ハイキュー‼/黒尾夢
今日は遠距離恋愛中の鉄朗との久々のデート。映画を観たり、買い物をしたりと幸せな時間を過ごしていた。だけど、甲高い女の声でその時間は終わりを告げる。
「黒尾だ~! こんなところで会えるなんて嬉しい! いま、なにしてるの?」
「見れば分かるでしょ」
「なによ、その嫌そうな顔~。……えっ、もしかして隣にいるのが彼女?」
「そうだけど」
「ふ~ん……そうなんだ」
鉄朗に話しかけてきたのは、音駒高校の制服を着た、茶髪で目鼻立ちがくっきりとした綺麗系の女の子。髪を緩く巻き、メイクもしっかりとしていて、クラスだとカースト上位にいそうな感じ。そんな子が私の方を向くと、見定めるように見て、勝ち誇ったように笑う。
「初めまして、黒尾のクラスメイトです! いつも黒尾がお世話になっています。あっ、黒尾とは中学から一緒で、いまも隣の席でよく話すんだよね。彼女いるって聞いてたけど、中々彼女の写真見せてくれないから気になってたの。へぇ~、黒尾ってこういうおとなしめの子が好きなんだね。なんか意外……。てか、彼女さん大丈夫? 黒尾って連絡とか遅いし、対応もテキトーでしょ? まぁ、気心知れた私だからかもしれないけど。それにけっこう面倒な男だから苦労してない? あっ、もし良かったらこの後一緒に行動する? 私、黒尾のことよく知ってるから、色々と教えてあげられるよ~」
そのあまりのマシンガントークに呆気に取られる私。それに内容は鉄朗を下げているようだが、その裏には“私の方があなたより鉄朗の事をよく知ってます。あなたより仲いいです。あなたみたいな地味な子と鉄朗は似合わない”とマウント要素が満載だった。
「お前、いい加減に……」
好き勝手言う彼女にしびれを切らした鉄朗が言い返そうとするのをとめると、私は思いっきり笑顔で彼女に言い放つ。
「そうなんですね。知らなかったです。教えてくれてありがとうございます」
「でしょ~。だったら……「あなたのおかげで余計に鉄朗を好きになりました」
「……えっ?」
「鉄朗って私には連絡がすごくまめで、電話も毎日くれるんです。会っている時は必ず好きって言ってくれるし、私を楽しませようとしてくれる。それでも遠距離だから少し不安だったんですけど、あなたの話を聞いて、私って大事にされてるんだなって改めて知ることができました」
「えっと、私はそういうつもりで言ったんじゃ……」
私が言い返すとは思っていなかったのか、彼女が困惑しているのが分かる。言いたいことを言ってすっきりしてると、「そりゃあ、お前は彼女なんだから、ほかのやつらと扱いが違うに決まってるでしょ」と鉄朗は私の頭を撫でる。その手のぬくもりは温かくて、安心する。しばらく私の頭を撫でていた鉄朗だったが、満足したのか、まだいる彼女に対して「で? なんでお前はまだいるの? 早くこの子と二人っきりになりたいんだけど」と冷たい表情で言い放つ。
「っ~! もういい! 勝手にすれば!!」
彼女はそんな対応をされると思っていなかったのか、怒りながら去っていく。
「……いいの?」
「別にいいよ。ずっと絡んできて面倒くさかったし。これで大人しくなってくれるといいんだけどね」
「モテる男は大変ですね~」
「心配?」
「心配だけど、鉄朗の事信じてるから大丈夫」
「なるべく不安にさせないようにはするけど、もし何かあったら必ず言うこと。いいね」
「は~い!」
そして、私たちは自然に手を繋ぐとデートを再開させることにした。