ハイキュー‼/黒尾夢
「初めまして、黒尾鉄朗デス。もし良かったら、俺と友達になってくれませんか?」
そう言って手を差し出した彼の手を取った瞬間から私と彼の物語は始まった。それからいくつもの季節をともに過ごし、恋人という関係に変化してからもそれは変わらず……これから先もずっと一緒に歩んでいけると思っていた。けれど、そうはならなかった。なれなかった。だって、彼の運命の相手は私ではなかったのだから。
昔から本を読むのが好きだった。両親は多忙でめったに家におらず、もちろん一緒に出かけたこともほとんどない。本だけが私に色んなことを教えてくれて、本だけが私の世界だった。特に好きなジャンルはラブストーリー。一人ぼっちだったお姫様を王子様が見つけ出し、それから2人は幸せに暮らす……なんて運命的で素敵なお話なんだろう。私にもいつか白馬の王子様……ではないけれど、私だけの運命の人に出会えると信じていた時期もあったっけ。さすがに高校生にもなってそんなことを信じてるわけじゃないけど、どうやら私は運命の人に出会えたらしい。
「ねぇ、いまちょっといい?」
中庭でお弁当を一人で食べている時にある男の子に声を掛けられた。黒髪で背の高い男の子。校内で何度か見たことはあるけれど名前は知らないし、接点もないはず。「えっ……」と戸惑っているとそれを察したのか、彼は優しく丁寧に言葉を続ける。
「いきなりごめん。初めまして、黒尾鉄朗デス。隣のクラスにいるんだけど。もし良かったら、俺と友達になってくれませんか?」
「えっと……よろしくお願いします?」
「あはは、なんで疑問形なの」
「いや、なんとなく?」
「まぁ、いいや。これからよろしく」
そう言って手を差し出してきたため、私はとっさにその手を取る。すると、彼は嬉しそうに笑う。そのキラキラとした眩しい笑顔を見た瞬間から私は彼に恋に落ちていたんだと思う。
それから黒尾くんとは少しずつ仲良くなっていく。私はバイト、彼にはバレーがあったので、それらを大事にしつつ徐々に2人の時間を増やしていった。そして、彼がバレー部を引退した日についに告白された。
「えっと、ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください!」
「はい、私も黒尾くんのことが好きでした。よろしくお願いします」
「えっ? マジで?」
「マジです。私、好きでもない人と毎日連絡とったり、2人で遊んだりしないよ」
「そっか……そうだよな。俺もそうだし……いや、マジか……。なんとなく両想いかなとは思ってたけど、改めてこう実感すると……ヤバい、すごく嬉しい」
「うふふ、私も嬉しい。でも、何で敬語?」
「いや、なんか緊張して……」
「そういえば、初めて声を掛けてくれた日も敬語だったよね」
「あれもマジで緊張してたからね。声かけたら、『誰こいつ?』ってめっちゃ不審な顔されるし……」
「だって、びっくりしたんだもん。でも、あの時に声を掛けてくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。これからもよろしくな」
あのときと同じように手を差し出してきたため、私も同じように黒尾くんの手を取る。恋人に関係が変わった事により、『黒尾くん』呼びから『鉄朗』呼びになった。初めて『鉄朗』と呼んだときの彼の照れ嬉しそうな顔は一生忘れないだろう。
その後はいままでと比べものにもならないくらいの甘い幸せな時間を過ごしつつも受験を乗り越え、私たちは同じ大学に進学。大学でも私たちの関係は変わらず、お互いの就職先が決まった頃には、同棲の話も持ち上がっていた。
「同棲するならお前の親にも挨拶しないとな」
「えー! 私の親はいいよ」
「ダメでしょ。いくら仲良くないからってそういうことはきちんとしなきゃ」
