NARUTO/カカサク 短編①

シンジテミル 後編/May'n


「どうしよう」

俺は頭を抱えていた。
サクラがとうとう俺にお弁当を作らなくなったのだ。
会いにもこないし、会おうとしても会えない。避けられているのだ。
この前の花束がダメだったのか。でも、その前からそっけなかったしな……。

「六代目……六代目!」
「あっ、ごめん。どうしたの?」

シカマルの声で我に返る。

「手が止まってますよ。悩みごとあるのは分かりますが……仕事は山積みなんですからね」
「そうだったね」

俺はシカマルに言われ手を動かす。

「ねぇ、シカマル?」
「はい」
「シカマルは何か知らない?」
「何をですか?」
「サクラのこと……お弁当渡すの頼まれてたでしょ。最近、なくなったけど」
「あ~、知らないっすね。ただ、この前会った時、なんとなく元気はなかったですけどね」
「そっか……」
「そういえば、六代目はサクラと別れたんっすか?」
「えっ! ちょっと、何それ!」

俺は思わず椅子から立ち上がる。

「ちょっ、落ち着いてください。噂ですよ、噂。この前、六代目と黒髪美女が仲良さそうにしてるのを見たやつがいたらしくて……。それに最近サクラと一緒にいないから、六代目が黒髪美女に乗り換えたって噂が流れてるんっすよ」
「なんなのそれ……あいつとはそんな関係じゃないし。だってあいつ……」
「でも、サクラに説明したわけじゃないんっすよね。もしサクラがその噂を聞いていたら、会いに来なくなるのも納得の理由ですけどね」
「……ねぇ、シカマル。今日定時で帰っていい?」
「ダメって言っても帰るんですよね?」
「うん」
「はぁ、分かりました。それまでに少しでも仕事進めてくださいね」
「恩に着る。それとサクラとは別れてないからね」

俺は定時で帰るべく、集中して職務をこなした。

――――――――――――――――――――――――――――

カカシ先生と黒髪美女が2人で歩いてるのを見てから、お弁当を作るのをやめた。さらに、先生とその人が付き合っているという噂を聞いてしまい、先生に余計会えなくなった。

「はぁ」
「なにため息なんかついてるのよ」
「いの……」

いのには全部話した。

「そんなに悩むなら本人に確かめてみればいいじゃないの」
「そうだけど、先生だったらうまく話を逸らしそうだし……。もし本当に浮気だったとしたら、私立ち直れない」
「あの先生に限って、そんなことはないと思うけど……。でももしそうなったら、私のでかい胸を貸してあげるわ」
「いの……でかい胸は余計よ。でも、ありがとうね」
「うん、あんまり抱え込まないことね。よし! 今日は定時で上がって、一緒にご飯にでも行きましょう!」

いのの言葉で少し元気が出た。
私はいのとご飯に行くべく、いつもより集中して仕事に取り組んだ。
そして、無事に仕事を終え、いのと病院を出る。

「なに食べようかな~、いののおごりでしょ」
「ちょっと、何それ。まぁ、今回は仕方ないからおごってあげるわ……いや、やっぱりその必要はないかもね」

先を歩いていたいのが急に立ち止まる。

「どうしたの、いの?」

いのの目線を辿ると目の前にはカカシ先生がいた。

「カカシ先生……どうして」
「サクラを待ってたんだ。仕事お疲れ様」

私とカカシ先生の視線がぶつかる。

「さて、私は家に帰りますか。サクラ、ご飯はまた今度ね!」
「えっ。ちょっと、いの!」

私の引きとめる声もきかずにいのは立ち去り、私はその後を呆然と見つめる。

「サクラ、俺と少し話をしよう」

先生の声ではっとする。

「それまた今度じゃダメ……?」

私はカカシ先生の顔が見れずに俯く。

「ダメ」

そう言うとカカシ先生は私の腕を取り、歩き出す。
私は抵抗する気も起きず、黙って先生についてく。


着いた先は先生の家だった。

「とりあえず入って」

先生に促され、中に入る。
久しぶりだ……部屋から香る先生の匂いに安心する。

私がソファに座ると、先生はお茶を入れてくれて、私の隣に座る。

「ねぇ、サクラ。なんで晩御飯とお弁当を作ってくれなくなったの?」
「……それは最近忙しかったから……」
「本当にそれだけ?」
「……」
「もしかして、黒髪の女のせい?」
「!?」

私は思わず顔を上げる。

「はぁ、やっぱり……。サクラ、あいつとは何でもないんだよ」
「何でもなくないでしょ? 付き合ってるって聞いたわ」
「それは噂でしょ」
「じゃあ、何でうそつくの。この前の飲み会、女の人いないって言ったのに……あの人がいたんでしょ」
「いたよ。でもそれは……「それに! 仲良さそうに腕を組んで歩いていたじゃない!」
「あれはあいつが酔ってくっついてきたんだよ。ホテルに入ったのもあいつを休ませるため。俺はすぐに出たよ」
「じゃあ、なんで急に花束をプレゼントしてくれたの?」
「それはサクラがそっけなかったから。もちろん、いつも作ってくれるお弁当のお礼もかねてね」
「そんなの信じられない……」
「どうしたら信じてくれる?」
「……その女の人、連れてきて」
「えっ?」
「いいから、その女を今すぐここに連れてきなさいよ!」

