのに、人が全くいない場所なんて」
「いいでしょー。私のお気に入りの場所なの。昔、パパに教えてもらってよく来てたのよ」
「パパに?」
「そう。私とパパの秘密の場所をあなたにも教えたかったの」
「パパとママの想い出の場所……あっ、始まった!」

星が綺麗な夜空に大輪の花火が咲き誇り、娘はすぐに夢中になる。目を輝かせて花火を楽しむ娘を微笑ましく見ていると、それに気づいたのか「ママもちゃんと花火を見て」と注意されてしまった。私はしばらく娘の言う通りに花火に目を向けていたが、ふとカカシ先生のある言葉を思い出して目を閉じる。花火の音と夏の匂いを感じ、これが先生の言っていたことかと実感していると、遠い記憶が蘇ってきた。

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「うわ~! 綺麗な星空。絶好の花火日和ね!」
「そうだね」
「ちょっと、テンションが低いわよ。せっかくの花火大会なんだからもっと上げていかなきゃ」
「あはは、これでも上がってる方なんだけどな~」
「分かりづらいのよ。まぁ、いいわ。それにしてもよくこんな場所見つけたわね」
「サクラのために探し回ったからね」
「本当かしら」

ジト目で見ると先生は苦笑いをしている。

「あっ、もう始まるみたいだよ」

先生が指さす方向をみると、大輪の花火が上がり始める。

「綺麗……」

夜空に咲き誇る花火に見惚れていると、視線を感じてふと隣を見る。

「ちょっと、先生。花火を見なさいよ」
「え~、サクラを見ていたいかな」
「いつでも見れるでしょ」
「そうだけど、この時のサクラはいましか見れないでしょ」
「そんなに変わらないわよ」
「変わるよ」

先生は真剣な瞳で私を見つめてくる。なんだか照れくさくなり、「先生が花火見ないなら、私も先生を見ることにする」と先生の方を向くと、「分かったよ」と呆れつつも先生は花火を見始める。それに満足し、私も花火へと視線を戻す。しばらくして先生の方を見ると、先生は目を閉じていた。

「ちょっと! 先生! 何寝てるのよ」
「寝てないよ」
「うそ! 目を瞑ってるじゃない」
「音と匂いで花火を楽しんでるんだよ」
「何それ」
「花火の音と木々の香り、花火のかすかな火薬の匂い。夏の匂いっていうのかな。それを楽しんでるんだよ」
「意味が分からないわ」
「大人になったらその良さが分かるよ」

そう言って先生は私の頭を撫でる。

「もうっ! いつまでも子供扱いしないでよ。もうすぐ私ママにだってなるのに」
「悪かった、そうだよな。俺とサクラの子供だから、きっと可愛いんだろうな~」
「当然でしょ! 今度は私たちの子供も含めた3人でここに来ましょう」
「あぁ」
「約束よ!」

そう言って私たちは指切りをし合った。

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「ママ。花火終わったよ~」

娘の声で現実に戻る。

「あっ、そうみたいね」
「目を閉じてたけど、ママ寝てた?」
「寝てないわよ。音と匂いで楽しんでたの」
「なにそれ」
「大人になればその意味が分かるわよ」
「ふーん、よく分からないけどまぁいいや。それよりこの場所みんなに教えていい?」
「うーん、だめ」
「えー、なんでー」
「私とパパとあなたとの秘密の場所にしたいの」
「そういうことなら仕方ないから秘密にしててあげる」
「ありがとう。でも、いつかあなたに大事な人が出来た時は、教えていいからね」
「ママにとってパパみたいな人?」
「うん」
「分かった!」
「じゃあ、ママと約束しようか」

私が小指を差し出すと、娘も嬉しそうに自分の小指を絡める。

「「指切りげんまん~♪ 嘘ついたら、針千本飲~ます♪ 指切った!」」

指切りを終え、「それじゃあ、帰りましょうか」と娘の手を取る。先生と交わした約束は果たせなかったけれど、こうして娘を連れてくることができ、娘もいつか大事な人とこの場所を訪れるだろう。そして、娘とその大事な人との間にできた子も……。そんな風に私が果たせなかった先生との約束を娘が叶えてくれますようにと願いながら、家へと歩き出した。
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