「うーん、そうかな~」
鉄朗の言う通り、私は親との関係はあまり良くなく、ほとんど連絡を取っていなかった。幼い頃は多忙でほとんど相手にしてもらえず、私は寂しくて本を読むことでそれを紛らわせていた。妹ができてからは仕事に余裕が出てきたらしく、家族で過ごすことが増えたが、いままであまり一緒に過ごしてこなかった私より、手のかかる可愛い妹の方に両親の愛情が傾くのは当然で。私よりも妹を大事にする両親と距離ができるのは必然だった。でも、妹はそんな私にもなついてくれて、妹とはいまも連絡をとっていた。
「俺がついてるから、な?」
「……分かった。鉄朗がそこまで言うのなら」
「サンキュー。まぁ、でもその前に。お前の誕生日をお祝いしなきゃね」
「それは鉄朗もでしょ」
そう、実は私と鉄朗は同じ誕生日。そうして、2人の誕生日をお祝いした後に鉄朗と私の両親を会わせることになった。
待ちに待った誕生日。私のリクエストで、最近できた話題の遊園地に行くことになった。いろんなアトラクションを楽しんだ後は、美味しいご飯を食べ、いまは2人でイルミネーションを見ていた。
「うわ~、きれーい! アトラクションも楽しくて、ご飯もすごく美味しかった。もう最高! また来たいね」
「だな。誕生日ケーキもまさかあんなにでかいとは。さすがの俺でもきつかったわ」
「2人とも誕生日だから、大きくしてくれたんじゃない?」
「それにしても限度ってものがあるでしょ」
「うふふ、大丈夫。鉄朗がおデブさんになっても私は好きだから」
「そんなの俺だって同じだよ」
「本当~? スリムな方がいいんじゃないの?」
「まぁ、痩せている方が好きな男は多いと思うけど……俺はお前だったら、体系なんて気にしないけどね」
「そう言ってくれると嬉しいな。そういえば、鉄朗って何がきっかけで私のことを好きになったの?」
「いきなりどうしたのよ?」
「いままで聞いたことがなかったと思って」
この場面が運命の分かれ道だったと思う。何気なく口にしたこの質問の答えが私達の道を分けたのだから。でも、『もしこの瞬間に戻れるなら戻りたいか?』と聞かれれば、答えは『いいえ』。ここでこの質問はしていなかったとしても、鉄朗があの子と会うのは必然で……そうなればどちらにしろ結末は変わらないのだから。
「……そういうお前はどうなのよ?」
「私? 私は……鉄朗の笑顔かな」
「笑顔?」
「そう。初めて声を掛けてくれたときに手を差し伸べてくれたでしょ。そのときの笑顔がすごくキラキラしていて眩しくて……好きだなって思ったの」
「……なんか恥ずいな」
「私だって恥ずかしいよ。はい! 私は言ったよ! 次は鉄朗の番!」
「……覚えてないかもしれないけど、俺がお前に声を掛ける以前に1回、俺達は会った事があるんだよ」
「私達が?」
「うん。俺のミスが原因で試合に負けた時があったんだけどさ、バレーを辞めようと思うくらいすごく悔しくて帰り道にひとり泣いていて……まぁ、いま思えばすごく恥ずかしい黒歴史なんだけど。でもそんなときにお前が現れて、ハンカチを差し出しながら、泣き止むまでずっと傍で励ましてくれたんだよね。ようやく落ち着いて礼を言おうとしたときには『あっ! もうこんな時間!』って言って俺にハンカチを渡したまま、急いで帰っていって。あっ、そのハンカチはいまも大事に保管しているから。俺はその出来事がずっと忘れられなかった……きっとそのときにはもう好きだったんだと思う」
「待って……それ本当に私?」
「間違いないはず。俺が俯いていたから顔は見えなかったけど……声やハンカチに書いてあった名前もそうだし、去っていくときに見た後ろ姿や髪形もお前だった。それでようやく会えた時はすごく嬉しくて。まさか同じ学校にいるとは思わないし。……柄じゃないけど、運命みたいだなって思ってる」