私の感情は不安から怒りに変わっていた。
そういえば、昔読んだ雑誌にも浮気した男にマジ切れした女のエピソードが掲載されてたっけ。
その女の人の気持ちが今なら痛いほど分かる。

「……分かった」

そう言って先生はパックンを呼び出し、女の人を呼びにいかせた。


そして、しばらくしてインターホンが鳴る。
先生が女の人を迎えにいくのを見守る。

「カカシ、急に呼び出しなんて珍しいじゃない~。まぁ、私とカカシの仲だからね。カカシのためならいつでも駆けつけるわ」

そう言ってカカシ先生に抱きつく。

「!? おいっ! やめろって」

先生は離そうとするが、女の人の力が強いのかなかなか離れない。
私は2人に近づいて、チャクラを込めて引き離す。

そして、カカシ先生の方を向いて、思いっきり力を込めて平手打ちする。

「やっぱりそういう仲だったのね……。さいってっい!!」

先生と女の人は呆然としている。
私はそれを横目に自分の家に帰ろうとする。

もう先生なんて知らないんだから!

それに気づいた先生が私の腕を掴む。

「ちょっと、待てって! まだ話が……」
「私には話すことはありません! どうぞその女の人とご自由に仲良くしてください!」

言い合っていると、「ちょっと待って!」と女の人が先生との間に割って入る。

「何ですか!?」

私は睨むが、女の人は動じず笑みを浮かべている。

「あなたがサクラちゃんね。ちょっと落ち着いて私と話をしましょう」

そう言って手を握られる。その力は思ったより強く、少し冷静になった私はそれに従うことにした。

「あなたのことはカカシから聞いてるわ。だっていつもあなたの事しか話さないんだもの」
「はぁ……」
「私、カカシと同期の忍なの。理由あってしばらく里から離れてたんだけど、最近帰ってきてね。カカシと久しぶりに会えたのが嬉しくて、カカシに色々付き合ってもらってたの」
「ホテルにもですか?」
「ホテル? あぁ、あれは私が酔いつぶれてね。でもカカシったらひどいのよ。ベッドに私を放り投げたと思ったら、さっさと帰っちゃうんだもの」

どうやら先生の話は本当らしい。

「あなたには色々と誤解させてしまったみたいで、ごめんなさい。カカシとは本当に何でもないのよ」
「だから、言ったろ。俺は浮気してないって」
「じゃあ、なんで飲み会に女の人はいないって言ったの。この人いたんでしょ」
「いたよ、でもこいつ女じゃないもん」
「はぁ? どう見たって女じゃない」

綺麗な長い黒髪に切れ長の瞳、赤い唇に豊満な胸、くびれた腰に妖艶なお尻。
どこからどう見たって美女だ。

「あら~、そう見えるなら嬉しいわ。性転換したかいがあったわね」
「……えっ!?」
「こいつは元男だよ。里を離れてたのも性転換の手術をするため」
「うそでしょ……」
「うそじゃないわよ」

そう言って身分証を取り出す。確かにそれには“男”と書かれていた。

「いま“女”に申請している最中だから、これももうすぐで変わるわよ」

私は呆然としていた。
うそでしょ……この美女が男の人だったなんて。

「誤解が解けたようで良かったわ~。あっ、もうこんな時間。ダーリンが待っているから帰らなきゃ」
「ダーリン?」
「こいつ彼氏がいるんだよ」
「そういうこと! それじゃあ、また会いにくるからね、カカシ! もちろん、サクラちゃんにも!」
「もう来なくていい!」

そして、女の人(元男)は嵐のように去っていった。

「……ごめんなさい、先生」

私は誤解してしまったこと、平手打ちしてしまったことを謝る。

「いいよ。俺もはっきりと説明しなかったしね。それよりも誤解がとけて良かった」

先生は私の頭を撫でる。

「でも、これからは気になることがあったらきちんと言ってほしいな。
理由も分からずに避けられるのは辛いから」
「怖かったのよ……先生が心変わりしたんじゃないかって」
「するわけないでしょ。俺がどれだけ長い間サクラを想っていたと思うの」
「私がサスケくんを好きな頃からでしょ?」
「そーだよ。俺の愛は重いんだからね」
「私の愛も重いわよ」
「それは確かに。サクラの平手打ち、すごく痛かったなー」
「うっ……それは本当にごめんなさい」
「お詫びに晩御飯とお弁当作ってくれる?」
「……それぐらいお安い御用よ! 毎日作ってあげる!」

――――――――――――――――――――――――――――

「せんせーい。はい、今日のお弁当」
「ありがとな。あっ、今日は定時で帰れるから」
「分かった! ご飯作って待ってるね」

そう言ってサクラは執務室を後にし、六代目は受け取った弁当を広げ、食べ始める。
以前のような光景に俺は一安心する。

「仲直りしたんですね」
「まぁね」
「そういえば、噂流したやつが通り魔にボコられたそうなんですけど……六代目、何か知りません?」
「え~、知らないな。こわいね~」
「……ですよね」

いや、知ってる顔でしょ。
マスクしてるけど、俺には分かる。
絶対六代目がやったでしょ。
でもそんなことを口に出せるはずもない。

六代目はサクラのことになると、仕事を放り出すから困る。
そのつけが俺にまわってくるのは勘弁してほしいものだ。
だが、仲直りしたことでまたきちんと仕事してくれるはず。
元に戻ったことに感謝しながら、俺も定時で帰るために筆を動かした。
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