NARUTO/カカサク 短編①

I Will Always Love You/Whitney Houston

「嘘でしょ……」

私は妊娠検査薬を片手に固まる。月一のものが来ず、体調も優れないとのことで、まさかと思い試してみるとまさかの陽性。避妊はしていたのに……いや、きちんとしていても100%大丈夫ではないことは分かってる。でも、どうしよう……。

相手は分かってる、カカシ先生だ。私達は別に付き合ってるわけではない。よくあるお酒を飲みすぎて酔って一晩過ごした以降、惰性で関係を続けている状態だ。私はそういう関係になる前から先生の事が好きだったが、先生はどうだろう……。何度かこの気持ちを伝えようとしたが、どうしても一歩踏み出せずに言わなかった結果、これだ。こういうことならもっと早く気持ちを伝えておけば良かったと思っても、後悔先に立たず。私は大きくため息をつく。

「やっぱり言うしかないよね……」

堕ろすことはもちろん考えられない。でも、このまま隠し通すのは無理だろう。だったら、言うしかないじゃない。私は仕事の後に先生に会いに行こうと決意し、職場に戻った。

「春野サクラ、ただいま戻りました~」

職場に戻ると、何やら女性陣が色めき立っていた。

「あっ、春野さん! ちょうど良かった。確かはたけカカシさんって、あなたの元上司よね?」
「そうですけど……カカシ先生がどうかしましたか?」
「それがね、結婚するらしいのよ~」
「えっ……」
「その様子だとまだ知らなかったのね。じゃあ、この話はオフレコでお願いね」
「あの、それってどういう……」
「私も聞いた話なんだけど、私の知り合いのお嬢さんがカカシさんの彼女らしくてね、ついに結婚するって話してたのよ」
「カカシ先生に彼女……知らなかったです……」
「情報通の私も初耳でびっくりしちゃった。どうやら内緒で付き合ってたらしいのよ。でもここまで漏れないなんて、さすがよね~」
「はぁ……」
「彼女もついに火影婦人。羨ましいわ~」

カカシ先生に彼女……そんなの一切聞いてない。でもあのカカシ先生のことだ。わざわざ言わないだろう。それにカカシ先生もそろそろ身を固めておかしくない歳だ。火影の血も残さないといけないだろうし……。そのカカシ先生の彼女とやらは大名の血筋を引いていて家柄もいいらしく、火影の妻にふさわしいらしい。でも、こんなのって……。私はあまりのショックで、その後どうやって仕事を終えたのか分からず、気が付いたらいつのまにか家にいた。当然カカシ先生には会いに行けてない。

「結婚する人に言えるわけないじゃない。子供ができたなんて……」

彼女でもない私に子供ができたと知ったらカカシ先生はどうするだろう。堕ろせと言うか、責任を取ると言うか。前者はもちろん私が受け入れられないし、後者だとしても一体どうやって……。だったら、言わない方がいい。でも、このままだとバレるし……。一晩悩んだ結果、私は里を出ることに決めた。



数週間後。私は砂隠れの外れにあるチヨバア様の知り合いの老夫婦のもとを訪れていた。里を出る方法を考えた結果、木ノ葉の仲間にはどうしても相談できず、チヨバア様を頼ることにした。最初はすごく驚いていたチヨバア様も私の事情を知り、協力してくれることになった。木ノ葉隠れにはチヨバア様の依頼で砂隠れへ長期任務に出ているという態を装っている。

「初めまして。春野サクラです」
「チヨちゃんから聞いてるわ。あなたがサクラちゃんね~、可愛いらしい娘さんだこと。これからよろしくね」
「はい!」

それから私は優しいおばあさんとおじいさんの所で、穏やかに生活していた。お腹の子も順調に育ち、あともう少しで産まれるという時にある噂が耳に入った。カカシ先生が砂隠れを訪れるというのだ。聞いた時は焦ったが、よくよく考えると、風影への用事だろうし、忙しい先生がこんな外れにくるはずがない。うん、きっとそう。私はいつのまにかその話も忘れ、のんびりと過ごしていた。おばあさんとおじいさんが外出し、家に一人で留守番しているとチャイムがなる。

「はーい」

誰かも確認せず、扉を開けたことに私は後悔することになった。

「サクラ……!」
「カカシ先生」

扉を開けると、数か月前と何も変わっていないカカシ先生がいたのだ。

「どうして」
「良かった……!」

そう言ってカカシ先生が私を勢いよく抱き締める。私は何が何だか分からない。ただあまりにも強く抱き締められるため、お腹の子が心配になった。

「ちょっ、先生! 離して!」
「嫌だ。離したらまたいなくなるだろう」
「どこにも行かないから!」
「信じられない。長期任務って言うのも嘘だったじゃないか」
「それは……」
「とにかく木ノ葉に連れて帰るからな」

何を言っても離さない先生にしびれを切らした私は渾身の力で突き放す。

「もうっ! お腹の子に障るじゃない! このしゃーんなろー!!」

「いてて。怪力は相変わらずだね」と吹っ飛んだ先生は私の姿を見て目を見開く。

「サクラ……そのお腹……まさか……」
「ごめんなさい、先生。久しぶりだったから、手加減できなかった。この子のことも……ちゃんと話すから」

もう隠せないと知った私は理由を話すことにした。ある部分を除いて。

「見ての通り、私妊娠してるの。もうすぐで産まれるわ」
「だから、長期任務って言って里を出たのか」
「えぇ、チヨバア様を頼ってね」
「その子の父親って、もしかして……」
「勘違いしないで! 先生の子じゃないから」
「でも、時期的には……」
「そうなんだけど。ほら、私達って体だけの関係だけだったでしょ。避妊もしっかりしてたし。実は私、ほかにも関係を持っている人がいてね、その人の子かなーとか思ったり」

