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NARUTO/カカサク 短編②

ENDLESS STORY/REIRA starring YUNA ITO

「なぁ、リン?」
「えっ?」

私とカカシ先生、2人きりの空間で先生が発した言葉に、私は思わず本を読んでいた手をとめる。先生は自分の間違いに気づいたのか、「ごめん! 深い意味はなくて、つい……」と焦りながら謝る。

「……大丈夫」

私は“気にしてないですよ”風の笑顔を作り、その後も何事もなかったかのように先生に接した。先生も最初の方は気にしているようだだったが、私の変わらない態度に安心したのか、いつもの様子に戻った。

先生が呼び間違えた“リン”。私はその名前をよく知っている。先生の元チームメイトで、そしてリンさんの最期は先生が……。2人の間に恋愛感情があったのか分からないけど、大切に思っていたのは揺るぎない事実。もしリンさんが生きていたら……と考えたこともあった。けれど、先生は私をすごく大切にしてくれて、そんなことも考えなくなった矢先での今回の出来事。先生はリンさんのことを“リン”と呼んでいた。リンさんは“カカシ”と呼んでいたのだろうか。私の中の不安は再び戻ってきてしまっていた。


この出来事以降、私はカカシ先生の名前を呼ぶことができなくなった。呼ぼうとすると、なぜか言葉がつまってしまうのだ。それに気づいてからは、無理に名前を呼ぶことをしなくなった。まぁ、いつも“カカシ先生”と呼んでいたから、それが“先生”になっただけなので不便はないんだけどね。


そんな日が続いたある日のこと。今日は外でデートをすることになり、2人で街中を歩いていた。

「どこ行こうか」
「そうね~。あっ! いのが言ってた、新しくできたお店に行きたいかも。なんか色んなものが売ってるらしくて」
「いいよ。ほかには?」
「う~ん、甘味屋で餡蜜が食べたいかも。先生は?」
「お前は相変わらず餡蜜が好きだね。俺は……本屋とかかな」
「じゃあ、そこも行きましょ!」

そんな話をしながら歩いていると、急に先生が足を止める。

「どうしたの?」
「あのさ……」
「ん?」
「最近、名前呼んでくれてないよな」
「名前? どういう意味?」
「いや、前は“カカシ先生”って呼んでくれてたのに、いまは“先生”ばっかりでしょ」
「そんなことないと思うけど……たまたまじゃない?」

そうは言ったものの、先生に言われたことは図星だった。まさか気付かれているなんて、なんとか誤魔化さなきゃ……と考えていると先生がある提案をする。

「じゃあ、いま俺の名前を呼んでみて」
「いま? なんで? 必要なくない?」
「別に呼ぶくらいどうってことないでしょ」
「そうかもしれないけど……いまは気分じゃないというか……」

呼びたくても呼べないのでそれは無理な話だ。そんな私にそしびれを切らしたのか、先生は少し苛立った様子を見せ始める。

「どうして?」
「どうしてって言われても……」
「もしかして、俺が“リン”と呼び間違えたことを気にしてる?」

その指摘に思わず反応してしまい、先生が「やっぱりか……」と零す。

「あれは本当に深い意味はなくて」
「それは分かってる」
「じゃあ、なんで……」
「自分でも分からないの。先生の名前を呼ぼうとすると、なんか息がつまって……」
「それはつまり“リン”のことを気にしてるってことでしょ。前にも言ったけど、本当にリンとは何も……」
「そう何度も言われなくても、分かってるから」
「じゃあ何で……」
「……先生は私が名前を呼ばなくなったって言うけど、それは先生も同じでしょ?」
「えっ?」
「あの出来事以降、“サクラ”って呼んでくれてないよね? いつも“お前”とかで」
「そんなことは……」

そう言って言葉をつまらせる先生は思い当たる節があるのだろう。私は、先生も私の名前を呼ばなくなったことに気付いていた。だから、私もかたくなに先生の名前を呼ばなかったのだ。

「……私達、一旦距離を置いた方がいいと思う」
「それって別れるってこと?」
「そんなことはないけど……もしかしたらそうなるかもしれないわね」
「……分かった」

自分で言い出したことだけど、先生が肯定の返事をすぐにしたことにショックを受けた。

「じゃあ、今日はもう帰るね」

私はいまにも泣きそうな顔を見られたくなくて、その場を足早に去る。先生は追いかけてきてはくれなかった。
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