「……」
鉄朗の話を聞いてるときに、どこかで同じような話を聞いたことがあると思っていた。そして、確信した。それは私じゃない。泣いている鉄朗を励ましたのは……私の妹だ。妹は私と声や背丈がそっくりで、当時は私の真似をよくしていたために髪形も同じだった。私の持ち物もよく貸していたので、鉄朗が受け取ったのは確かに私のハンカチで間違いないが、渡したのは妹だろう。同じような話を聞いたのは妹からだ。さらには、妹もその人のことが忘れられないということも。ということは、鉄朗の想い人は妹で、妹も鉄朗のことが気になっていて……そうなると、ここにいるのは私ではなくて妹だったはず。
「どうした?」
「……そっか……そうなんだね……」
「あぁ。だから、これからもよろしくな」
そう言って鉄朗は愛おしそうに笑う。でも、おかしいな。あんなに好きだった笑顔がいまは見たくない。その笑顔は本来妹に向けられるものなのだから。その気持ちを隠すように、私も笑顔を返そうとするが、我慢しなきゃという心とは裏腹に涙が出てきて……泣きながら笑う、ブサイクな表情だったと思う。それでも鉄朗はそんな私の涙を優しく拭ってくれて……「あの出来事が俺を救ってくれたんだ。本当にありがとう。お前に出会えて俺は幸せだよ」と感謝の気持ちを述べ、私を抱き締める。その温かさが余計に涙を止まらなくさせた。きっと鉄朗は嬉し泣きだと勘違いしているのだろう。違うの、違うんだよ。鉄朗のその想い人は私じゃない、私の妹なの。そう口にすることもできずに、私は鉄朗の胸で涙を流し続けた。
――――――――――
あの誕生日以降、私は真実を知った後も鉄朗と変わらない日々を過ごしていた。『本当のことを言わなきゃいけない』という気持ちと、『この穏やかな日々を失いたくない』という気持ちがせめぎ合って、どう切り出したらいいか分からなかったのだ。そして、私の両親と鉄朗が会う日も近付いてくる。実家には妹もいるだろう。もしそこで妹と鉄朗が出会ったら……。でも、もしかしたら妹は出かけているかもしれない。私はもし妹がいたら本当の事を話す、もしいなかったらもう少し黙っているという賭けをすることにした。
当日。妹は出かけていていないらしいとのことで、罪悪感が残りつつも私はほっとする。両親は鉄朗の挨拶と話を聞いた後、「ご自由に」と同棲を承諾。そのあまりのあっさりさに鉄朗は驚いていたが、私はもう慣れているため何の感情もわかなかった。私がどうしようが、この人達には関係ないのだろうから。そして、用が済んだ私たちが帰ろうと家を出た瞬間。
「お姉ちゃん?」
「あっ!」
目の前に、家に入ろうとする妹がいた。
「あれ、出かけてるんじゃ……」
「予定が早く終わったから、帰ってきたの。もうっ! 来るなら連絡ぐらいちょうだいよ! あれ? 隣にいるのってもしかして彼氏?」
妹は鉄朗のことをしばらく見つめた後、「もしかして……」と驚いた表情になる。
「? 妹さんだよね? 初めまして、黒尾鉄朗です。君のお姉さんとは高校生の時から付き合っていて」
「あの!!」
「ん?」
「もしかして、昔バレーをしていませんでした?」
「えっと、確かにしてたけど」
「私達、一度だけ会ったことがあるの覚えていませんか!? あなたが試合に負けて泣いているのを私が見つけて……門限があったから、私は急いで帰っちゃったけど。でも私、あなたのことがずっと忘れられなくて!」
「えっ? でも、それって……」
鉄朗はその言葉に混乱し、私と妹を交互に見る。私は「ごめん! いま急いでるからまた連絡するね!」と妹に謝ると、鉄朗の腕を引っ張りその場から離れる。「待って!」という妹の声と、「おいっ!」と混乱する鉄朗の声を無視し、家から少し離れた公園にたどり着くと、手を離す。
「一体これはどういうことか説明してくれるよな?」
