ハイキュー‼/黒尾夢
黒尾が私の事が好きで付き合っているわけじゃない。そう分かっていても、自分からはなかなか別れを切り出せずにいた。こんな不毛な関係、いつまでも続けるべきじゃないと分かってるのに……。
そんな日々が続く中、私は同じクラスの男の子に告白された。
「俺、お前のことがずっと好きだったんだ」
「えっ……」
「いきなり言われても困るよな。でもこのまま気持ちを伝えずに過ごすのもどうかなと思って……。絶対幸せにするから俺と付き合ってほしい!」
人生で初めての告白。驚きとともに嬉しさはあったが、私には黒尾がいる。でもそれを伝えることはできない。
「あの、ごめんね。気持ちはすごく嬉しいんだけど……あなたと付き合うことはできない」
「どうして?」
「どうしてって言われても……」
「……他に好きなやつがいるとか?」
「!? まぁ、そんな感じかな……」
「じゃあ、諦めない」
「えっ?」
「まだ付き合ってるわけじゃないなら、俺にもチャンスあるよね。これからガンガンいくから、よろしくな!」
そう言うと、彼は去っていった。
「どうしよう……」
私は夜に黒尾に電話し、相談することにした。あわよくば少しでも嫉妬してくれないかとの期待も込めて。しかし、黒尾から返ってきた言葉はそれとは程遠いものだった。
「あのね、実は……今日クラスメイトに告白されたの」
「えっ!? もしかして俺と付き合ってること言ったの?」
「ううん、言ってないよ。好きな人がいるからって断った」
「そっか、なら良かった」
「……でもね、諦めないとか言われちゃって」
「へぇ~、好きな人いるって断ったのに諦めないとかすごいね。俺には無理だわ」
「……」
「まぁ、でもソイツも脈がないって分かればすぐに諦めるんじゃない? 適当にあしらっとけばいいでしょ」
黒尾の言葉に私の何かがプツンと切れた気がした。
「……そうだよね、黒尾は元カノに好きな人ができて諦めたんだもんね。まぁ、まだ全然未練が残ってるみたいだけど」
「は?」
「私、彼と付き合うことにする。だから、黒尾とは別れる」
「お前、いきなり何言って……。だいたい好きでもないやつと付き合うなんて……」
「うん、彼の事は好きじゃないよ。でも、いい人だと思う。それに私も好きじゃない人と付き合ってみようと思って。黒尾みたいに」
「俺みたいに?」
「うん。だって、私の事好きじゃないでしょ? 好きって言ってくれたことは一度もないし、元カノと全然扱いが違うみたいだし。元カノとは周りが羨むほど、ずいぶん仲が良かったみたいだね」
「お前、その話どこから……」
「どこでもいいでしょ。とにかく、私は黒尾と別れて、彼と付き合う。黒尾は好きでもない私と付き合う必要がなくなる。これで一件落着だよね」
「だから、俺の話を……」
「バイバイ、黒尾。また友達として仲良くしようね」
私は一方的に電話を切り、ベッドに入る。黒尾とは別れるつもりはなかった。でも、告白されたと言ったときに私の返事より、自分たちの関係をばらしてないかと心配したこと。元カノに未練がありまくる自分のことを棚にあげて、私のことを諦めないと言ってくれた彼を適当にあしらえって言ったこと。私には到底許すことができなかった。
翌日、憂鬱な気持ちで家を出ると黒尾が目の前に立っていた。
「どうして……。それに朝練は?」
「おはよう、少し話したくて。朝練は休み」
「そっか。でも、私には話すことはないから」
そう言って通り過ぎようとする私を黒尾が手を掴んで引き止める。
「お願いだから、俺の話を聞いて」
「……はぁ。学校に着くまででいいなら」
言うことを聞かないと離してくれそうになかったので、私は渋々話を聞くことにした。「ありがとう」と手を離した黒尾は、先に行こうとする私に遠慮がちについてきながら、話を始める。
「まずはじめに、俺は別れたくない。お前は『俺がお前の事好きじゃないから別れたい』って言ってたけど、俺はきちんとお前が好きだよ。そもそも好きじゃなきゃ付き合わない。いままで言わなかったのは……単純に言う機会がなかったのと、あったとしても恥ずかしさがあって……」
黒尾から初めて言われた『好き』という言葉に私は思わず黒尾の方を向く。黒尾の頬は赤く染まっていた。
「でも、元カノにはことあるごとに好きって言ってたんでしょ? ずっと一緒にいたし、人前でイチャイチャしてたって……。私にはそんなこと一切なかったのに」
「それは悪かった。お前のことを想ってしたことがまさか裏目に出てるなんて」
「私の事を想って?」
「……俺が元カノに振られた原因は知ってる?」
「元カノに好きな人ができたんでしょ?」
「うん。でも、そもそも元カノは俺に嫌気がさしてたんだって。人前でイチャつくのは嫌だし、ペアリングとか重かったらしい。ずっと一緒にいるのも疲れたとか言ってたな」
「でも、彼女は喜んでたって聞いたけど……」
「最初は良かったみたいだけど、だんだんと嫌になってきたみたい。それを聞いた時、すごくショックを受けたし、反省したんだよね。次こそはそうならないようにしようって」
「だから、みんなには秘密にしたし、対応も受け身だったってこと?」
「うん」
「元カノと私は違うよ。まわりに見せびらかしたいわけではないけど、できる限り一緒にいたいし、離れていても存在を感じられるように形のあるものだって欲しい。もちろん、言葉や行動でも気持ちを伝え合いたい」
「そうだよな。俺が勝手に決めつけて、お前を傷つけた。ごめん」
「……」
「許してくれとは言わない。でも、俺は別れたくない。今度こそ俺の気持ちが伝わるように頑張るから……俺にチャンスをください」
黒尾は頭を下げ、私に手を差し出す。
「……」
「……」
「……もう次はないからね?」
「!? もちろん!」
「それなら……」
私が黒尾の手を握ると、黒尾は嬉しそうに笑い、そのまま私の手を引いて歩き出す。
「ちょっと、黒尾!?」
「どうした?」
「手、繋いだままだよ。もし誰かに見られたら……」
「俺は別にいいよ。でも、お前が嫌ならやめる」
「別に嫌ではないけど……」
「なら、いいでしょ」
「……なんか今までと違う」
「そりゃあ、頑張んなきゃいけないからね。これからは俺の気持ちが伝わるようにたっぷりと言葉と行動で示すから、覚悟しおいてくださいネ」
その言葉通り、それからの黒尾の変わりようはすごかった。人目も憚らず愛情表現をしてくるのだ。最初は戸惑っていた私も慣れてくると同じように愛情を返し、いつしか私達は『音駒のバカップル』と呼ばれるのだった。
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