NARUTO/カカサク 中編 ■Voyage

再会の意味


バチが当たったのだろうか。
ずっとお花見をするという先生との約束を守れなかったから。
それでもこんなのってひどいじゃない……。
こんなことなら、会わない方が良かった。
私は桜の木の下で涙を流した。



私の前世は忍だった。
木ノ葉隠れの里で、同期のナルトやサスケくん、いの達とともに日々を過ごした。
楽しいことだけではなく、辛く苦しいこともたくさんあったけれど、なかなかに充実した人生だったと思う。できればもう少し長生きしたかったけれど……。

その人生で私にとって欠かせない大切な人物。
最初の師であり、最後に愛した人。カカシ先生。

前世で私は先生と毎年お花見をしていた。

「ずっとお花見をしよう」

“ずっと”という忍の世界では難しい言葉をカカシ先生は守ってくれていたのに、私は先生より先に死んでしまい、その約束を破ってしまった。
その代わりといってはなんだけど、私は魂の姿で会いに行き、来世でまた会おうと約束をした。



そして、再び“春野サクラ”として生まれ落ちた。
私がこのことを思い出したのは、小学生の頃。
両親に連れられてやってきたお花見で、満開に咲く大きな桜の木を見上げた時に、いままでの記憶が蘇ってきたのだ。

突然の出来事に驚いたが、なぜだかすんなりと受け入れられた。
いままで過ごした日々の中、まるで未完成なパズルのように、私の中でなにかが足りなかったのだ。
その足りないピースはきっとカカシ先生だったから。

思い出した後で気づいたのは、幼馴染がナルト、親友がいの、叔父がヤマト隊長だということだ。
まさかこんな身近に前世での仲間がいるとは。だが3人とも記憶はないようだった。
だから、私も前世の記憶があることは誰にも言っていない。
さりげなくヤマト隊長に相談したこともあったが、「サクラ、どこかで頭でも打った?」と本気で心配されたから。私だってこの記憶がなければ、同じことを思うだろう。

それから街中でイルカ先生やシカマル、キバやリーさんなどにも会ったが、みんな記憶は無いようだった。だが、ここにいればきっとカカシ先生に会えるはず。私はそう信じ、日々を過ごした。


年月が経ち、私は高校生になった。
その頃に父親の海外出張が決まり、母親はそれについていくことになった。
両親は私も一緒に連れて行こうとしたが、この街にいればカカシ先生と会えるかもしれない。そう思うと首を縦に振ることはできなかった。
私は両親を必死に説得し、叔父さんの家で暮らすことになった。叔父はあのヤマト隊長だ。ヤマト隊長は一人暮らしだったが、前世で頼りがいのあった隊長は、今世でもそれは変わっておらず、両親の信頼は絶大だった。

そして、入学式の日。高校はナルトといのと同じところを選んだ。
クラスも一緒だったので、3人で手を取り合って喜んだのは記憶に新しい。
そこで私はついに見つけたのだ、カカシ先生を。

入学式で教師として紹介されたカカシ先生。
挨拶は前世と変わらず、てきとうな感じで私はホッとした。
相変わらずマスクはしていて顔を半分以上隠していたけれど……。
そして、なんと私のクラスの担任だったのだ。

会いたかった。ずっと探していたカカシ先生。
会ったら何から話そうか。やっぱり約束を守れたのか聞くべきだろうか。
でももし先生に記憶がなかったら……?

一人で唸っていると、頭にドンっと衝撃がきた。
そういえば、入学式は終わり、いまはホームルーム中だった。

「っ〜! 痛い!」

顔を上げると目の前にはいま考えていたカカシ先生。
どうやらノートで頭を叩かれたらしい。

「は〜るのっ! 俺の話聞いてた?」

カカシ先輩が顔を覗きこんでいた。

「いや、その〜」

周りからはクスクスと笑い声が聞こえた。
私は恥ずかしくなり、うつむいた。

入学初日でやってしまった……と、一人反省をしていると先生から衝撃の言葉が飛び出した。

「とりあえず、お前が学級委員に決まったから。この後職員室にくるように」

「えっ……」

まさかと思い、ちらっといのを見ると、舌を出して笑っていた。
いのブタのしわざか……後でこらしめてやるといのを睨んでいると「考えごとしているお前が悪い」とまた頭を叩かれた。今度は先ほどよりは優しかったが。

「そんな〜」

がっかりしたような声を出すと先生は苦笑いをした。
その笑顔は前世と変わらず、私を安心させた。
口ではああ言ったが、私は学級委員としてカカシ先生と関わる時間が増えそうで嬉しかった。

いまの様子だと、カカシ先生は前世の記憶がないらしい。
ショックだったが、ある程度想定していたから問題はない。
これから私が少しずつ頑張って、思い出させればいいのだから。

「まぁ、とりあえずそういうことだから。よろしくね」

そう言うと、カカシ先生は私の頭をひと撫でして教卓に戻っていった。
その時に私は気づいてしまった。
チラッと見えた、カカシ先生の左手の薬指に指輪が光っていたことを。

これは...想定外……。



それから後のことはあまり覚えてない。
でも先生ときちんと接することはできていたはずだ。
下校の時間、私は「一緒に帰ろう」といういのの呼びかけにも応じず、一目散に教室を飛び出した。
そして、前世の記憶を取り戻した桜の木の下で人目もはばからず泣いた。

指輪に気づいた時に泣かなかった私を褒めてやりたい。
どうして……やっと出会えたのに……。
今度こそ先生に気持ちを伝えられると思ったのに。


どのぐらい経ったのだろう。あたりは陽が沈んでいた。

「サクラ、こんなところにいたら風邪ひくよ」

バサッと上着をかけられた。
振り返ると、ヤマト隊長がいた。帰りが遅いのを心配して、探してくれたのだろう。
私はことあるごとにこの場所に来ており、私の親しい人はみんなこの場所を知っていたので、ヤマト隊長がここに来るのは不思議ではない。

「やっぱりここだったんだね」
「心配かけてごめんなさい」
「サクラが無事でよかった。さぁ、帰ろう」

そう言ってさし伸ばされた手を私は取った。
ヤマト隊長は私の泣きはらした顔を見ても、何も聞かなかった。
その優しさが心にしみて、温かい気持ちになった。

そういえば、ヤマト隊長はいつも優しかったな。
仕事で忙しかった両親の代わりに、私の相手をよくしてくれたっけ……。
ヤマト隊長との過去を振り返っていると、家に着いた。

「ご飯はもう作ってあるから。それに入学祝いにサクラの好きなお店でケーキも買ってきたよ。ご飯の後に食べようか」

「うん! ありがとう、叔父さん!」

心配させたくなくて、私は無理やり笑顔を作った。
ヤマト隊長はきっと私のやせ我慢に気づいていたと思うけど、普段と変わらない態度で接してくれた。

ご飯とデザートを食べ、お風呂も入った後に私は挨拶をするために声をかけた。

「おやすみ、叔父さん」
「あぁ、おやすみ……あっ、サクラ」
「うん?」

私は寝室へ向かう足をとめた。

「何があったのかは分からないけど、僕はいつでもサクラの味方だからね」

そう言ったときのヤマト隊長の笑顔はとても優しかった。

「……ありがとう」

私も微笑むと、再び寝室へ歩き出した。
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