このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ハイキュー‼/黒尾夢


「ねぇ、君。いま、一人? 俺達と遊びに行こうよ」
「いや、この後予定あるので無理です」
「え~、そんな風には見えないけど。俺達、君を楽しませる自信あるし、行こうよ」

一人で買い物を楽しみ、休憩していた時に大学生らしき男2人に声をかけられた。所謂ナンパというやつだ。塩対応をとってもしつこい彼らにどうするか悩んでいた時に、「ごめん、遅くなった」と聞き覚えのある声がして後ろを振り向くと、そこには同じクラスの黒尾鉄朗が立っていた。鉄朗は私の方にきて「電車が遅れていて・・・」と声をかける。

「待ったでしょ? お詫びになんかおごる。あれ、そいつら知り合い?」

鉄朗とは席が隣でよく話すが、仲の良いただの友達。もちろん、今日会う約束もしていない。ただ、私の困っている状況を見てどうやら”私たちは待ち合わせをしていて、これから一緒に遊びに行く”という設定で助け舟を出してくれているらしい。私も素直にそれにのることにした。

「ううん、知らない人。鉄朗を待ってる時に声を掛けられたの」
「彼女が暇そうにしてたからさ。それにこれから仲良くなる予定だから、君は帰ってくれてもいいよ」

待ち人が来たというのに諦める様子のない彼らに驚きながらも、これはどうしたものかと考えていると、鉄朗に急に肩を引き寄せられる。

「それは無理なお願いですね。この子は俺の可愛い彼女で、これからデートなんで」

“えっ!! ちょっ! 近い近い!! てか、彼女ってなに!?”と声と表情に出さなかった私を褒めてほしい。生まれてこのかた、お父さん以外の異性とこんなに接近したことがない私はプチパニック状態。だけど、ここで態度に出したら、鉄朗の芝居が水の泡になってしまう。

「な? そうだよな?」

甘い顔しながらも圧をかけてくる鉄朗に私は思いっきり深く頷く。

「そういうことなんで。早くどっかに行ってくれません?」
「え~、でも俺達と遊んだほうが絶対に楽しめるよ」

それでもなお諦めない彼らと、鉄朗の距離の近さに相変わらずパニック状態な私は、早くこの状況を変えたい一心で、もうどうにでもなれ! と鉄朗の彼女になりきることにした。

「私達はラブラブなので! あなた達の入る隙間はありません!!」

私は鉄朗の腕をひっぱり背伸びをすると、顔を近づけ唇の端にキスをする。鉄朗の目が見開くのが分かった。“ごめん! でも唇にはしてないから許してほしい!”という思いを込めてそれを終えると、今度は彼らの方を向いて勢いよく「こういうことなんで! 早くどこかに行ってください!!」と言い切る。

「っち、なんだよ」

そのおかげか、悪態をつきつつ男たちは去っていく。それに安心した私は「はぁ~、ようやくいなくなったね。ありがとう、鉄朗」と顔を向けるが、なぜか鉄朗は片手で顔を覆い、項垂れている。それを見た私は“あれ、やっぱりキスはまずかった? そりゃあ、好きでもない女からされたら嫌だよね”と一気に不安になる。

「ごめん、鉄朗。いくらふりでも嫌だったよね? でも唇にはしてないからノーカンだよ。ね? だから、気にしないで」

私は鉄朗に嫌われたくないため必死にフォローするが、鉄朗の様子は変わらない。そんなに嫌だったのか……。

「本当にごめんね」

もうどうすることもできないと悟った私は、視界に入るのも嫌だろうと、背を向けこの場から離れようとする。その時、鉄朗に腕を掴まれた。

「どうしたの?」
「……嫌じゃない」
「えっ?」
「まさかお前からしてくれるなんて思っていなくて」

そう言った鉄朗の指の隙間から見えた顔色は真っ赤だった。

「顔真っ赤だよ」
「仕方ないでしょ。好きな子にキスされたんだから」
「唇の端だからキスはしてないよ。……って、え? 好きな子? 私?」
「他に誰がいるのよ?」
「鉄朗が私を好き?」
「だからそう言ってるでしょ」

ようやく手を外し、顔を上げた鉄朗はさっきよりは落ち着いた顔色になったが、まだほんのり赤かった。

「うそ、だって……そんな素振りは……」
「俺、一応頑張ってアピールしてたつもりだったんだけど。俺から話しかける女子はお前だけだし、隣の席になるために席変わってもらったりしたし」
「えっ、うそ。あれ? 言われてみれば確かに……」

よくよく振り返ってみると鉄朗の私を見る目が優しかったような……。ほかにもいくつか思い当たることがあり、今度は私の顔がどんどんと赤くなっていく。私のこと好きだったんだ。なんか嬉しいかも……。ひとり物思いにふけっていると、鉄朗の顔が近づいてきて唇に柔らかい感触があたる。

「あと、これでノーカンじゃなくなったでしょ」

意地悪い表情をした鉄朗の顔が離れていく。私、いまキスされた……。

「えええーーー!!!」

そんな私を満足そうに見守った鉄朗は、「さぁ、本当のデートに行きますか」と私の手を取って歩き出した。
17/17ページ