NARUTO/カカサク 短編①

シンジテミル 前編/May'n


「先生、はい。今日のお弁当」
「お~、いつもありがとな」

サクラと付き合うようになってから、こうしてサクラはお弁当を持ってきてくれる。
最初ははっきり言って微妙だった料理も、努力家のサクラはどんどん上達し、いまでは絶賛できるほどの腕前だ。
これも俺のためだと思うと、余計に美味しさが増す。

サクラが去った後、お弁当のふたをあけると、昨日の夕飯の残りのさんまの塩焼き混ぜご飯、ほうれんそうのお浸しに煮物といったバランスの取れたおかずが並ぶ。

「今日も凝ってますね」とシカマルが弁当を見て言う。
「本当にね。サクラも忙しいだろうに……」

俺はさっそくご飯を口に運ぶ。

「う~ん、美味しいね~」

トントンとドアを叩く音がした。

「は~い」

俺の返事を聞いてドアが開けられる。

「久しぶりね、カカシ」

そこにいた人物に俺は目を見張った。

――――――――――――――――――――

カカシ先生は里のために必死に頑張っている。
少しでも手助けになれたらと、私は今日もお弁当を差し入れる。
献立を考えるのは大変だけど、先生は必ず平らげてくれて、簡単な感想も毎回くれる。
それだけで作ったかいがあるというものだ。

「明日はどんなお弁当にしようかな。その前に今日の晩御飯作らなきゃ」

私は先生の家に来て晩御飯を作り、そのまま泊っていくことが多かった。
今日のメインは生姜焼きで、先生の好きな茄子のお味噌汁も作ろうと思い、料理していく。
作り終わり、先生を待っているが、一向に帰ってくる様子がない。

「おかしいわね、今日は特に遅くなるって連絡きてないし……」

心配だけど、ただ仕事が長引いているだけかもしれない。
私はひたすら待っていった。


どのぐらい経っただろうか、ガチャっと音がした。
先生が帰ってきたのだ。

「先生! 良かった、心配したんだからね」
「ごめんごめん。急に飲みに行くことになって」

先生は酔っているのか、顔がほんのり赤い。

「もうっ! それなら連絡してよね」

フラフラになるまで飲むなんて珍しい。
私はカカシ先生に肩を貸すことにした。

ふわっ……。

その時にわずかに匂った甘い香り、これは香水? しかも、女性がつけるよな……。

「……先生。その飲み会に女の人いた?」
「……いないよ。何で?」
「ううん、別に」

昔、いのと“男の浮気の兆候”の雑誌ページを見ながら盛り上がったことを思い出した。
それには今日と似たような出来事が書いてあった。
まさかとは思うけど、一度沸き上がった不安はなかなか消えない。
あの時は「こんな分かりやすい人いないわよ」って笑いあっていたが、今は笑えない。

「それより晩御飯作ったんだけど、飲んできたなら食べないわよね?」
「そうだね、ごめん」
「分かった。明日のお弁当のおかずにしちゃうから大丈夫」

ベッドまで運ぶと、先生はすぐ眠りに入る。
私は晩御飯をお弁当に詰め替え、カカシ先生の家を後にした。
お弁当は机の上に置いといたから、自分で持っていくだろう。
私はこの不安な気持ちを抱えたまま、カカシ先生に会いたくなかった。

―――――――――――――――――――――

最近、サクラがそっけない。
この前、連絡もせずに帰りが遅くなったことを気にしているのだろうか。
でも、普通には話してくれるし……ただ晩御飯を作りに来なくなっただけだ。
それにお弁当は相変わらず作ってくれる。なぜかシカマル経由で届くが。

そして、今日もあいつはやってくる。

「何、浮かない顔してるのよ」
「う~ん、最近彼女がそっけなくて」
「私がいるのに他の女の話するの?」
「何言ってんのよ。それよりどうしたらいいと思う?」
「とりあえずお花あげたら? 女の子はみんなお花が好きよ。もちろん私も」

なるほどね、確かにいいかもしれない。

―――――――――――――――――――――

「サ~クラ!」

診察室で仕事に取り組んでいると、先生が笑顔で入ってきた。

「どうしたの、先生? お弁当はもうシカマルから受け取ったわよね」
「うん、ありがとね。あとできちんと食べるよ。それよりこれサクラに渡したくて」

そう言ってピンクの花束を渡された。

「どうしたの……急に」
「いつもお弁当作ってくれるから、たまにはね。それに晩御飯も最近あまり作りにこないでしょ。仕事が忙しいのかな?」

「そうね、最近やることが多くて……。お花、ありがとう。机に飾るわね。それより先生も仕事あるんでしょ? 早く戻らないとシカマルに怒られるわよ」
「あ~、そうだね。じゃあ、戻るよ」
「うん」

先生はもう少しここにいたそうだったが、私は仕事を理由に先生を追い出した。

またしても“男の浮気の兆候”の雑誌ページを見ながらいのと会話したことが蘇る。

「男から香水の匂いがするほかには……突然プレゼントをしてくるだって」
「そんな分かりやすい男いる?」
「でも、確かにいとこのお姉さんの旦那さんがまさにその行動してたわ。案の定浮気してたみたい」
「じゃあ、やっぱり合ってるのか~。私達も気をつけなきゃね」

まさか数年後、自分に同じことが訪れるとは……。
でも、まだ先生が浮気してると決まったわけじゃない。
私は先生を信じていたい。ねぇ、まだ信じていていいよね?


先生のことを考えすぎて、今日も仕事が長引いてしまった。
私はとぼとぼと自分の家へ帰る。

先生といままでのように接したい気持ちはやまやまなのだが、この不安な気持ちを抱えたままではどうしても避けてしまう。いったいどうすればいいのか。

ぼーっとしていたら、家へ曲がる道を通り過ぎてしまったようだ。
いつのまにか繁華街の方へ来ていた。

「いけない、私ったらうっかり……」

踵を返そうとして、見慣れた顔に視線が止まる。

「カカシ先生と……誰?」

先生が黒髪の女の人と寄り添いながら歩いていたのだ。紅先生ではない。
私は2人がホテルに入っていく光景をただ見ていた……。

To be continued...
86/100ページ