NARUTO/カカサク 短編①

大事な宝箱/七海るちあ(中田あすみ)

珍しく仕事が早く終わったので家に帰り、やることを済ませ、のんびりしていると家のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。

「は~い!」

こんな時間に誰だろうと思いながらドアを開けると、長期任務帰りだろうと思わせる服装のカカシ先生が立っていた。

「カカシ先生!」
「久しぶり、サクラ。夜にごめんね。病院に行ったら、サクラは既にあがったって聞いたから」
「今日は珍しく早く終わったの。それより先生疲れてるでしょ。早くあがって」

先生は「ありがとね」と言うと、慣れた様子で私の家にあがり、リビングへ。私は先生にお茶を出すためにキッチンへと向かう。

「私はもうご飯済ませちゃったけど、まだ少しなら残っているから、もし良かったら先生も食べて」
「そうしようかな」

そして、先生は私が出したご飯を食べ、その後は他愛もない話をする。しばらくして、先生が時計を見て荷物をまとめ始める。

「そろそろ帰るかな」
「せっかくだから、泊っていったらいいのに」
「付き合ってもいない女の子の部屋に泊まるのはまずいでしょ」
「……それもそうね」
「ありがとね、サクラ。元気そうな顔が見れて良かったよ。それじゃあ、また」
「うん。私も先生が無事に帰ってきてくれてよかった。ゆっくり休むのよ!」

私の言葉に手を挙げて返事をすると、先生は帰っていった。


翌日。お昼を一緒に食べている“いの”にその話をすると、いのの「カカシ先生、あんたのことが好きなんじゃないの?」と予想だにしない言葉に私は驚く。

「えっ!? 何言ってるのよ?」
「いや、だって普通は任務が終わったらすぐに家に帰りたいじゃない。それなのに毎回でしょ? わざわざサクラの家に寄っていくなんて、それ以外考えられないと思うけど」
「いや、でも、教え子として私のことを心配してるからとかじゃない?」
「それだったら、ナルトやサスケくんのところにも行くんじゃないの?」
「確かに。でも、私を好きとか……そんな雰囲気全く感じたことないけど」
「あんた、案外にぶいからね~」
「ちょっと! それどういう意味よ」
「そのまんまの意味よ。まぁ、でももしカカシ先生があんたのこと好きだったらどうするの?」
「どうするって言われても……そんなこと考えたこともないから分からないわよ」
「じゃあ、いま考えなさい!」

いのがそう強く言うため、私は目を閉じて、先生と自分が付き合っている様子を思い浮かべる。その様子はあまりにも自然で、なんだかしっくりときた。ゆっくりと目を開けると、いのがニヤニヤとこちらを見ていた。

「なによ」
「いや~、幸せそうな顔していたなと思って」
「うそ!?」
「あはは、サクラ。顔真っ赤!」
「うるさい!」


そんなやり取りがあったからか、私はカカシ先生を意識し始めていた。でも、忙しい先生とは中々会う機会がなく、またしばらく会わないまま先生は再び長期任務に出たと風の噂で聞いた。

「は~、会いたいな~」

先生を意識し始めた直後はどんな態度を取っていいか分からず、会いたくない気持ちが強かったが、会えない日々が続いた“いま”は会いたい気持ちの方が強くなっていた。

「次、いつ会えるんだろう……」

ベランダに出て、そんなことを考えていると「誰に?」という声が後ろからいきなり聞こえて、驚いた私は思わず飛び上がり、ベランダから落ちそうになる。

「サクラ!?」

落ちそうになった私をとっさに掴んで引き寄せたのはカカシ先生だった。

「カカシ先生!?」
「ただいま」
「おかえり……じゃなくて! どうしてここに?」
「チャイムを鳴らしたんだけど、出なくて。帰ろうとしたらベランダにサクラがいたのが見えたから」
「だからっていきなり背後から声をかけないでよ。驚いたじゃない」
「俺もサクラが落ちそうになってるから驚いたよ」
「先生のせいよ!」
「それはごめん」
「……長期任務に行ったって聞いたけど」
「うん、予定より早く終わったからサクラに会いに来た」
「そうなんだ」

先生とそんなやり取りをしているうちに、頭がだんだんと冷静になっていく。そして、いまの状況はカカシ先生に抱き締められている状態。私がベランダから落ちそうになった時に先生がとっさに引き寄せてくれた体制のままだったのだ。服越しに伝わる先生の体温に私は顔が赤くなる。

「先生……あの……」
「ん?」
「もう大丈夫だから」
「何が?」
「だから、その……」

私の言葉に先生は不思議そうな顔をする。これは分かっているのか、分かっていないのか。私ももうなんて言ったらいいのか分からず、とりあえず無言になる。抱き締められた体制のまま、どのぐらいの時間が経ったのだろう。先に言葉を発したのは先生だった。

「誰?」
「えっ?」
「さっき言ってたでしょ。会いたいなって」
「えっ!? 聞いてたの?」
「聞こえたの。それで誰に会いたいの?」
「誰って……」

“カカシ先生”とも言えず、私はどうしたらいいのか分からなくなり、なぜか先生にギュッとしがみつく。

「サクラ?」
「……先生こそ……」
「ん?」
「どうしていつも任務帰りに私に会いに来てくれるの?」
「それは……」
「……」
「……分からない」
「えっ?」

私は思わず顔を上げる。

「分からないって……」
「分からないけど……なんだか無性にサクラに会いたくなるんだよね。任務中も“サクラ、いま何してるかな? 無理はしてないかな?”とかばっかり考えて。それで任務が終わってすぐにサクラに会いに行って……サクラが“カカシ先生!”って迎えてくれるとやっと帰ってきたんだって安心できて……。って、俺なに言ってるんだろうね?」

先生の顔はほんのり赤く染まっていた。そんな先生を見ていると、私もなんだか素直になれる気がした。

「私もね、先生と同じこと考えてたよ」
「えっ?」
「先生はさっき“誰に会いたいの?”って聞いてきたよね。私は、先生に会いたかった」
「サクラ……」

先生は驚いたように私を見つめる。私は途端に恥ずかしくなり、先生の胸に顔をうずめる。

「サクラ、顔あげて」
「無理、いま絶対変な顔してるから」
「大丈夫だから」
「大丈夫じゃない」
「……あっ! 流れ星」
「えっ!? うそ!?」

私は先生の言葉に顔を上げるが、星が瞬いているだけで流れ星は見えなかった。

「ちょっと! 先生! だましたのね!?」

抗議の声を上げようと先生の方を向くと、「やっと顔をあげてくれた」と先生がいままで見たことのないような優しい表情で私を見つめていた。

「先生……」
「俺達同じこと考えてたんだな」
「……そうみたいね」

そして私たちはどちらからともなく顔を近づけた。
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