NARUTO/カカサク 中編 ■Voyage

優しさの意味


今日は朝起きたときから体調がすぐれなかった。
でも少しだるいだけだったので、大丈夫だと思い登校したが、2時間目が終わる頃には最悪の体調だった。

「サクラちゃん、大丈夫ってばよ……?」
「あんた、保健室行ったほうがいいわよ」
「そうするわ……」

ナルトやいのが心配そうにするのを見て、私も頷く。

「俺、ついていくってばよ」

ナルトはそう言ってくれたが、授業がもうすぐ始まってしまうため、私はそれを無理に断った。
重たい体をひきづり、壁をつたいながら保健室を目指した。
その道のりは思ったより長く、目の前も歪んで見えてきた。
やっぱりナルトに付き添ってもらえばよかった。

「もうダメかも……」

限界がきて、私の体が崩れ落ちる。

「大丈夫か!?」

その時、誰かの腕が伸び、私の体を受け止めた。
そして、何か必死に言っている。
けれど私は答えることもできずに、ただ深い意識へと落ちていった。



目を開けると、白い天井が広がっていた。どうやら保健室のようだ。
そうだ……私、具合が悪くなって途中で倒れたんだった……。

「やっと目が覚めた」

声のした方を見ると、私が寝ているベッドのそばの椅子にカカシ先生が座っていた。

「カカシ先生……」

「用があって保健室に向かっていたら、目の前に春野がいてね。そしたら急に倒れそうになるから驚いたよ。受け止められたから良かったけど……」

そうか、あの腕はカカシ先生だったんだ。

「それでリン先生は?」

「用事があったみたいだから、先に帰らせたよ。リン先生の判断によると風邪だろうって。寝ているお前を一人にするわけにはいかないから、俺がいままでいたわけ」

「それはご迷惑をおかけしました……」

「リン先生がお前の保護者に連絡したから、もうすぐ迎えに来ると思うよ。だから、もう少し寝てなさい」

カカシ先生は私の目を覆い隠すように手を当ててきた。
先生の冷たい手が気持ちいい。

「ありがとうございます」

私は再び眠りに落ちていった。



誰かの話し声が聞こえる。
この声はカカシ先生と……ヤマト隊長?

「遅くなってすみません。サクラが倒れときいて……」
「!? ヤマト……お前どうして」
「!? 先輩こそどうしてここに」
「俺はここで働いてるんだけど……それよりどうしてお前が迎えに来るの?」
「サクラと一緒に住んでるからですよ」
「一緒にって? 両親はどうした?」
「サクラの両親は海外にいますよ。いまは僕とサクラの2人で暮らしてるんです」
「2人って……」
「サクラの両親にはきちんと許可を得ていますよ」
「そういう問題じゃないだろ。高校生の女の子と大の男が2人だけで暮らすなんて……」
「僕はサクラの叔父ですよ。先輩じゃあるまいし、心配するようなことは何もありません。それよりサクラは連れて行きますね。ご迷惑をおかけしました」

ヤマト隊長は私を抱えると、出口ヘと向かった。
私はまだ意識がはっきりしておらず、抱えられるままだった。

「おいっ! ちょっと待って!」

先生の引きとめる声が聞こえたが、ヤマト隊長は出口へ向かう歩みをとめなかった。



家に帰り、ヤマト隊長は私を優しくベッドに寝かせた。

「叔父さん...心配かけてごめんなさい」
「起きたんだね。大丈夫だよ。それより体調はどうだい?」
「少しだけ良くなったかな。カカシ先生とは知り合いなの?」
「聞いていたのか。カカシ先輩は、高校の時にお世話になってね。いや、よくよく考えると僕が世話してたな。先輩が卒業してからはだんだん連絡取らなくなったけど、まさかサクラの学校で教師をしているとは……」
「そうなんだ。カカシ先生は昔どんな感じだったの?」
「どんな感じって。まわりに関心がなさそうでいつもやる気がないけど、案外よく見ていて、いざやるときはやる人だったかな。教師をやってるって聞いた時はびっくりしたけど、いま思うと案外ぴったりだったのかもしれないな」
「付き合ってる人とかは?」
「僕が知る限りでは、“来るもの拒まず去るもの追わず”であまりいい噂は聞かなかったな。でも、リン先輩だけはずっとそばにいたかな」
「そっかぁ...…その頃からリン先生と一緒にいたんだね」
「どうしてそんなこと聞くんだい?」
「……なんとなく」
「そんなことよりもう少し寝てなさい」
「はい」

そう言うと、ヤマト隊長は部屋を出て行った。
私は再び目を閉じた。そっか……そりゃあそうだよね。
私はずっとカカシ先生だけを想ってたけど、カカシ先生はそうじゃないよね。

私、勘違いしてたかも。前世ではカカシ先生も私のこと好きだったんじゃないかなって。
そして、今世でも記憶が戻ったら私を好きな気持ちを思い出してくれるんじゃないかって。
結婚してるけれどもしかしたら私を選んでくれるんじゃないかって、心のどこかでそう思ってた。