鉄朗の厳しい声に私は真実を話すことにした。鉄朗は「うそだろ……じゃあ、俺はずっと……」とその場に項垂れる。
「いままで黙っていてごめんね」
「それは俺を騙してたってこと?」
「違う! 私も気づいたのはこの前の誕生日に鉄朗から話を聞いた時だったの」
「……」
「早く言わなきゃいけないって分かってたんだけど、でも……!」
「分かったから!」
突然の大声に私はビクッとなる。それに気づいた鉄朗が申し訳なさそうに「ごめん」と謝る。
「ううん、私こそごめんね。いきなり言われても困るよね」
「あぁ、だから……その……少し考える時間がほしい」
「それって……」
「しばらくお前と距離を置かせてほしい」
「……そっか、そうだよね。分かった。落ち着いたら連絡して」
頷いた鉄朗をしばらく見つめ、私はその場をそっと立ち去った。
鉄朗からの連絡がないまま二週間を過ぎた。そりゃあ、ずっと想い人だと思っていた相手が実は別人だと知ったのだから、そう簡単には割り切れないだろう。私は鉄朗がどんな判断をしても受け入れよう。鉄朗が妹を選んだとしても、それは仕方のないこと。そう自分に言い聞かせながら歩いていると、いつのまにか鉄朗と行きたいねって話していたカフェの近くに来ていた。鉄朗とそう約束はしたけれど、もしかしたらもう一緒には行けないかもしれない。そう思った私は、1人でもいいよねとカフェへ向かうことにした。カフェに着き中に入ろうとすると、窓際に座る妹が目に入る。
「どうしてこんなところに?」
そう思ったが、私と妹の嗜好は似ている。妹もこのカフェが気になって、訪れるのは当たり前のことのように思えた。でも、誰と来ているんだろう。なぜか胸騒ぎをするのをおさえ、妹の向かいに座る相手を見る。そこには鉄朗がいて、2人は仲良さそうに話している。
「なんで妹と……」
私と約束してたでしょ。なんでそんなに楽しそうなの。私には連絡すらくれないのに。いろんな感情が支配し、その光景を見ていられなくなった私は、急いでその場から去る。そして、全速力で走って家に戻ってくると、ドアを背に座り込んで息を整える。心の準備はしていたはずなのに、いざ2人が一緒にいる姿をみるとひどく心が痛んだ。それほどお似合いだったのだ。
「妹を選んだなら、教えてくれてもいいのに。連絡すらもしたくないってことかな」
……あぁ、そっか。鉄朗の中では既に私との関係は終わっていたんだね。
「これからどうしよう」
妹は家族だし、鉄朗は同じ大学で。それに2人が付き合っているのなら、今後も会う機会があるだろう。でも、私は2人の姿をもう2度と見たくはない。
「そうだ……!」
私は自分の部屋に行くと、一冊の本を取り出す。それは私が一番好きな本で、その物語の舞台はヨーロッパのとある小さな国。いつか行ってみたいと思っていた場所だ。
「日本から出て、ここに行こう。どうせ誰も心配してくれる人なんていないんだし」
両親は無関心だし、鉄朗とほとんど過ごしていたため、仲のいい友達もいなかった。我ながら寂しいなとは思っていたけど、鉄朗がいれば良かったし、いまはこの関係のなさがありがたい。私はすぐさま行動を起こすことに決め、身の回りを整理すると日本を出発した。
それから2年。来た当初は慣れない環境で苦戦したりもしたが、いまではすっかり馴染み、充実した日々を過ごしていると思う。街の人々も親切で、なんのあてもなかった私に仕事や住居も用意してくれた。
星が瞬き始めた頃。家のチャイムが鳴りドアを開けると、そこにはあの頃より少し大人びた鉄朗が立っていて、「やっと見つけた!」と私を抱き締める。
「どうして……」
「連絡しようとしたら音信不通で、まわりのやつらにも聞いたけど誰も行方を知らなくて。俺がどれだけ心配したか!」
「ちょっと待って。なんで探す必要があるの? 私達別れたのに?」
