NARUTO/カカサク 短編①

バラライカ/月島きらり starring 久住小春

「先生〜! 今日も泊まりに来たわよ〜」
「サクラ。お前、またか……」

最近、サクラが俺の家に泊まりにくる。最初は親が留守だったからという理由だったが、いまでは理由なしに泊まりに来ている。ご飯を一緒に食べ、お風呂も入り、寝る。だが、付き合ってはいない。ベッドもサクラに譲っているため、俺の寝床はソファだ。

家に上がり込んだサクラは慣れた手つきでキッチンで料理を始める。最初は壊滅的だった料理の腕も、いまでは美味しいといえるほどまでに上達した。ここまで長かったな……。

「先生~! できたわよ!」

思いふけっていると、いつのまにか夕食ができたみたいだ。俺は食卓につくと、サクラが作った料理を食べ始める。

「今日は和風おろしハンバーグにしたの。どう?」
「うん。美味しいよ」
「良かった~」

うん、本当に美味しい。

「サクラは良い嫁さんになるな」
「えっ! 本当?」

俺が思わずこぼした言葉にサクラが嬉しそうな表情をする。

「あぁ、俺が保証する。男は料理ができる子に弱いんだ。サスケもそうだと思うよ」
「……そう」

急にサクラの声のトーンが下がったような気がして気になったが、サクラが何事もなかったかのように話し出したため俺は理由を聞けずにいた。

夕食を食べ終わり、俺が食器を洗っている間にサクラがお風呂に入る。食器を洗い終えた俺はソファでひと段落することにした。ソファに座り、部屋を見渡すとサクラのものが増えていることに気づく。マグカップやクッション、ぬいぐるみなど……これは同棲していると思われても仕方ないなと思い、思わず苦笑いをする。

現に上忍仲間からサクラと付き合っているのかと聞かれたことが何回かある。毎回否定はしているが、そろそろ潮時だろう。サクラの今後のためにも泊まりにくるのをやめさせなければ……。少し寂しい気もしたが、それに気づかないふりをした。

サクラがお風呂から上がって、俺も風呂に入る。風呂からあがると、サクラはベッドの上で寝転びながら本を読んでいた。

「あら、先生。今日は早いわね」
「いつもと変わらないよ。それよりサクラに聞きたいことがあるんだけど」

俺はサクラが寝転ぶベッドに腰をかけると、サクラが体を起こす。

「何?」
「あのさ、どうして俺の家に泊まりに来るの?」
「どうしてって……。先生、いつでも泊まりにきていいって言ったじゃない」
「確かに言ったけど……それはサクラの親が留守だからとか理由があったから。最近はそうでもないだろう?」
「……理由なんて特にないわよ。ただ私が泊まりたいからきているだけ。先生は私が泊まりに来るのは迷惑?」

サクラが悲しそうな表情をする。その顔はやめてくれ。

「迷惑じゃないけど……」
「じゃあ、いいじゃない!」

さっきの表情はどことやら。サクラは再び寝転び本を読みだす。

「あのね~、俺はいいけどサクラが心配だから言ってるの」
「私が心配?」

サクラが不思議そうに顔を俺の方へ向ける。

「そう。俺達周りから付き合ってると思われてるみたいよ。サスケにも誤解されるかもしれないでしょ。お前はそれでいいの?」

サクラの目が見開く。

「先生、まだ私がサスケくんのこと好きだと思ってるの?」
「違うの?」
「はぁ~」

サクラが呆れたようにため息をつく。

「ちょっと、何なのよ」
「別に。先生が鈍すぎて呆れてただけよ」
「俺が鈍いって……」
「あのね、サスケくんはもういいの」
「えっ、そうなの?」
「うん。それより先生は私と付き合ってるって勘違いされててもいいの?」
「俺は別に平気だけど……」
「ならいいじゃない」

さっきと同じような会話になってしまった。結局サクラが泊まりに来る理由は分からないままだ。

「ねぇ、サクラ?」
「まだなにか?」
「結局、泊りに来る理由が分からないんだけど……」
「さっき言ったじゃない」
「さっきのは理由とは言わないだろう」
「……どうしても知りたいの?」
「うん」
「……じゃあ、逆に先生はどうしてだと思う? 私が泊まりに来る理由」
「サクラが泊まりに来る理由……」

俺は考える。

「居心地がいいとか?」
「それはあるわね。でも、居心地は自分の家の方が一番に決まってるじゃない」
「だよな……」
「本当に思いつかない?」

サクラは真剣な瞳で俺を見つめる。俺はその瞳に捕らわれたかのように、目を離せなかった。

「……こうして私のいる痕跡を残したら、先生に他の女の人なんか寄ってこないでしょ?」

耳を澄まさないと聞こえないぐらいの声量でそう言うと、サクラは頬を赤くして目線をそらす。

「お前、まさか……」
「……だって、先生に彼女ができるなんて100万年早いもの!」

俺が驚いていると、サクラは勢いよくそう言い、本に顔をうずめる。顔は本にうずめているため見えなかったが、髪の隙間から見える耳は赤く染まっていた。

俺はようやく気が付いた。サクラがここにくる理由を。なんだ、そうだったのか。俺は嬉しくなり、サクラの頭を撫でながら、問いかける。

「サクラは俺に彼女ができるのはやだ?」
「やだというか……想像したくないというか……」

サクラは本に顔をうずめたまま答える。

「でも、俺、好きな子いるんだけど……」
「えっ!?」

サクラが勢い良く顔を上げる。その顔は泣きそうな表情だった。

「ちょっと! そんな顔しないでよ。最後まで聞いて」

俺はサクラの頬に手を添える。

「俺の好きな子は、サクラだよ。まぁ、気付いたのは今だけどね」
「は?」
「だから、サクラ。お前が好きだよ」
「私? 嘘じゃない?」
「嘘で告白なんてしないよ。でも俺に彼女ができるなんて100万年早いんだよなー」
「えっ! ちょっ! さっきのはその……やっぱなしで!」

サクラが焦ったように言うため、その様子がおかしくて俺は思わず吹き出す。

「ちょっと! 何で笑うのよ」
「いや~、あまりにもあたふたしているから」
「先生のせいでしょ!」
「ごめんごめん。それじゃあ、改めて。俺の彼女になってくれる?」
「本当にいいの?」
「うん。俺はサクラがいいんだけど」
「先生……私も先生がいい!」

俺とサクラは抱き締め合う。これから、あの質問は否定しなくて済みそうだ。
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