そんな人はもちろんいなかったけど、先生の子だとバレるわけにはいかない。

「……じゃあ、そいつはどこにいるんだ? 一緒に住んでるのか?」
「えっと……その人には子供ができたことは言ってなくて……」
「どうして?」
「……結婚してるのよ、その人。だから言えるわけないし……でも、大丈夫! 里にいればバレるかもしれないから、砂にきているけど、こうしてのんびりと生活できているし。いつかはまだ分からないけれど里にはいずれ帰るつもりだしね」
「……」
「だから、先生は心配しないで! 黙ってたのはごめんなさい。それより忙しい火影様がこんなところにいたらダメでしょ。早く戻って!」

私は先生を追い返そうとするが、先生は一向に動こうとはせず何かを考えているようだった。

「先生? どうしたの?」
「……分かった」

私はその返事にホッとしたのも束の間、先生が私の腕を掴んで外に連れ出そうとする。

「ちょっと! 先生!」
「サクラも一緒に連れて帰る」
「私の話聞いてた?」
「あぁ」
「じゃあ、どうしてこうなるのよ」
「サクラもそのお腹の子も俺が面倒みる」
「はぁ?」

意味が分からないと先生の腕を思いっきり振りほどく。

「意味分からない! 何言ってるのよ、先生!」
「そのままの意味だよ。俺がその子の父親になる」
「無理よ。だって、先生の子じゃないのよ!」
「サクラの子には変わりないだろう」
「それに先生結婚してるじゃない!!」
「お前……一体何言ってるんだ?」
「私、知ってるのよ。ずっと彼女いたんでしょ。そして、その人と結婚したんでしょ」
「サクラ、何か勘違いしていないか?」
「えっ?」
「俺は結婚していないし、彼女もサクラと出会ってからはいないよ」
「嘘よ、だって私聞いたもの。職場の人から」
「もしかしてあのおしゃべり好きなおばさんか?」
「うん。おばさんの知り合いのお嬢さんと付き合っていて結婚するって」
「あ~、あれはその娘の嘘だよ。確かにアプローチは受けてたけれど相手にしてないし。おばさんはその娘の話を信じちゃったんだね」
「そんな……」
「その噂はとっくになくなってるよ。外堀から埋めようとしたみたいだけど、俺に通じるわけないのにね。信じられないなら、役所にでも問い合わせていいよ」

そこまで言うなら本当なのだろう。

「先生が結婚していないのは分かったわ。だからって私の面倒みるのは違うと思う」
「どうして?」
「だって先生私のこと好きじゃないじゃない」
「好きだよ」
「でも、恋愛的な好きじゃないでしょ」
「はぁ〜」

呆れたように先生がため息をつく。

「あのね、俺はいくら大事な元教え子でも、自分の子供じゃない子の父親になるなんて言わないよ。……サクラだからだよ」
「それってどういう……」
「愛してるよ、サクラ。サクラに会えなくてすごく寂しかった。もう俺から離れないでよ……その子の父親にもなるし、何でもするから……」

いままで見たことのない、弱弱しいカカシ先生の姿に思わず胸が打たれ、私の目から一筋の涙が零れ落ちた。私もいい加減素直になろう。

「……カカシ先生、私も寂しかった。迷惑かけてごめんなさい」
「もういいよ、戻ってきてくれるなら」
「うん。あとね、私もカカシ先生の事が好き」
「えっ……」

今度はカカシ先生が驚く番だった。

「先生以外にも相手がいたなんて嘘。私、そんなに器用じゃないの知ってるでしょ」
「そしたらお腹の子は……」
「うん、カカシ先生の子よ」
「本当か?」
「当たり前じゃない。先生に言うつもりだったのに、先生が結婚したって聞いて、それで……」
「分かった、もう分かったから」

泣きながら全てを話そうとする私を見て、先生は全てを悟ったようだった。泣いている私の傍にくると、「ありがとう、サクラ」と優しく私を抱き締めた先生だったが、その肩が少し震えているのに気が付いた。

「先生、もしかして泣いてる……?」
「……うん」
「ちょ、何で先生が泣いてるのよ」
「さぁ。なんか嬉しくて」
「えっ、先生の泣いている顔見たい」

私は先生の顔を見ようと体をよじるが、強く抱き締められているせいで、いっこうにそれが叶わない。

「先生! 顔見せてよ」
「カッコ悪いからダメ」
「大丈夫だから、ね?」

根気強くお願いすると、ようやく先生は腕の力を弱めてくれた。私はゆっくりと先生の顔を見上げる。先生の両眼からは一筋の涙が流れていた。

「綺麗……」

私は先生の顔に手を伸ばし、涙を拭う。先生は照れているのか少し顔が赤く染まっていた。それが何だか愛しくて、私は背伸びをして先生の顔を引き寄せると、愛おしい気持ちを込めて唇にキスをした。

「先生、愛してる」
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