NARUTO/サスサク 短編

Beautiful World/宇多田ヒカル


久しぶりに里に帰ってきて、サクラの家に寄る。いきなり訪れたのに、サクラは「サスケくん、お帰りなさい!」と言って俺を温かく迎えてくれた。

いまはキッチンで晩御飯を作っている。俺はその後ろ姿を何気なく見つめる。

「サスケくん……どうしたの?」

サクラが振り向いて、俺に問いかける。

「何がだ?」
「私の後ろに何かついてる?」
「!? いや……なんでもない」
「そう、ならいいんだけど……」

サクラは再び前を向き、作業を再開する。俺は目の前のテレビに目を向け、“気付かれていたのか……”と反省する。言えるわけない、サクラの後ろ姿に見惚れていたなんて。

料理が出来、サクラは食卓にそれを並べる。俺の好きなトマトをメインにしたサラダとご飯とお味噌汁、生姜焼きというラインナップ。俺もサクラも席につくと、挨拶をする。

「「いただきます」」
「ごめんね、いきなりだったからこんなものしか作れなくて……」
「いや、十分だ」

黙々と箸を進める。どれも上手い。

「……どうかな、サスケくん?」
「悪くない」
「良かった」

サクラは安心したように微笑む。俺ももっと気の利いた言葉が言えればいいのだが、やはり気恥ずかしくて言えない。

「そうだ! カカシ先生から良いお酒をもらったの。サスケくん、良かったら飲む?」
「あぁ」

俺の返事を聞くとサクラは立ち上がり、日本酒とおちょこを2つ持ってくる。あらかた食べ終わっていたため、俺は空の食器をキッチンへさげる。

「ありがとう、サスケくん」
「これぐらいどうってことない」

俺とサクラは横並びでソファに座る。サクラは2つのおちょこにお酒をつぐと、俺に1つを渡してくる。俺はそれを受け取り「乾杯」と言って、口に含む。

「……上手いな」
「本当だ」

程よい辛さで飲みやすく、どんどん酒がすすんでいく。他愛もない会話をしながら(と言っても、サクラの話に俺が相槌を打っているだけだが)飲み続けていると、ふとサクラが俺に問いかける。

「サスケくんの願い事ってある?」
「いきなりどうしたんだ?」
「今日病院の子供たちがね、“流れ星に願いをかけるなら何を願う?”みたいな会話をしてたの。いまふと思い出したから」
「お前の願い事は何だ?」
「ずるい……私が先に聞いたんだから、サスケくんが先に答えてよ」
「……」

確かに正論だ。俺は“何だろう?”と悩む。昔だったらすぐに答えられたが、今はなかなか出てこない。

「何でもいいのよ? 毎日トマトを食べたいとか、どこかに行きたいとかでも」

サクラが助け舟を出してくれる。そして、俺はふとある光景が浮かんだ。普段だったら、絶対に言わないがこの時ばかりは酒が入っていた。

「……俺の世界にお前がいること」

俺はすごく小さい声でつぶやく。だが、サクラには聞こえていたらしい。

「サスケくん、それって……」

サクラの目が見開く。俺は今がチャンスだと思った。普段言えないことを伝えるため、俺は言葉を紡ぐ。

「サクラが迎えてくれて、一緒にご飯を食べて、こうして過ごす。これが続くことが俺の願いだ」
「私も一緒だよ。サスケくんがここに帰ってきてくれること。私の世界にサスケくんがいることが私の願いなの」
「……お前の願い事は俺のお嫁さんになることじゃなかったのか?」
「!? それは昔の話でしょ……! そりゃあ、今でもあわよくばと思ってるけど……」
「あわよくばって……なんだそれ……」

俺達は笑い合う。ふとサクラの顔が照れているのとは別に、ほんのり赤いことに気付く。

「……お前大丈夫か?」
「何が?」
「酔ってるのか?」
「酔ってないわよ~」

酔っぱらいの常套句だ。

「本当か? 顔が赤いぞ」
「そういうサスケくんこそ、顔が赤いじゃない」
「俺は大丈夫だ」

確かに酔ってはいるが、サクラ程ではない。

「うそだ~。じゃあ、熱があるの?」

そう言ってサクラは俺の頬を両手で包むと、おでこを俺の額に合わせてくる。

「サクラ!?」
「あはは、熱い~」

これは酔ってるな。

「お前、もう飲むのやめろ」

俺はサクラから離れると、酒とおちょこをサクラから遠ざける。

「え~、まだ飲む」
「ダメだ。いいから寝ろ」
「まだ眠くない~」

と言いつつも、サクラの瞼は半分閉じている。これはあともう少ししたら寝るな。

「寝るならベッドに行け」
「まだ眠くないもん。寝たらサスケくん帰っちゃうでしょ?」
「サクラ……」

サクラは瞳を潤ませるようにして、俺を見つめてくる。さらには俺の手をがっつりと掴んでいる。これはヤバい……俺の理性が。

「……帰らない」
「本当?」
「あぁ、だから寝ろ」
「えへへ、良かった」

そう言ってサクラは目を閉じた。

「!? ここじゃなくて、ベッドに行けと言っただろう!」

だがサクラは既に夢の世界に飛び立っているらしく、起きる様子はない。

「はぁ……」

俺はサクラを抱っこし、寝室まで運び、ベッドに寝かせる。サクラは気持よさそうに寝ている。

「俺の気も知らないで……」

寝ていることをいいことに、サクラの額にかかっている前髪を分けて、おでこにキスをする。

「これぐらいは許してくれ」

そう言って俺はソファで寝るために、寝室を出た。
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