NARUTO/カカサク 短編①

恋のつぼみ/ 倖田來未

俺はサクラからもらった本の栞を眺めていた。サクラから初めてもらったプレゼント。もらった時に思わず動揺してしまい、急いでその場を去ってしまったが、怪しまれていないだろうか。

いままで“もの”をもらっても喜ぶことなんてなかったが、まさか好きな子からのものがこんなに嬉しいなんて。付き合ってきた女はたくさんいるが、どれも特別な感情を抱いてなかったため、何をもらっても嬉しくなかった。サクラがはじめてなのだ。

だから俺は最初この“好き”という感情に戸惑っていた。とりあえずサクラが喜びそうなものをあげて、さりげなくアピールすることにした。本当は正面から口説けたら一番いいが、サクラを前にするとどうしても緊張で上手い言葉が出てこない。こんな遠回しのアピールなんて“思春期の男子か”と一人ツッコミをしていると聞き慣れた声が聞こえてくる。

「何か顔が赤くなったり、青くなったりしている変なやつがいるぞ」
「ほっときなさい、関わるとろくなことにならないわよ」
「……お前ら、全部聞こえてるからな」

そう言うと、アスマと紅の2人が近付いてきた。

「それはごめんなさいね」
「お前が変な様子だから心配してやったんだろ」
「余計なお世話だ」
「あら、素敵な栞を持ってるじゃない。カカシにしては珍しい」

紅が俺の手にある栞に気づく。

「あぁ、もらったんだ」
「サクラちゃんに?」

思わずギクッとなる。なぜ、紅が知っている。いや、ただかまをかけたのかもしれない。その場合、余計なことを言わないのが最善策だ。

「どうしてサクラだと思ったんだ?」

アスマが不思議そうに紅に問いかける。

「サクラちゃんが雑貨屋さんでたくさんの栞を熱心に見てたのよ。それにサクラちゃんのまわりで本を読む人なんてカカシしかいないじゃない」
「なるほどな……」
「カカシはよくサクラちゃんに贈り物しているみたいだし。そのお礼じゃないかしら」
「マジかよ!」

アスマが信じられないようなものを見る目で俺を見る。

「……あれはただのお土産だよ。深い意味はない。ナルトやサスケにも渡してるし」

どこまで知っているんだ、紅は……。俺は冷や汗が止まらない。

「ふーん。サクラちゃん、カカシからのプレゼントをあんなに喜んでたのに。ただのお土産なのね」
「えっ!? そうなの!?」

紅の言葉に俺は耳を疑う。

「えぇ。でも、ただのお土産なんだものね。深い意味はないものね。サクラちゃんにも心苦しいけどそう伝えなきゃ……」
「ちょっと! 待って!」

紅が去ろうとするので、俺はそれを急いで止める。

「何かしら?」
「さっきのは違うから! サクラに伝えるのはなし! その……サクラが俺からのプレゼントを喜んでたのは本当なんだよな?」
「えぇ。香水やマニキュアはつけてるし、キーホルダーやハンカチも身に着けてるみたいよ。“私の好みぴったり”っていのちゃんに嬉しそうに話してたわ」
「そうなのか。良かった……」
「……いい加減、分かりづらいアピールやめたら?」
「何がだ?」
「それはあなたがよく分かってるんじゃない?」

紅は俺の心を見透かしたように言う。きっと“早くサクラに告白しろ”という意味なんだろう。

「無理だ……今はまだ……」
「どうして?」
「……」
「もしかして、緊張しちゃうから?」
「あはは、それはないだろう。あのカカシだぞ。年中女をとっかえひっかえしてたやつが……」

アスマの言葉が途中で止まる。

「お前、図星か……?」
「いや、そんなわけないだろう」

図星だったが、それを2人の前で認めるわけにはいかない。俺は必死に否定する。

「あら、じゃあ大丈夫じゃない。緊張してるわけじゃないんでしょ?」

紅が面白そうに言うため、俺は後に引けなくなった。

「……分かったよ! 今からサクラの所に行ってくる!!」

俺はもう“どうとでもなれ!”とサクラを探しに出かけることにした。

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「おい、大丈夫なのか。カカシのやつ」
「大丈夫じゃないかしら」
「カカシがサクラの事を好きなのは分かったが……サクラの方はカカシが好きなのか?」
「うーん、どうかしら。カカシにはサクラちゃんの様子を大げさに言っちゃったしね」
「おいおい……お前が焚き付けたんだろ」
「だって面白そうだったんだもん。あんなカカシ見るの初めてだし」
「それは同感だ」
「まぁ、でも……」
「でも……?」

プレゼントを選んでいるサクラちゃん、あれは確かに恋する女の子だったわ。だから安心しなさい、カカシ。

「何にやついてるんだ?」
「別に。もしあの2人が上手くいったら、カカシに何かおごってもらいましょ!」
「それはいいな!」
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