NARUTO/カカサク 短編①

ねぇ/藤田麻衣子


サクラに浮気がバレた。また謝れば許してくれるだろうと思っていたが、今度はそうはいかないらしい。

浮気がバレた直後、俺の家を出ていったサクラをすぐに追いかけようとしたが、浮気相手の女がそれを邪魔して追いかけるのが遅れてしまった。ようやくサクラの家に着いて呼び鈴を鳴らす。気配はある。出てこないため、今度はドアを叩いてサクラを呼ぶ。ようやくサクラがでてきたと思ったら、大きなゴミ袋をいきなり投げつけられ、すぐにドアを閉められた。その後も呼びかけたが応答がなかったため、俺は仕方なくゴミ袋を持って家へ帰る。

まずは落ちていたグラスの破片を集める。サクラが買ってきてくれた、ペアグラスの片方だ。

「このペアグラス私達みたいと思って、買っちゃった! グリーンが先生で、ピンクが私のグラスね!」

あの頃が懐かしい。

ゴミ袋を開けると、サクラの家に置いていた俺の服やタオル、サクラと一緒に撮った写真などが袋いっぱいに入っていた。

俺たちはそれほど一緒にいた。

サクラのことは好きだ。何よりも大切なのは間違いない。でも、時々不安になる。サクラは俺のことが1番好きなのか。だから、他の女と浮気することによってサクラの愛情を確かめる。最低だと分かっているがやめられなかった。サクラがそれに応えてくれたから。

結婚したがっているのもわかっていた。俺だって今すぐにでもしたい。ただ、俺なんかでいいのかという気持ちがそれにブレーキをかける。だから、先延ばしにしてしまった。

とりあえず、明日もう一度謝りに行こう。
だが、その後急な任務が立て続けに入ってしまい、時間だけが過ぎていった。

ようやく落ち着いた2週間後。サクラを探しに、サクラが勤める病院を訪れる。

「カカシじゃないか」
「綱手様」
「どうしたんだ、こんな所で」
「えっと、サクラを探してまして……」
「なんだお前聞いてないのか。サクラなら長期任務で砂隠れにいるぞ」
「長期任務? どのぐらいですか?」
「三年ぐらいだな」
「三年も……」
「急に決まって誰にするか悩んでいたところにサクラが立候補してな。砂の求める人材にもピッタリだったから任せることにした」

そんな話は聞いてない。なんで俺に言わずにそんな任務なんかを引き受けたんだ。

ふとサクラに言われた言葉を思い出す。

「もう先生の気持ちは分かった。終わりにしましょう、全て」

まさかサクラは本当に俺との関係を終わらせたのか。嘘だろ……。


それから後のことはあまり覚えていない。ただ淡々と任務をこなす日々を過ごしていた。サクラがいなくても俺の日常は変わらなかった。サクラと付き合う前に戻っただけだから。でもどこか心にぽっかり穴が空いたようで、何をしても満たされることはなかった。喜びも悲しみも怒りでさえもどこかに置いてきたようだ。ただ、サクラに関することだけはその感情は甦ってくる。

サクラは今何してるんだろう?
無事だろうか。泣いていないだろうか。
もしかしたら、俺以外の男と既にいい仲になっているかもしれない。

俺に覚悟があれば、今頃は違っていたのだろうか。

サクラと同じ家に住んで、子どもも出来て、家族団欒で過ごす様子を思い浮かべる。

幸せすぎる光景に思わず涙が溢れてくる。俺があの時、サクラの気持ちにきちんと答えていれば、こんな未来があったのかもしれないのに。俺はそれから逃げて、そして関係を自ら壊した。

サクラ、会いたい。会って、きちんと謝りたい。
そして願わくばもう一度……。
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