でも、前世で花見に付き合ってくれたのも、約束を守ってくれたのも私が可愛い生徒だったから。
もしいま記憶が戻ったとしても、そもそも私を好きじゃないから、私は可愛い生徒のまま。
きっとそうだ。

「私ってバカだな……」

落ち込んでいても、眠気はやってくるらしい。
さっきあんなに寝たのに……私は再び夢の世界へと落ちていった。



翌日、すっかり体調は良くなった。
けれど、ヤマト隊長が念のため休むようにというので、素直にその言葉に従った。

眠る気も起きず、ぼーっとしているとインターホンの音が鳴った。
ドアをあけるとカカシ先生がいた。

「カカシ先生!?」
「いきなりきて悪いな。忘れ物しただろ」

そう言うとカカシ先生はカバンを差し出し、私はそれを受け取った。

「ありがとうございます……。でも、中身は教科書とかだけだから大丈夫なのに」
「いいの。春野のことも心配だったしね。それよりヤマトはいないの?」
「叔父さんは仕事で……」
「病人をほおっておくなんて甲斐性なしだね」
「そんなことないです! 私が強く言ったんです。いま忙しい時期なので」

思わず大きな声をだしてしまった。
その反動か、フラッと倒れそうになり、カカシ先生が私の体を支えた。

「大丈夫か!? やっぱりまだ良くなっていないな……」

そして、カカシ先生は私を抱き上げた。俗にいうお姫様抱っこだ。

「カカシ先生!? 大丈夫だから!」

私は恥ずかしくて、必死に降りようと抵抗した。

「いいから落ち着いて、ベッドまで運ぶから。寝室はどこ?」

私を無視し、カカシ先生は家に入りこむ。
抵抗を諦めた私は、カカシ先生を部屋に案内すると、ベッドに寝かされた。

「心配かけてごめんなさい」
「本当だよ。昨日も今日も目の前で春野が倒れて、生きた心地がしなかったよ」
「それよりも先生、学校は……? いま授業じゃないの?」
「え~と……」
「もしかして、さぼり? それって、私のせい?」
「いや、違うよ! 確かに自習にはしてきたけど……」
「ごめんなさい」

私はまたカカシ先生に迷惑をかけてしまったと、情けなくて泣いてしまった。

「あ~、もう泣かないで。お前に泣かれるとどうしていいか分からなくなる」

カカシ先生は困っているようだ。でも、私の涙は止まらない。

「ゔ~」

「あぁ~、どうしたら……そうだ!」

そう言い、カカシ先生はマスクをおろし私に顔を近づけ、キスをした。

「えっ……」

私は驚きで、涙が止まった。

「止まったみたいだな。良かった」

私の頭はだんだん冷静になっていく。

「いきなりなにすんのよー!!!」

そう叫ぶと、カカシ先生に平手打ちした。
私は体調が万全じゃないなか思いっきり体を動かしたせいか、また意識を失った。

―――――――――――――――

春野が気を失い、俺は頬の痛みに耐えていた。
泣き出した春野に困り果て、悩みぬいた末に思いついた、女の涙を止める方法はこれしか思いつかなかったのだ。

でもさすがにキスはまずいよな~。
てか、春野って細そうに見えて、やっぱり力が強かったんだな。

やっぱり……? 何がやっぱりなんだ?
なんだか大事なことを忘れている気がする。

それが何かしばらく考えていたが、ふと時計を見るともう夕方にさしかかっていた。
まずいと思い、春野の様子を確認した後、問題ないとみて部屋を出た。
そこでちょうど帰ってきたヤマトと鉢合わせた。

「何で先輩がいるんですか?」
「忘れ物を届けにきたんだよ」
「わざわざですか」
「春野が困ると思って。それに昨日俺の目の前で倒れたから心配でな」
「その頬の腫れは?」
「これはちょっとね」
「……先輩が心配して女の子の家を訪ねるなんて珍しいですね」
「俺の可愛い生徒なんだから、心配するのは当たり前でしょ」
「可愛い生徒ですか……」
「もういい? 俺、すぐに学校に戻らなきゃいけないんだけど」
「随分長居してたみたいですからね」
「……とにかく俺は行くから。春野のことよろしくね」
「言われなくても。あっ、先輩」
「まだなにかある?」
「サクラには必要以上に近づかないでくださいね」
「何でお前にそう言われなきゃいけないの?」
「僕はサクラの保護者ですから。先輩みたいな不埒な輩から、サクラを守る義務があるんです。だから、僕が言ったことは守ってくださいね」
「世話になった先輩にひどいこと言うね。まぁ、でも約束を守るかどうかって言われたら……どうだろうね?」
「ちょっ、先輩!」


俺はヤマトの言葉を無視し、家を出た。

なぜ、ヤマトを挑発したのだろうか。
春野に必要以上に関わるなと言われて、イラッとしたのだ。
なぜ、イラっとしたのか。それは分からない。
でも初めて会った時からなぜか春野のことが気になっていた。

春野が目の前で倒れたときは、とてつもない不安に襲われた。
また会えなくなってしまうのではないかと。
そう思うと、いてもたってもいられなかったのだ。
なぜ“また”と思ったのか。春野とは初めて会ったはずなのに……。

俺は答えを見つけることができないまま、学校へと戻っていった。
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