NARUTO/カカサク 短編①

Butterfly Kiss/米倉千尋

昼下がりの喫茶店。俺は、サクラとその隣に座る男と向かい合っていた。俺の手にはシカマルがまとめてくれた男の資料がある。それを見ながら、男に問いかける。

「君、いいところに勤めてるね~。でも、その分仕事が大変そうだけど、休みはきちんと取れたりするの? 残業とか多くない?」
「はい……確かに休みは中々取れないし、夜も帰りが遅いですね」
「だよね。それに付き合いとかで飲み会とかも多いでしょ?」
「まぁ、はい……そうですね」
「女性も多い職場みたいだね」
「まぁ……でも、その分給料はいいですよ!」
「そうは言ってもね~。あと、ずっと実家暮らしらしいけど、家事とか一通りできるの?」
「それは……仕事が忙しいのでなかなか……」
「つまりできないってことね」
「いや、その、まぁ、はい……」

俺からの怒涛の質問攻めに男の話し方はだんだんと尻すぼみになっていく。サクラはその様子を黙って見つめている。俺は男に一通り質問した後、資料を置いてようやくサクラに話しかけた。

「……で、サクラ。俺的にはこの男と結婚しても、サクラと上手くいくとは思えないんだけど……」
「先生が言うならそうね。ということで、ごめんなさい。私と別れてください」

俺の意見に賛同したサクラは隣の男へお断りの言葉を入れる。男は「えっ!」と動揺が隠せないようだ。まぁ、そりゃあそうでしょ。付き合っていた女性に呼び出されたと思ったら、その元上司がいていきなり質問責め。その後には、彼女から突然の別れの言葉。うんうん、驚きしかない。

「いままでありがとう。じゃあ、先生行きましょ」

サクラは俺の手を引っ張って喫茶店の外へ出ようとする。俺はさっとテーブルにお金を置き、「まぁ、君には他にいい人が見つかるよ」と呆然とする男に適当な慰めの言葉をかけて、サクラに連れられるがまま店を出た。

「先生、今日はありがとうね。いい人だったんだけど、先生との会話を聞いてたら、だんだんこの人でいいのかなって不安になっちゃって……」
「まぁ、サクラとは合わなかったってことだよ。でも、これで何回目? 彼氏ができるたびに俺に紹介してくれるけど……」
「だって、先生が言ったんじゃない。“彼氏ができたら俺に紹介して。俺がサクラに相応しい男かどうか見分けるから”って」
「そうだっけ?」
「そうよ」

俺は記憶を掘り起こしてみる。……うん、確かに言ったな。あの時はサクラがサスケとダメになって、サクラの落ち込みようがひどくて、見ていられなくて思わず言ったんだった。でも、まさか本当にそれを守るとは……サクラらしいといえばらしいけど。

「そんなにめんどくさがるなら、さっさと合格出せばいいじゃない」

サクラがすねたような顔をする。

「そういう訳にはいかないでしょ。サクラの人生がかかってるんだから」
「そうだけど……。でも、けっこう先生が毎回きちんと見極めてくれるから驚いちゃった」
「そりゃあ、サクラのためだもん。ちゃんとしないとダメでしょ」
「うふふ。まぁ、とにかく自分の言葉には責任を持ってね。頼りにしてるから、先生」

そう言ってサクラが微笑むので、俺も「任せなさい」とサクラの頭を撫でた。

―――――――――――――――――――

翌日。いつも通りにシカマルと仕事をこなしていると、仕事がひと段落したのかシカマルが話しかけてきた。

「そう言えば、昨日どうでした?」
「昨日?」
「俺が調べた男の件です」
「あ~、サクラの元カレね」
「元カレってことは今回もダメだったんですね」
「まぁね」
「……六代目はどういう男だったらサクラに相応しいと思うんですか?」
「うーん。俺より顔が良くてー、強くて、収入があって、優しくて、頼りになってー」
「……」
「サクラの事をよくわかっていて、サクラのことを一番大事に考えてる男かな」
「それって……」
「うん?」

シカマルの方を向くと、呆れたように俺を見ている。あれ? 俺、何か変なこと言ったかな。

「もう六代目しかいないじゃないっすか」
「えっ……?」

シカマルの言葉に今度は俺が驚く。サクラの相手が俺……? シカマルは俺の視線をくみ取ったのか、大きく頷く。

「今言った条件に当てはまるやつなんているわけないじゃないですか。火影以上ってことになりますから」
「確かに……。いや、でも、俺とサクラはけっこう歳が離れてるし……」
「今時年齢差なんて気にする人いないですよ。サクラもいい大人だし」
「周りがどう思うか……」
「何気に2人がお似合いって言われてるの知らないんっすか?」
「えっ、そうなの?」
「はい」
「俺が良くてもサクラがどう思うか……」
「(六代目はいいのか……)サクラも悪い気はしないと思いますよ。むしろ喜ぶんじゃないんですか」
「それって……?」
「……あくまで俺の見立てですけどね。後は自分でどうにかしてください」

そう言ってシカマルは手元にあった書類に目を通し始める。話はここで終わりということか。俺も手を動かしながら、シカマルに言われたことを考えてみる。

俺とサクラが付き合う……案外すんなり想像でき、心がなんとなく温かくなった気がした。今度はサクラと別の男が一緒にいる様子を想像する……なんとなくムカムカしてくる。今までの男が気に入らなかったのもきっと……。なんだ……そうか……。そこで俺はようやくサクラの事が好きだと気が付いたのだった。
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