NARUTO/カカサク 短編①

ヒメムラサキ/水樹奈々
※カカシ先生は出ません。

ママが失踪してから13年。私は18歳になり、いのお姉ちゃんやナルトお兄ちゃん、里のみんなに助けられながら今日まで過ごしてきた。ママが失踪した当時は里中大騒ぎだったが、年月が経つうちにそれも落ち着いていき、捜索活動も数年後には打ち切られた。それでも、私といのお姉ちゃん、ナルトお兄ちゃんはママの事を諦めきれず、ずっと探し続けてきた。だけど一向に手掛かりは見つからず途方にくれていたある日、ついにいのお姉ちゃんがママの手帳を発見し、事態は大きく動き出すことになった。

ママの手帳には、ある人(名前は出ていなかったので、誰だかは分からなかった)への想いが書かれていた。その内容からママがその人を深く愛していたことが分かる。そして、その人が死んでしまったことも。でもどうしても会いたくて、その人に会える方法を必死に調べていたみたいだ。そして、ついに死者に会えるという山を見つけ、そこに向かったと書かれている。そこでその人との子供を授かったということも。

「その子供って私?」
「そうなるわね」
「でも、このある人って誰だってばよ。サスケは生きてるし、既に死んでいて、サクラちゃんと近しい人って……」
「1人だけいるじゃない。サクラが信頼していた人が」
「まさか、それって……」

その時、手帳の隙間から一枚の写真が落ちてきた。その写真には銀髪のマスクをした男の人が写っていた。

「これって、カカシ先生だってばよ。じゃあ、サクラちゃんの想い人は……」
「そうなるわね。なんとなくそんな予感はしてたけど。でも、あの子、私たちの前ではそんな素ぶりは一切見せなかったのに」
「これがあのカカシ先生? ナルトやママの先生の?」
「キキョウ、カカシ先生を知ってるの?」
「うん、ナルトお兄ちゃんがたくさん話してくれたもの。でも、写真は初めて見た。こんな顔してたんだね」
「そうなの?」
「言われてみれば、話してたかもしれないってばよ」
「この人が私のお父さん……」

私はまじまじと写真を見る。とりあえず、見た目で似ているところはなさそうだ。

「つまり、サクラはカカシ先生に会いに行って、キキョウを宿したってことね。そりゃあ、私達に言えるわけないわ」
「でも、死者との間に子供ができるなんて」
「できたじゃない。事実、キキョウがいるでしょ」
「でもよー」
「私のことはいいから。それより、どうして、ママはまたいなくなったのかでしょ」
「確かにそれは分からないってばよ」
「理由がないものね。手掛かりはこの山。行けば何かしらの手掛かりが見つかるかも」
「じゃあ、いますぐ行こうってばよ!」
「無理よ。この山は遠過ぎる。日帰りでいける距離じゃないし、色々と準備が必要でしょ」
「でも……」
「今更急いでもどうしようもないでしょ。とにかく、日程を決めて3人で行きましょう。いいわね?」
「分かったてっばよ」
「うん」

その後、私達は別れてそれぞれの家路へとつく。家に帰るとすぐに最低限の準備をし、山へと向かった。いのお姉ちゃんには悪いが、居ても立っても居られなかったのだ。置手紙をしてきたので、とりあえずは大丈夫なはず。私は途中で野宿をし、朝早く起きると再び山に向かって歩き出した。

「絶対に諦めないんだから……!」

ようやく辿り着いたのは夜だった。山は夜ということもあって、禍々しい雰囲気を醸し出していた。それでも私はママに会いたい一心で震える足を踏み出す。獣道をひたすら歩き、山の中腹あたりで古びた屋敷を見つける。無人のようだったので、私は疲れていた体をとりあえず休ませることにした。少し休んだ後は、せっかくだからと屋敷を探検することにした。そこで私はある部屋にたどり着いた。その部屋にはたくさんの男女の古びた写真が飾ってあり、どうやら全て婚儀の写真みたいだ。その中の一つに目がいった私はその写真を手に取る。白無垢を着たママと正装をしたカカシ先生が写っていたのだ。

「なんで……」

ほかにも何かないかと見渡すが、この写真以外は特になかった。私はほかの手がかりを探すため、別の部屋を捜索することにした。そして、書庫のようなところで一冊の古びた気になる本を見つけ、そこで幽婚のことを知る。この山では、死者に会えるほか、死者とも結婚(幽婚)できるらしい。ただ幽婚したら最後、元に戻ることはできないと。幽婚の儀式は山の頂上で行われることも載っていた。

「もしかして、ママはカカシ先生と……」

私は必死に頂上に向かう。なぜだか分からないが、ママに会えると私は確信していた。頂上に着いた頃には陽は既に昇り、そこにはずっと会いたかった人がいた。

「ママ……」
「キキョウ……」

久しぶりに会ったママは、私の記憶のままの姿だった。

「あなた大きくなったわね」
「あれから何年経ったと思ってるのよ」
「それもそうね……。あなたを置いていってごめんなさい。もう私がいなくても大丈夫だと思ったの」
「そんなわけないじゃない! ママがいなくなって私がどれだけ寂しかったか……」

私は泣きたくなかったが、自分の意志とは裏腹に涙が溢れてくる。

「どうして? 何で私を置いていなくなったの? 私のこといらなくなったの?」
「そんなことない! あなたは私にとって大事な子よ。それは今も昔もずっと変わらない!」
「じゃあ、なんで?」
「それには、まず、あなたの事から説明しなきゃいけないわね」
「私のこと?」
「うん。人間と死者の間に生まれた子を"夜泉子"というんだけどね。あなたは私と……既に亡くなっているカカシ先生との間に生まれた子なの」
「やっぱり」
「その様子だと気づいていたのね。ということはカカシ先生のことも知っていたの?」
「うん。ナルトお兄ちゃんから話は聞いていたし、ママの手帳を見たから」
「手帳……そういえば、処分し忘れたわ。でも、誰にも分からない場所に隠してあったはずなのに……」
「いのお姉ちゃんが見つけたよ」
「やっぱりいのか……」

ママは悔しそうに、でも嬉しそうに笑う。

「……カカシ先生が私のパパなんだね。似ているところはないと思うけど」
「確かに見た目は私に似ているけど、性格やしぐさとかは先生そっくりよ」
「そうなの?」
「うん。そして、私があなたを置いていった理由なんだけど……夜泉子を孕んだ女性は大幅に寿命が削られてしまうのよ」
「それって……。ママが長く生きられないってこと?」
「そうなるわね」
「そんな……」
「私は自分の命がもうすぐ尽きることに気づいた時に思ったの。もう一度先生に会いたい。会ってまた一緒に過ごしたいと」
「それで私を置いていって、パパと幽婚したの?」
「そこまで理解できているんだ。さすが私と先生の子ね。あなたにはいのやナルト、里のみんながいるから大丈夫だと思ったのよ」
「そんなわけないじゃない!! ママは何にも分かってない」
「本当にごめんなさい……」
「ママにはパパがいる。でも、私には誰もいない。誰も……」
「キキョウ……」
「ずっとどうしてと思っていた。でも、もういいの。こうして会えたから。今度こそどこにも行かないで」
「……えぇ。どこにも行かないわ」

私が思いっきりママに抱きつくと、ママも私を抱きしめ返してくれた。
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