「はぁ? いつからそんな話になってるんだよ」
「だって……しばらく連絡来なかったし、妹とデートしてたでしょ」
「デート!?」
「私が行きたいねって言っていたカフェ、妹と行ったでしょ? 私、見たんだから」
「あ~、あのときか。あれはデートじゃなくて。いや、デートなのか?」
「やっぱり」
「確かにあの日、お前の妹と会ってデートをした。でも、それは俺を励ましてくれたときのお礼。その一回きりで、もう会ってもいないし、連絡もとっていないよ」
鉄朗はそのときのことを話してくれた。私と距離を置いているとき、妹が鉄朗のもとを訪ねてきたらしい。そこで改めて話を聞いて、さらには告白をされたとも。でも、鉄朗はその告白を断り、妹もそれを受け入れたそうだ。ただ、『あのとき励ましたんだから、お礼として甘いものぐらいごちそうしてよね』と言われ、仕方なくあのカフェに妹と行ったとのこと。私はその現場を見たらしい。
「なるほど。でも、なんで告白を断ったの? 鉄朗の想い人は妹だったんでしょ?」
「そりゃあ本当の事を知ったときは驚いたし、すごく悩んだよ。おかげで答えを出すのに時間がかかってしまったけど……案外答えはシンプルなものだったんだよな」
「どういうこと?」
「俺がいままで一緒にいて、これからも一緒にいたいと思うのは……お前だってこと。お前は俺と一緒にいてどうだった? 俺はすごく楽しかったし、幸せだったと思う。俺はね、お前といた自分を信じたいんだよね」
「……私だって、すごく幸せだったよ。だから、本当のことを知ったときにこの幸せがなくなっちゃうのが怖くて、なかなか言えなくて。いつかバレるのは分かってたのにね」
「お前はきっと俺以上に悩んで苦しんだよな。なのに俺は……」
「違う! 鉄朗は悪くない! 私は自分のことしか考えてなかっただけ」
「そんなの俺だって!」
「いいや、私が!」
押し問答が続いた後、私はなんだか笑いがこみあげてきて、鉄朗も同じように笑いだす。
「あはは、なんかこのやり取り懐かしい。昔もよく言い合ったよね」
「だな。やっぱりお前といると楽しいわ。こんなに笑ったの久しぶり」
「それは私もだよ」
2人でしばらく笑い合ったあと、心地よい沈黙が流れる。
「ねぇ、鉄朗?」
「ん?」
「本当にこれからも鉄朗の傍にいていいの?」
「当たり前だろ。じゃなかったら、ここまで探しにきたりしないよ。来るのが遅くなってごめんな」
「ううん、私も急にいなくなってごめんね。でも、どうしてここにいるのが分かったの? 誰にも教えてないのに」
「いつか行ってみたいって話してたでしょ。もしかしたらと思ったんだけど。やっぱり正解だったな」
そう言って鉄朗は得意げに笑う。そんな話したことあるっけ……。そう考えているのが分かったのか、鉄朗は「高校生の頃だから、覚えてなくても仕方ないけど。一緒にお昼を食べてたときに言ってたでしょ」と教えてくれた。
「……あっ! 確かにあったかも。でも、それって付き合う前のことだし、本当に何気ない会話の中で出た話題でしょ。よく覚えてたね」
「そりゃあ、お前の言ったことは忘れないよ。初めて出会った日はもちろん、付き合ったときやおまえが初めて名前を呼んでくれたときとか、どれも俺にとって大切なものだからね」
「……前から思ってたけど、鉄朗ってけっこうロマンチストだよね」
「えっ、どういうところが?」
「そういう言葉がスラスラでてくるところ」
「あんまり意識したことないけど。もしそう思うなら、それはきっと本好きの誰かさんの影響じゃないかな」
「そうかな?」
「そうでしょ、いままでずっと一緒に過ごしてきたんだし。まぁ、少し離れていた時期もあったけど……これからはもう離さないから」
「うん、私も離れない」
そして、私達は見つめ合うと甘いキスを交わした。