NARUTO/カカサク 短編①

不死鳥のフランメ/マリア×風鳴翼(日笠陽子×水樹奈々)

サクラが俺限定の記憶喪失になってから、俺はサクラと頻繁に会っていた。少しでもいいから、俺の事を思い出してほしかったのだ。
“失ってから大事なものに気づく”とはよくいったもので、それを俺はいま実感している。俺はサクラのことを一人の女性として好きだったんだと気づいたのだから。

「カカシさん?」

サクラの声で深い思考に陥っていた俺は我に返る。今日はサクラと2人で木ノ葉の里が見渡せる場所に来ていた。

「あぁ、ごめん。少し考え事してた。それと前にも言ったと思うけど、先生でいいよ」
「うーん、そう言われても。まだ何にも思い出せないから、なんか先生って呼びづらくて……」

申し訳なさそうに言うサクラに胸が痛くなる。

「まぁ、そうだよね~」

俺はなんともない風を装う。

「それにしても、カカシさんっていつも色んなところに連れていってくれるわよね。どうして?」
「どうしてって……。サクラと俺が来たことのある場所に連れてきてるだけだよ。なんか思い出すかなって」
「へ~。私とカカシさん、いろんな場所に行っていたのね」
「そうだよ。主にサクラからの誘いでね」
「私の? まぁ、言われてみればどこも私が好きそうな場所ばかりだわ」
「でしょ」
「よく付き合ってくれてたわね」
「まぁね。断ってサクラの機嫌損ねるよりは……」
「ちょっと! その言い方!」
「あはは、ごめん。まぁ、俺もなんだかんだで楽しんでたよ」
「そう……なら良かったけど。それにしても、こんなに私に構ってていいの? ほら、彼女とか……」
「彼女はいないよ」
「えー! 意外。じゃあ、好きな人とかは?」
「……いるかな」
「えっ! 本当!? 私の知っている人?」
「あはは、どうだろう?」

興味津々なサクラに俺は苦笑いを返すことしかできない。この状況でサクラなんて言えるわけもない。

「そっか〜。きっと素敵な人なんだろうね」
「まぁね。それに真っ直ぐな子かな」
「ふーん。私より可愛い?」
「えっ?」
「えっ? じゃないでしょ。どっち?」
「どっちって言われても……」

同一人物とは言えずに、悩んだ末に俺が出した答えは無難なものだった。

「まぁ、どっちも可愛いかな」
「えー! つまんない答え」
「そう言われても……。でも、どうしてそんなことを?」
「どうしてって、それは……」

それっきりサクラは俯いてしまった。俺は心配になり、「サクラ? どうかした?」と顔を覗き込もうとする。

「……って」
「え?」
「……私の方が可愛かったら、まだ可能性はあるかなって」

俺と目を合わせようとしないサクラだったが、桃色の髪の隙間から見える肌は真っ赤だった。

「それって……」
「自分でも単純だなと思うわ。いろんなところに連れて行ってもらって、こんな風に優しくされて……それだけで好きになっちゃうなんて」
「サクラ……」
「カカシさんに好きな人がいるのは分かった。でも……なんかいま言わなきゃ絶対後悔すると思って」

ようやく目を合わせてくれたサクラの瞳は不安げに揺れていたが、俺からもう目をそらそうとはしなかった。サクラは勇気を出して俺に告白してくれた。俺もこのままではいけないと決意し、サクラに自分の気持ちが伝わるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。

「ごめん」
「謝らないでよ。ただの自己満足だし」
「違う、そうじゃなくて。俺の好きな子はサクラなんだ」
「嘘。カカシさん、優しいから同情してるだけでしょ」
「嘘じゃない。さっきは俺が逃げただけで……」
「……じゃあ、もし仮に先生が私を好きだったとしても、それは前の私じゃない?」
「記憶があってもなくてもサクラはサクラでしょ。俺は前のサクラもいまのサクラも好きだよ」
「……本当に?」
「本当。さらに言うと、サクラは記憶がなくす前も俺に告白してくれたんだよ」
「えっ……」
「あの時も俺が逃げて、こういうことになって……。でも、もう逃げないから」

俺はサクラを優しく抱きしめる。

「そっか……そうだったんだ」

サクラも俺の背中に手を回し、俺たちはしばらく抱き合っていた。そして、急にサクラが笑い出す。

「うふふ」
「どうしたの?」
「何かすごいなって。また同じ人に恋をするなんて」
「それだけサクラが俺のこと好きってことじゃない?」
「すごい自信ね」
「そりゃあ、サクラにあれだけアプローチされれば、自信もつくよ」
「記憶をなくす前の私ってどんなだったのよ」
「……とにかくすごかった」
「前の私は一体なにを……もしかして、前の私の方が良かった?」
「さっきも言ったでしょ。前もいまもサクラはサクラ。俺の事が好きな可愛い女の子だよ」
「そっか」
「ありがとう、サクラ。俺の事をまた好きになってくれて。そしてこれからも」

“よろしく”の意味を込めてサクラに優しくキスをした。
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