NARUTO/カカサク 短編①

星間飛行/ランカ・リー=中島愛

「サクラ、ちょっときて」
「どうしたの?」

そう言って先生に近づくと、急に抱きしめられた。

「えっ!?」
「あ~、なるほどね」

動揺する私を無視して、先生は一人で勝手に納得しながら、ひたすら抱きしめ続ける。「ちょっと! いきなり何なのよ」と離れようとするが、先生の力に敵うはずもなく、私は早々に抵抗を諦めた。大人しくしていると、先生の体温と匂いがじんわりと伝わってきて急に恥ずかしい気持ちになってくる。でも、どことなく安心する。恥ずかしいから離れたいけど、落ち着くから離れたくない。そんな二律背反な感情に混乱していると、満足したのか「ありがとね」と言って先生は離れ、去っていく。

「一体なんなのよ……」

一人残された私は、平常心に戻るまでしばらくそこから動けなかった。


それから先生は時々私を抱きしめてきた。最初は「もしかして私の事が好きなのかな?」と思ったが、抱擁以外はいつもと変わらない態度でそんな様子は一切見えない。抱擁もただするだけで、それ以上のことは何もない。私はじれったくなり先生に理由を尋ねることにした。

「ねぇ、先生。どうしていつも私を抱きしめるの?」
「いや?」
「いやじゃないけど……何でかなって思って」
「うーん、癒されるからかな?」
「はぁ?」
「紅が教えてくれたんだよね。ハグにはストレス解消効果があるって。そこで試しにサクラを抱きしめてみたんだけど、確かにストレスが減った気がして。紅に抱きつくと殺されるし、他の子達でもまずいでしょ」
「……サスケくんやナルトは?」
「男に抱きつく趣味はないよ」
「つまり……女で手軽で抱きしめやすかったのが私しかいなかったってこと?」
「そうなるね」
「ふ~ん」

平然と答えた先生に、だんだんと怒りがこみ上げてくる。私を抱きしめたいわけじゃなかった……。なんなのよ、それ。

「サクラ? どうした」

いつまで経っても言葉を発さない私に疑問を持ったのか、先生が何食わぬ顔で、俯く私の顔を覗き込む。私は顔を上げると、先生を睨みつける。

「……先生! 私に抱きつくのは今後一切禁止ね!」
「えっ!? さっきは嫌じゃないって言ってたじゃない」
「さっきはさっき! とにかくダメ! 他の女にでも頼んでよね!」

勢い良く言い切ると、私はすぐさまその場を去る。

ハグの相手は私じゃなくても良かったってこと。私一人あんなにドキドキしてバカみたい。あれ、なんでこんなにショック受けてるんだろう。私、もしかして先生のことが……。でも気づいたところで、先生が何にも思っていないことはさっきの出来事で分かりきっている。私は目元に滲む涙を大雑把に拭きながら、家に帰った。


翌日。私が一方的にキレてしまい、気まずい雰囲気になったらどうしようと心配していたが、先生は昨日のことが何もなかったかのように接してきた。私は安心すると同時に、「少しくらい気にしてくれたっていいのに」と寂しい気持ちになる。もちろん先生は抱きしめてこなくなった。


それから数日後。何気なく散歩をしていると、先生が若い女の人と寄り添って歩いているのを見た。仕事関係……ではなさそうだ。

「なんだ。やっぱり私じゃなくてもいいのね」

私は先生たちが歩いて行った方向とは別に足を動かした。ボーっとしながら歩いていると、鈴取りをした場所に自然と着いた。あの頃はサスケくんしか見えていなくて、ナルトや先生のことは二の次だったな。先生の第一印象は……うん、最悪だったわね。地面に座りながら懐かしい思い出に浸っていると、急に誰かに後ろから抱きつかれる。

「えっ!?」

驚いて後ろを振り向こうとしたが、ほのかに漂ってきた匂いで振り向くまでもなく、人物を判断することができた。

「カカシ先生……?」
「うん」

どうやら私の予想通り、カカシ先生だったらしい。

「まったく……驚かせないでよ。心臓が止まるかと思ったじゃない」
「ごめん」
「……」
「……」

先生が話さないため、私もつられて無言になる。いったいどうしたのかしら。それにしても、やっぱりカカシ先生に抱きしめられると安心する。私はしばらくされるがままの状態だったが、やっぱり正面からがいいなと思い先生に問いかける。

「ねぇ、先生。そっち向いてもいい?」
「えっ、別にいいけど……」

先生の腕が緩んだため、私は体の向きを変えて先生に抱きついた。

「うん、やっぱりこっちのほうがいいわ」

私は満足し、先生の体温を全身で感じる。

「あの~、サクラ?」
「うん?」

先生に呼びかけられ、私はそのままの状態で顔をあげる。

「抱きつくのは禁止じゃなかった?」
「私からはいいのよ。それに先に約束を破って抱きついてきたのは先生じゃない」
「まぁ、そうなんだけど……」
「それより先生はどうしてここに?」
「あ~、なんというか……癒しがほしくなりまして」
「なにそれ。別に私じゃなくてもいいんでしょ」
「そのはずなんだけど……なんかサクラ以外だとしっくりこなくて」
「どういう意味?」
「サクラ以外を抱きしめても何にも感じないんだよね。むしろストレスが溜まるというか。サクラに抱きついたときはあんなに安心したのに……って、俺は何言ってるんだろうね?」

先生は苦笑いをしながらそう話すが、ほんのり顔が赤いのを私は見逃さなかった。それって……私じゃなきゃダメってことよね。「うふふ、先生かーわいい!」と、さっきよりも強く抱きつく。

「ちょっと! そんなこと言われても嬉しくないんだけど」
「だってそう思ったんだもん。仕方ないからいつでも抱きしめていいわよ」
「ダメって言ったりいいって言ったり……。まぁ、でもその言葉忘れないでよ」
「えー、どうだろう」
「あのね~」

先生は呆れながらも私を抱きしめ返す。

「……」
「……」

自然と会話はなくなったが、気まずくもなく、穏やかな時間がただ流れていく。いつのまにか日が落ち、空には星が瞬き始める。このまま先生と一つになれたらいいのにな……と思いながら、先生のぬくもりをひたすら感じていた。
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